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#115444 POKKEN ver.D

Basic Informations:

Subject ID:
#115444
Subject Name:
POKKEN ver.D
Registration Date:
2006-08-02
Precaution Level:
Level 3

Handling Instructions:

これまでの管理局の積極的な工作活動により、インターネットを経由して対象のROMイメージファイルをダウンロードすることは極めて困難、あるいは一般的に見て不可能な状態を作ることに達成しています。現在の本案件は、既にダウンロードされたイメージファイルを可能な限り回収すること、新たなクローンが作成されていないかを監視することの二点が主な活動になっています。

回収されたファイルは管理局が保持するオリジナルのROMセットと比較し、バージョンに相違が無いかを確認します。相違が見られない場合、対象のイメージは管理局の標準情報破棄手順に則って削除してください。何らかの相違が見られた場合は、対象を新規のROMセットとして登録してください。

管理局の倫理委員会の裁定に基づき、本案件で回収されたROMイメージはいかなる理由があろうと起動を許可されません。詳細は付帯資料を参照してください。

Subject Details:

案件#115444は、株式会社ナムコ(現・バンダイナムコゲームス)が開発した対戦格闘アクションゲーム「鉄拳2」の異常なROMイメージと、それに付随する一連の案件です。厳密には、正常な「鉄拳2」に大部分のモジュールを依存しつつ、異なるバージョンとして動作させるための「クローン」のROMセットが、本案件にて扱うべき主要なオブジェクトとなります。本来の「鉄拳2」のROMセットは、本案件の取り扱い対象外です。

出現した正確な時期は不明ですが、著名なアーケードゲームエミュレータである「MAME」が2006年中旬に行ったバージョンアップで、当案件のROMセットが「鉄拳2」のクローンとして新規に追加されていることが確認されました。そのため、当案件で扱うROMセットは概ねこの時期に出現したものと推定されています。ほぼ同時期に、多数存在するROMイメージの配布サイトに対して一斉に「pokken2ud.zip」の名称でファイルがアップロードされた記録が残っていることも、この仮説を補強している一因です。

このROMセットは「鉄拳2」の一般的なクローンの一つとして、「MAME」及び「MAME」から派生したアーケードゲームエミュレータで読み込むことが可能です。読み込んだ場合、画面には通常表示されるタイトルスクリーンではなく、黒い背景にごく簡素なフォントで「POKKEN ver.D」と書かれたタイトルが表示されます。エミュレータでコイン投入に相当する動作を行った後にスタートボタンを押下することで、通常通りゲームが開始されます。

起動後に一見して気付くのは、本来の「鉄拳2」に登場するキャラクターが選択画面に一人も存在せず、代わりにポリゴンで描かれた携帯獣のアイコンによってスロットがすべて埋められていることです。ここで操作するキャラクターを選択すると、シングルプレイヤーモードがスタートします。

ゲームの操作体系は正常な「鉄拳2」に準じ、レバー(あるいはレバーに割り当てたキー)でキャラクターを移動させ、ボタンの押下で攻撃や特殊動作を行います。プレイヤーはコンピュータが操作するキャラクターと戦い、最後に登場するボスキャラクターを倒せばゲームクリアとなります。プレイ開始から終了まで、プレイヤー自体には特段の異常は見受けられません。長期に渡る調査により、プレイそのものがプレイヤーに何らかの影響を及ぼすことは無いと結論付けられています。

ただしこのゲームの構成は、通常想定されるものと著しく乖離しています:

