「夏の終わりに、かぁ」
「あん?」
テッカニンの煩い求婚がぐわんぐわんと鳴り響く。
縁側から外を眺めタマザラシ型の丸い小さなアイスを頬張りながら呟いた言葉に、俺の後ろでマッギョの形をした魚のすり身の駄菓子をかじりながら数式を解いていた奴が反応した。
8月の末、残りの宿題を一緒に片付けようぜと転がり込んできたこいつは俺のダチ。家が隣の腐れ縁だ。俺の親父もじいちゃんもひいじいちゃんも、こいつのそれとダチだ。つまりは先祖代々ってやつ?
「なんだよいきなり。暇なら手伝えよ」
「やなこった」
ピンク色のタマザラシを口に入れて噛み砕く。これは一袋に3つしか入ってないモモン味だ。俺は普通のサイコソーダ味の方が好きだが。
「思い出したんだよ、タイトルを必ず『夏の終わりに』にする小説のコンテスト」
「なんだよそれ、出したのか?」
奴は聞きながらずりずりと畳を這いずって俺の隣まで来た。
「俺じゃねえよ、クラスの女子。あのみつあみの」
「ああ……あいつ、顔は可愛いけどよく分かんない奴だよな」
なに食わぬ顔でモモン味のタマザラシをつかみ、ひょいと口に放り込んだ奴のもごもごと動く頬と喉仏から目が離せない。
「お前ああいうのが好みなのか?」
「ひえーお」
ああ、こいつアイスはしゃぶる派だったな。頭が痛くなるからとかなんとかかわいこぶりやがって。こういうのは噛み砕くのが醍醐味だろーが。
つかなんだよその格好は。タンクトップとか無防備にも程があるだろ。ご丁寧に汗まで流しちゃってよ。
「あー、美味かった。俺モモン味大好き」
そうかそうかそんなに良かったか。おいやめろその笑顔暑さを忘れるだろうが。
「……もういっこやるよ」
「マジで!? さんきゅー」
にぱっとか音がしそうに笑うんじゃねえ。
若干溶けかけた最後のピンクのタマザラシを口に含んで、奴を押し倒して口付けた。
親父、じいちゃん、ひいじいちゃん、すまねえ。この血筋は俺で途絶えそうだ。
テッカニンさんよ、俺も便乗させてもらうぜ。
夏の終わりに、ダチと一線を越えた。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。
※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。