Basic Informations:
- Subject ID:
- #93326
- Subject Name:
- そらをとぶピカチュウ
- Registration Date:
- 1999-07-30
- Precaution Level:
- Level 2
Handling Instructions:
原因不明のピカチュウの消失についてポケモンセンター及び金融機関から申し出があった場合、報告元のサービスエンジニアまたはシステム担当者にインシデントが発生したサーバの情報を調査させてください。攻撃を受けたサーバはセキュリティ監査を実施し、必要に応じてハードウェアをリプレースします。通常のシステムでピカチュウが預けられた場合、可能な限り高いセキュリティ対策が施されたサーバへ自動転送される設定を組み込むようポケモンセンターへ通達しています。現在全世界のおよそ96%のポケモンセンターで設定が有効化され、本案件の未然防止に高い効果を上げています。金融機関からの申し出は、2012-10-18時点の直近10年間で1件もありません。
案件に伴って出現したピカチュウは可能であれば捕獲し、通常のフィジカルチェックリストに沿って異常が無いかを精査してください。過去の捕獲事例より、多くの場合ピカチュウそのものにも何らかの異常性が認められます。捕獲及び精査の際は、対レベル2バイオハザード用スーツを着用することが義務付けられています。予期せぬネットワークへの接続が行われないようにするため、捕獲を実施する拠点では不要な無線ネットワークを稼働させないことを強く推奨します。これまでのところ有線接続によるネットワークへの参加は確認されていませんが、有線接続が可能な改変が施されたピカチュウの出現も可能性としては否定できません。
調査・保全の過程で捕獲されたピカチュウは、異常性が無く正常と認められれば本来のトレーナーの元へ送り返します。その際は、ピカチュウを識別するための生体情報を確保し、専用のデータベースサーバに暗号化して保管してください。研究チームは取得した生体情報のうちトレーナーの個人情報に該当する部分を除いた全情報にアクセス可能ですが、アクセスの際には必ず監査証跡が記録されます。
捕獲の際に取得した風船及び各種広告は、第三低異常性取得物保管庫のブロック8-Eにある引き出しへ他の取得物と区別して収容してください。
Subject Details:
案件#93326は、次の3件から成る一連の事象に掛かる案件です。
- 不定期に試みられる「ポケモン預かりシステム」及び「ポケモンバンクシステム」への不正アクセス
- 1に伴う携帯獣「ピカチュウ」の消失
- 2で消失したピカチュウの異常な形での再出現
本案件への対応比重は、3のピカチュウの再出現に大きくリソースが割り当てられています。
1998年下半期頃より、一般利用者向けの携帯獣管理システムである「ポケモン預かりシステム」及び、富裕層向けの携帯獣関連資産管理システムである「ポケモンバンクシステム」の双方に対して、断続的に不正なアクセスが試みられるようになりました。過去に「ポケモン預かりシステム」で計118体、「ポケモンバンクシステム」で計7体のピカチュウが消失しています。これに関しては管理局でも再現可能な通常のクラッキング手法が使われており、不正アクセスそのものは十分なセキュリティ対策を施すことでほぼ防ぐことが可能です。2000年代前半に各金融機関の相互協力により「ポケモンバンクシステム」が刷新され、それに伴うセキュリティの大幅な強化により外部からのアクセスが事実上不可能になったことで、攻撃者の標的は「ポケモン預かりシステム」に絞られていると見られています。
消失したピカチュウは、これまでの観測で3日から7ヶ月のランダムな期間が経過した後に再出現します。今までに現れたピカチュウの特徴は様々ですが、大まかな部分である程度類似した特徴を持ちます。
ほとんどの場合、ピカチュウは人目に付きやすい都市部、それも人口の集中しやすい大都市部に出現します。その際は様々な色の大量の風船が体に括り付けられ、あたかもアドバルーンや飛行船のように空を飛行している状態で現れます。出現後は、その都度著しく内容が変わるアジテーションまたはプロパガンダ的広告を様々な方法で宣伝しようとします。
以下は過去に出現したピカチュウの一部抜粋です:
- 1998-09-01 カントー地方セキチクシティに出現:
- 風船を括り付けられたピカチュウが市の北部にあるサファリゾーンの入り口付近に出現し、空中から後述するメッセージが記載されたビラを大量にバラ撒いていました。ピカチュウはビラを配り終えると未知の方法で風船を括り付けたまま着地し、その後激しい閃光を10秒間放ちました。捕獲されたピカチュウは極度の緊張状態にあり、保護から4時間後に死亡が確認されました。本来のトレーナーには亡くなった状態で見つかったと報告しています。
