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やる気のないダグトリオ

カントー地方クチバシティ。その近くにある、ディグダの穴にて。

「おう真ん中。最近やる気が出ないぞ。お前はどうよ?」

「うん。僕も出ないや。左は?」

「わいもさっぱりや。これやったらあかんと思ってるんやけど、出えへんもんは出えへんのや」

一匹のダグトリオが、さもやる気なさげにお互いに会話している。ちなみに、会話はダグトリオ語(系統的にはイタリア語に近いとの話がある)で行われている。

「どうしてやる気が出ないんだろうね」

「まったくだ。どうしてやる気が出ないんだ」

「わいにはさっぱり分からんわ」

彼らは本当にやる気が無い。その辺のディグダやダグトリオはせっせと穴を掘っているのに、彼らはそこでずーっとやる気なさげにしている。

「そうだ。きっと空が暗いからだ。見てみろ。上は真っ暗だぞ」

「おお、お前、ええとこに気がついたやんけ。せや。それが皆悪いんとちゃうか」

「うん。僕もきっとそう思うよ。そうじゃなきゃ、こんなにやる気が出ないなんてこと、ありえないからね」

彼らは一様に上を見上げる。ちなみに、ここはディグダの穴だ。上が暗いのは当たり前の話である。

「しっかし、なんか重要なこと忘れてる気がするで」

「うん。僕もそう思う。すっごく重要なことが抜けてる気がするんだ」

「お前らもか。実は、俺もなんだ」

この段階で気付かない方がどうかしているのだが、彼らは屋内にいることをすっかり忘れている。空が見えないのは、ごく自然なことである。

「ま、そんなことはどうでもいいよね」

「せやな。細かいことを気にしてたら、でっかいやつにはなれんからな」

「その通りだな。もうこれ以上この事を考えるのはよそうぜ」

彼らには彼らなりの結論の出し方と言うものがあるらしい。そのプロセスがあまりにもあまりなものなのは、この際指摘しても意味が無さそうなので突っ込むのは止めておこう。

「ところで、最近エンテイが流行ってるんだってな」

「うん。中の人がいたりとか、焼き鳥を焼いたりとか、ミサイルをぶっ放したりとかだって」

「忙しい人やなあ。やっぱり伝説のポケモンは一味も二味も違うで」

それはむしろ流行っていると言うよりも、ネタにされているといった方が正しいのではあるまいか。なあ、そこのところはどうなんだ君たちよ。

「せやったら、わいらも中の人に出てきてもらったり、焼き鳥焼いたり、ミサイルぶっぱとかしたら人気出るんとちゃうか」

「おお、お前いい事思いつくな。さすがは左だぜ」

「ホントだね。僕らに今足りないのは人気だよ。人気を獲得するためにも、中の人に出てきてもらったり、焼き鳥を焼いたり、ミサイルをぶっ放したりしてみようよ」

何か根本的なところを勘違いしたまま、「人気が出る」ということだけに気をとられて無責任な発言を繰り返す彼ら。他のディグダやダグトリオを少しは見習えばいいと思う。

「でも、よくよく考えたら、僕らに中の人はいないし、焼き鳥なんか焼けないし、ミサイルなんて両手を見ても持ってないよね」

「せやったな。やっぱり伝説のポケモンは格が違うわ」

「俺たちにはできないことを平然とやってのけるな。まさにそこにしびれるあこがれるだ」

一瞬で自分達の実力に気付く彼ら。ある意味では現実主義的だが、普通に考えるとただのアホだ。

「それだったら、俺たちでできる人気アップ作戦を何か考えようぜ」

「そうだね。こうしている間にも、他のポケモンがどんどん人気を出していくからね」

「はよ手を打たな、手遅れになってまうわ」

なぜか人気アップにこだわることに変わりは無いようだ。初代からずーっと出てたのに、スピードが速くて「じしん」「きりさく」を自力で覚えると言うこと以外特にとりえは無かった彼らが、ここに来て必死の追い上げを目論んでいる。

