「たいよう」

586

ボクは生まれつき、あべこべだった。他のみんなとは、あべこべに生まれた。あべこべの体をもって、ボクは生まれた。

(ボクが寝てるときが、他のみんなの時間。他のみんなが寝てるときが、ボクの時間)

他のみんなは、お日さまが出ているときに、外を歩き回っている。でも、ボクはそうじゃない。ボクはお日さまが出ていると、はっぱを閉じて寝てしまう。だからボクは、お日さまを見たことがない。ボクが動くのは、お月さまが出ている時間。他のみんなは、夜になるとはっぱを閉じて寝ちゃうから、お月さまを知っているのはボクだけだ。

(でも、ボクもみんなと一緒が良かった)

ボクは他のみんなが見れない丸くてきれいなお月さまを見れるけど、他のみんなが見ているお日さまは見れない。それに、他のみんなは夜になると寝ちゃうから、ボクはいつも一人だ。一人で歩く外は、なんだか寂しい。

(ボクも、お昼に起きて、夜に寝る体が良かった)

ボクは一人でお月さまを眺めて、これがお日さまならどんなにいいだろうって、何回も考えた。考えたけど、それがお日さまに変わることは、やっぱりなかった。 ボクは、一人ぼっちだった。

 

その日も、ボクは、一人で外を歩いていた。お月さまの光を浴びると、ボクはどこまでも歩いていけた。 夜の草むらは、緑に暗い蒼を混ぜた、宇宙のような色をしていた。誰もいない、一人ぼっちの宇宙の中を、ぱたぱたと歩いていく。それが、ボクの日課だった。それが、ボクができる、たった一つのことだった。 ……昨日、までは。

(……人がいる……?)

ボクが歩いていた草むらの先に、子供みたいな人影が見えた。 その人は立ったまま、ただずーっとお月さまを眺めていた。もしかしたらお星さまを見てたのかもしれないけど、ボクにはお月さまを見ているように見えた。

(行ってみよう)

ボクは、ちょっと駆け足気味に、その人に向かって歩いていった。ボクの足はすごく短いから、たくさん足を動かさないとダメだったけど、でも、ボクはその人のことがすごく気になったから、頑張って足を動かした。

「…………」

その人は、ボクと同い年ぐらいの、人間の男の子だった。青と白のしましまのパジャマを着ていて、お月さまをじっと見つめていた。こんな時間に起きてて、眠くならないのかな。明日、早起きしなくてもいいのかな。ボクは、そんなことを考えた。

「……あれ? 今は夜なのに、こんなところにキマワリがいるなんて……」

その子が、ボクのことに気付いた。すぐに目が合って、ボクは動けなくなってしまった。その子は、少しずつ、ボクに向かって歩いてきた。

(どうしよう、このままだったら、大変なことになっちゃうかもしれない……)

そう思ったら余計に怖くなって、まるで自分の足が根を張っちゃったみたいに、もっと動けなくなってしまった。こんなことになるなら、近づかなきゃよかった、って思った。 ……でも。

「ねえ、君も眠れないの?」

(えっ?)

その子は、ボクに優しく声をかけてきてくれた。「怖い」とか「どうしよう」っていう気持ちが、たんぽぽのわたほうしみたいに、ふわっ、っと飛んでいくのが分かった。

(うん。眠れないんだ)

ボクに人の言葉は話せなかったけど、言葉の意味は分かったから、こくり、と頷いた。

「そうなんだ! それじゃあ君も、僕と同じなんだね!」

男の子はぱっと顔をほころばせて、ボクに言った。ボクはその言葉の意味が、ちょっとよく分からなかった。でも、男の子はうれしそうだったから、なんだかボクもうれしくなった。

「僕も、夜は眠れないんだ。僕は生まれつき、ちょっと変わった病気にかかってて、お昼は起きてられなくて、夜は寝たくても寝られないんだ」

(お昼は起きてられなくて、夜は寝たくても寝られない……)

「だから、こうやって一人で散歩するのが、僕すごく好きなんだ。ほら、見てよ。あのお月さま、すごくきれいだよね」

男の子はそう言って、お空の上にある丸いお月さまを指さした。いつも見ているはずなのに、今日のお月さまは、いつもの何倍もきれいに見えた。すごく、きれいだった。

(どうしてだろう? でも、きれいだから、別にいいよね)

僕と男の子は、そのまましばらく、お月さまを見ていた。今日のお月さまは、どんなに見ていても、ちっとも飽きなかった。いつまでも、ずっと見ていたいぐらいだった。

 

「ねぇ……」

それからしばらくして、男の子がボクに声をかけてきた。

「明日もまた、一緒にお月さまを見れないかな?」

(一緒に……月を?)

