Basic Informations:
- Subject ID:
- #131013
- Subject Name:
- *いわのなかにいる*
- Registration Date:
- 2011-07-09
- Precaution Level:
- Level 4
Handling Instructions:
所定のキーワードによる検索を日々行い、検索結果にリストアップされたサイトのアクセス遮断を申請してください。対象の拡大スピードは早く、現在は日次での対処が必要なレベルになっています。一般の個人が対象に言及していた場合、監視対象のリストに加えてください。個人がフェーズ2へ移行したことが示唆された場合、直ちに場所を特定して任意同行を求め、管理局が制定した完全な治療プロセスを経た上で社会復帰させてください。フェーズ2の段階であれば、元通り社会復帰できることが分かっています。
管理局を含む各種機関によってインターネット上での広告活動が積極的に妨害されていることを認識しているためか、近年は新聞の折り込み広告としての挿入や、街頭でのビラ配布などのアナログ的な拡散活動が度々目撃されるようになっています。これらを目撃した場合、速やかに中止させてください。特に街頭での広報活動は無差別な対象の拡大・拡散をもたらし、時間が経過する毎に事態の収拾が困難になります。必要に応じて非致死性の武器を使用した制圧も許可されています。
これまでの調査で、本件に「ユニティー・サイエンス」と名乗る団体が関与している疑いが持たれています。本件担当者及び本件資料を閲覧するセキュリティクリアランスを保有する局員がユニティー・サイエンスと何らかの関係があると断定できた者との接触に成功した場合、上席の承認を得ることなく拘束・拘留することが許可されています。確保に成功した人員の取り扱いについては、管理局規則第83条に従ってください。
Subject Details:
案件#131013は、デジタル/アナログの双方から展開される住居に関する異常な広告と、適切な知識を持たない状態で該当する広告を目撃した際に発生する認識異常、及びそれらに掛かる一連の案件です。
事象のトリガーとなる広告は、後述する認識異常を起こし、事象の「フェーズ4」に入っている状態の人間数名が明るい笑顔を見せている写真に、概ね以下のようなメッセージを添えて展開されます:
憧れのマイホームを手に入れたい、けれどローンが重くてとても背負えない… 大丈夫。あなたでも背負える、あなただけのマイホームを手に入れるチャンスがあります! まずは 0120-XX-XXXX ユニティー・ハウジングまでお電話を! 資料の請求は無料です
記載されている電話番号は、広告が配布される都度法則無く変更されます。これまでのところ、同一の番号が異なる配布タイミングの広告で流用された記録はありません。新しい電話番号の出現と同時に、過去の電話番号は不通になります。
広告に掲載されている写真を情報災害低減機構を搭載した機器で確認すると、携帯獣である「イワパレス」の成体が背負うような、巨大な四角い岩を背負っている人間の姿が見えます。視認できる限りでは、人間は岩と一体化し、四肢と顔のみを外へ出しているように見受けられます。表情からは苦痛などのネガティブな感情はまったく読み取れません。
この広告が異常だという正確な知識を持たず、広告にそのまま曝露してしまった場合、ほとんどの人は広告に展開されている光景を「魅力的なもの」「素敵なもの」だという印象を抱き、可能な限り早く自分もこのような状態になりたい(彼らは一様に「あんなマイホームが欲しい」と口にします)と思うようになります。現時点ではまだ具体的な行動を起こしていません。管理局ではこの状態を「フェーズ1」と設定します。
フェーズ1の状態が一定期間続くと、今度は具体的な行動を起こし始めます。多くのケースにおける最初の行動は、広告に記載されている電話番号に入電し、「ユニティー・ハウジング」と名乗る団体から資料を請求することです。資料を入手した対象は多くの場合一日中資料を閲覧しつづけ、イワパレスのような状態になることをますます強く願うようになります。現在の心境を他人に話したり、blogなどのコミュニケーションツールで発信することも少なくありません。この状態は「フェーズ2」と呼称します。広告を直接視認していない周囲の人間の認知には影響を及ぼさないため、多くの場合異変を感じた周囲が説得に乗り出す、或いは当局へ申し出ることで、これ以上の進行を食い止めることに成功しています。
フェーズ2に入った対象に何らかの処置を行わずに放置していると、恐らく100%の確率で対象は「ユニティー・ハウジング」とより具体的な接触に乗り出します。先の電話番号を通じて「マイホームが欲しい」とユニティー・ハウジング関係者に伝え、ユニティー・ハウジングは対象にアポイントメントを取ります。対象はこの時いかなる犠牲を払っても「マイホームを手に入れたい」という心理状態にあるため、説得してこれを止めることはできません。通常アポイントメントは当日中かどんなに遅くとも翌日の午前中に設定され、対象は指定された場所へ「住宅相談会へ行く」と口にして向かいます。この状態は「フェーズ3」と呼称します。
対象はその後元の住居へは戻らず、各地方で確認されている野生のイワパレス及びイシズマイが生息している場所で、イワパレスのように岩と一体化している状態で発見されます。この段階の対象は会話こそ可能ですが、背負っている「マイホーム」に何ら不満や違和感を抱いておらず大変満足しており、さらに自発的かそうでないかを問わず、その場を離れることを極端に嫌悪します。対象がどのようにして岩と一体化しているのかは不明ですが、少なくとも岩に感覚がないことは分かっています。この状態は「フェーズ4」となり、これまで確認されている中では最後の段階になります。
フェーズ4状態の対象を効果的に移動させるためには、「今より広い庭のある空き地がある」「勤務先により近い空き地がある」など、現在の場所よりも一般的に住居として魅力的だと考えられている「空き地」があると伝えなければなりません。移動先が実際の条件を満たしている必要はありません。現在はこの手続きに基づき、227体のフェーズ4に到達した対象が管理局所有の隔離地に収容されています。しかしながら、支局に寄せられている情報から、未だ発見されていないフェーズ4対象者が相当数存在していると推定されています。対象者を捜索する試みが続けられています。
これまでのところ、フェーズ3/4に到達した対象を社会復帰させる手立ては見つかっていません。あらゆる形による対象への異常性認識の試みは、著しい認知の歪みによってすべて徒労に終わっています。フェーズ4状態の対象を回復させる方法は存在するか、またフェーズ4以降のさらなる段階が存在するかについて、収容した対象の観察が続けられています。
Supplementary Items:
本案件に付帯するアイテムはありません。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。
※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。