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#48238 カイナ北小学校の火災事件

Basic Informations:

Subject ID:
#48238
Subject Name:
カイナ北小学校の火災事件
Registration Date:
1985-04-15
Precaution Level:
Level 4

Handling Instructions:

事案#48238に関するすべての資料は電子化され、本案件専用のサーバに保管されています。案件担当者及び案件担当者から下位のセキュリティクリアランスを割り当てられた局員は、格納された資料を事前申請無しに閲覧する権限を持ちます。資料の持ち出しに関しては、当局が定める標準的な情報管理規約に準じます。原則として、局外に資料を持ち出すことは許可されません。

回収された検体#48238はフエンタウン北部に位置する当局のバイオリサーチセンターへ収容しています。すべての検体#48238は同一の異常性を示しているため、実験を行う際は例外なく書式F-48238-2に沿って必要な事項を記入し、ワークフローを回付する必要があります。施設の保安上の観点から、検体#48238は常に-60℃未満の環境で保管されなければなりません。検体#48238及び収容室に何らかの異常が検知された場合、直ちに武装した警備員が駆け付けることになっています。

事案#48238が発生したカイナ北小学校は、事件調査の名目で現状のまま保持されています。調査を行う場合は書式F-48238-3に沿って必要な事項を記入し、4名以上の拠点監督者から承認を得る必要があります。さらに、調査に際しては最小でも3名以上の局員が参加しなければなりません。これは保安上の措置であると同時に、情報漏洩を防止するものでもあります。違反した場合、当局の定める規約に沿って懲罰を受ける可能性があります。

Subject Details:

案件#48238は、カイナシティ北部にあるカイナ北小学校で発生した大規模な火災事件(事案#48238)と、それに掛かる一連の案件です。

事案#48238が発生したのは、1985年4月4日のことです。この日の午後1時頃、消防に「カイナ北小学校で火災が起きている」という緊急通報が多数寄せられ、消防隊員が現場へ急行しました。消防隊員と地元住民の証言によると、消防隊が駆け付けた時点で既に火災は校舎の全域に広がっており、周囲への延焼も始まっているという重篤な状態でした。およそ4時間後に火が消し止められ、警察と消防による現場検証が行われましたが、その直後に異常性を確認、当局に事案が持ち込まれました。

通報を受けた局員は、一部が現場に駆け付けた保護者や関係者の説得に当たり、残りは消防隊員や警官から事情の説明を受けました。被害の大きさに伴い多くの保護者が現場へ押し寄せており、初期調査に影響を来す恐れがありました。当局は現状保全のため例外的にプロトコルUXに基づく広範な記憶処理を行い、保護者・関係者の全員を最寄りの拠点へ移送しました。加えて事案処理チームに連絡し、死亡した児童に対応する擬似遺骨を作成するよう依頼しました。これをもって事案の初期処理が完了したと判断し、現場から合計483体の検体#48238が運び出され、フエンタウン北部にある当局のバイオリサーチセンターへ移送されました。

検体#48238は、カイナ北小学校及び同校の体育館の焼け跡から発見された、計483体の児童の遺体です。特筆すべき点として、校舎が全焼するほどの大規模な火災に巻き込まれたにもかかわらず、すべての検体#48238について一切の火傷や負傷の形跡が見られません。そればかりか、毛髪や体毛までもが完全に生前の原形を止めています。着用していた衣服や所持していた物品は例外なく焼失していますが、身体そのものには何ら影響を及ぼしていないようです。

もう一つ特筆すべき点として、すべての検体#48238が極めて高い体温を示しています。個々に差はありますが、最低でも300℃を下回るものはなく、高いものでは実に450℃という検査結果が出ています。この体温にもかかわらず、検体#48238その物は先述した通り原形を保ち、発火/溶解することはありません。外見上一切の異常な点が見られないにも関わらず、体温だけが明らかに異常なレベルで高くなっているのが検体#48238の特徴になります。