1.使用可能なキャラクターの変動
ゲームをリセットするか、ゲームクリアまたはゲームオーバーによってタイトルスクリーンへ戻るかのいずれかの条件を満たす毎に、使用可能なキャラクターが変化します。プレイヤーが選択可能なキャラクターは常に10体ですが、これまでに延べ287種類のキャラクターが選択画面に登場しています。特定のキャラクターを常に選択可能にするための方法も、選択可能なキャラクターが抽出される一定の法則も見つかっていません。また、正確なキャラクターの総数も判明していません。
2.キャラクター性能・性質の著しい変化
過去のプレイで選択できたキャラクターが出現した場合、そのキャラクターを次のゲームプレイで再選択しても、ほとんどの場合その性能や性質は大幅に異なっています。変更箇所は外見的特徴やキャラクターボイスといった比較的変更が行われやすい箇所に留まらず、使用可能なムーブセットや攻撃力・移動速度等のパラメータといった通常のゲームであれば変更されることは少ない箇所にまで及んでいます。特にムーブセットの変更は著しく、以前のプレイで使用できたキャラクター固有の技がまったく使用できず、完全に別の技に変更されているというパターンが度々見られます。
3.登場するキャラクターの全差し替え
このROMセットは明らかに「鉄拳2」を親としているにも関わらず、登場するキャラクターは一貫して携帯獣のみです。これまでのところ、人間のキャラクターは一切登場していません。当初は本来の「鉄拳2」のキャラクターモデルを携帯獣のものに差し替えたものと思われていましたが、その後の調査でモデリングやモーションも完全にオリジナルの物が使用されていると判明しました。
母体である「鉄拳2」で使用されていたテクスチャやモーションといった各種アートアセットはゲームプレイに際してまったく使われず、すべて独自のリソースに置き換えられています。これらのリソースをROMイメージから直接抽出する試みは、今のところ成功していません。
4.ゲームの完成度
ゲームの動作は極めて不安定です。プレイ中は頻繁な処理落ちやテクスチャの貼り遅れ、サウンドのクリッピングが発生し、負荷が高まるとしばしばハングアップを引き起こします。プレイヤーからの一切の操作を受け付けなくなりゲームが続行不能になることも少なくありませんが、その場合、プレイヤーキャラクターは相手から逃走するような動きを見せるか、もしくは極度に暴力的な動きで相手を倒そうとします。この暴走状態はゲームオーバーまたはゲームクリアまで続きます。
元となった「鉄拳2」と比べてレンダリングのレベルは数段劣っており、キャラクターは違和感を覚えるレベルのローポリゴンで描写されます。コンピュータのアルゴリズムは作りがおざなりであることが明らかに分かる程度の物で、あくまで動作するというレベルに留まっています。戦略的な動きや複雑な連続攻撃を繰り出すことは困難か、またはそのためのルーチンが組み込まれていません。
5.その他ゲームプレイ時の特徴
  • このゲームは「対人戦」の機能を持ちません。クレジットを複数投入しても、対戦プレイには移行できません。
  • 上記に加え、オペレーターコマンドによる強制的な隠しキャラクターの解放も不可能になっています。
  • ゲームをクリアするかゲームオーバーになるまで、プレイヤーの体力は一度も回復の機会を与えられません。
  • プレイヤーが敗北した場合、コンティニューはできません。事前にクレジットを投入していた場合も同様です。
  • 対戦相手の携帯獣は多くの場合最初から体力が減少しています。また、しばしば脈絡の無い動きをします。
  • 一部のプレイヤーは、相手の動きを「逃げようとしている」「苦しみもがいている」と表現します。
  • 最終ボスとして登場するのは、最後にクリアを達成した際に使用していた携帯獣です。この法則は一貫しています。
  • 最終ボスとして登場する携帯獣の体力は、前回クリア時のプレイヤー側の残体力と同一値です。
  • ゲームをクリアした場合、携帯獣を正面から捉えた映像が映し出されます。この演出の意図は不明です。
  • 一部のプレイヤーは、上記エンディングの演出に強い不安感を訴えます。不安感の原因は分かっていません。
  • スタッフロール及びネームエントリーはありません。ゲームクリア後は直接アトラクトデモへ移行します。

このROMイメージはエミュレータで動作させることを前提として開発されていると推測されます。正規の手順に基づいた実機での稼働検証は、システム起動中に本案件に対応する4つのROMがすべてチェックサムエラーを起こして停止するために完遂できていません。

以下は本案件にて最初期に確認された、管理局が「オリジナル」と推定するROMセットの情報です:

pks1verd.2f 1,048,576byte 0768f36d
pks1verd.2j 1,048,576byte d29a0546
pks1verd.2l 1,048,576byte 846ace0b
pks1verd.2k 1,048,576byte 7a0663b5

