Basic Informations:
- Subject ID:
- #59370
- Subject Name:
- ポケモン禁止サイン
- Registration Date:
- 1988-10-25
- Precaution Level:
- Level 3
Handling Instructions:
オブジェクト#59370は、ムロタウン第三支局の中異常性取得物保管庫のブロック9-Lに据え付け済みの標準的な耐火性の金庫に保管し、金庫を解錠するためのアクセスコードは拠点監督者及び案件担当者のみが知っている状態を保ちます。実験目的でオブジェクト#59370を使用する場合、事前に様式F-59370-1に沿った申請書を提出し、ワークフローを回付しなければなりません。その他の目的のために使用することは許可されません。
オブジェクト#59370と共に収容され、当局にて保護していた参考人#59370は、オブジェクト#59370の影響下にあったことを除き何ら特異な点が無いことが明らかにされました。参考人#59370は現在局員の一人に養子として引き取られ、当該局員の監視下で生活しています。当局施設からの退出に辺り、プロトコルUXによる記憶処理及び擬似記憶の移植が行われています。参考人#59370に関連する情報には個人情報が含まれるため、拠点監督者及び案件担当者以外のアクセスはすべて拒否されます。
Subject Details:
案件#59370は、あらゆる携帯獣に対して認識異常をもたらすマークが描かれた立看板(オブジェクト#59370)と、オブジェクト#59370の影響下にあった外見上6歳頃の少女(参考人#59370)、及びそれらに掛かる一連の案件です。
1988年10月下旬、ムロタウン第三支局の通報窓口に「道路沿いの一軒家に少女が監禁されている」との匿名の通報が寄せられました。通報を受けた局員は、直ちに警察当局に通報しました。管理局への通報がなされたことから、何らかの異常事案と関連しているとの懸念が示されたため、標準的な敵対生物鎮圧用装備が与えられた局員数名が同行することになりました。およそ二時間後、通報で示された一軒家に部隊が突入しました。
突入後、警察当局は奥の部屋で毛布に包まった状態の少女を発見しました。少女は衰弱した状態であり、局員からの呼びかけにも満足に応答することができませんでした。現地担当者と司令部は短時間の協議を行い、少女の保護を優先することで双方合意しました。
少女を保護するため部屋へ踏み込んだところ、警察官の一人が不審なマークが描かれた立看板を発見しました。安全のため、当局の局員が対応に当たりました。この時現場には、携帯獣の「ザングース」と分類される局員が同行していました。当該局員は立看板に明らかな異常性があると判断し、その場で簡易的なミームハザードテストが実施されました。現場に持ち込んだ装備により、立看板は何らかの認識災害をもたらす可能性が示唆されましたが、少なくとも人間には何ら影響を及ぼさないことが確認されました。局員は立看板を成功裡に確保し、監禁されていた参考人#59370を保護しました。その後当局により、回収された立看板はオブジェクト#59370として、保護された少女は参考人#59370として再分類されました。
オブジェクト#59370は、表と裏の両面に対して、恐らく携帯獣の「ヒトカゲ」と推定される黒いシルエットの上から交通標識の「車両通行止め」に類似したマークが描かれたアルミ製の立看板です。材質そのものは一般的なアルミであり、不審な点は見られません。少なくとも純粋な人間には一切の異常な性質を発揮せず、直接的に接触した場合や視認した場合においても、何らかの影響を及ぼすことはありません。純粋な人間が取り扱う限りにおいては、自由に持ち運んだり片付けたりすることができます。オブジェクト#59370が効力を発揮するのは、携帯獣並びに携帯獣の因子を持った人間(携帯獣を祖先に持つ場合や、携帯獣の器官を移植された場合が該当します)に対してです。
上述する条件を満たす者がオブジェクト#59370に接近した場合、いかなる場合においてもオブジェクト#59370を超えて前に進むことができなくなります。これは視覚を遮断した場合も同様であり、目を閉じたりアイマスクを装着した状態であっても、オブジェクト#59370が存在するポイントから境界を超えることはできません。複数回行われた実験の結果からは、境界を超えられない理由は心理的なものであり、物理的な障壁が存在するわけではないことが明らかにされています。
