Basic Informations:
- Subject ID:
- #112771
- Subject Name:
- 人間化する団地
- Registration Date:
- 2005-09-26
- Precaution Level:
- Level 3
Handling Instructions:
エリア#112771と指定された区域内には一切の市民及び携帯獣を立ち入らせず、市民に対しては建造物が老朽化して危険である旨を伝えて退去させてください。制止を無視して立ち入ろうとした者は拘束し、侵入しようとした理由について尋問してください。何らかの認識障害が見られたり、情報災害を受けた形跡があった場合、速やかに最寄りの拠点へ移送の上プロトコルUXに基づくレベル3記憶整理処理を受けさせてください。
敷地内に居住している者は例外なくナンバリングし、住民#112771として管理します。これまでのところ総計281名の住民#112771が確認されていますが、これは予告無しに増加する可能性があります。住民#112771を装った局員は4ヶ月に一度「町内会」を開催し、新たな居住者が出現していないかを確かめてください。前回調査時に存在しなかった居住者が確認された場合は、例外なく住民#112771としてカウントしてください。
Subject Details:
案件#112771は、異常な性質を持つ廃棄された住宅団地(エリア#112771)とそこに居住する住民(住民#112771)、及びそれらに掛かる一連の案件です。
カントー地方ハナダシティに存在するエリア#112771は、かつて40年ほど前に「ハナダ北ニュータウン」としてカントー住宅公団(現:都市再生機構)により開発された住宅団地ですが、建物の老朽化と居住者の高齢化が進み、6年ほど前に全住民が退去または転居しました。これに伴い建物の取り壊しと土地の再開発が決定されましたが、都市再生機構による調査で現在も居住者がいることが発覚、その後の追加調査により明らかな異常性が認められたことから、当局に対応を依頼してきました。当局は都市再生機構の担当者と協議の上、ハナダ北ニュータウン全域を当局が管理することで合意しました。これに追随する形で案件#112771が立ち上げられ、ハナダ北ニュータウンはエリア#112771として再定義されました。
旧ハナダ北ニュータウン・現エリア#112771の特性は、敷地内に野生の携帯獣が進入することで発現します。個体によりある程度差は見られますが、概ね6時間程度エリア#112771に留まり続けることで、携帯獣は自分自身がエリア#112771の住民であるという認識を抱くようになります。この時点で携帯獣は住民#112771へと変化し、空いている部屋を自発的に探して「入居」します。以後、携帯獣は死亡するまでエリア#112771の住民として振る舞い続けます。この現象は人間及びトレーナーが使役する携帯獣にはまったく発現せず、該当する人間/携帯獣は本来の意識と性質を保ったままエリア#112771内で概ね安全に活動することが可能です。
住民#112771は、エリア#112771に居住している携帯獣の総称です。現時点で住民#112771-1から住民#112771-218までの218名が居住しており、住宅管理者に扮した局員が作成した「住民名簿」によって識別/管理されています。住民#112771は外見上特段の異常性が無い携帯獣に見受けられますが、その生態は本来の種族と明らかに合致せず、端的に言えば様々な人間の生活様式に酷似しています。
以下は、住民#112771を列挙したリストであるリストL-112771-3から抜粋した居住者と各々の特徴です:
- 住民#112771-3:
- やや体格の大きな♂のサンド。同じ部屋に居住している♀のクラブ(住民#112771-4と識別)と夫婦の関係にある。平日は毎朝6:50頃になると一般的な会社員向けのカバンを持ち、家を出て「出勤」する様子が観察できる。出勤後に追跡を行うと、エリア#112771の敷地内と敷地外の境界地点で消失する。その後概ね19:20頃か、もしくは23:30頃のどちらかのタイミングで再出現し、居住している部屋へ戻る。23:30頃に再出現した場合は必ず泥酔しており、19:20頃に出現した場合と比べて帰宅するまでに時間を要する傾向にある。休日になると、概ね60%ほどの確率で一般的なタイプのゴルフバッグを持ち、駐車場に停められている車に乗ってどこかへ外出する。この場合も、敷地外へ出た時点で車ごと消失する。残りは35%ほどの確率で外出せず、5%ほどの確率で住民#112771-4及び♂のケムッソ(住民#112771-5と識別)を伴って外出する。外出先は不明であるが、住民#112771-5が住民#112771-3と住民#112771-5の実子として届け出られていることから、小規模な家族旅行と推察される。
- 住民#112771-17:
- 一般的な体格だが、色素の薄い♀のオーベム。同居者として♀のポポッコ(住民#112771-18と識別)がいる。平日は8:10頃になると手提げ鞄を持って外出し、他の外出する住民#112771と同様に敷地外へ出た直後に消失する。再出現するのは概ね18:50頃で、ほとんどの場合エリア#112771から徒歩5分ほどの位置に存在する食品スーパーのものと一致するビニール袋を追加の所持品として携えて戻ってくる。ビニール袋の中身は、遠くからの観察では食料品及び日用品で占められている。休日になると敷地内にいる他の住民#112771(いずれも♀の個体)と寄り集まり、複数の携帯獣の言語と日本語が入り混じった特異な言語で世間話をすることが多い。
- 住民#112771-18:
- 住民#112771-17の実子の役割を果たしている♀のポポッコ。平日は7:30頃に徒歩10分程度の距離にある中学校のものとデザイン的に一致する(サイズや形状はポポッコのそれに合わせられている)制服を着用し、中学校のある方面へ向かって歩いていくことが確認されている。16:30頃に再出現し、制服と同様中学校のものとデザイン的に一致するジャージを着用し、同様のジャージを着用したラルトス(住民#112771-112と識別)やジグザグマ(住民#112771-68と識別)と共に帰宅してくる。所持品から、いずれもテニス部に所属しているものと思われる。休日になると住民#112771-17と共に買い物へ出たり、住民#112771-112と共にエリア#112771内でニンテンドーDSで遊んでいる姿が目撃される。
- 住民#112771-27:
- 小柄な♂のトゲピー。母親の役目を担っているのは♀のサニーゴ(住民#112771-26と識別)。朝8:00頃になると住民#112771-26を伴って北門付近へ移動し、敷地内で前触れ無く出現する幼稚園バスと思しき車両に乗り込む姿が度々見かけられる。バスには住民#112771-78と特定されたパチリスが乗り込んでおり、運転手としての役割を果たしている。住民#112771-78の背丈でどのようにしてバスを運転しているのかは不明。父親は長らく確認されていなかったが、観測開始から185日後、予兆無く出現したケーシィ(住民#112771-78と識別)が父親の役割を果たしているものと判明。
- 住民#112771-39:
- 相当に年老いた♀のラクライ。同居人は確認されていない。3日に一度ほど、椅子として腰掛けることが可能なキャリーバッグを押して買い物へ出る姿が確認されている。一週間に一度火曜日になると、未知の場所からゴローン(住民#112771-209と識別)の運転するワンボックスカーが現れ、この住民を載せてどこかへ向かうことが分かっている。車体に記されたテキストから、自動車で15分ほどの場所にある老人ホームが運用している車両と特徴が一致することが判明。同日中に帰宅していることから、デイケアサービスを受けているものと推測されている。これまでのところ、家族と推定される住民#112771が確認された事例は存在しない。
- 住民#112771-44:
- まだ幼いナゾノクサ。数か月前まで、兄弟と思しきズバット(住民#112771-45と識別)及びソーナノ(住民#112771-46)と識別と共に敷地内にある駐車場で遊んでいる光景が目撃されていたが、最近は住民#112771-45及び-46の姿が見られなかった。局員が住民#112771-44の居室を訪問すると、死亡から2週間程度が経過したと思われる住民#112771-45及び-46の腐乱死体が発見された。司法解剖から、死因は栄養失調による餓死と断定。住民#112771-44の行方は分かっていない。この居室には両親或いは後見人に相当する住民は確認されていない。
エリア#112771に居住する住民#112771に共通する特徴として、野生の携帯獣及び一般的な人間を「人間」と見なし、親の居る携帯獣を「ペット」のような存在として認識するというものがあります。そのため住民#112771は理論上携帯獣を使役できる携帯獣である可能性が示唆されていますが、エリア#112771は全域が「ペット飼育禁止」に指定されているため(ハナダ北ニュータウンがエリア#112771に変貌する以前から存在した規定です)に、これまでのところ条件を満たす住民#112771は発見されていません。
エリア#112771が実際に携帯獣に対してどのような効果をもたらしているのかは不明な点が多々あります。また、外出する携帯獣が消失している間どこに存在しているのか、消失中にどのような活動をしているのかについても分かっていません。
Supplementary Items:
本案件に付帯するアイテムはありません。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。
※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。