ファイル名は、このROMセットが「バージョンD」であることを示唆しています(これはzipアーカイブのネーミングとも一致するものです)。そのため、前身として「バージョンA」から「バージョンC」までが存在した可能性があります。これらのROMセットについては、継続して調査と捜索が続けられています。

[2007-03-24 Update]

後に管理局が「MAME」開発チームにコンタクトを取り、当案件についてヒアリングを行う機会を設けました。ヒアリングの結果、開発チームはこのクローンセットが「MAME」の対応ROMセットとして追加されていることを一切認識していなかったことが明らかになりました。現在、更新履歴からはこのROMセットについての記述はすべて削除されていますが、ソースコード上に対応するルーチンが存在しないにもかかわらず、依然として「MAME」及び「MAME」派生のエミュレータは該当するROMセットを読み込み、正常にゲームを動作させることができています。

[2010-07-02 Update]

管理局内部の協議に基づき、研究目的を含むこれ以上のゲームプレイは一切許可しないとの方針が打ち出されました。異議がある局員は、管理局の倫理委員会に対して異議申し立てを行うことができます。

Supplementary Items:

本案件には、1件の付帯資料があります。適切なセキュリティクリアランスを持つ局員のみが、付帯資料を参照できます。

→付帯資料にアクセス

局員の提言に基づき、稼働中の「POKKEN ver.D」のプロセスを一時的に停止させ、メモリダンプから何らかの情報が得られないかという実験が行われました。実験時、プレイヤーはルカリオを、コンピュータはカイリキーをそれぞれ操作しているという状況でした。

エミュレータの機能を用いてゲームを一時停止させ、完全なメモリダンプが取得されました。この時、ダンプの取得は想定されるよりも相当に長い実行時間を要し、最終的に約3.8GBのダンプファイルが生成されました。ダンプファイルの作成中、OS標準のタスクマネージャはエミュレータが占有しているメモリ領域について、異常性の無いゲームを動作させた時と比較しても有意な差異は無いことを一貫して示し続けていました。

生成されたダンプファイルを一般的なデータ解析の手法で解析したところ、ファイルの約半分に相当する1.85GBが、携帯獣の「ルカリオ」の一般的なデータパターンと89%の精度で一致することが判明しました。続く約1.94GBは、同じく携帯獣の「カイリキー」のデータパターンと92%の精度で一致していました。残りのデータは、ゲームを動作させる為に必要なプログラムやその他のアートアセットで占められています。

以上から、この「POKKEN ver.D」は何らかの未知の方法により、現代の技術から見ても異常に精度の高い「人工の携帯獣」を短時間で生成する機能を持ち合わせているという仮説が立てられました。プレイ中頻繁に発生する異常な挙動は、システムによって生成された携帯獣がゲームから脱出しようと試み、結果として外部からの制御を受け付けなくなったことによるものと推察されます。現在のところ、この仮説を覆す根拠は見つかっていません。ゲームが携帯獣を生成し戦わせる理由についても、局内で統一的な見解は出されていません。

ルカリオ・カイリキー共に、データが一般的なパターンと一致しないまたは欠落している箇所は、外見的特徴の情報が格納される領域に集中していました。ゲームプレイ時にディスプレイへ出力されるキャラクターモデルの品質が悪いのは、これら外見的特徴の極度の情報不足に起因するものであり、ゲームが持つレンダリングエンジンの性能とは直接的な関わりを持たないことが分かりました。これについては、開発に当たって携帯獣として正常に動作させることにリソースを割き、携帯獣の外見については実装の優先度が下げられたためと考えられます。

ゲームプレイ中に生成された携帯獣を一般的な情報工学の技術に基づいて救出する試みは、いずれも失敗に終わっています。生成された携帯獣はゲーム中の戦いで死亡するか、またはゲームがシャットダウンされることで消失するかのいずれかしか選択肢を持ちません。

管理局の倫理委員会は、生成された携帯獣は事実上死亡するほか無いという結論に基づき、2010-07-11をもってこれ以上のゲームの起動を禁止する裁定を下しました。

 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。

※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。