すべての検体#48238の死亡理由は、火災に伴い発生した有毒ガスを吸入したことによる窒息死です。定期的なバイタルサインのチェックにより、検体#48238の生命活動は間違いなく停止していることが確かめられています。しかしながらそれにも関わらず、検体#48238極端に高い体温のためか、またはそれとは異なる未知の理由により、検体#48238は腐敗の兆候を見せていません。本稿執筆時点で収容から丸3ヶ月が経過していますが、すべての検体#48238が収容直後の状態から変化していないことが分かっています。

事案#48238に伴う火災は、検体#48238が何らかの理由により突如として高温になり、それに伴い周囲のものが発火したものと推定されます。検体#48238そのものが一斉に出火元となったため、体育館を含めた校舎が全焼する大火災になったというのが有力な仮説です。警察と消防による現場検証でも明確な出火元を突き止められず、得られた証跡は多数の箇所から一斉に発火したというもので、当局の提唱した仮説を裏付けるものとなっています。

検体#48238の性質により体細胞のサンプル取得は難航しましたが、いくらかの失敗を経て取得に成功し、詳細な解析が行われました。当局による解析の結果は、何らかの理由により体細胞が携帯獣の「ブーバー」のそれに近い構造になっているというものでした。これは検体#48238が非常に高い体温を示していることと、身体には体温の影響が及んでいないことの双方の事実に合致するものです。

後に生存者の一人である教員に対し、ヒアリングを行う機会が設けられました。教員によると、火災当日の給食について教員の間から「味がおかしい」という声が複数上がっていたとのことです。奇妙なことに、児童の中に給食について異常を訴える者はまったくおらず、ほぼ全員が給食を残すことなく食べたことが分かっています。給食を食べた教職員には検体#48238のような異常が見られないことから、児童にのみ異常を齎す何らかの要因が給食にあったと推定されています。当日給食センターで勤務していた従業員全員にヒアリングを行いましたが、これまでのところ不審な点は見つかっていません。

全校生徒が死亡するというあまりの被害の規模の大きさから、遺族の間で原因究明を求める声が強く上がり、当局としても対応に追われました。議論の末、校舎の老朽化と消防設備の不備、そして外部からの放火犯の侵入というカバーストーリーが用いられることが決定しました。しかしながら一部の遺族はこの調査結果に納得しておらず、さらなる調査を要求しています。火災発生直後に当局が調査に乗り出したことから、何らかの証拠隠滅や情報隠蔽が行われているものと考えているようです。現時点では、案件#48238及び事案#48238に関する情報を公開する予定はありません。

[1986-01-24 Update]

一部の局員から、検体#48238を遺族の元に返却すべきとの意見が挙がっています。検体#48238の性質上外部へ持ち出すことは困難ですし、望ましいことではありません。局員はプロフェッショナルとして、対象を不幸にして亡くなった児童の遺骸ではなく、異常性のある危険なオブジェクトとして厳密に扱わなければなりません。よって、この申し出は現在無条件で却下されています。繰り返し申し出るようなことがあれば、規律違反として処罰の対象になります。

しかしながら実際問題として、全裸にされた多数の幼い児童が、冷凍庫のような場所で服も着せられずに無造作に横たえられているという光景は、精神衛生上決して好ましいものではないことも十分承知しています。我々は冷徹なプロフェッショナルであると同時に、血の通った人間でもあることを忘れてはなりません。特に同年代の子供を持つ局員にとっては、本案件に関わることそのものが苦痛であったとしても何ら不思議なことではありません。

他の案件に携わる局員についても同様ですが、すべての局員はいつでもカウンセリングを受ける権利を持っています。精神的に疲弊していると感じたとき、現在の職務に嫌悪感や虚無感、無力感を感じるようなことがあれば、速やかにカウンセリングを受けるべきです。上司は局員の状態をよく観察し、彼らが誇りを持って職務に携われるよう配慮しなければなりません。そしてそれは、自身についてもまた同様です。

局員が精神に変調/不調を来したことで、重大な収容違反を発生させた、あるいはその寸前に達したような事例はいくつもあります。それに比較すれば、局員に長めの休暇を与えてリフレッシュを促したり、報奨や賞賛で彼ら/彼女らの労をねぎらうようなことは、とてつもなく安いコストであることが理解できるでしょう。

Supplementary Items:

本案件に付帯するアイテムはありません。

 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。

※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。