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弾けたホウセンカ

漆黒の夜闇の下で、彼女は輝いていた。

それはあたかも、光が人の姿を借りて歩いているかのようだった。

星を思わせる輝きを、彼女は放っていた。

九月の終わり。部活終わりの帰り道。途中にある公園の前で、あたしはぱたりと足を止めていた。右の肩に提げたバッグのベルトが引っかかるのも忘れて、あたしは一点に視線を送り続けていた。

「……そこのジャージちゃん。私に見惚れちゃった、かな?」

呼びかけられるまで、自分がそこに立ち止まっていたことにさえ気付かなかった。馬鹿正直に真正面からぼーっと見つめていたから、立っていることはあっさりバレた。一瞬体が動いてその場を離れようとしたけど、バレた後に動くことほど間抜けなこともないだろう。諦めて素直に前へ出ることにした。

「目の保養なら向かないよ。私は、刺激が強すぎるから」

「そういうのじゃ……っていうか、あたし女だし」

「ふ、ふ、ふ。目と口が矛盾してるよ。目は口ほどにモノを言う、ってね」

公園の電灯。その下に、不思議な女の人が立っていた。あたしより、たぶん二つか三つくらい年上で――ちなみに、あたしは高校二年生だ――、真っ白なブラウスに、対照的な真紅のロングスカート。夜空にとけるようなさらさらした黒髪が、背中にまで届いているのが分かる。

それだけでも結構不思議だった。なんでこんなところにいるのかとか。けれども、女の人を不思議たらしめていたのは――全身が、ぼんやりと光っていたことだった。

「ジャージちゃんが見惚れちゃっても、仕方ないかな。珍しいから、私」

「見惚れてなんかないです。っていうか、あたしジャージちゃんじゃないし」

「ふ、ふ、ふ。ジャージちゃんは、ジャージちゃんじゃない、か」

ジャージちゃん。そう呼ばれるのも分かる。あたしは上下ともジャージで、髪は後ろで束ねている。かたや女の人はシンプルだけど清楚な装いで、見た目はお嬢様のようにも見えなくも無い。体育会系丸出しのあたしとは、何もかも正反対だ。

女の人は白い手袋をはめた手で髪をひと撫でして、そしてあたしに訊ねてきた。

「君の名は。」

「えっ?」

「ジャージちゃんの、お名前は?」

「あたしの名前……ですか」

「うん、教えてほしいな。教えてくれたら、もう少し、私のこと見ててもいいよ。あ、でも、触っちゃダメだけどね」

「いりません。っていうか、元々触る気なんか無いし。あたし、もう帰ります」

踵を返して、この場からさっさと立ち去ろうとする。

「帰っちゃうの?」

また足が止まってしまう。女の人の「帰っちゃうの?」という言葉に、あたしは身動きが取れなくなった。疑問の色に、「残念だ」っていう気持ちが幾ばくか入り混じった、どことなく気弱な声色。足を止めさせるには、十分な威力だ。

正直な話、あたし自身このまま帰るのはちょっと気が引けた。この、星のように輝く女の人のことがちっとも気にならないと言えば、嘘になる。もうしばらく付き合ってもいいかな。あたしはそう考えた。

「……早乙女睦美。古鐘市立館林高校の二年生」

「わお、自己紹介までつけてくれたんだね、ジャージちゃん。それなら、私もサービスしないといけないかな」

「別にいいです。っていうか、呼び方『ジャージちゃん』のままじゃないですか。名前聞いた意味、全然無いし」

「ふ、ふ、ふ。ジャージちゃんは素直じゃないね。でも、それがジャージちゃんの魅力なんだね、きっと」

女の人と再び目を合った。ふんわりした、少しだけ悪戯っぽさを感じさせる瞳。全身がぼんやり光って見えるのは、やっぱり気のせいじゃない。本当に光っている。少なくとも、あたしの目にはそう見える。自慢じゃないけど視力は右目も左目も一.五だ。だから合ってる、たぶん。

とりあえず、会話してみよう。向こうは話をしたいみたいだから。

「こんなところで、何やってるんですか」

「うーん。電灯の下に立ってる、って言ったら、怒っちゃう?」

「別に怒りませんけど、はぁ? って言います。っていうか、今言うし。はぁ?」

「がーん。ショックだよ。私、見ての通り衝撃に弱いのに。ジャージちゃんは容赦ないね」

「容赦する義理が無いです。っていうか、衝撃に弱いとか知らないし」

本っ当にマイペースな人だ。そもそも、あたしを「ジャージちゃん」と呼ぶ時点でマイペースすぎると思う。名前を聞いておいてこれなんだから、どうしようもない。前から古鐘には変わった人が多いって聞いてたし、あたしの周りにも実際ちょっと変な子が多いけど、この人はその中でもずば抜けている。

「帰り道で、不思議で神秘的で浮世離れした人に会う。ね、壮大な物語の始まりって感じ、しない?」

「しますけど今の状況は違います。っていうか、浮世離れ以外合ってないし」

「ひどいよ、ジャージちゃん。私のヒットポイント、そろそろゼロになっちゃうよ?」

あたしは体力減少中らしい女の人の目の前まで近づいて、改めてその姿を瞳に映し出した。何回見てみても、やっぱりぼんやり輝いている。イメージとかそういうのじゃなくて、本当に、物理的に体が光っている。ちっともわかんない。どういう理屈なんだろ?