「僕、本当は誰かと一緒にお月さまを見たかったんだ。誰かが隣にいて、一緒にお月さまを見て、きれいだね、って言いたかったんだ」

(…………)

「僕、お昼に起きてられないから、友達が誰もいないんだ。だから、誰かと一緒にお月さまを見たくても、見れなかったんだ」

ボクは男の子の言葉を聞いて、こう思った。

(ボクと、同じだ)

ボクはお昼に起きていられなくて、みんなが寝ちゃう夜に、一人でお散歩をしている。誰かと一緒に遊んだり、お散歩をしたり、お月さまを見たりすることは、ボクにはできなかった。

(でも、それはボクだけじゃなかったんだ)

目の前の男の子も、ボクと同じだった。一人でずっと、お月さまを見てたんだ。 だから、ボクは。

「……いいの?! 本当に、いいの?!」

(うん。ボクもキミと一緒に、お月さまを見たいんだ)

こくり、と頷いた。

 

それからボクは、毎日その子と会うようになった。

「誰かと一緒にお月さまやお星さまを見るのって、一人で見るよりもすごく楽しいね」

(うん。ボクもそう思うよ)

ボクはその子の隣に座って、一緒にお月さまやお星さまを見た。一人で見るよりも、二人で見たほうがずっと楽しいし、お月さまやお星さまもきれいに見えると思った。

「僕、君と一緒にいられて、すごくうれしいよ。僕はもう、一人でお月さまを見なくてもいいんだ。そう思っただけで、なんだかとてもうれしくなるんだ」

(ボクも同じだよ。一人じゃないっていうのは、こんなにもうれしいことだったんだね)

ボクは言葉は話せなかったけど、にっこり笑って、その子のことを見た。男の子もボクと同じように、とてもうれしそうな顔をしていた。だから、ボクもうれしかった。

 

「そう言えば僕、まだ名前を言ってなかったよね。僕、『陽介』(ようすけ)っていうんだ」

(陽介君?)

「君に、名前はあるの?」

ボクは陽介君に言われて、ううん、と首を振って答えた。そうだ。ボクにはまだ、名前がない。ボクは生まれた時からずっと一人だったから、ボクのことは「ボク」って呼んでれば良かった。でも、ボクはもう一人じゃない。だから、名前が必要だった。

「そうなんだ……それだったら、僕が君の名前を付けてあげても、いいかな?」

(陽介君が、ボクに名前をくれるの?)

「僕、君にすごく似合う名前を思いついたんだ。だからそれを、君にも聞いてもらいたいんだ」

陽介君はこう言って、ボクのことを見つめた。ボクも陽介君の考えた「名前」が気になったから、こくり、と頷いたんだ。

「いいの? 僕が君の名前、付けてあげてもいいの?」

(うん。ボクは陽介君から、名前をもらいたい)

「それじゃあ、言うね。僕が考えた、君にすごく似合うと思う名前は……」

 

「『サニー』。『サニー』っていうのは、どうかな?」

 

ボクはこの時から、「サニー」という名前になった。陽介君は、ボクに「サニー」という言葉にどんな意味があるかを、いろいろ教えてくれた。

「『サニー』っていうのはね、英語で『太陽のような』っていう言葉なんだ」

(太陽の……ような?)

「君は『たいようポケモン』のキマワリだから、その言葉がすごく似合うと思ったんだ」

(たいよう……ポケモン……)

ボクは陽介君から由来を聞いて、すごくうれしかった。けど、少し複雑な気分にもなった。

(ボクはお日さまを見たことがないのに、そんな名前、もらっちゃっていいのかなぁ)

ボクは、お日さまがどんなものなのかを、よく知らない。そんなボクが、『太陽のような』なんていう立派な名前をもらって、本当にいいのか分からなかった。ボク以外に、もっとその名前が似合う人は、いっぱいいるような気もした。

「……気に入らなかったかな? もしそうだったら、ごめんね」

(ううん。そんなことはないよ)