「そうだ。世間で今流行のものを取り入れればいいんだよ」

「なるほど。それは名案だ」

「それはええ考えやな。さすがは真ん中や」

口々に真ん中を褒め称える左右。だが、真ん中の意見はどう見ても普通の意見であり、取り立ててすごいわけでもないような気がしないでも無い。しかし、彼らにその事は伝わらないようだ。

「せやったら、何は無くとも『萌え』やな」

「うん。僕も今ちょうどそれを言おうと思ってたところなんだよ」

「奇遇だな。俺もだぜ」

左が「萌え」という単語を口にする。正直、ダグトリオからはほぼ対極の位置にありそうなぐらい、縁の無い単語だ。

「じゃあまず、最近流行の『ツンデレ』を取り入れようぜ」

「さすがは右や。わいもそれしかないと思てたところやで」

「やっぱり右はすごいよ。その属性さえ装備すれば、どんな人も一ころだね」

ツンデレのダグトリオ。優しくすると「あ、あんたなんかに優しくされても、う、うれしくないんだからね!」と返してくるダグトリオ。「にがす」を選択してもよろしいですか?

「それだったら、僕にも案があるよ。ここはやっぱり『病弱』を押さえたほうがいいと思うんだ」

「真ん中、お前分かってんなあ。さすがだぜ」

「もうこれ以上無いってぐらいの意見やな。病弱なツンデレ少女。萌え萌えやで」

そんなアンバランスで高難易度必至なキャラを、到底こいつらが演じきれるとは思えない。今すぐにでも止めた方が身のためだと思う。

「今気付いたけど、俺ら三人やんか。それやったら、全員別々の萌え要素を備えたらええんとちゃうか?」

「左、お前最高だよ。まったくその通りだ」

「左にはほんと脱帽だよ。僕もすごくそう思う」

そんなダグトリオ、嫌いです。こいつらの言うように病弱少女のセリフ風にこいつらのことを評価してみたが、どうか。読者の方の約十割が同じ気持ちだと信じたい。

「じゃあ、俺は妹をやろう。真ん中、お前はどうする?」

「そうだね。僕はやっぱりツンデレだね。左はどうしたい?」

「わいは病弱系やな。これで完璧な布陣や。もう負ける要素はどこにもないで」

負ける要素が無いどころか、負ける要素しかないといった方が正しいのではないだろうか。そこんとこどうなんだろう君たち。ちなみに妹属性のダグトリオとかツンデレ属性のダグトリオとか病弱なダグトリオが野生で飛び出してきたら、ためらわずに「ふぶき」をぶっ放す気満々である。

「そう言えば、僕一個言いたいことがあるんだ」

「なんや? どないしたんや?」

「どうした真ん中。何でも言ってみろ」

突然話題が切り替わるのもこいつらの特徴だ。ひょっとして、稀代のバカなのかも知れない。

「初代ポケモンについてたタウンマップ、あったじゃない」

「あるある」

「あるなあ、あれがどないしたんや?」

そんなのまだ持ってる人がいるのだろうか。ちなみに筆者はまだ持っている。捨てるに捨てられないタイプなのだ。そこは理解して欲しい。

「あれにさ、サントアンヌ号も書いてあるでしょ」

「ああ、書いてあったな」

「ものごっつでっかく書いてあったな」

今見てみると、確かにでかい。正直、クチバシティが小さく見えるぐらいの勢いだ。

「今思ったんだけど、あれ、出られないよね。サイクリングロードに阻まれて」

「……おお、そう言えばそうだぞ。出ようにも出られない」

「真ん中、お前めっちゃええとこに気がついたやんけ。さすがは真ん中やな」

もし手元にタウンマップをお持ちの方はぜひとも見てもらいたい。彼らの言うように、実際にサントアンヌ号が出ることができないような地形になっているはずだから。

「それだったら、俺にも一つ言いたいことがあるぞ」

「おう右。なんでも言うてみ」

「なんでも聞かせてよ」

今度は右に言いたいことができたようだ。今度はどんな風に重箱の隅をつついてくれるのだろうか。わくわくてかてかだ。

「こっから少し行ったところに、シオンタウンってあるじゃん。ほら、ポケモンタワーがあるとこ」

「あるある」

「あるなあ、あれがどないしたんや?」

相槌を打つ真ん中と左。ちなみに、会話が少し上の右と左の相槌のコピペなのは気にしてはいけない。これはこんな短くて中身の無い話などに無駄な労力は割けないという大人の事情だ。理解して欲しい。