「ジャージちゃんって、古鐘の人じゃないよね」

「分かるんですか」

「うーん、なんとなくね。ほら、静都ことばを使ってないから、ね」

「しょうがないじゃないですか。だって、一年半前に引っ越してきたばっかりだし」

良くは分からない。けど……今は、これくらい意味の分からない、ヘンなモノに接していたほうが、気が楽だ。

「あの。名前、なんていうんですか」

「私の名前? それとも、この電灯さんの名前?」

「どう考えても前者です。っていうか、電灯に名前とか絶対付けないし」

「私は、カトリーヌちゃんって呼んでるけどね」

女の子なのか。

「呼びません。名前、教えてください。あたしの名前、教えてあげたんだし」

「ふ、ふ、ふ。だんだん私のペースがつかめてきたみたいだね、ジャージちゃん。私の名前は――」

 

「――ジャージちゃんの好きに決めてくれちゃっていいよ」

 

「……はぁ?」

「物事を自分で選択できることって、素晴らしいことじゃないかな?」

「普通はそうですけど、今は違います。絶対違います。っていうか、名前くらい普通に名乗れるはずだし」

なんなんだ、この人は。名前も普通に名乗れないんかい。ここまでマイペースだと、普段付き合っている人はさぞかし大変だろうって思う。あたしはまだ会って十分くらいしか経ってないのに、もうこの人のペースに完全に飲み込まれている。

とにかく、いったん気を取り直して。名前を自由につけていいって言うなら、とびっきりヘンな名前を付けてやる。

「素敵な名前、つけてほしいな」

「わかりました。じゃあ――」

 

「『紅白まんじゅうさん』って呼びます」

 

どや! このセンスゼロの名前! 上が白いブラウスで下が紅いスカートだから紅白まんじゅう。この圧倒的なセンスの無さ! 紅白まんじゅうさんを大いに戸惑わせること間違いなし!

「わお、丸くて甘くておいしそうな名前だね。私にぴったりだよ」

こうはくまんじゅうさんは へいきなかおを している!

ざんねん! わたしの こうげきは これで おわってしまった!

「……嫌じゃないんですか」

「ぜーんぜん。紅白まんじゅうさん、すごくいい名前だね。私、宝物にしちゃうよ」

「やめてください、しないでください。っていうか、冗談のつもりだったし」

「ふ、ふ、ふ。冗談を言えるようになるなんて、ジャージちゃんも慣れてきたみたいだね」

こうなっちゃったらしょうがないから、あたしもここからは女の人を宣言どおり「紅白まんじゅうさん」と呼ぶことにする。ここまでつかみどころのない人、初めてだ。

なんだかんだで名前の交換も終わったところで、あたしは前々から聞こうとしていた一番の疑問点を、迷わずぶつけた。

「あの、紅白まんじゅうさん」

「何かな、ジャージちゃん」

今更ながら、悪い意味ですごい会話だ。なんだろう、このどっちもヘンな名前で呼び合うの。

「紅白まんじゅうさんって……どうして、光ってるんですか」

暗闇の中で自己主張を続ける、絶えることの無い紅白まんじゅうさんの輝き。服が光っているわけでも、光に照らされているわけでもない。紅白まんじゅうさん自体が、煌々と光っている。その理由を、あたしは知りたかった。

だって、普通じゃそんなことはあり得ないから。

「紅白まんじゅうさん、体が光ってますよね」

「うん、ぼやーっとね。意識しなくても、外に出てきちゃうんだよ」

「それって、どう考えても普通じゃない気がします」

「だって、私は普通じゃないもん。生まれつき、こういう体質だからね」

紅白まんじゅうさんはあたしを見つめたまま、少しだけ儚げな表情を見せた。

「生まれつきだよ。最初から、ずっとこんな風だもん」

「信じられません」

「ふ、ふ、ふ。そうだよね。私が、ヘンだからね」

長い黒髪を、またひと撫でして。

「ねえ、ジャージちゃん」

 

「私って、おかしいかな」

「生きてるの、間違ってるかな」

 

「えっ?」

「どうかな、ジャージちゃん。ジャージちゃんの、素直な意見が聞きたいな」

……やばい。いきなりハードな質問だ。

(おかしいか、生きているのが間違っているか……)