ボクはすぐに首を横に振った。陽介君がせっかくボクにくれた名前なのに、気に入らないわけなんかなかった。本当は、「ありがとう」って言いたかったけど、ボクはやっぱり人の言葉を話せないから、言うことはできなかった。

「よかった……僕、怖かったんだ。サニーが、もし『サニー』っていう名前が気に入らなくて、僕のことを嫌いになったらどうしよう、って」

そんなこと、あるわけなかった。陽介君は、ボクが初めて出会った、ボクと同じ「あべこべ」の人だった。だから、陽介君が今までずっと一人ぼっちだったって聞いたときも、「ボクと一緒だ」って思うことができた。ボクには陽介君のことが、すごくよく分かった。

「これからも、一緒にお月さまやお星さまを見てくれる?」

(うん。もちろんだよ)

「僕、サニーと出会えて本当によかったよ。これからは、もう一人でお月さまやお星さまを見なくて済むんだもん」

それは、ボクも同じだった。

 

「今日のお月さまは、三日月だね。僕はまん丸いのが一番好きだけど、三日月も好きだよ」

ボクと陽介君は、いつも並んでお月さまを見た。陽介君は、どんなお月さまも好きだって言ってくれた。ボクは、すごくうれしかった。ボクも、お月さまならなんでも好きだったから。三日月でも、半月でも、まん丸の満月でも。どれでも、ボクは好きだった。

「最近ね、よく夢を見るんだ。お昼に見る夢なんだけどね」

(夢?)

「僕とサニーの二人で、一緒にお月さまを見る夢なんだ。ちょうど、今こうしてるみたいに」

なんだか、どっちが夢でどっちが本当なのか分からなくなっちゃうよって、陽介君は笑った。ボクも、一緒に笑った。でも、ボクはうれしかった。ボクは陽介君の夢の中でも、陽介君と一緒にいられてる。そう思うと、ああ、ボクはもう本当に一人じゃないんだ、って思えて、胸が、ぽっと熱くなった。

「ねぇ、サニー」

(どうしたの?)

「いつか、二人で一緒に、お日さまを見れるといいよね」

(お日さま……)

「僕、お月さまを見るのもすごく好きだけど、でも、やっぱりお日さまも見てみたいんだ。お月さまを照らしてくれてるお日さまを、僕は見てみたいんだ」

陽介君の目は、なんだかとても真剣だった。ボクにはその気持ちがよく分かった。ボクも、本当はお日さまも見てみたかった。他のみんなが見てるお日さまを、ボクも見たかった。

「お日さま、一緒に見ようね」

(うん)

ボクは、こくりと頷いた。

 

「僕ね、時々思うんだ。僕、本当はお化けなんじゃないかって」

(えっ?)

陽介君は、ボクにそんなことを言った。ボクは驚いて、陽介君の顔を見た。

「だってね、お化けはお昼に出てこれなくて、夜になると出てくるよね。それって、僕も同じじゃないかな、って思うんだ」

(そんなの……)

陽介君の顔は、なんだかとても寂しそうだった。無理して笑ってるみたいだった。ボクはそんな陽介君を見るのが、とてもつらかった。胸がちくちくして、悲しい気持ちになった。 だから、ボクは。

「えっ?」

陽介君と、手をつないだ。

「サニー……」

ボクの手ははっぱみたいで、指もなくて、陽介君の手をつかむのはちょっとむずかしかったけど、ボクは頑張って、陽介君と手をつないだ。

(違うよ。陽介君)

ボクの言いたいこと、伝わればいいんだけど。ボクは不安になりながら、陽介君の顔を見た。 ……ボクが見た、陽介君の顔は。

「そうだよね。僕、間違ってたよ。僕がお化けだったら、こうやって、サニーに手をつないでもらうことなんか、できなかったもんね」

とても、うれしそうだった。

(そうだよ。陽介君は手をつなげるから、お化けなんかじゃないんだ)

「僕、すごくうれしいよ。僕が一番してほしかったことを、サニーはすぐにしてくれたんだ」

陽介君はボクの顔をじっと見つめて、ボクにこんなことを言った。

「サニーは、僕の『たいよう』だよ。僕が迷った時に、道を照らし出してくれたんだもん」

(ボクが……お日さま?)