「あそこにさー、回復ポイントあるじゃん。確か『聖なる結界が~』とか言ってる人がいるとこ」

「ああ、あれね」

「あれには世話になったなあ。あそこでレベル上げは基本中の基本やで」

こいつらがあそこでレベル上げでもしたのだろうか。ちなみに筆者はした。しまくった。ゴース・ゴーストが毒タイプを持っていて本当に良かったと思う。「じしん」の効かないゴーストタイプはゴーストタイプじゃないと思う。

「あれ、聖なる結界って言ってるけどさ、普通にゴースとかゴーストとか出るぞ」

「そう言えばそうだよね。全然守られてないよね。聖なる場所でもないよね」

「その通りやな。右、お前の言う通りや」

非常に細かいことに突っ込みを入れる三人。それぐらいは見逃してやっても言いと思うんだが。納期に収めるのがしんどかったらしいし。

「せやったら、わいにも一個あるで。世の中のヘンなことや」

「左もか。よし、言ってみろ」

「気になるね。聞かせてくれる?」

今度は左が重箱の隅をつついてくれるらしい。ポケモンスタッフがコレを読んで「いやなユーザーだ」と思わないことを願うばかりだ。それ以前に「萌えダグトリオ」とか言ってる時点でユーザー失格だと思った。

「ここから船で行ける、アサギシティってあるやん。ほら、ミカンちゃんがかわええとこ」

「うん。ミカンちゃんは萌えだね。でも僕はやっぱりアカネちゃんかな」

「ミカンちゃんは萌えだな。俺はやっぱりイブキの姉御が一番だけど」

ああ、純粋なポケモンファンが聞いたら「ぶっ殺してやるお」って言ってきそうなこと言ってるよこいつら。責任はちゃんと取ってくれるんだろうな。

「でやな、そのミカンちゃんがかわええアサギシティに、高速船あるやろ? たまにこの近くに泊まってるあれや」

「ああ、あれか。あるある」

「確か『アクア号』だったよね。ルビサファに出てくる悪い人たちとは一切関係ないとの噂の高速船だね」

真ん中、それは言ってはいけない事だぞ。

「あれ、こっちに来てからリニアとかでもう一回向こうに戻ったら、ちゃんと向こうに戻ってるねんで? 所要時間一分ぐらいで戻ってるねんで? おかしないか?」

「おかしいよね。物理的にありえないよね。ぶっちゃけありえないよね」

「まったくだ。まったくその通りだ。ありえないよな」

あれを利用すると、四天王を何回も撲殺するよりも効率よくお金が稼げるんだよなあ。エンディングを見なくていいから、早く回れるんだよね。回復とイベント終了が同時に行えるのもポイント高い。

「なんや、気付いてみたら、めちゃくちゃな世界やんけ」

「そうだね。そんな世界に誰が住みたいって思うんだろうね」

「お前らの言うとおりだ。そんな世界に住みたいなんていってるヤツの気が知れないぜ」

ひょっとしてこいつらはギャグで言ってるつもりなのだろうか。それとも、本当に短期記憶しかできない頭の持ち主だろうか。多分、後者だと思う。

「それに比べて、ここはのんびりしてていいね」

「まったくや。こんな風にのんきにしてても、誰も何にも言えへんしな」

「この平和がいつまでも続いてくれりゃいいのにな」

ほら。絶対後者だ。こいつら、天然にも程がある。天然というよりも、ただの間抜けじゃないのか。

「それにしても真ん中、最近やる気が出ないな」

「うん。僕も出ないや。左は?」

「わいもさっぱりや。これやったらあかんと思ってるんやけど、出えへんもんは出えへんのや」

最初に戻る。

おしまい。

 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。

※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。