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#117202 未知のノイズ復号器

Basic Informations:

Subject ID:
#117202
Subject Name:
未知のノイズ復号器
Registration Date:
2007-02-21
Precaution Level:
Level 2

Handling Instructions:

機器#117202はジョウト地方キキョウシティ第七支局の中異常性物品保管庫に収容し、70cm×120cm×90cmの鉛製金庫に保管してください。機器#117202は常に活性化した状態であり、非活性化する方法は確認されていません。このため、事前承認を受けた実験目的以外での持ち出しは一切禁止されています。

機器#117202を使用して得られた音声記録(音声記録#117202)は記録日時順に整理して保管します。音声記録からテキストへの書き出しは、当局が保有する音声認識装置を使用して自動的に行われます。音声記録の解析に際しては、耐ミーム侵襲機構を備えた専用端末を使用しなければなりません。解析結果はサマリーとしてまとめ、インデックス化して保管してください。

Subject Details:

案件#117202は、ある特定の波長を受信することにより未知の音声記録を再生する携帯ラジオ型機器(機器#117202)と機器#117202により生成された音声記録(音声記録#117202)、及びそれらに掛かる一連の案件です。

機器#117202が発見されたのは2007年初頭のことです。ジョウト地方キキョウシティ第七支局に、キキョウシティ南方にある古代遺跡群「アルフの遺跡」の管理担当者から「八日間の無断欠勤をした職員の家から、不審な声が聞こえてくる」との通報が寄せられました。警察当局とともに局員が当該職員の自宅へ踏み込んだところ、死後三日程度が経過したと推定される職員の遺体と、雑音の混じった音声を再生し続けているラップトップPC、そして機器#117202が発見されました。職員は手首を大型のカッターナイフで切り裂いており、自殺したものと推定されています。司法解剖の結果は失血死で、特段の異常は見られませんでした。

機器#117202は外見上黒い携帯ラジオに見える機器ですが、過去に製造された携帯ラジオと一致するモデルは存在しません。イヤホンジャックに加え、底部にUSB1.1のポートを一つ備え付けています。USBポートは少なくとも128GBまでの外部記憶媒体を認識します。外部記憶媒体以外のUSBデバイスは認識されません。表面は一般的な携帯ラジオ機器と一致する外観をしていますが、既知のあらゆるラジオ放送を受信することができません。機器には接合部が確認できず、またネジ止めがされた部位も存在しないため、非破壊での分解検査は未だ実施できていません。製造元を示す刻印やラベルは存在しませんでした。

職員の自宅からは機器#117202を使用して記録されたと推定される65の.mp3形式の音声記録#117202と、職員が独自に調査した機器#117202の使用方法に関するメモが発見されました。メモからは、機器#117202は古代遺跡群「アルフの遺跡」でのみ放送の受信が可能であること、機器#117202は外部記録媒体への記録を自動的に行うことが確認されました。これは当局がのちに実施した機器#117202に対する試験の結果とも一致するものです。

機器#117202は古代遺跡群「アルフの遺跡」の圏内(詳細な認識範囲については、資料A-117202-3を参照してください)に持ち込むことにより、数秒から数時間のランダムな時間に渡って音声記録#117202を作成し、セットされた外部記録媒体へ書き込みます。一度音声記録#117202を作成した後は、一度アルフの遺跡の圏外へ出なければなりません。圏外へ出た後再度圏内へ入ることで、新たな音声記録#117202が作成されます。音声記録#117202は.wavのフォーマットで作成され、取扱方法については一般的な.wavフォーマットのファイルと変わりません。

アルフの遺跡では、一般的なラジオ機器が不明な理由により一切使用できません。これはアルフの遺跡全域で検知される未知の妨害電波(案件#53802「遺跡の妨害電波」として案件登録済)によるものであることが分かっています。機器#117202はこの妨害電波を受信し、本来の放送に復号しているのではないかという仮説が提唱されています。しかしながらその放送は著しく一貫性に欠け、その大部分が何らかの異常性を内包しています。このことから、機器#117202は案件#53802で管理されている妨害電波をトリガーとして、内部で新たな音声を生成している可能性も否定できません。

押収された音声記録#117202、及び当局が新たに作成した音声記録#117202の抜粋は下記の通りです:

