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#118412 1 + 1 を 3 に する

Basic Informations:

Subject ID:
#118412
Subject Name:
1 + 1 を 3 に する
Registration Date:
2007-07-11
Precaution Level:
Level 5

Handling Instructions:

クローラーがアプリケーションを発見したことを通知してきた場合、速やかに一覧#118412に記載しているISPへ緊急通報を出し、利用者のアクセスを完全に遮断するようにしてください。アクセス遮断の手続きと同時に、管理局名義でアプリケーションの配布停止を促す警告を行い、従わない場合は警察機関の窓口にすべての情報を提出した上で、機関と連携して物理的な制圧に乗り出してください。少なくとも現時点では、本案件で対処すべきアプリケーションプログラムはインターネット上で配布されていないことが確認できています。

アプリケーションプログラムによって生成されたと思しき携帯獣は可能であれば速やかに捕獲・隔離し、他の携帯獣と接触させることがないようにしてください。これまで発生した事案では、捕獲が不可能になる特性を持つものも少なからず確認されています。対処が困難な場合、致死性の武器を用いた制圧も許可されます。捕獲した個体の生死に関わらず、対象はデータ化してバイオリサーチセンターへ移送してください。データ化に際しては、必ずネットワークから切り離された端末を使用してください。決してネットワークに参加している端末で作業をしてはなりません。

上記と合わせ、対象のアプリケーションプログラムの解析と、開発者の捜索が並行して行われています。これまでのところ開発者に関する有力な手がかりはありませんが、発生する事象の性質から、管理局と敵対的な姿勢を取っている複数の団体が関与している疑いがあります。

Subject Details:

案件#118412は、ある雑誌に付録として添付されていたCD-ROMの一部ロットに収録された異常なアプリケーションプログラムと、そのアプリケーションプログラムを使用することで生成される特異な携帯獣、及びそれらに掛かる一連の案件です。

1998年に有限会社ベクターデザイン社(現・株式会社ベクター)が発行した「PACK for WIN LIGHT」という書籍には、付録としてMicrosoft Windows向けのフリーウェア・シェアウェアを多数収録したCD-ROMが5枚付属しています。5枚のディスクのうち4枚目のディスクに、書籍及び付属しているCD-ROM検索ユーティリティに言及・記載の無い隠し属性のディレクトリ「PLUS」が存在し、その中に「PLUS113.lzh」というLHA形式のアーカイブファイルが収められています。

これまで接収したCD-ROMは全部で108セットですが、そのうちの21セットに該当するファイルが存在していました。存在したのはいずれもディスク4で、他のディスクは管理局が正常と認めるディスクと一切の差異が見られません。ディスク4にも含まれている個体と含まれていない個体がありますが、どのような基準で収録/未収録が分かれたのかは不明です。当時ベクターデザイン社に在籍していた元職員からヒアリングを行ったところ、CD-ROMの内容を途中で差し替えたようなことは無く、またコスト的にも困難でまず実施していないとの回答が得られました。

現在のベクター社が運営するオンラインソフトライブラリ「Vector」では該当するアプリケーションは公開されておらず、またこれまでに一度でも公開されたという記録は見つかりませんでした。これらの事実から、管理局ではアプリケーションプログラムを書籍の出版時点では存在しておらず、流通後に外部から何者かが無作為に挿入したものと判断しました。

ディスク4の異常個体から入手できる「PLUS113.lzh」は標準的なLHAアーカイブユーティリティで展開でき、展開すると「PLUS.EXE」と「PLUS.DOC」という二つのファイルが生成されます。タイムスタンプは「PLUS.EXE」が1997-05-04 13:25、「PLUS.DOC」が1997-05-04 19:31です。このうち「PLUS.DOC」はアプリケーションプログラムの概要を記載したもので、拡張子は一般的にMicrosoft Wordの古いバージョンが使用する「.doc」ですが、中身はシフトJISのプレーンテキストです。これは当時存在したドキュメントファイルに付与するファイル名の慣習によるものです。