紅白まんじゅうさんはハッキリ言って超が付くマイペースで、確かにちょっと不思議なところがある。ヘンか普通か、二択で選べと言われたら、あたしは間違いなく即決で「ヘン」を選ぶ。それくらいの不思議さはある。

けど、おかしいというほどでもない。ましてや生きているのが間違ってるなんて、簡単に言っていいわけがないじゃないか。

「ちょっと変だと思いますけど……別に、生きててもいいと思います」

「本当に? 本当にそう思う?」

「あたし、嘘は嫌いです。っていうか、今は嘘とか言うシチュエーションじゃないし」

「ありがとう、ジャージちゃん。そういう風に言ってもらえたの、ジャージちゃんが初めてだよ」

悪戯っぽさの抜けた、純粋な笑顔。今のあたしには、到底できそうにない笑顔を向けられた。紅白まんじゅうさんは、こんなにもうれしそうな表情ができるのか。

紅白まんじゅうさんの笑顔の前に、あたしはあっさり毒気を抜かれてしまった。

「からかったみたいでごめんね。ジャージちゃんと話すの、楽しかったから」

「あたしは……あ、あんまり楽しくないです。っていうか、た、楽しくなんかないし」

「どーんなーにじょーうずにかっくっしってもー、かわいいほーんねがみーえてるよー♪」

「本音じゃないですっ。歌わないでください。っていうか、本音じゃないし」

「ふ、ふ、ふ。ジャージちゃんが男の子だったら、私、一緒に駆け落ちしちゃいそうだよ。ジャージちゃんはまっすぐだね」

調子のよさというか、マイペースっぷりはちっとも変わらない。それでも――最初に比べると、紅白まんじゅうさんが何を考えているかは分かってきた、ような気がする。

「古鐘は煌びやかな都会なのに、ずいぶん星がきれいだね。私が前にいたところと同じくらい、キラキラ輝いてるよ」

「紅白まんじゅうさんが前にいたとこって、どこなんですか」

「ふ、ふ、ふ。ジャージちゃん、行ってみたくなった? 残念だけどね、今はもう行けないんだ。すっごく遠くだし、ね」

「別に、行きたいわけじゃないです。っていうか、そういう話はしてないです」

公園にたたずむ風変わりな女の人。何の気なしに見つめていたら声を掛けられて、知らない間にたくさんの言葉を交わしていた。暗闇を照らす電灯の下、白いブラウスに真紅のスカートの紅白まんじゅうさんと、上下ジャージにバッグを提げているあたし。そんな二人が、珍妙な会話を繰り広げている。

可笑しな光景。自分で笑いたくなった。

「とにかくあたしは、紅白まんじゅうさんが光ってようが火を噴いてようが何してようが、別に生きてていいと思います」

「さすがに、炎は吐けないよ。そんな機能は付いてないからね。ちょっと欲しかったけど」

欲しいんかい。

「……だって、あたしみたいな才能の無い人間が生きてるんだから」

「ジャージちゃん? どうしたの?」

「……なんでもないです。ただ、自分が才能無いってのが嫌なだけです」

「気になっちゃうなー。気になることがあるなら、思い切って訊いちゃおう!」

「別に、何も無いって……」

……呟くんじゃなかった。少し楽しい気分になりかけてたのに、また、ここに来るまでの鬱屈した気分に逆戻りしてしまう。紅白まんじゅうさんには、適当言ってごまかさなきゃ――

「ねね、ジャージちゃんって、花は好き?」

「全然関係ないし!!」

まったく脈絡のない質問が飛んできた。マイペースを通り越して……ダメだ、まともな表現が思いつかない。これもうホントにどうしようもないと思った。良くも悪くも、すべては紅白まんじゅうさん次第だ。

「ねえ、ジャージちゃん。花は好き? 好きなら、その中でも特に好きな花はある?」

「花……そんなに無茶苦茶好きって訳じゃないですけど、桜の花が好きです」

「桜の花、か。いいね。私も好きだよ」

日和田にいた頃は、春になると街路樹として植えられた桜がいっせいに花を開く光景が見られた。それを眺めながら学校へ行くのが、毎年の恒例だった。あのそわそわした感じは、嫌いじゃなかった。

