Basic Informations:
- Subject ID:
- #62403
- Subject Name:
- スリーパーに気を付けろ
- Registration Date:
- 1989-10-11
- Precaution Level:
- Level 4
Handling Instructions:
開設している医療機関及び行政機関の窓口に「スリーパーに襲われる夢を見た」という直接の申し出があった場合は、直ちに捕獲のための特別チームを出動させてください。対象は一時的に保護入院の措置を執り、捕獲が完了した段階で退院してください。夢を見た際に強い心的外傷を負っている虞があるため、解放の際は併せて専用に調整した精神安定剤を処方してください。
パソコン通信の各ホストで開かれているフォーラム、特に医療に関するフォーラムを継続的に監視し、スリーパーに関する悪夢を訴える利用者がいないかを確認してください。該当する利用者が見つかった場合、ホストに問い合わせを行い利用者へコンタクトを取ってください。コンタクトの際は身分を明かし、見た夢の内容は危険であること、身の安全を保証するために数日間指定の病院へ入院して欲しい旨を丁寧に伝えてください。
野生のスリーパーを捕獲するための試みが続けられています。スリーパーを目撃した局員は決して直接アクションを起こさず、案件#62403の担当者に電話または社内メールで連絡を取ってください。スリーパーの持つ能力の性質上、捕獲に際しては特別な技術を持つ専用チームが出動する必要があります。スリーパーの捕獲後は、手順M-62403に沿って適切な処置が施されます。
Subject Details:
案件#62403は、携帯獣の「スリーパー」に襲撃される夢を見るという事象と、それに伴って現実でスリーパーと出会うという事案の2件からなる案件です。
少なくとも1970年代後半頃から、夢の中に明瞭な形でスリーパーが現れ、夢を見た数日以内に実際に野生のスリーパーと接触するという事象が各地で報告されていました。案件管理局が把握している最古の例は、1969年にカントー地方クチバシティ在住の十四歳の少女が同様の夢を見た翌日にスリーパーと出会い、危うく誘拐されかけたところを別のポケモントレーナーによって救出されたというものです。以来地域を問わず、スリーパーが棲息しているすべての地域で同様の事象が発生しています。
この事象の特徴的な点は、現実にスリーパーと接触する前に必ず夢を見るというものです。夢の内容は大まかな部分で一致しており、スリーパーが被害者の夢の中に突然現れ、被害者の夢を「食べて」しまうというものです。夢を食べられた被験者は強い恐怖心に襲われ、その後実際にスリーパーと接触するとほとんどの場合パニックに陥ります。現在のところ管理局が把握しているケースで実際に野生のスリーパーに襲われた事例は無く、いずれも何らかの形で救助が行われていますが、被害者は往々にして強い心的外傷を負います。
昨今のパソコン通信の発達により、この事象が国内各地で発生していることが明らかになりました。医療機関への相談件数も増加の一途を辿っています。案件管理局では本件を重大案件として採り上げ、専門チームを組織して対策に乗り出しています。主な対策は夢を見た対象を保護することによる防御的措置、及び野生のスリーパーを捕獲することで本件の事象が起きることを防ぐ積極的措置の二つから成ります。
取扱資料にもある通り、決してスリーパーに直接アクションを起こしてはなりません。野生のスリーパーを見つけた場合、速やかに援護要請を行ってください。最寄りの拠点から専門チームを派遣します。これは事前に夢を見た場合も同様です。繰り返しになりますが、何があろうと個人でアクションを起こさないでください。
Supplementary Items:
本案件に付帯するアイテムは公開されていません。管理局の判断により、付帯資料に付いては秘匿する方針が定められています。本件に携わるレベル1以上のセキュリティクリアランスを持つ職員にのみ、限定的にアクセスが許可されます。
案件の本文を読み、些か違和感を覚えた局員も多いかと思われます。付帯資料では、本案件の実情について説明します。
現実として、野生のスリーパーが無害な人間を襲うケースは確認されていません。もちろん、携帯獣を連れたトレーナーが先に攻撃を仕掛けるなど、明確な敵意を持っていると判断できる場合は除外しますが、その場合もスリーパーの行動は専ら防御的で、攻撃の意志を見せないことがほとんどです。管理局が行った検証では、スリーパーが自発的に攻撃を仕掛けてくるケースは確認できませんでした。
