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#90816 苦悶する魂の広間

Basic Informations:

Subject ID:
#90816
Subject Name:
苦悶する魂の広間
Registration Date:
1998-10-22
Precaution Level:
Level 3

Handling Instructions:

本案件で取扱対象となる特殊な「Hall of Tortured Souls」を起動するには、ハードウェアとソフトウェア双方の要件を満たし、かつ一般には知られていない操作手順を踏む必要があるため、情報漏洩の危険性は比較的低いものと言えます。担当者は代表的なパソコン通信ネットワーク及びインターネット上の掲示板を巡回し、「Excel 95」「イースターエッグ」「迷路」といったキーワードについて言及されていないかを監視してください。

当局からのMicrosoft社への働きかけにより、Microsoft社は「Excel 95」から「Excel 97」への移行を強力に推し進めていますが、未だ多くの「Excel 95」が稼働している状態です。「Excel 95」がインストールされたほとんどの端末は、本案件で取り扱う「Hall of Tortured Souls」を起動するための前提条件を満たしていないものと考えられますが、いずれにせよ可能な限り早く「Excel 95」を根絶することが望ましいことに変わりはありません。「Excel 97」については、特殊なものも含めてあらゆる「Hall of Tortured Souls」が起動しないことが分かっています。

案件担当者が「Hall of Tortured Souls」にアクセスする場合、書式F-84595-1に必要な事項を記入してワークフローを回付し、事前に上長からの承認を得てください。調査目的以外での「Hall of Tortured Souls」へのアクセスは禁止されています。不正なアクセスが確認された場合は、当局の定める規定に基づき懲罰を受ける可能性があります。

[1999-03-22 Update]

事案#92112の発生を受け、調査/実験目的を含む「Hall of Tortured Souls」へのあらゆるアクセスを一律で禁止することが決定されました。以後本案件については、「Hall of Tortured Souls」に関する情報が外部へ漏洩しないことの監視と、情報漏洩が発生した場合の対処に対応方針が絞られます。「Hall of Tortured Souls」そのものについての研究は無期限に凍結されます。

Subject Details:

案件#84595は、所定のハードウェア構成によるコンピュータにおいて、Microsoft社の表計算ソフトウェアである「Excel 95」で特定の操作を行った際に起動できる「迷路」プログラムと、それに掛かる一連の案件です。

Microsoft社の「Excel 95」には本来の機能とは別に、開発者が遊びとして仕込んだ小規模な「迷路」ゲームがイースターエッグとして存在していることが知られています。「迷路」はウィンドウ名として「Hall of Tortured Souls」というテキストが表示され、カーソルキーにより内部を移動することができます。ウィンドウ名のテキストから、この迷路ゲーム自体が「Hall of Tortured Souls」と呼ばれています。この「Hall of Tortured Souls」の存在そのものは比較的よく知られており、また後述する条件を満たした状態で起動しなければ特に異常な点は見られません。通常の手順で起動できる「Hall of Tortured Souls」は、本案件の取り扱い対象外です。

以下の条件をすべて満たすと、通常とは異なる特殊な「Hall of Tortured Souls」が起動します。本案件では以下の状況により起動された「Hall of Tortured Souls」について取り扱います:

前提条件:
グラフィックカードとして、3dfx社の「Voodoo 2」または「Voodoo Banshee」が取り付けられていること。
起動手順:
  1. Excel 95を起動し、カーソルを「A95」セルへ移動させる
  2. 「A95」セルに「MA42」と入力し、[TAB]キーを押下してカーソルを「B95」セルへ移動させる
  3. 「B95」セルに「FM21」と入力し、[TAB]キーを押下してカーソルを「C95」セルへ移動させる
  4. 「ヘルプ」の「バージョン情報」を選択し、「バージョン情報」画面を開く
  5. [Ctrl]+[Alt]+[Shift]キーを押しながら、[製品サポート情報]ボタンをクリックする
  6. 全画面モードで「Hall of Tortured Souls」が起動する

