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#80023 砂山の守り人

Basic Informations:

Subject ID:
#80023
Subject Name:
砂山の守り人
Registration Date:
1995-05-12
Precaution Level:
Level 1

Handling Instructions:

本案件の案件副担当者には、レベル1以上のセキュリティクリアランスを持つ所定の携帯獣職員が割り当てられます。割り当て可能な携帯獣職員については、リストL-80023-1を参照してください。現在の副担当者には、オオタチのレベル2局員が割り当てられています。

携帯獣#80023には本人の了解を得て常時稼働する小型GPS発信機を装着しています。案件担当者は対応するGPS受信機を使用することでいつでも携帯獣#80023の正確な位置を確認することができます。携帯獣#80023のGPS発信機には、事象#80023が発生した際に出発/到着地点と出発/到着時刻を記録する機能が追加でセットアップされています。このログはGPS受信機からも参照可能です。

案件担当者が定期的に携帯獣#80023の位置を確認すると共にGPS機器が正常に稼働していることを確認すること、案件副担当者が携帯獣#80023に対してヒアリングを行うことを除いては、現状では追加の対応は必要ありません。

Subject Details:

案件#80023は、小規模な空間歪曲能力(能力#80023)を持つ一体の携帯獣(携帯獣#80023)と、それに係る一連の案件です。

携帯獣#80023は♂のボスゴドラで、外見的に非異常のボスゴドラと区別がつきません。身体能力や行使可能な技能についても、一般的なボスゴドラ個体から逸脱するところはありません。気質/性格についてもまた同様で、携帯獣#80023は山を縄張りとして生活しています。縄張りとなる山を荒らす者に対しては敵対的な姿勢を見せ、戦いを挑んでいくこともあります。その一方で、単に山を見学に訪れた人間や携帯獣、あるいはゴミ拾いや植樹をするなど山にとってプラスと考えられる行動を取る人間や携帯獣に対しては友好的に接します。

この携帯獣#80023が持つ特異性は、人間や携帯獣が海岸の砂浜や公園の砂場などで「砂山」を作成し、作成者以外がそれを損壊しようとした際に発現します。対象が砂山の損壊を試みた時、能力#80023が発動します。能力#80023は一種のテレポーテーション能力であり、これにより対象のおよそ半径3メートル以内の場所に携帯獣#80023が前触れなく出現します。携帯獣#80023は怒りを露わにして対象を捕獲し、速やかに砂山を荒らすことを止めるよう強く警告します。これまで確認された事例すべてで、この時点で対象は砂山に手を出さないことを誓約します。これは対象が人間であっても携帯獣であっても同様です。砂山の安全が確保されると携帯獣#80023は満足して対象を解放し、出現時と同様に突如として消失します。

携帯獣#80023はホウエン地方ムロタウン北部に位置する山を住処としており、そこからおよそ半径5キロメートル以内が能力#80023の有効範囲内と見られます。圏内で砂山の損壊を検知すると、能力#80023が自動的に発動するようです。携帯獣#80023はこの事象に困惑した様子を見せておらず、むしろ有用であると認識しています。携帯獣#80023は砂山の保護を重要な仕事だと考えていて、その任に当たっている自身に誇りを持っているようです。

同時期に砂山の損壊事案が複数の箇所で発生すると、携帯獣#80023はきわめて正確に先に発生した事案の解決に向かいます。自分の到着前に砂山が全損してしまった場合などで保護に失敗した場合は、損壊した人物を威嚇して強く叱責するとともに、砂山の作成者を(ボスゴドラ由来の強大な腕力で傷つけてしまわないよう)ごく弱い力で抱きしめ、砂山が損壊された悲しみを慰めながら、自身で砂を集めて砂山を修復します。砂山が元通り修復されると、携帯獣#80023は一声鳴いて(案件副担当者のヒアリングにより、これは「次はもっと早く来るよ」と言っていることが分かりました)から能力#80023を発現させてその場を離れます。