「桜の花咲く季節は、出会いと別れの交わる季節。だから、桜の花は出会いと別れの花とも言える。そうだよね?」

「そうとも……言えると思います」

「風雅で素敵だね。今の私の気分そのもの。さくら・ひとひら・ひらひらと。情景が目に浮かぶよ」

あたしの答えに満足したのか、紅白まんじゅうさんがしきりに頷く。それから不意にすっ、とブラウスの胸ポケットに手を差し入れた。何かを取り出した様子が見えた。

「うん。私は、確かに桜の花も好きだけど……でも、一番は、これかな」

「手に持っているの、なんですか」

質問を受けて、紅白まんじゅうさんが瞳を輝かせる。

「『ホウセンカ』だよ。私、ホウセンカが好きだから」

手にしていたのは、紫と桃の中間色のような色合いをした、小さなホウセンカだった。白い手袋をはめた親指と人差し指の腹で茎を掴んで、愛しげに眺め回している。

「好き――というよりも、私にそっくりだからかな」

「あんまり似てる要素は無いと思います。ホウセンカは光ったりしません。っていうか、とりあえず色は全然違うし」

「ふ、ふ、ふ。ジャージちゃんも言うようになったね。立派立派。私ももっと、ホウセンカみたいな服が着られたら良かったんだけどね」

よく分からない言い回しは続く。どう見ても、その服装は趣味だろう。別におかしいって訳でもないけど、ホウセンカの真似がしたいなら手段はいくらでもあると思った。

「ホウセンカは私。私はホウセンカ。ホウセンカの花言葉、ジャージちゃんは知ってる?」

「あたし知ってます。『心を開く』って、友達が言ってました」

「――そう。そんな花言葉もあったね。こうやって、私がジャージちゃんに心を開いてるみたいに」

手袋をはめた手で電灯にホウセンカをかざしながら、紅白まんじゅうさんが呟いた。

「服装のことですけど、その手袋はなんですか」

「手袋? ファッションだよ。ほら、ジャージちゃんが手首に巻いてる、その赤い紐みたいな」

「これは違います。ファッションとかじゃなくて、えっと……なんとなく、です」

「ふ、ふ、ふ。でも、よく似合ってるよ。私と違ってね。これ、本当は好きじゃないんだ」

いやいやちょっと待て。好きじゃないものを身に着けるのは、ファッションじゃないと思うぞ。

「全然意味分かんないです。服と同じで、好きじゃないなら着なきゃいいじゃないですか」

「ジャージちゃんの制服みたいなものだよ。ジャージちゃんも、ずっとジャージを着てるわけじゃないよね?」

「……それは、そうですけど」

「制服。そう、『制服』だよ。制服は――『制度で決められた服装』であると同時に、『制限された服装』でもある。この服は、私の制服なんだよ」

「制服、ですか……」

「これを着けてないと、私、何も触れないんだ」

制服? なんだろう、どこかのお嬢様系の学校なら、紅白まんじゅうさんのような服が制服でもおかしくは無い気がする。でも、制服にしてはシンプルすぎるぞ。なんかこう、もうちょっと装飾とかあるんじゃないか。

「ジャージちゃんも、制服を着ることはあるよね? 学校とか、バイト先とかでね」

「学校は当然ですけど……バイトしてるって、どうして分かったんですか」

「な・ん・と・な・く。ジャージちゃんのファッションみたいに、ね」

「だから、これ、ファッションじゃないです。もらったものだから、寝かせとくのも悪いって思って、それで」

「ふ、ふ、ふ。モノは使ってあげてこそ、か。なるほどね、ジャージちゃんは真面目だね」

細かいところは置いといて、紅白まんじゅうさんの「制服」は「制度で決められた服装」と「制限された服装」のダブルミーニングという言い方は、あたしもちょっと共感する。制服が好きって人もいるけど、あたしは学校のもバイトしてるポケモンセンターのも、そんなに好きってわけじゃないし。

「ところで――ジャージちゃん」

「なんですか」

「ジャージちゃんって、何部なのかな? バスケ? それともバレー? 実は柔道とか?」

……少し言葉に詰まる。言うべきか、言わないべきか。悩む。

(……いいや、言っちゃえ)

飄々とした紅白まんじゅうさんになら、言ってもいいような気がした。黙ってる方が、申し訳ない気もした。

「……陸上部です。短距離を走ってます」

「わお、奇遇だね。私も走るのは大得意だよ」

その服装と恰好で言われても、なんとなく説得力がない。っていうか、ホントかどうかも分からない。けど……今までの流れから言って、紅白まんじゅうさんが嘘をついているとは思えない。言動は飄々としてるけど、決して嘘は言わない。それが紅白まんじゅうさんだって、あたしは思っている。

「私ね、生まれつき走るのが速いんだよ。誰にも負けないくらいね」

「……それって、才能ですか」

「うん。才能、とも言えるかもね。生まれつき、最初からあったものだからね」

紅白まんじゅうさんの言葉に、あたしはうなだれる。そうか、紅白まんじゅうさんにも走る才能があったんだ。なんだか、急にむなしくなってきた。この感情をどう処理したらいいのか、分からない。