展開される「PLUS.DOC」の記載によると、「PLUS.EXE」の動作環境はWindows 95、システム要件として32MB以上のメモリ領域が要求されます。アプリケーションの名称は「1 + 1 を 3 に する」とあり、「PLUS.EXE」を実際に起動することで、ウィンドウタイトルに同じテキストが表示されることが確認できます。用途は「ジョークソフト」だけ書かれています。具体的な使用方法については記載がありません。これまでの検証で、アプリケーションはWindows Vistaまでの全バージョンのWindows環境(32bit/64bitのバージョンが存在する場合は両方の環境で)で完全に動作することが分かっています。互換性のサポートは必要としていません。

実際に「PLUS.EXE」を起動すると、二つの縦長の空白と、「3 にする」「0 にする」という二つのボタンが取り付けられただけの粗雑なインターフェイスをしたウィンドウが表示されます。ウィンドウはアイコンのドロップを受け付けており、任意のアイコンをそれぞれの空白へドロップすることができます。ドロップ可能なアイコンは実体があるものだけでなく、システムアイコンを含むあらゆるアイコンをドロップできます。アイコンを両方の空白へドロップしない限り、「3 にする」ボタンは有効になりません。「0 にする」を押下すると、アイコンのドロップを取り消すことができます。両方の空白にアイコンをドロップした状態になると「3 にする」が有効になり、ボタンの押下が可能になります。

押下するとすぐにアイコンが消失し「3 にする」ボタンが非活性化されますが、これはドロップされたアイコンの実体には何ら影響を及ぼしません。同時に「PLUS.EXE」と同一のディレクトリに、「3.img」というおよそ4.5GBの巨大なファイルが生成されます。生成中にハードディスクドライブの容量が不足した場合、容量の許す限りの大きさで「3.img」を生成します。生成に掛かる時間は一瞬で、どのようなプロセスを経てファイルを出力しているのかは不明です。

出力されたファイルを解析したところ、モンスターボールから携帯獣のデータを読み込んでダンプした際に生成される標準的な形式のイメージファイルと、構成が完全に一致することが判明しました。このことはつまり、「PLUS.EXE」が完全な携帯獣を生成する機能を持つということです。どのような携帯獣が生成されるかは不明です。

案件管理局の倫理規定により、携帯獣の生成実験は承認されません。上記の検証過程で生成した携帯獣はデータの状態のまま復号せず、厳重な保護を施したサーバに保管されています。アプリケーションプログラムの回収と使用の未然防止に向けた取り組みが続けられています。

[2011-06-23 Update]

2011-06-02の夕刻から2011-06-03の早朝に掛けて、明らかに異常な携帯獣を大量に使役する正体不明の集団が、ホウエン地方ミナモシティ第二支局を襲撃するという事件が発生しました。第二支局はセンターへ応援を要請、最寄りのホウエン地方トクサネシティ第一支局に駐留していた特殊機動部隊ベータ-エメラルドの出動が緊急で承認され、約10時間後に鎮圧が終了しました。襲撃に際して多数の局員が負傷、市民の保護と避難誘導に当たっていた局員2名が殉職しました。市民に死者は出ませんでしたが、数名が軽い怪我を負っています。いずれも現在は全快しています。

鎮圧時に襲撃者のうち4名がその場で射殺され、1名が捕縛されました。管理局による尋問により、襲撃者が案件#118412で対応中のアプリケーションプログラムを使用し、襲撃で使用した携帯獣を生成したことが発覚しました。身辺調査によりアプリケーションと「生成メモ」と記載されたテキストファイル群を入手、接収しました。対象は「ネクタール飲料株式会社」と名乗る団体から襲撃依頼を請けたと供述していますが、そのような団体は今のところ確認できていません。管理局は証拠と共に対象を警察機関へ引き渡しています。

発見された生成メモの写しの一部は下記の通りです。メモは膨大な量の巨大なテキストファイルに分かれており、これらはごく部分的な抜粋に過ぎません:

[ケース1]

ファイル1:
explorer.exe
ファイル2:
calc.exe
ポケモンの特徴:
色が反転して、普通の1.5倍の大きさになったマーイーカ。水を使った攻撃がほとんど効かなくなる。代わりに物理攻撃に弱くなる。モンスターボールには入る。時々指示に従わずに「スパーク」のような放電をする。時々頭に付いてる帽子みたいなのが取れてることがある。30分くらい側にいると乗り物酔いしたみたいになる。

