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「くびながりゅうのねがい」(作者:円山翔さん)

 君はナッシーというポケモンを知っているかい?君たちが知っているのはおそらく……南国に生えていそうな木――そうだね。バオバブの根元――というよりは酒樽の方が近いかな?そんな感じの太った体のてっぺん近くに、丸い木の実みたいな黄色い顔が三つついていて……そう。あのポケモンだよ。カントーとかホウエンとか、いろんな地域に生息しているナッシーは、いや、ナッシーだけに限らず大体どのポケモンもそうだけど、どの地方でも大体同じ姿をしているよね。


 でも、アローラという地方に生息するナッシーは、君たちが知っているナッシーとは全然違う。

 まず、アローラ地方のナッシーは、首がとてつもなく長いんだ。君たちが知っているナッシーでも高さが二メートルくらいあるけど、アローラのナッシーは足の先から頭の先までなんと十メートル以上もあるんだ。地方特有の強い日差しがナッシーをここまで成長させたんだとか、木の実の顔を狙ってやってくる地上のポケモンたちから身を守る為に進化した結果だとか言われてる。現地の人は、首の長いナッシーがナッシーの本当の姿なんだって誇りに思っているそうだよ。

 次に、タイプ。君たちが知っているナッシーは草とエスパーの二つのタイプを持っているよね。ところがどっこい。アローラ地方のナッシーは、草タイプに加えてドラゴンタイプを持っているんだ。あのナッシーがドラゴンタイプだなんて驚きだよね。寒さに弱くなってしまうけど、ナッシーが住んでいるのは暖かい地域だから、普段生活するぶんには問題ないんだって。

 そしてもう一つ、忘れちゃいけない違いがある。何だと思う?

 そう、尻尾だ。君たちが知っているナッシーにはなくて、アローラ地方のナッシーにはあるもの。それが尻尾だ。それも、ただの尻尾じゃない。木の幹のような尻尾の先には、首の先についているのとよく似た、けどちょっと違う、木の実みたいな顔がついているんだ。頭についている顔みたいにニヤニヤ笑っているわけではなくて、数字の八の字を描いたようなおちょぼ口の左右に真ん丸黒目。てっぺんからは二本の細長いはっぱが伸びている。

 長い首の先にある三つの顔と仲が悪いのかって?そんなことはない。三つの頭とおんなじで、考えることは違ってもみんな仲良しなのさ。

 じゃあ、何でこんな所に一つぽつんと顔があるかって?これについてはいろんな説があるんだけど、一番もっともらしいのは、首が長く伸びた分無防備になる体を守る為、という説だね。尻尾についている頭は首の先の頭とは独立の思考を以て尻尾を動かし、背後から襲ってきた敵に立ち向かうんだって。なんだか用心棒みたいでかっこいいよね。

 アローラ地方で有名な、地方独特のポケモンの姿について研究している博士……オーキド・ナリヤさんだったかな?全国的に有名なポケモン博士の従弟らしいんだけど……その人が用心棒の説を唱えて、それを実証する実験も行って、今は用心棒説が一般的になりつつあるみたい。でも、私は違う考え方をしているんだ。今から話すことにしよう。といっても、オーキド博士が言っていた説と比べると根拠のない、胡散臭い話ではあるけれどね。

 はじめから尻尾の話をするわけじゃない。尻尾の話をするためには、まずナッシーの首が伸びた理由を話さなければならないんだ。

 ん?さっき聞いた?確かに、日差しが強いからって先に言ったっけ。生物学的に考えてももっともな理由だ。ただ、それも現地の人がそう言っているだけで一つの説に過ぎないんだ。私が今から話す理由も、そんな本当かどうか分からない理由の一つなんだけれどね。言ってしまえば、日光説よりももっと信じられない話かもしれない。だけど、聞いて損はないと思うからぜひとも聞いていってほしいな。



 まず、ナッシーの首が伸びた理由。それはね。人々の願いを神様に届けるためなんだ。



 むかしむかし、まだ人とポケモンが同じ存在だった頃のこと。

アローラ地方でとある病気が流行ったんだ。どんな病気だったかはちょっと忘れてしまったんだけど……でも、そのせいで多くの子供たちが命を落としたんだ。当時はまだ医療技術がそれほど発達していなくて、病気の研究もそれほど進んでいなかったから、治療法も特効薬も存在しなかった。だから、誰かが病気にかかった時には、どうか治してくださいって神様に祈る他なかったんだ。アローラ地方の四つの島々にはそれぞれ守り神と呼ばれる存在がいるから、その守り神にお願いをするのが常だった。ところが、この時はいくら祈っても、病気で死んでいく子供たちは減るどころか、むしろ増えてしまったんだ。

 そこで、背の高いポケモンにお願いした。願いごとを守り神だけでなく、空の向こうまで届けられるようにね。それがナッシーだったわけさ。キテルグマっていうポケモンも同じくらい背が高いんだけど、動くものを見つけるとその巨体で突進してベアハッグをかまそうとするものだから、人々は怖がってなかなか近寄れなかったんだ。好奇心旺盛なキテルグマからすれば不憫な話ではあるけどね……っと、話が逸れたね。なにはともあれ、背が高くて陽気で人と関わる機会が多かったナッシーが、願いの伝達役に選ばれたんだ。

 ところがどっこい。人間よりも背が高いからって、天まで届くかと言えばそういう訳でもない。ナッシーは二メートル。空はどこまで行っても空。何千メートルも何万メートルも昇ったところで、神様の元には届きゃしない。