「どれくらい速いかは知らないですけど……そうだとしたら、羨ましいです」

「羨ましい? 生まれつき速く走れることが?」

「そうです。そういうことです」

「ジャージちゃんは、自分に才能がないと思ってる?」

「……思ってます」

あたしの中で、箍が、外れた。

言葉が、押し寄せて来る。

「……あたし、小学生のときから走ってたんです」

「うん」

「走るのが好きで、ただ走ってるだけでも楽しくて」

「うん、うん」

「それで……もっと速く走りたくて」

「陸上部に入った。そうだよね? ジャージちゃん」

そうだ、その通りだ。それ以外に、何も言うことは無い。

「あたし、夢があったんです」

「聞かせてほしいな、ジャージちゃんの夢」

「自分の力で、誰よりも速く走れるようになって、それで……一番星を獲るんだって」

「いいね。すごくいい夢だよ。お星さまにお願いするんじゃなくて、自分で叶えるんだ、ってところが、ね」

「でも、高校の陸上部で……」

「才能のある子がいた?」

「部長は……あたしよりずっと、走るのが速くて」

「ジャージちゃんじゃ敵わなかった?」

「どれだけ努力しても、グラウンドの距離も、精神の距離も縮まらなくて」

「走っても走っても、どんどん遠くに行っちゃう。そうだよね? ジャージちゃん」

何をやっても無駄だった。やれることはみんなやったって自負がある。それでも、少しも距離を縮められない。埋めがたい距離を埋めようともがけばもがくほど、地の底に飲み込まれていくような感触がした。

これは才能のせいだ。生まれつきの能力で、あたしは部長より早く走れない。あたしには才能が無くて、部長にはあった。どれだけ走っても走っても、走り続けても……あるのはただ、終わりの無い無限の絶望だけ。

最初から決まっていることをひっくり返すことなんて、無理だ。過去は変えられない。あたしが高校で二年半走り続けて得た答えは、ただそれだけだった。

「部長さんは才能型で、ジャージちゃんは努力型だった」

「……そうです」

「血のにじむような努力を集めても、才能の一振りに消し飛ばされてしまう。ジャージちゃんは、ずっとそんな思いをしてきたんだ」

すべては紅白まんじゅうさんの言葉通りだった。努力では才能に勝てない。生まれ持ったものを、後付でひっくり返すことなんて、できはしない。そういうことだ。

「……なるほどね。ジャージちゃんが渋柿みたいな顔をしてた理由、私にも分かったよ」

「渋柿みたいな顔はしてないです。っていうか、どんな顔か分かんないし」

「分かんないか。じゃ、干し柿みたいな顔、ってのはどうかな?」

あたしはおばあちゃんか。

「余計にしないです。っていうか、あたしまだ高校生だし」

「ふ、ふ、ふ。そうだよね。ジャージちゃんには……まだ、たくさんの可能性があるからね」

「可能性って……そんな言葉、軽々しく使わないでください!!」

可能性とか希望とか夢とか、今一番聞きたくない言葉だ。吐き気がする。金槌で叩き壊して、焼却炉で焼いて灰にして、ヘドロの浮かぶ汚い海に投げ込んでやりたくなる。可能性なんて言葉は、才能の無い人間を無間地獄に縛り付けておくための、聞こえのいい鎖以外の何者でもない。

何かを成し遂げられるかどうかは、生まれた瞬間に決まっているんだ。最初から最後まで、何もかもすべて決まっている。決められたレールに沿って進んで、自分で成し遂げたように思い込まされるだけ。

分かったんだ。あたしは。

「可能性なんて……あるわけないし!!」

それが――人生ってものだって。

「そっか。それが、ジャージちゃんの答えなんだね」

「……そうです」

「可能性なんてない。そういう答えが出ちゃったんだ。それは、とてもよく分かるよ」

「あたしに……才能さえあったら。才能があれば……あたしは、もっと速く走れたのに」

みんな言い終えて、どっと疲れが出る。ここに来る三十分くらい前まで、あたしはグラウンドで走っていた。分かっていても、体が止められない。ありもしない可能性にすがって、まだあがき続けている。

そんなあたしに、紅白まんじゅうさんが呟いた。

「才能って、なんだろうね」

紅白まんじゅうさんの言葉に、あたしは無意識のうちにこう答えていた。

「……生まれつきの、能力だと思います」

そうじゃなかったら、なんなんだろう。才能は生まれつき備えている能力だから、才能。それ以外に、どんな解釈がある? どんな意味が考えられる? あたしには思いつかない。