[音声記録#117202-1]
記録日時より、機器#117202が活性化されてもっとも初期に記録されたと考えられる音声記録。記録時間5分46秒。十代前半と思しき少女の「誰か聞こえる人はいますか」から始まり、何者かに監禁されていること、発言者から見て外の世界で大規模な災害や紛争が発生していることが切迫した声で語られている。自身の身の上を述べている最中(この時点で発言者の名前が「ひとみ」であると判明)、何者かが巡回しにきたとの発言を残して記録が終了する。自殺した職員は、この音声記録を聞いたことが発端となって音声記録の収集を開始したものと推定されている。
[音声記録#117202-8]
ガラスの割れる大きな音が記録されている。記録時間7秒。
[音声記録#117202-11]
2008年11月17日時点のカントー証券取引所における26銘柄の株価。記録時間3分13秒。実際の株価との符合性について、将来的に調査が行われる予定。(2008-11-17追記)音声記録#117202-11でアナウンスされた株価は、1銘柄を除いて完全に一致していたことが判明。唯一不一致だった銘柄は、銘柄コード7974で管理される大手ゲーム会社のもの。不一致となった理由は不明。
[音声記録#117202-14]
2002年よりサービスを提供しているMMORPG「ファイナルファンタジーXI」におけるゲーム中イベントの再現音声。記録時間7分21秒。アペンドディスクの一つ「アトルガンの秘宝」を導入することでプレイヤーが攻略可能になるイベント「キモいから名前で呼ぶな」(※原文ママ)が該当。ゲーム中のテキストに概ね一致する形で音声が収録されているが、登場人物の一人「Iruki-Waraki」の性別が女性であることを前提としてシーンが展開されている。「Iruki-Waraki」は本来男性であり、また「Iruki-Waraki」の種族は男性と女性で名前の命名規則が厳格に異なっている設定がゲーム世界の中で一貫して存在するため、矛盾が生じている。
[音声記録#117202-17]
1962年のアメリカ映画「戦艦バウンティ」の吹替版音声。記録時間179分32秒。当該映画作品がこれまでに吹替版として公開された記録は存在しない。現在確認されている中で最長の音声記録。本来.wavフォーマットは4GBのファイルサイズ制限があり、記録時間から考慮して記録不可能と推定されているが、この音声ファイルはファイルフォーマット変換を除く一切の編集が行われておらず、一度の録音で作成されたと考えられている。ソースとなる.wavフォーマットのファイルが削除されているため、この件についての検証は現在保留中となっている。
[音声記録#117202-22]
何かを泡立てる音。記録時間38秒。ヒアリングした局員の証言から、子供がストローを通じて飲み物に空気を吹き込んでいる時の音ではないかとの仮説が提示されている。
[音声記録#117202-26]
未知のシステムインテグレータ会社で開催されたと推測される定例会の様子を記録した音声。記録時間32分49秒。最初の15分55秒で報告が行われたのち、残りの時間で前者で取り組んでいるとされるプロジェクトについての討議に入っている。討議の最中、頻繁に「スピリチュアル開発モデル」という単語が登場する。「スピリチュアル開発モデル」なる開発手法がこれまで提唱された記録は存在しない。
[音声記録#117202-28]
午後28時67分98秒を告げる時報。記録時間12秒。
[音声記録#117202-31]
ガラスの割れる大きな音が記録されている。記録時間6秒。音声記録#117202-8とは音が異なっている。
[音声記録#117202-37]
音声記録#117202-1の発言者である「ひとみ」による2度目の音声記録。記録時間4分12秒。音声記録#117202-1の記録時点より状況が悪化しており、食料の配給も滞りがちになっていること、既に消滅した国家が複数存在することなどが切迫した口調で語られている。「ひとみ」のいる世界にも携帯獣がいることが示されたが、何らかの理由によりあらゆる携帯獣が人類に敵対し、人類と戦争状態にあるとしている。「ひとみ」はかつてポケモントレーナーとして活動していた、というところで不意に音声が途切れている。
[音声記録#117202-42]
1962年のスティーブ・ローレンスのシングル曲「ゴー・アウェイ・リトル・ガール」の音声記録。記録時間2分22秒。収録後10秒間の空白があり、波形を見ると何らかの微弱な音声が記録されていると思しき形跡が見られる。
[音声記録#117202-45]
テレビ放送の砂嵐を記録したと思われるノイズの音声記録。記録時間16分38秒。別の音声が重複している可能性が指摘されているが、詳細の特定には至っていない。
[音声記録#117202-52]
176回に渡って繰り返される「あなたの助けが必要です」という呼び掛けの音声記録。記録時間24分51秒。呼び掛けはすべて異なる声色・調子で行われており、一部人間には発音が困難な極端な高音域・低音域のものが含まれている。どのような助けが必要なのかは語られていない。
[音声記録#117202-58]
1971年のダニー・オズモンドのシングル曲「ゴー・アウェイ・リトル・ガール」の音声記録。音声記録#117202-42と同一の楽曲だが異なるバージョンのもの。記録時間2分52秒。音声記録#117202-42同様に収録後10秒間の空白があるが、こちらの音声記録の波形データは完全な無音となっている。
[音声記録#117202-65]
音声記録#117202-37に続く「ひとみ」による音声記録。ただ一言「家に帰りたかった、死にたくなかった」とだけ記録されている。記録時間12秒。自殺した職員が最後に作成した音声記録。
[音声記録#117202-66]
ラジオ番組「ポケモンチャンネル」の一部と推定される音声記録。記録時間24分16秒。本来はラジオパーソナリティの「クルミ」がゲストを迎えてインタビューをする形式のトーク番組であるが、当該記録では未知のラジオパーソナリティの「ノエル」がクルミをゲストとして扱う形で番組が進行している。この点を除いては、番組は本来のフォーマットに忠実に沿う形で進行する。機器#117202が当局の収容下に置かれてから初めて作成された音声記録。
[音声記録#117202-74]
合成音声で「TO BE SORRY」とたどたどしく読み上げられた音声記録。記録時間9秒。

機器#117202を保有していた職員の自殺は、音声記録#117202-1、同-37、同-65で発言者として登場した少女「ひとみ」を救うことができなかったためと見られています。一般的な抑鬱状態に起因するものと判断されたため、職員の自殺そのものは異常性のない事案とし、本案件の管理対象外となりました。

Supplementary Items:

本案件に付帯するアイテムはありません。

 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。

※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。