配布されたビラに書かれていたメッセージは下記の通りです。
「休暇という服役は今終わった
学校という娑婆へ出ていこう」
その場に残されたビラ及び風船からは、特段の異常性は検知されませんでした。 - 1998-10-24 ジョウト地方コガネシティに出現:
- コガネデパートの屋上にて、風船を括り付けられたピカチュウの姿が観測されました。ピカチュウは後述する垂れ幕を提げ、アドバルーンのように周囲を遊覧していました。出現から3時間後に突如としてすべての風船が破裂し、ピカチュウは無防備なまま地面に叩き付けられました。本来であれば即死は免れない高度からの落下でしたが、ピカチュウは地面に躓いて転んだ時のようなごく軽いかすり傷を負ったのみで、命に別状はありませんでした。管理局が確保した後の各種検査でも異常が見つからなかったため、ポケモンセンターに照会の上本来のトレーナーの元へ送還しました。以降、当該ピカチュウとトレーナーについて何ら異常は報告されておらず、現在もジョウト地方ヒワダタウンにて健在です。
ピカチュウが提げていた垂れ幕に書かれていた内容は以下の通りです。
「売り場に並ぶ肉を選ぶように
あなたのパートナーを選ぼう」
ピカチュウを保護した際、この垂れ幕は消失しており回収できませんでした。 - 1999-03-16 カントー地方シオンタウンに出現:
- 当時建設中だったラジオ塔近辺に突然出現し、周囲を旋回するように飛行しているところを発見されました。上空から写真が入ったビラを大量に配布し、ラジオ塔の建設に従事していた作業員が一時避難する騒ぎになりました。ビラを配り終えた後、ピカチュウは少しずつ風船を破裂させながら徐々に降下、最終的にラジオ塔入口付近に着地しました。その時点で既に現場監督からの通報を受けて管理局の局員が3名駆けつけており、着地したピカチュウの回収に当たりましたが、ピカチュウは既に死亡していました。
配布していたビラには、死亡したポケモンの遺影をバックに以下の文言が印字されていました。
「大切な思い出はプライスレス
球コロ程の価値もありません」
トレーナーIDは読み取りに失敗したため、本来のトレーナーは不明です。ピカチュウの検死を行ったところ、死因は器官に水を詰まらせたことによる溺死とほぼ特定されましたが、同時に脱水症状を起こしていたことも判明しました。加えて、切開した胃から通常の3倍近いエネルギーを持つ雷の石が摘出されています。この雷の石は研究のため、別の拠点にて保管されています。 - 2002-05-05 シンオウ地方ミオシティに出現:
- 市の北部に位置する図書館の上空で出現が確認されました。拡声器を用いて市の全域に大音量で後述するメッセージを流すという形でアピールが行われています。出現から2時間30分後に風船が未知の原理で高度を上げ、そのまま北東へ飛び去っていこうとしたところを管理局の局員が捕獲しました。捕獲されたピカチュウは外見こそ正常で目立った傷はありませんでしたが、脳を含むすべての内蔵が取り出され、代わりに綿が詰め込まれていました。体組織からIDが割り出され本来のトレーナーが特定されましたが、トレーナーは現在に至るまで行方不明のままです。
ピカチュウが放送していたメッセージの抜粋は下記の通りです。
「(前略)……伝承という名のプロパガンダを打倒し……伝統という名のバ(雑音・不明瞭)を撃滅し……神話という名のデマゴーグを粉砕しよう……私たちは新しい時代に生きている……(中略)」
ほぼ同一のメッセージが、本件以前の出現でも確認されています。
これら一連の出来事には、人間と携帯獣の相互不可侵と分離独立を強く主張する先鋭的なNGO団体「ピース・フォー・ピース(Piece for Peace)」が関与している可能性があります。同団体は2000年上半期に携帯獣の惨殺死体を使用した過激なアート的アピールを繰り返したことにより、各方面から多くの批難を集めました。案件管理局においても起票された案件の一部で同団体が異常特性を持つオブジェクトや生命体を生産した疑いが払拭できず、要注意団体として管理対象になっています。
Supplementary Items:
本案件に付帯するアイテムはありません。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。
※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。