「そう。初めから持ってるものだよね、才能って。それを、好きになれれば一番。幸せになれること間違いなし。でも……」

「……でも?」

「好きになれないことだって、あるんじゃないかな」

ぼーっと光る紅白まんじゅうさんが、電灯から手を離して、その場に立ち止まった。

「生まれつきの能力、それが才能。努力では絶対には入れない領域に足を踏み入れた、そんな能力」

「紅白まんじゅうさん……」

「普通は、才能に気付いたら、その才能を生かす道へ進む。そうだよね?」

「……それは、そうに決まってます」

あたしがそう答えると、紅白まんじゅうさんは二回ほど頷いた。

「でも、それって――才能に、束縛されてるんじゃないかな」

「えっ?」

「生まれつき、知らない間に持っていた能力が、自分の道を決めている。そういう形に見えないかな?」

「でも、才能を生かせる道なら、別に不幸せなことじゃ……」

「それが、迷惑な才能だったら、ジャージちゃんはどうする?」

迷惑な……才能? なんだろう、泥棒とかそういうのかな……

「それは……えっと……」

「ふ、ふ、ふ。意地悪な質問しちゃったね。ごめんね、ジャージちゃん。私、才能というか、生まれつきの能力のおかげで、ずっと束縛されてたから」

「束縛……? それって、どういう……」

「最初から最期まで、ずっと決められたレールの上を進んでいく。それが私の人生。なんだか、電車みたいだね」

張り詰めた空気が漂う。変わった。紅白まんじゅうさんの表情や言葉遣いはまったく変わらなかったけれど、紅白まんじゅうさんを取り巻く空気が、明らかに変わった。

「才能がなかったら、別の道だって選べたのにね。すごく迷惑で、怖い才能の持ち主。それが私」

怖い……才能? どういう意味? どういう意味で言っているの?

「なんだかね、空しかったから――ちょっとだけ反抗したんだ。脱線事故を起こしてやるー、ってね」

「脱線……したら、どうなったんですか」

「ジャージちゃんにぶつかって、止まっちゃった。ジャージちゃんのすごい怪力で、電車が止まっちゃったんだよ」

「あたし、怪力じゃないです。っていうか、電車なんか止めたりしてないです」

例え話と分かっていても、突っ込まずにはいられない。

「でもね、脱線した電車は、いつかレールの上に戻されちゃう。脱線しても、そこから外を走っていくなんてできない」

「紅白まんじゅうさんが、元のいやな毎日に戻るって事ですか」

「そうとも言えるけど、そうとは言えないかもね。少なくとも、『毎日』には戻らないよ」

謎掛けのような言葉。意味は分からない。だけど……紅白まんじゅうさんは、明らかに何かを隠している。いや、どちらかというと背負っている。情報が足りなくて、ピースはぜんぜん揃わないけど、何か得体の知れないものを抱えているのは間違いないと思った。

「紅白まんじゅうさん、普通じゃないです。一体、何者なんですか?」

「私? ホウセンカにそっくりの、普通のお嬢様だよ」

紅白まんじゅうさんが、手にしたホウセンカをかざす。

「それ、絶対嘘です」

「ふ、ふ、ふ。ジャージちゃんも鋭くなったね。でも、その答えは禁則事項。だって――」

 

「悪~い人たちが、こわ~い『爆弾』を作ってるなんて――言っちゃダメ、だからね」

 

背筋が凍った。何を言われたのか、理解するのにとても時間が掛かった。

「爆弾……? 爆弾って、どういうことなんですか!?」

「自分で目標を定めて、自分でゴールまで歩いて、自分でどかん」

「それって……それって!!」

「便利だよね。わざわざ置きに行かなくてもいいし、証拠は残らないし、使う人はすごく安全だし。何から何まで理想的。SFみたいだよね。でもね、もう試作品があったりするんだよ」

まさか――。

「それが、私」

――そんな。

「よく思いついたよ。人と『バクダンボール』をがっちゃんこしちゃうなんて。かっこよすぎるよ」

何を言ってるんだ。この人は、一体何を言ってるんだ。

「世の中、どんどん便利になってくね。乗り物も道具も食べ物も、ついでに――ふ、ふ、ふ」

「紅白まんじゅうさん……」

ついでに……何が便利になるんだ。教えてくれ。ついでに、何が便利になるのかを。

……いや、もう分かってる、分かってるんだ。あたしには分かってる。紅白まんじゅうさんが教えてくれたことを全部つなぎ合わせれば……答えは、見えてるんだ。

「初めはね、電池を作るつもりだったんだ。自分で歩いて、自分でエネルギーを貯められる、すっごい電池をね」

「でも、いらなくなっちゃったんだ。もっといい方法が見つかった、って言われて」

「それで、ちょちょいっと作りを変えて、中をいじって、爆弾に早変わり。どう? すごいよね、本当にね」

言葉が出ない。声すらあげられない。いろいろな感情が一気に押し寄せて、出口を塞いでしまっている。誰も彼もが一斉に出ようとして、誰も出られなくなっている。そんな状態だった。

「――ジャージちゃん」

紅白まんじゅうさんは、一瞬見せたあの儚げな笑みを浮かべて、あたしに告げた。

「私はホウセンカ。ホウセンカは私」

「ホウセンカの実は触れられるとパチンと弾けて、形をなくす」

「ホウセンカの、もう一つの花言葉。それは――」

 

「『私に触れないで』」

 