前提条件を満たしていない、つまり所定のグラフィックカードがセットされていない場合は、上記の手順を実行しても「Hall of Tortured Souls」は起動しません。これは「Voodoo 2」または「Voodoo Banshee」相当、あるいはそれ以上の性能を持つ別のグラフィックカードがセットされていた場合も同様です。あくまで「Voodoo 2」または「Voodoo Banshee」がセットされている必要があります。

この条件下で起動された「Hall of Tortured Souls」は通常とは異なり、3dfx社の3Dゲーム用APIである「Glide」を使用した高精細な画面で展開され、通常よりもはるかに視認性が高くなります。また、通常起動後にキーボードから「EXCELKFA」と入力しなければ開かない「隠し扉」が最初から開いた状態になります。加えて「隠し扉」の奥にある細い小径に手すりが付き、「向こう岸」へ容易に渡ることができるようになっています。

小径を渡って「向こう岸」へ辿り着くと、本来掛けられている開発者の絵に代わり、何らかの携帯獣の絵が掛けられているのを確認することができます。これまでの調査では、掛けられている絵は「Hall of Tortured Souls」をプレイしている人間によって変化し、同じ人間が「Hall of Tortured Souls」を起動した場合は同じ絵になります。ただし過去に一度だけ、それまでとは異なる絵が出現したパターンが存在します。

迷路の中の絵として登場する携帯獣は、それまでに携帯獣との死別を経験していないプレイヤーの場合は、これまでに死亡した世界中のあらゆる携帯獣の中からランダムに選ばれます。そうではなく、何らかの形で死別を経験しているプレイヤーの場合は死亡した携帯獣そのものが選ばれます。複数回に渡って行われた調査により、登場する携帯獣は例外なく生前の記憶を明確に保ち、その携帯獣のみが知り得ること似ついても把握していることが分かっています。

携帯獣の絵に近づくと、画面下に小さなコンソールウィンドウが表示されて、絵がプレイヤーに対して英語のメッセージを送信してきます。メッセージは起動する都度変化し、その内容のほとんどは苦痛や困窮を訴えてくる悲痛なものです(「この場所は寒い」「ひもじい」「体のあちこちが痛い」「助けてくれ」等)。コンソールウィンドウにメッセージをタイプすることでこちらも応答を返すことが可能で、相手からは明らかにメッセージを理解していると見られる反応があります。これまでのところ、メッセージを送ること以外のこちらから取れるアクションは見つかっていません。

特殊な条件下で起動された「Hall of Tortured Souls」がどのような性質を持つのかは議論が分かれていますが、数名の局員はこの「Hall of Tortured Souls」が概念としての「死後の世界」のようなものに繋げられており、そこに携帯獣が囚われているのではないかとの見方を示しています。携帯獣のみが登場するのは、携帯獣が持つ自己情報化能力と何らかの関係があるのではないかとのことです。登場する携帯獣の特徴から、この仮説は立証こそ困難であるものの、有力な仮説の一つとして考えられています。

[1999-03-14 Update]

1999年3月11日早朝、本案件の担当者がCRTディスプレイへ顔を埋没させる形で死亡しているのを、別の局員が発見しました(事案#92112)。局員は個人的に養育していたエネコを2ヶ月ほど前に病気で亡くしており、「Hall of Tortured Souls」には前例に沿ってそのエネコが登場していました。局員は数日前に無断で「Hall of Tortured Souls」へアクセスしていることを上司に指摘されており、厳重注意を受けたばかりでした。当局では、局員が「Hall of Tortured Souls」を通してエネコと対話する過程で精神に変調をきたし、自死するに至ったものと結論付けました。

これに伴って取り扱い手順が改訂され、「Hall of Tortured Souls」へのアクセスはいかなる理由においても禁止されることが決定しました。

Supplementary Items:

本案件に付帯するアイテムはありません。

 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。

※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。