#00 始まりと終わりのボーダーライン

586

「それって、どういうこと……?」

夕暮れの公園。赤く染まった涼ちゃんの顔を、あたしはまじまじと見つめる。

「京ちゃんが戸惑うのだって分かるよ。でも……それでも、伝えたかったんだ」

あたしの頬が紅潮しているのは、夕暮れのせい――そう思い込もうとしても、目と鼻の先にいる涼ちゃんの瞳はまっすぐで、ただ純粋で。

そんなつまらない言い訳を持ち込むなんて、できっこなかった。

「あ……あのね、涼ちゃん! あたし、涼ちゃんのことが嫌いだとか、そんなんじゃ、そんなんじゃないの! ただ……!」

「心配しないで。ちゃんと分かってるよ。自分が京ちゃんの立場だったら、きっと、もっとどぎまぎしちゃってたと思う。だけど、言わなきゃ、伝えなきゃ、そう思って……」

あたしがキョドってるのは、涼ちゃんが気に入らないとか、一緒にいたくないとか、そんな理由じゃない。間違っても、そんなんじゃない。全然違う、正反対もいいとこだ。

涼ちゃんとずっと一緒にいたい。それはあたしの素直な、一番真ん中、センターピンの気持ち。絶対に間違いない。間違いなんてありっこない。

間違いない、はずなのに。

「違う、違うのよ……! あたしだって一緒にいたいけど、でも、でもっ……!」

「そんな、すぐに答えを出せなくたっていいよ。よく考えてから、返事を聞かせてほしいな」

「涼ちゃん……」

涼ちゃんは、あたしのことを?好き?だって言ってくれてる。涼ちゃんからそう言われるなら、あたしだってうれしいに決まってる。

けど……?今?の涼ちゃんからそう言われるってことは、?今?の涼ちゃんから?好き?って言われるってことは、それは――。

(?今まで?とは、違う……)

あたしと涼ちゃんが、二人で一緒に、ボーダーラインを越える。

そういう、意味になる。

「京ちゃん、待ってるからね」

「この気持ちを、京ちゃんがどう受け止めてくれるか。その答えを、聞かせてほしいんだ」

涼ちゃんはあたしに答えを預けると、公園からさっと走り去っていく。

出口へ駆けていく涼ちゃんの背中に目が釘付けになって、でも、その姿ははっきりと見えていた訳じゃなくて。

(?今まで?のままじゃ……いられないの?)

涼ちゃんが、そのまま世界の果てまで走っていっちゃう。あたしの手の届かないところへいっちゃう。小さくなっていく涼ちゃんを見ていると、そんな気持ちがぼうっと浮かんでくる。

はっとして呼び止めようと手を伸ばした先には、もう、涼ちゃんの姿はなかった。

虚空を切る手が……ただ、侘しくて、虚しくて、寂しかった。

 

 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。

※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。

Thanks for reading.

Written by 586