[ケース6]

ファイル1:
readme.txt(空ファイル)
ファイル2:
readme.txt(「A」と一文字だけ書いた)
ポケモンの特徴:
全身鋼になったヌメラ。大きさは普通のものより少し小さい。移動すると跡が残って、そこから同じ特徴を持った別のヌメラが出てくる。最初のヌメラはモンスターボールに入る。後から出てきたのは入らない。炎に弱くて溶けてなくなる。図鑑で見るとメタモンと表示される。俺たちを敵だと思ってる。

[ケース8]

ファイル1:
NTUSER.DAT
ファイル2:
新しいビットマップ イメージ.bmp
ポケモンの特徴:
バタフリーの見た目をしたモルフォン。翅の模様がアーボックの顔を歪ませたような形になってる。人を見つけると血を吸おうとして暴れ回る。火であぶってもダメージにならない。スーパーボールにだけ入る。ファイル1が更新されるせいで同じのを複数作れない。ファイル2の中身を変えると模様が変わることがある。変わらないこともある。

[ケース13]

ファイル1:
normal.dot
ファイル2:
Book1.csv
ポケモンの特徴:
目が充血して羽から血を流してる大きなペラップ。声を出せない。口から血まみれのアンノーンの死体を吐いて攻撃する。アンノーンに触るとポケモンが泡を吹いて気絶する。モンスターボールに入ったが出せない。外にいると2時間くらいで死ぬ。後で調査したらファイル1がウイルス感染してた。

[ケース15]

ファイル1:
.htaccess
ファイル2:
jdbgmgr.exe
ポケモンの特徴:
単眼のリングマ。目が月の輪の真ん中に付いてて、閉じたのを見たことが無い。腕がゴムみたいに伸びて骨が無い。口からヘドロの塊を出す。ヘドロが地面に付くとヒメグマの形になる。ヒメグマは見た目は普通だけど必ず足が折れてる。ヘドロに触れたポケモンはヘドロになる。人間が触るとヘドロが消える。ルアーボールじゃないと入らない。回復させようとすると機械がフリーズして再起動する。

[ケース22]

ファイル1:
Cygwin1.dll
ファイル2:
UNLHA32.DLL
ポケモンの特徴:
レアコイルでできたレアコイル。大きな雷を落とせるし、超音波も使える。電磁波も範囲が広い。とても使える。時々鶏のささ身をあげないとダメ。一度に1kgあげる。困ったらとにかく大量にやればどうにかなる。側にいると携帯電話に人の影が映ることがある。誰が映っているのかはわからない。キタハマが夢の中に出てきたって言ってた。テンノウジの持ってたゲームがこいつのせいでおかしくなったので処分した。

[ケース26]

ファイル1:
AutoRun.inf
ファイル2:
command.com
ポケモンの特徴:
見た目はよく分からない。スミノエは赤いスピアーに見える、タカツキは水玉模様のグレイシアに見える、俺は首が五つあるドードーに見える。どうやら空を飛べるみたいだ。エアームドみたいな鋼の羽がよく抜ける。羽に「キボウ ハ イタミ」ってびっしり彫ってある。モンスターボールに入れると全員コケがびっしり生えたライチュウに見えるようになった。どこにも見当たらないのに羽が抜けつづけてる。

比較的安全、かつ完全な再現が可能と推定されるケースを複数選び、事前に倫理委員会に電子的安楽死の承認を得て特例的に実験を行ったところ、すべてのケースでメモに書かれた通りの異常な携帯獣が生成されました。メモの内容は、憶測や事実誤認こそ混じっていますが概ね事実です。

条件を完全に一致させない限り異なる携帯獣が生成され、生成される携帯獣のパターンがまったく推測できず、かつ非常に危険な性質を持つ携帯獣が事実上無限に存在し、それらをあまりにも安易に生成できてしまうため、生成元のアプリケーションプログラムと生成された携帯獣を一括し、警戒レベルを「最大限の警戒が必要」な「5」と設定しました。

Supplementary Items:

本案件に付帯するアイテムは、現在公開準備中です。準備が完了し次第、本稿を閲覧可能なセキュリティクリアランスを持つすべてのアカウントにアイテムが公開されます。

 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。

※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。