「小さいけど、とっても立派で、とってもあったかい、『たいよう』だよ」

ボクはなんだか、とても恥ずかしくなった。ボク、陽介君に「『たいよう』だよ」なんて言われちゃったんだ。そりゃあ、ボクは「たいようポケモン」のキマワリだけど、お日さまを一回も見たことがないのに、お日さまだなんて言われるなんて、すごくこそばゆかった。 ……でも。

(陽介君の『たいよう』になれるなら、ボクはうれしいかな)

そう、思った。

 

ボクと陽介君が一緒にお月さまを見るようになって、しばらく経った日。 陽介君に、少し変わったことがあった。

「ふわ……なんだか、少し眠くなっちゃった」

(えっ?)

ボクの隣にいた陽介君が、あくびを一つして、そんなことを言った。

「おかしいよね。お昼にあんなにたくさん寝てるのに、まだ眠たくなっちゃうなんて」

(陽介君……)

「たぶん、少し疲れちゃったんだと思う。あんまり、動いたりしてないのにね」

陽介君は笑って言ったけど、ボクはちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、不安になった。どうしてなのかは分からなかった。でも、不安な気持ちになったのは、本当だった。

(どうしてだろう……)

ボクが不安そうな顔をしていると、陽介君がボクを見て、

「大丈夫だよ。サニーと一緒にいるときは、少しも疲れてなんかいないから。僕は、サニーから元気をもらってるからね」

優しい口調で、そう言ってくれた。

「ほら、僕はちゃんとここにいるよ」

陽介君はボクの手を取って、握手をしてくれた。ボクも、できるだけ強く握り返した。

(陽介君、ありがとう。でも、そうじゃないんだ……)

ボクは、できるだけ頑張って笑った。陽介君を心配させちゃいけないと思ったから。 ……でも、本当はやっぱり不安だった。何が不安なのか分からないから、そのせいで余計に不安になった。

 

「どうしてだろうね。なんだか、最近夜も眠くなるんだ」

次の日も、陽介君は少し眠たそうだった。ボクはやっぱり、それがちょっと心配だった。

「もし夜も眠くなっちゃったら、僕、一日中寝てなきゃいけなくなるよね」

(陽介君……)

「ヘンだよね。一日中寝てるなんて、僕、まるで……」

(まるで?)

「……ううん。何でもないよ。大丈夫。僕、いつもサニーに会うのがすごく楽しみなんだ。だから、頑張って起きてるよ」

ボクも同じだった。ボクは陽介君と一緒にいて、一緒にお話をして(ボクは頷いたり、首を横に振ったりしかできなかったけど、それだけでもボクには十分だった)、それで、一緒にお月さまを見ていると、すごく楽しかった。ボクは陽介君と、いつまでも一緒にいたかった。 ……だから、ボクは小さなことでも、すぐに不安になっちゃうんだ。もしボクの前から陽介君がいなくなっちゃったら、どうしよう、って思うんだ。 ボクは、不安だったんだ。

 

次の日、ボクは陽介君が来るまで、一生懸命考えてみた。

(どうしてこんなに不安になるんだろう……)

ボクは考えて考えて、いろんなことを思い出して、途中で忘れそうになってあわてて頭をぶんぶん振って、それでまた思い出して、あっこれは関係ないや、とか思って、また忘れそうになって、それで、思い出して、思い出して……

(……そうだ。少しお日さまが早く沈んだときに、他のみんなが、こんな話をしてたんだ)

それは、こんな話だった。

 

「僕達はお昼に起きて、夜に眠る。眠った後はまた起きて、また眠る。この繰り返し」

「僕達はそうして、毎日を過ごしている。起きることと眠ることを繰り返して、生きている」

「……でも、中にはそうじゃないのもいる」

「そいつは、ずーっと眠ったまま。他のみんなが声をかけても、そいつは何も返さない」

「ただ眠ったまま、そこにいるだけ」

「何回お昼が来ても、何回夜が来ても、そいつは眠ったまま」

「もう二度と、目覚めない」

 

(二度と……目覚めない……?)

ボクの体に、冷たいものが走った。どうしてなのかは、やっぱり分からない。でも、ボクは怖くて怖くて、涙が出てきた。ボクは手で涙を拭いたけど、拭いても拭いても、涙はちっとも止まらなかった。すごく、怖かった。

(いやだよ……こんなことを考えてると、おかしくなっちゃいそうだよ……)

ボクは考えるのをやめたかったけど、でも、やめられなかった。ボクは、ボクが怖くなった。

 

そして、それからまた、しばらく経った日。

「ねぇサニー。僕、少し眠ってもいいかな?」

(えっ……?!)