一連の事象に於いて、携帯獣#80023は砂山を損壊する対象に向けて攻撃的な姿勢を露わにしますが、実際に攻撃した事例は確認されていません。これまで発生したケースでは対象はいずれも携帯獣#80023の威容を受けて砂山の損壊を即時停止し、携帯獣#80023の指示に忠実に従います。仮に携帯獣#80023の指示を無視して砂山の損壊を試みた場合、携帯獣#80023は対象を攻撃する可能性こそありますが、自発的な攻撃は一度も確認されていません。

砂山の損壊を試みる対象についてはほぼ例外なく敵対姿勢を露わにする携帯獣#80023ですが、唯一の例外となるのが砂山の作成者自身によるものです。砂山の作成者自身が砂山を元の砂地へ戻す行為について、携帯獣#80023は決して妨害することはありません。砂山がおよそ92%喪失した時点で、第三者が砂山だったものに接触しても携帯獣#80023は出現しなくなります。ただし、同じ砂場で再度砂山が作成されると、その砂山は再び携帯獣#80023の監視/保護対象となります。

以下は、案件副担当者による携帯獣#80023に対する定期ヒアリング記録の抜粋です。このヒアリングは第十四回目であり、案件副担当者と携帯獣#80023の間に十分な信頼関係が構築されていることを前提としてください:

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案件副担当者:
[携帯獣#80023の愛称]さん、今週はいくつの山を守ったんです?
携帯獣#80023:
ざあっと16ってとこか。山を傷付けるヤツぁ、おらが許しちゃおかねぇ。
案件副担当者:
もうすっかり「決め台詞」になっちゃってますね、それ。
携帯獣#80023:
おらでもちっとは格好付けたくなることくらいあるさ。ああ、そうだそうだ。縞模様の姉ちゃん。こないだ頼まれたこと――
案件副担当者:
ありがとうございます。[携帯獣#80023の愛称]さんが、どうやって山から砂場へ移動しているかについてですね。
携帯獣#80023:
んだ。ただ、おらにもよく分からねぇだ。山が壊されてるって思うと、ふっと頭ん中にその風景が浮かんできて、そのすぐ後にゃその場所にいるだ。
案件副担当者:
となると、[携帯獣#80023の愛称]さんが自分で移動する場所を決めているわけではないみたいですね。
携帯獣#80023:
そうだろうなぁ。おらと違って、他の山守(*1)たちにゃこんなことできねぇからなぁ。けんどよ、前から言ってる通り、おらはこいつに感謝してるだ。
案件副担当者:
誰かの作った山を守ることができるから、そうですよね。
携帯獣#80023:
かぁーっ、姉ちゃんに言われるとちぃとこっぱずかしいな。だけんどその通りだ。ちっこいとは言え山は山、壊されるのは辛抱ならねぇ。
案件副担当者:
ですよね。あの……一つだけ気になるんですけど、訊いてもいいですか?
携帯獣#80023:
ん、いいだ。訊いてくれ。
案件副担当者:
大したことじゃないんですけど……山を作った人が山を壊すのは、止めないんです?
携帯獣#80023:
んだ。そいつは止めやしねぇ。
携帯獣#80023:
山ができたからにゃ、いつか壊れる時も来る。作ったやつが壊すのは、そりゃ仕方ない。おらの山だって神さん(*2)が作った。おらは神様の代わりに山を守ってるだけだけん、神さんが壊す言うなら、その山は壊れるのが道理だ。
*1……やまもり。ボスゴドラの同族に対する一般的な呼称です。
*2……ここで述べられている「神様」は特定の宗教上における信仰対象と言うよりも、より通俗的な「偉大な存在」を指しているように見受けられます。
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携帯獣#80023の性質を鑑み、当局の管理する収容房への収容は困難及び不要と判断されたため、携帯獣#80023については今後も継続監視することで対応するものとします。

Supplementary Items:

本案件に付帯するアイテムはありません。

 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。

※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。