描かれているマークに反して、オブジェクト#59370の特性はあらゆる携帯獣に対して発揮されます。これまでに125種137体の携帯獣で自発的にオブジェクト#59370の示す境界を超えさせるためのテストが行われましたが、そのほとんどが失敗に終わっています。視覚を持たない「ズバット」であっても影響を受けたことから、オブジェクト#59370は未知の方法で周囲に影響を及ぼしているものと考えます。
ただし一部に例外があり、飛行可能な携帯獣であれば、オブジェクト#59370が設置されている場所の高度から50m以上上昇すれば境界を超えて前へ進むことが可能です。同じく地面に潜行可能な携帯獣であれば、50m以上潜行することで境界を突破可能です。このテストケースにより、オブジェクト#59370は上下に対してはさほど広くない効果範囲しか持たないことが分かりました。
オブジェクト#59370の正確な効果範囲は分かっていませんが、少なくともオブジェクト#59370の横から100m以内にいる携帯獣は影響を受けることが分かっています。しかしながらこれについても例外があり、携帯獣とオブジェクト#59370の間に何らかの障壁が存在する場合はこの限りではありません。この条件下では、携帯獣はオブジェクト#59370が存在するポイントから境界を超えて移動可能です。これはオブジェクト#59370が収容地点である一軒家に対してのみ効果を発揮し、周囲に影響を及ぼさなかったこととも合致します。以上からオブジェクト#59370は、外見上「一本の道」として認識される範囲内で効果を発揮するものとの仮説が提唱されています。
オブジェクト#59370の出自は分かっていません。同種の立看板が製造された記録は存在せず、製造元を示す刻印などは見つかっていません。一般的な立看板が何らかの改造を受けたとの仮説も示されていますが、現時点ではこれを肯定する根拠も否定する根拠も存在しません。現段階では、同種のオブジェクトが収容されたとの報告もありません。
オブジェクト#59370に描かれているマークを複写して同タイプの立看板へ描写しても、オブジェクト#59370の持つ特性は発揮されません。これは人の手で模写した場合も、オブジェクト#59370の表面をスキャンして作成したデジタルコピーの場合も同様です。オブジェクト#59370の作成時点で何らかの特異な処理が施された可能性が示唆されています。
参考人#59370についてはその後のテストにより、携帯獣の「ラルトス」或いはそのいずれかの進化系(キルリア/サーナイト/エルレイド)に当たる携帯獣と人間のハーフであることが分かりました。オブジェクト#59370の影響を受けていたのは、この性質によるものと結論付けられました。何らかの記憶処理を受けていたのか、参考人#59370は自身の出自について話すことができませんでした。また、身元を示すような物証も発見されていません。
参考人#59370の証言と事件現場から押収した物品より、少なくとも一年以内に何者かによって拉致され、以後発見場所の一軒家にて監禁されていたと考えられています。参考人#59370は自分を拉致監禁した実行犯について「知らない男の人だった」と述べるに留まっています。具体的な特徴については不明なままです。参考人#59370の身元について広範な調査が行われましたが、家族や知人といった関係する人物を発見することはできませんでした。
当局に本件について通報した人物についても調査が進められています。電話記録を確認したところ、当該人物はキンセツシティ近郊の公衆電話から通報を行ったことが分かりました。通報者がどのようにして本件について関知したのか、またいかなる理由でムロタウンから大きく離れたキンセツシティ近郊から通報を行ったのかについては未だ不明なままです。
[1990-03-04 Update]
本案件の担当者から、参考人#59370を養子として引き取りたいとの申し出がなされました。既に必要な調査は終了し、これ以上収容を継続する必要性が無くなっていたため、裁定委員会はこの申し出を受諾しました。収容終了に伴う当局機密情報の漏洩を防ぐため、参考人#59370にはプロトコルUXによる記憶処理と擬似記憶の移植が施されました。出自については、キンセツシティの児童養護施設に収容されていた身元不明の少女というカバーストーリーが使用されました。
Supplementary Items:
本案件に付帯するアイテムはありません。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。
※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。