陽介君が、不意にそんなことを言った。

「なんだか、目がぼーっとするんだ。どうしてだろうね……お昼の間、ずっと眠ってるのにね」

(だ……ダメだよ……)

「あはは。サニー、どうしたの? 大丈夫だよ。少し眠くなっちゃっただけだから。起きて、って言われたら、すぐにでも起きるから、ね?」

(ダメだよ……! もし眠っちゃったら、陽介君は、陽介君は……!)

ボクは必死に、首を横に振った。そんなことしか、ボクにはできなかった。

「お昼も夜も眠ってるなんて……なんだか、ちょっと悲しいかな」

陽介君はそう言うと、僕のほうを向いたまま、草むらの上にごろんと転がった。

(ダメだよ! 眠っちゃったら、もし眠っちゃったら、陽介君は、陽介君は……!)

「ねぇ、サニー。もしかして、僕……」

(えっ……?)

 

「お昼も夜もずっと眠ったまま、もう二度と、起きれなくなっちゃうのかな」

陽介君は、そう言った。

「お日さまが上っても、お月さまが上っても、僕はもう、起きれなくなっちゃうのかな」

陽介君は、そう続けた。 ボクの中で、体中が真っ黒になるみたいな、怖い考えが、ものすごい勢いで広がりだした。

(『何回お昼が来ても、何回夜が来ても、陽介君は眠ったまま……』)

(いやだ!)

ボクは首をぶんぶんと振って、怖い考えを、頑張って振り払おうとした。

(『お日さまが上っても、お月さまが上っても、陽介君が目覚めることはない……』)

(そんなの違う!)

ボクは、頑張って頑張って、もう何を頑張ってるのか分からないぐらい、頑張った。

(『陽介君はもう、二度と目覚めない』)

(うそだ! そんなこと、あるわけない!)

でも、ボクが頑張れば頑張るほど、怖い考えは、どんどん大きくなっていって……

(『それは、人間の言葉で……』)

(言わないで! 聞きたくない!)

ボクが思ってることのはずなのに、ボク自身が止められないぐらいだった。

(いやだ!!)

ボクがそこまで考えた、その時だった。

 

「僕、死んじゃうのかな」

陽介君は、そう言った。 その言葉を聞いた途端、ボクはもう、何も考えられなくなった。

「ふわぁ……サニー、ごめんね。お月さま、一緒に見れなくて」

(陽介君……)

「もし僕が起きなかったら、また、サニーを一人にしちゃうね。本当に、ごめんね」

陽介君はいつもと変わらない優しい口調で、ボクに語りかけ続けた。

「僕ね、本当はやっぱり、お昼に起きて、夜に眠る方がよかったんだ」

(ボクも……ボクも同じだよ)

「僕、毎日すごく寂しかったんだ。誰もいない夜の道を歩いてるのは、すごく寂しかったんだ」

(同じだよ……みんな同じだよ)

「僕はずっと、一人ぼっちだったんだ」

そうだ。陽介君と出会えるまで、ボクもずっと一人だったんだ。

「でもね、サニーと出会ってからは、毎日が、すごく楽しかったんだ。サニーと僕は、本当にそっくりだった。僕はもう一人じゃない、って思えたんだ」

陽介君の言うことは、みんなボクも同じだった。陽介君と一緒にいてすごく楽しかったし、いつまでも一緒にいたいと思ったんだ。いつまでも、一緒にいられると思ったんだ。 ……それなのに。

「サニー。僕、君と出会えて、本当によかったよ。僕はもう、一人じゃないんだ」

(そうだよ。ボクも一人じゃないし、陽介君だって一人じゃないんだ)

「……ごめんね。僕、もう目を開けてるのもつらいんだ」

(いやだよ、眠らないで! ずっと、ボクと一緒にいて……!)

「僕、お日さまは見れなかったけど……すごく幸せだったよ」

陽介君は、そう言ってから……

「おやすみ……サニー。僕の……『たいよう』」

ゆっくりと、目を、閉じた。

 

(陽介君? ねぇ、陽介君……?)