私に触れないで――。

「触れちゃったら……どかん。君の体に十万ボルト☆」

――私に、触れないで。

「紅白まんじゅうさん……」

「ふ、ふ、ふ。紅白まんじゅうさん――本当に、私にぴったりの名前だよ。赤と白で、おまんじゅうみたいな形。私、そのものだよ」

こんなことってあるのか。こんなことがあるのか。こんなこと、あっていいのか。

紅白まんじゅうさんは……爆弾、だっていうのか。

「ジャージちゃん、ごめんね。ショックだったかな?」

「……まだ、信じられないです」

「そうだよね。嘘みたいなお話。本当に嘘だったら、ジャージちゃんを思いっきり抱きしめて『冗談だよ☆』って言ってあげられるのに」

そうできないことが、紅白まんじゅうさんの言葉が真実であることの証明だった。

「……………………」

だめだ、言葉が出ない。紅白まんじゅうさんはあまりにも儚すぎて、あたしの言葉では……包み込めない。

包み込めば、ホウセンカのように、たちまち弾けてしまいそうだから。

「ふ、ふ、ふ。そろそろ、お別れの時間かな。呼び止めたりして、ごめんね」

「紅白まんじゅうさん……」

「ジャージちゃん、ありがとうね。私、すごく楽しかったよ。こんなにおしゃべりしたの、生まれて初めて」

「どうしても……行かなきゃいけないんですか」

「――そうだね。だって……どこへ行っても、私はもう、普通にはなれないから」

手袋を嵌めた手で、ホウセンカを掲げて見せた。

……そうか。紅白まんじゅうさんは、手袋を嵌めないとホウセンカを掴むことさえできない。

普通にはなれない。その意味を、あたしは目の前の光景で思い知る。

紅白まんじゅうさんとの、たった人一人分くらいの距離が――果てしなく、果てしなく、遠い。

「じゃ、これでおしまい。ジャージちゃん。今日のこと、私絶対忘れないからね」

「……紅白まんじゅうさん……」

「ふ、ふ、ふ。お付き合いしてくれたお礼に、はい。これ、ジャージちゃんへのプレゼント」

紅白まんじゅうさんは、持っていた小さなホウセンカを、あたしに手渡した。受け取ったホウセンカを胸に抱く。紅白まんじゅうさんを抱きしめられない代わりに、ホウセンカにあたしの思いをこめる。紅白まんじゅうさんも、あたしの気持ちを理解したみたいだった。

「知ってる? ジャージちゃん。ホウセンカは弾けるときに、種を一緒に飛ばすんだよ」

「その種は風に乗って、新しい場所を目指して飛んでいく」

「私にも、種があったらよかったのにね。私が弾けても、また、新しい花を咲かせられるから」

訥々とつぶやきながら、紅白まんじゅうさんは手袋を外した。

「可能性って言葉、ジャージちゃんは嫌いだったよね。でもね、お世辞じゃなくて、ジャージちゃんには、まだまだいっぱい可能性があるよ」

「才能が無いって自覚してるのに、才能のある部長に食らいついていけるくらいの力がある、頑張り屋さん。それだけで、私はジャージちゃんがすごくかっこよく見えるよ」

「ジャージちゃんは、これからも自分の意思で道を選んでいける。頑張り屋さんで一生懸命なジャージちゃんなら、きっと、生まれつきの能力に飲み込まれずに、自分の人生にも一生懸命になれる。私はそう信じてるよ」

「だからね、私もジャージちゃんを見習うよ。最後の最後で、決められたレールを脱線して、未来を変えてやるんだ。決めたよ、私。ジャージちゃんのおかげで、決心が付いた。約束するよ、絶対、絶対」

紅白まんじゅうさんの言葉の一つ一つがあまりにも重くて、説得力がありすぎる。

自分の人生に一生懸命になれる。当たり前のことが、紅白まんじゅうさんにはとてつもない高嶺にある花だった。自分の人生に一生懸命になる権利さえ、紅白まんじゅうさんには無かったんだ。

作られた、存在だから。

「ジャージちゃんなら、未来を変えられるよ。走って走って、走りつづけたら、きっと未来を変えられる」

「夢にだって追いつける、新しい可能性だって生まれる。夢の向こうまで、駆け抜けられるよ」

だからこそ、紅白まんじゅうさんの言葉には重みがあった。

あたしにはまだできることがある、その言葉を、私に伝えたかったんだ。

「カトリーヌちゃん、ごめんね。明日になったら、公園の人が直してくれるはずだから」

そう言って、紅白まんじゅうさんは――。

(ばちちち……ばんっ!!)

