Subject #89668

Basic Informations:

Subject ID:
#89668
Subject Name:
ピーちゃんを探しています
Registration Date:
1998-06-01
Precaution Level:
Level 3

Handling Instructions:

これまでに「ピーちゃん」と認定された個体(個体#89668)は各々のモンスターボールに収容し、担当者は一般的な携帯獣向けの生育マニュアルに沿って保護に当たってください。個体#89668への呼びかけの際は、必ず「ピーちゃん」と呼びかけてください。実験目的で無い限り、個体#89668同士の接触・交流は認められていません。案件担当者が実験を行う場合は様式F-89668-2に沿って実験計画を作成し、事前に上長からの承認を得てください。承認を得ない実験は、当局の定める罰則規則に沿った処罰を受ける可能性があります。

事象#89668を引き起こす要因となったポスター(媒体#89668)は、風雨によって破壊された、または紛失した6枚を除いてすべて回収し、カントー地方ニビシティ第二支局に隣接する第五中異常性取得物保管庫のブロック4-Dに保管しています。事象#89668の原因である情報災害の効果は依然として有効であるため、取扱に際して対象を直接視認してはいけません。曇り加工を施した専用のヘルメットを着用の上、事前に上長の承認を得る必要があります。媒体#89668を電子化したものについては、特異な性質が失われていることが分かっています。媒体#89668の閲覧が必要な場合、専用端末から電子化した版にアクセスしてください。

媒体#89668の制作者(参考人#89668)と定期的なヒアリングを実施することが取り決められています。参考人#89668に対応する局員は事前に資料を十分読み込み、標準的な方法でヒアリングを実施してください。特段の異常が無ければ、規定の質問を終えた段階でヒアリングを終了して構いません。

Subject Details:

案件#89668は、視認した人間に対して認知機能の異常を生じさせる紙媒体のポスターと、それに掛かる一連の案件です。

1997年末頃から1998年初頭にかけて、主としてトキワシティ北部から中部にかけて、以下のような「探しています」のポスター(媒体#89668)が多数貼付されたことが事案のきっかけとなりました。

ピーちゃんを探しています

12月4日のお昼頃、お散歩中にはぐれてしまい、行方が分からなくなりました。
まだ子供のピカチュウです。尻尾の黒い部分が少しだけ大きいのが特徴です。
ピーちゃん、と呼ぶと返事をしてくれます。チーズが大好きです。
体が弱いので心配しています。見かけた方保護された方はご連絡ください。
電話番号 XX-XXXX-XXXX [ポスター作成者である参考人#89668の名前] まで

媒体#89668には上記のような文面と、自宅で撮影された「ピーちゃん」という名前のピカチュウの写真が掲載されています。ピカチュウは正面を向いた状態で撮影されており、この写真そのものに異常性はありません。文章に記載されている通り小柄で未成熟なことが伺え、尻尾の黒い部分がやや大きくなっているのが分かります。

異常性が顕在化するのは、人間が媒体#89668を5秒以上直接視認した場合です。このとき媒体#89668に書かれた文章を明確に理解できない(視覚的に文字が読めない/内容が理解できない/日本語を習得していない等)場合、後述する事象#89668は発生しません。文章を理解できる能力があり、かつ媒体#89668を5秒以上視認した場合、事象#89668が発生します。

事象#89668は、媒体#89668を見た人物がその後最も早いタイミングで目撃した野生の携帯獣を「ピーちゃん」と誤認識する事です。対象がピカチュウでなかったとしても一切関係なく、誤認識は発生します。この時ほとんどの人物は「ピーちゃん」を参考人#89668の元へ届けようと考えます。注意すべきは、この時の動機は個々人によって大きく差異があることです。ある人物は「ピーちゃんが可哀想だから」と情緒的な理由を口にし、別の人物は「お礼がもらえると思ったから」と金銭的な理由を口にします。この動機は個々人の本来的な考え方に依拠するもの、すなわち当人にとって自然な情動であると考えられます。

この時もう一つの効果として、「ピーちゃん」であると誤認識された携帯獣自身も、自分自身を「ピーちゃん」だと誤認識するというものがあります。結果、人物からの「ピーちゃん」という呼びかけに従順に反応し、名前を呼んだ人物の元まで向かって行きます。以後、携帯獣は永続的に自分自身を「ピーちゃん」であると認識し続けます。

恐らくあらゆる携帯獣が事象#89668によって「ピーちゃん」と誤認識され得るものと考えられます。これまでに確認された事例としては、ディグダの穴へ進入した折に遭遇したダグトリオを「ピーちゃん」と誤認したもの、望遠鏡で観察したオニドリルを「ピーちゃん」と誤認したもの、ポスターを視認した後ジョウト地方フスベシティまで移動し、その際目撃した野生のエアームドを「ピーちゃん」と誤認したもの、近隣の池で釣り上げたニョロゾを「ピーちゃん」と誤認した例などがあります。

ポスターの制作者である参考人#89668から、「ピーちゃんでないポケモンをピーちゃんだと主張して譲らない人がたくさん来ている。助けてほしい」と警察に緊急通報が行われました。通報内容から異常事案の発生を察知したオペレータが当局に連絡し、警察とともに参考人#89668の元へ急行しました。局員が駆けつけた時点で10歳から68歳の男女総勢47名が玄関口で言い争いをしており、いずれも帯同させている携帯獣が「ピーちゃん」だと主張していました。携帯獣同士も自分自身が唯一の「ピーちゃん」であると認識していたためか互いに攻撃的な姿勢を見せ、危険な状態となっていました。局員は警官とともに対応に当たり、およそ6時間後に事態の収集が完了しました。この段階で局員は原因がポスターにあると推測、視認しないよう周囲に警戒を呼びかけ、応援の局員と共に回収を行いました。

後に行われた参考人#89668へのヒアリングにおいて、参考人#89668は媒体#89668に一切の細工をした記憶は無いとのことでした。ポリグラフテストの結果は、この証言の信憑性が高いことを示しています。参考人#89668がこれまで作成してきた文書や図画には何ら異常性が認められないことから、媒体#89668は参考人#89668が意図的に作り出したものではないとの見方が大勢を占めています。

通報に際して捕獲された携帯獣は、自分自身を「ピーちゃん」であると誤認している事を除けばいたって正常な個体であるため、識別のため個体#89668-1から個体#89668-47と管理用の名称を設定し、全員を隔離して保護しています。個体#89668-1から個体#89668-47を帯同させていた人物らは、個体を「ピーちゃん」だと認識している事を除けば他に異常は見られなかったため、翌日には全員を解放しました。

参考人#89668が捜索していた本来の「ピーちゃん」は、現在に至るまで未だ行方不明のままです。収容された47体の携帯獣の中に本来の「ピーちゃん」、及びピカチュウは含まれていませんでした。

[1999-07-21 Update]

局員の一人がポスターを安全管理手順に沿って閲覧していた際に、ポスターの隅に小さなスタンプが押されていることを発見しました。解像度の都合で内容を視認することが困難だったため、上長に申請の上さらに高い解像度でのスキャンが行われました。スキャンした結果スタンプが鮮明に視認可能となり、以下のようなテキストが押印されていることが分かりました。

"善意" is so beautiful.

参考人#89668にヒアリングを実施したところ、このようなスタンプを押した記憶は無いとのことでした。事象#89668との関連性と、スタンプを押した個人あるいは組織についての調査が進められています。

Supplementary Items:

本案件に付帯するアイテムはありません。