ボクは目を閉じて、安心したような表情をしている、陽介君の顔を見た。

(ねぇ陽介君、夜だよ。ほら、今日は陽介君の大好きな、まん丸のお月さまだよ)

ボクは、陽介君の顔に手を当てた。

(ねぇ、陽介君。ボク、陽介君の隣にいるの、すごく好きなんだよ)

ボクは、陽介君を揺さぶった。

(ねぇ、陽介君。でもね、それはね、陽介君が一緒にいて、初めてできるんだ)

ボクは、陽介君の手を捜した。

(ねぇ、陽介君……だからね、だからね……ボク、もう一人になるのはいやなんだ……誰かと一緒にいないと、ボク、もうダメなんだ……)

ボクは、陽介君の手を握った。

(ねぇ、陽介君……ボクを置いて行かないで……ボクも一緒に、一人でいなくてもいい場所に連れてって……もう、一人でお月さまを見るのは、いやなんだ……!)

ボクは陽介君の体の上に、いっぱいいっぱい、涙をこぼした。そうしたら、陽介君が起きてくれるかもしれないと思ったから。 ……でも。

(あれ……?)

ボクが泣いていると、陽介君が起きるんじゃなくて、まったく逆のことが起きた。

(ボク、なんだか……)

今度は、ボクが眠くなってきちゃったんだ。 眠いっていう気持ちは、どんどん強くなってきて……

(ボクは……)

 

……そのうち、ぼくはどうしてこんなところにいるのかも、わからなくなってきた。よるなのに、すごくねむくなった。ぼくはこんなことをかんがえた。

(ぼくも、しんじゃうのかな)

ぼくはもう、なにもわからなくなった。しんじゃうって、どういうことなのかな。ぼくはいま、なんだかすごくねむい。もう、なにもかんがえられない。ただ、このままねむれたらいいな、っておもった。

(……ねちゃおう、かな。でも、そうしたらぼく、しんじゃうのかな)

でも、ねむれるから、いいよね。 いまはもう、ぼくは、ねむって、いたい、んだ。

(さようなら、ようすけくん)

ぼくは、ようすけくんのからだによっかかって、ゆっくり、ゆっくり…… ……めを、とじた。

 

「……てよ。ねぇ、起きてよ」

急に、声が聞こえてきた。なんだろう。ボクに、何かあるのかな。ボクは、その声に聞き覚えがあった。それは、ボクのよく知っている声で、それで…… ……ボクがただ一人知っている、ボク以外の声だった。

「ねぇ、起きてよ。サニー」

(…………)

ボクはゆっくりと、目を開けた。真っ暗だった世界が、真ん中から裂けていくみたいに、少しずつ、白く変わり始めた。

「ほら、見てよ」

そう言われて、ボクはぱっと目を開けた。でも、その瞬間。

(うわっ! まぶしい!)

ボクはまた、目を閉じちゃった。

「あはは。やっぱり、眩しかったよね。僕も、さっき同じことしちゃったんだ」

(あれ? 陽介君、どうして……?)

ボクはちっとも分からなかった。陽介君がここにいてくれてることも、どうしてボクの目の前が「眩しかった」のかも、ちっとも分からなかった。

「僕、勘違いしてたんだ。夜に眠れるってことは、もう、お昼に眠る必要はなくなったんだ」

(えっ?!)

「僕もサニーも、もう、お昼に眠って、夜に起きてなきゃいけない、『あべこべ』じゃなくなったんだ。あべこべのあべこべで、元に戻っちゃったんだ」

ボクは、今度はゆっくり目を開けた。 すると、ボクの目の前に、すごく大きくて、とても強い光を持った、まん丸い……

「見てよ。あれが『お日さま』だよ。僕、今までずっと見たかったんだ」

(あれが……『お日さま』……!)

ボクも陽介君も、ずっと見たかったもの。他のみんなが見てて、ボクと陽介君だけが、ずっと見れなかったもの。それが今、ボクの目の前にある。 ボクは、お日さまを見たんだ。ずっと見れなかった、お日さまを、ボクも、見れたんだ。 それから、不意に陽介君が、こんなことを言った。

「でもね、僕、あの目の前にあるお日さまよりも、もっと素敵な『たいよう』を知ってるんだ」

(えっ……?)

「それが何か知りたい? その『たいよう』っていうのはね……」

 

 

「僕の隣に寄り添って、僕と手をつないでくれてる、小さいけど、立派で、すごくあったかい、僕の大切な『たいよう』のことなんだ」

 

 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。

※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。

Thanks for reading.

Written by 586