電灯――カトリーヌちゃん――に触れた瞬間、それは無機質な悲鳴を上げて、火花を散らせた。あたしが一歩身を引くと、暗闇の中でぼんやり光る紅白まんじゅうさんの姿が、うっすらと見えていた。

「バイバイ、睦美ちゃん」

「忘れないで、なんて、ぜいたくは言わないよ。どこかで思い出してくれたら、それで十分だからね」

「次に会えたら、目いっぱい睦美ちゃんを抱きしめられるといいな」

その直後、風のような速さで――紅白まんじゅうさんは、どこかへと走り去っていった。

(ああ、本当に速かったんだ。やっぱり、嘘じゃなかった)

最後の最後まで、紅白まんじゅうさんに、嘘はなかった。

「……紅白まんじゅうさん……」

バチバチと火花を散らす壊れた電灯の下で、あたしは受け取ったホウセンカの花を掴んだまま、ただ、うなだれるしかなかった。

紅白まんじゅうさんは、爆弾だった。全身にエネルギーを溜め込んだ、危険な爆弾だった。

今思うと、全部辻褄が合っていた。体が光っている理由も、手袋を嵌めていた理由も、走るのが速い理由も、触れただけで電灯がショートした理由も、そして……

ホウセンカの花を、自分に例えていたことも。

――そして。

濛々と煙を上げる窓を、あたしは呆然と見つめる。周囲には、無数の人だかりができていた。その一段の形成に、あたしも一翼を担う。

休日を迎えた古鐘市は、騒然としていた。集まった人々は、一点を指差しながら口々に声を上げる。けれどもその何一つとして、あたしの耳には届かない。耳に入ってはすり抜け、頭に残ることは無い。

「紅白まんじゅうさん……」

見上げた先には、大きな風穴の開いたラジオ塔があった。

土曜日の十四時ごろ、小金市のラジオ塔に不審な人物が入り込み、その十分後に一角で大きな爆発が起きた。爆発の衝撃はすさまじく、ラジオ塔の一角が吹き飛ぶほどだった。

……ただ。

「聞いた!? あんなすごい爆発やったのに、誰も怪我とかせんかったらしいで!」

「奇跡やなあ……これだけえらいことなったのに、けが人一人出んかったなんて、すごいわ」

「ホンマ、奇跡以外の何ものでもないわ……」

……そういうこと、らしい。

分かってる。これは、奇跡なんかじゃない。断じて、奇跡なんかじゃないんだ。

「脱線、したんだね……」

すべてを束縛されて、ただ一人ラジオ塔を上っていった紅白まんじゅうさん。多分、簡単な仕組みで爆発できるようになってたんだと思う。それを逆手にとって、紅白まんじゅうさんは――

――誰もいない倉庫の一角で、人知れず力を解き放った。

「約束を、守ってくれたんだね……」

本当の目的は、こんな無意味な破壊ではなかったはずだ。もっと多くの人を巻き込んで、もっとたくさんの被害を出す。それが、紅白まんじゅうさんをラジオ塔に送り込んだ人の目的だったはずだ。

紅白まんじゅうさんは、最期の瞬間に「脱線」して、レールから外れてやった。その結果が、今あたしの目の前で繰り広げられている光景だ。

(だからね、私もジャージちゃんを見習うよ。最後の最後で、決められたレールを脱線して、未来を変えてやるんだ。決めたよ、私。ジャージちゃんのおかげで、決心が付いた。約束するよ、絶対、絶対)

どんな思いで、紅白まんじゅうさんは最期のときを迎えたんだろう。あたしとの約束を果たして、一体どれくらい、満足できただろう。与えられた「才能」と、決められた「レール」に最後の最後で抗って、ほんの少しでも、浮かばれただろうか。

今となっては、何も分からない。すべては、粉々に砕け散ってしまったから。

「……!!」

目頭が熱い。胸が詰まる。息が苦しい。瞼が濡れる――荒ぶる感情の高すぎるうねりを止める方法なんて、一つも持ち合わせていなかった。

偶然出会って、一時間足らずの間言葉を交わしただけ。あたしとのそのわずかな時間を、かすかに生まれた「縁」を、ひとしずくも零さず全部胸に抱いて、紅白まんじゅうさんは弾け飛んだ。

ホウセンカの実が、種子を飛ばすかのように――。

(知ってる? ジャージちゃん。ホウセンカは弾けるときに、種を一緒に飛ばすんだよ)

(私にも、種があったらよかったのにね。私が弾けても、また、新しい花を咲かせられるから)

――種子を、飛ばすかのように。

「……っ!!」

「――紅白まんじゅうさんっ!!」

「あたしが……あたしが紅白まんじゅうさんの『種』になるからっ!!」

「あたしには可能性があるんだよねっ!!」

「だから、未来を変えられる!! まだやれることがある!! 夢を叶えることだってできるっ!! そうだよねっ!!」

「紅白まんじゅうさんの撒いた『種』っ、あたしが咲かせるから!!」

ホウセンカの花言葉――「私に触れないで」。

その由来は、触れると弾けてしまう実にあるという。

ホウセンカの実は弾け飛んで、種を残す。

――次の時代に、美しい花を咲かせるために。

「だから……だからっ……!」

……跪いた道路に、小さな水滴が零れ落ちるのが見えた。

 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。

※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。