 だから、ナッシーは考えた。頭だけでも天まで届けば、みんなの願いを届けられるんじゃないかって。そして星に願った。空の向こうまで願いが届けられるようにしてくださいってね。

 そうこうしているうちに、不思議なことが起こった。ナッシーの首が、日ごとに伸びていったんだ。人々の願いよりも先に、ナッシーの願いが叶ったと言ってもいいかもしれない。病気に悩んでいた人たちからすれば、ある意味では皮肉だったのかもしれないね。でも、そんなことを言う人は一人もいなかった。むしろ、首が伸びたことに感謝してナッシーに頼んだ。島の人々を病気から救ってくれるように、空の向こうに願いを届けておくれってね。

 ナッシーの首が伸びて喜んだのは島の人々だけじゃなかった。期待されて、でもそれまで応えることができなかったナッシーも喜んで、たくさんの人から願いを聞いたんだ。

 さて、集まった人から願いを聞いて、空に届けようと首を伸ばし始めたナッシーの元に、今度は別の人がやってきた。新しく来た人の願いを聞くために、ナッシーは首を下ろさなきゃならなかった。願いを聞いて、首を伸ばし始めるとまた新たな人が願いをもってやってくる。そうやって多くの人がいくつもいくつもお願いをするものだから、そのたびにナッシーは頭を下ろしたり上げたりしなければならない。

 あんまりにも高い所と低い所を行ったり来たりしたせいで、ある日ナッシーの首がぽっきり折れて、ぽっくり逝ってしまった。それが疲労骨折によるものだってことは大分後になってわかったことだけど、その頃のナッシーにとっては重大な問題だった。

そこでナッシーは考える。首を空高く伸ばす途中にも、やってくる人々の願いを聞くにはどうすればいいか。

 そうこうしているうちに、ナッシーたちの体に更なる変化が起こった。なんと尻尾の先に、頭の先についているのと同じような、黄色くて丸い木の実の顔がなったんだ。


さて、もう明言しなくても分かるよね。これが、私が考える、ナッシーの尻尾に顔がある理由だ。


 尻尾の顔に話しかけてごらん?尻尾の顔に伝えたことが、ちゃんと頭の顔にも伝わっている。尻尾の顔と頭の顔は、離れていてもナッシーの一部だからね。おかげで、首が折れて死んでしまうナッシーは格段に減った。後から後から人々が願いを届けに来ても、尻尾の顔が願いを聞いて、頭の顔に届けてくれるから何も心配することはない。周りにはたくさんの人が集まっていたから、ナッシーが他のポケモンに襲われる心配もほとんどなかった。人とポケモンが助け合う、なんと素晴らしい光景だったろう。まあ、実際に私がその場にいた訳ではないから、これも私の想像の範囲でしかないわけだけれどね。

 さて、ナッシーが今の姿になってしばらくすると、別の地方から病気の治療法や予防法、特効薬なんかが伝わってきた。きっとナッシーが届けてくれた人々の願いが叶ったんだろうね。おかげで病気を治してもらうように願う人は少なくなっていった。代わりに、ナッシーが空の向こうにいる神様や、夜空のお星さまに願いを届けてくれるっていう話だけが語り継がれて、島の人々は今でもナッシーの尻尾に願いを掛けるんだって。

 ん?だったら、何で今の高さまでしか伸びなかったのかって?考えてもみたまえ。首が伸びれば伸びた分だけ、首が支えなければならない重みはどんどん増える。その結果、高い所と低い所を行ったり来たりしなくても、伸びすぎたナッシーの首が途中でぽっきりと折れてやはりぽっくり……なんてことが起こってしまうだろう?ナッシーたちはそれを本能的に知っていて、伸ばしても折れないくらいに落ち着いたのが今の姿という訳さ。


 ちょっと長くなったけれど、以上が私の考える、ナッシーの首が伸びた理由。そして、ナッシーの尻尾にもう一つの顔がある理由だ。


 もしも気が向いたなら、ぜひともアローラ地方に行ってほしいな。ほら、ナッシーたちもきっと、首を長くして待っているよ。

 え?アローラナッシーの首は元々長いんじゃないかって?確かにそうかもしれないけれど、この流れでそれを言うのは野暮ってものだよ。


 ところで、さっき庭でとれた木の実を食べていかないかい?ちょうど食べごろなんだ。ほら、あそこに見える背の高い木のてっぺんになっている、黄色くて丸い木の身なんだが……

 え、いらない?私も何度か口にしたけど、これがまたなかなかいけるんだよ。大丈夫。顔なんてついてない。これはナッシーが木の実に生まれ変わって私の元に帰ってきてくれた姿なんだ。ポケモンとしてではなく、植物としてね。遠慮することはない。食べずに捨てるよりも食べてあげる方が、この木の実を残していった彼らにとっても嬉しいことなんだ。


 ……食べないのかい?まあ、無理にとは言わないよ。ポケモンが植物に生まれ変わっただなんて、初めて聞いた人にとってはショッキングな内容だろうからね。でも、忘れてはいけないよ。私たちは自然と共に生きているってことを。我々人間は、ポケモンと、植物と、助け合って生きてきた。そしてこれからも協力して生きていかなければならないってことを。かつてナッシーがアローラ地方の人々を助けようとし、今もなおアローラ地方の人々がナッシーに敬意を表しているようにね。

 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。

※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。