スリーパーは方々で「夢を食う」という特徴が有るとされ、一部の資料では「人を襲って眠らせ、見ている夢を食べる」というような記載が見られます。これは事実ではありません。スリーパーの食性は草食寄りの雑食であり、主に野生の果実を採取して摂食しています。スリーパーが持つ催眠術を初めとする各種超能力は、ほとんどの場合防御的にしか使用されません。これは生物学的にも実証されています。
何より、野生のスリーパーは「夢を食う」と呼ばれる行動――実際には眠っている人間に干渉して生命力を吸い取るという技能を、どのような形であっても自力では習得することができません。スリーパーがこの技能を習得するためには、一般的に「技マシン」と呼称される携帯獣向け汎用的技能習得装置を使用するか、技能を持つ人間から教授してもらうことが不可欠です。
各種資料にある「人を襲う」「子供を狙う」という記述はいずれも不正確で、実情に即したものではありません。過去に子供を誘拐したという事例は一切確認されていません。類似した事例では、そのすべてが被害者の側からスリーパーに何らかの敵対行動を仕掛けたものであることが明らかになっています。しかしながらあまりに広範にこの記述が広まり、スリーパーに対する危機意識はもはや回復不可能なレベルにまで高まってしまっています。管理局ではこれまでに再三に渡り資料の記載を変更し、正しい情報を広めることを試みましたが、それらはいずれも失敗に終わっています。
本件がもたらす本当の問題は、そうしたスリーパーの実像から外れた誤った認識が広範に共有されることで、スリーパーの生息数がここ数十年で激減していることにあります。管理局の把握が遅れたことにより、野生のスリーパーはその数を大きく減らしてしまいました。仮に何の対策も打たなければ、最終的に十年以内にスリーパーは絶滅し、二十年以内には波及効果により進化前の形態である「スリープ」もまた同様に絶滅するものと推測されています。
非常に厄介なことに、野生のスリーパーには自らの意志に寄らず、睡眠中の人間に対して襲い掛かるという悪夢を見せてしまう習性があることが分かっています。本文で記載されている悪夢はこの習性によるものです。これは彼らが自然界を生き抜く中で、近くに居る敵性生物に恐怖心を与え自らを護るために身に付けた自衛行動の一種と考えられていますが、現代においてはスリーパーへの無用な敵対心を喚起し、結果として個体数を減らす結果に繋がっています。現在のところ、この悪夢を止める術は見つかっていません。
管理局では局員に「スリーパーは危険である。決して個人で対処しようとしてはならない」という、受け取り方によっては虚偽の情報を提供しています。これは本案件に携わらないすべての局員に謝罪しなければならないことであると理解しています。しかしながら、「スリーパーは危険な携帯獣である」「スリーパーは子供を狙う」といった知識は所謂「常識」のレベルにまで浸透してしまっており、「スリーパーは保護すべき携帯獣である」という情報は多くの局員を混乱させるものと考えられています。本案件に携わることになった局員にはすべての情報を公開することを約束し、また管理局として虚偽の情報を提示していたことを深く謝罪します。
スリーパーの保護に全力を挙げてください。彼らは不幸にして広まってしまった「常識」によってその命を奪われようとしています。管理局は正しい情報を把握し、その情報に基づいて行動を起こさなければならないのです。
[2009-09-24 Update]
先月中旬に発生した、クチバシティ在住の少女がスリーパーに襲撃された事件についての調査が終了しました。事前に推定された通り、事件を起こしたスリーパーは元々野生の個体ではなく、別のトレーナーによって育成されたものが不法に野に返されたことで凶暴化したものであるということが裏付けられました。対象のスリーパーは既に管理局にて保護し、専門チームによってカウンセリングを受ける予定となっています。
残念ながら、この事件がスリーパーへの危機意識をさらに醸成する物になることは避けられません。管理局ではこれまで以上に本案件へ対応する人員を増やし、スリーパーの絶滅を防ぐための活動を続けていく予定です。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。
※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。