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「縁切り屋さん」(作者:鳥野原フミんさん)

「アローラ! こんな暗い場所へようこそ! 

わざわざへんぴな場所へと足を運ぶということは、お困りのようだね?」

 

 中年男性は、自動車を巧みに売るディーラーのように、癖のない自然な笑顔を見せた。あるいは、話術のある熱心な宗教家か。私のように気が弱くて自己主張のできない人間が彼の話を聞けば、車だけではなく、あるいは怪しい壺か化粧品を買ってしまうかもしれない。この人が、そういうものを押しつけるような人間でなくてよかったと思う。

 確かに部屋は暗い。窓は閉ざされているし物音1つしない。唯一の明かりといえば、ブラインドから漏れてくる木漏れ日くらい。太陽の光に照らされて、空気中のホコリが光る。唯一置いてある机の上は物を置く隙間もない。まるで、潰れかけの探偵事務所のよう。

 

 だが、居心地はいい。

 それはきっと、私が吸う煙草の匂いが香っているからだろう。


「あ、ごめんね。僕はアローラ地方出身でね。アローラという言葉は、この地方でいう こんにちは という意味なのさ。気を抜いて喋ると、つい言ってしまうんだよ」

 

照れながら頭をかく男性は、本音から発言しているように振る舞った。実際そうなのかもしれない。少し肌が黒い彼の経歴が事実であれば、長い間、そのアローラ地方に定住していたのだろう。幼い頃の習慣は簡単に消えるものではないと思う。


「美しいレディさん。紹介状はもっているかな?

 ―――よし。確認オーケーだ。キド君からの勧めか。なるほどね、彼はいい人だよ。少しおっちょこちょいだけど、他人を気遣えるし、憎めない人だ。僕がもし女性ならば、彼を好きになっていたかもしれないね」

 

 色黒の男性は、歯を見せつつ、目を細めながら愉快そうに笑った。

その例え話は本音なのだろう。この男性が女ならば、きっと誰もが憧れる大人の女性に違いない。


「さあ、その椅子に座ってくれ。長時間座っても疲れない上物の椅子だよ。

 温かい飲み物でも飲みながら、ゆっくり話して欲しい。君のために、お昼までの時間は空けているんだ。慌てて語る必要はないよ。

 偶然か否か、素敵な縁を結べたんだ。なにもかもを話して、悩みを打ち明けて欲しい。

それを解決する手段を、僕はもっているだろうからね。

 だからね“僕は、ちゃんとかたきを取るよ”」

 

 気さくな笑みが崩れて、急な真顔。

 それだけで充分だ。

 この人に全てを解決して貰おう。

 そのために、私はここへ来たのだから。



「私は、ポケモントレーナーを諦めた人間です。

 当然ように、ポケモンリーグという舞台に憧れて、舞台の上に立つことなく夢を諦めました。ポケモン達と共に1つの目標へ突き進む日々は素敵なものでした。

 ですが、現実は甘くないですよね。

 終わった後に待っていたのは、当たり前の、普遍のない生活でした。

私は凡人です。取得したバッジは3つ、道中で仲良くなった相手とはほとんど連絡を取っていません。

私はいわゆる親なしで、そういう子供達が暮らす施設で育ちました。だからこそ、トレーナーとして世に飛び出したのです。世間でいう大人になった私には、帰る家もありません。

なにもありませんでした。縁も、お金も。

 なにもかもをなくした瞬間、私はただ、志を持たないままポケモントレーナーになったのだと気づきました。

 心の底から、本当になりたくて挑戦したのではなく、“なにもない私が持てる夢”だったから、楽な方へと行こうとしたのです。そこにある、緊張と苦悩の毎日を想像していなかったのです。

 実際、そういう複雑な子供達は、ポケモントレーナーを目指す人が多いようですね。そこに資格や強い許可は必要なくて、ただ決意をすれば、一歩は踏み出せますから」

 

 男性に許可を貰い、煙草に火を付けて香りを楽しむ。

 それで、話す力が湧いてくる。


「ええ。夢は大切なものです。ですが、夢が叶わなかった時のことを考えていませんでした。

 だからこそ、こうしてここにいるわけです。

 悩みながらも、共に旅をしたポケモン達を野生に返しました。苦渋の選択でしたが、私のエゴで彼らを困らせる訳にはいきません。

そして、元々いた施設へと足を運びました。

 幸いか、施設の職員に空きができていました。どうやら、私のような元子供はよくいるようで、運がよかったようです。

 施設の仕事は平凡でしたが、それでも私は現実の世界で生きていくことができました。明日に困ることはなくなりました。

 でも、人間って不思議ですよね。

 自分のことで精一杯だったのに。諦めていたのに。いつの間にか、恋人と呼べる存在が現れました。

 職場の知り合いを介して、その人とは出会いました。

 最初は仲良くできませんでしたが、彼と食事を楽しんだり、色々話すうちに、段々と打ち解けていきました。

彼は昔、私と同じポケモントレーナーでした。 

 彼の方が実力は上でしたが、私達は互いに“挫折した者同士”でした。だからこそ、仲良くなれたのだと思います」

 鏡を見なくても分かる。私の頬は緩んで、表情がほころんでいる。

 最終的には憎んでいる。馬鹿だと言われるだろうけど、彼と過ごした日々だけは、穢れのない素敵な思い出だ。


「最初は、あくまでも距離が少し近いだけの存在でした。

 しかし彼と会う時だけは、私の世界は輝いていきました。

 一緒に食事をしている時。あの人を話している時だけ、やけに気持ちが高揚しました。視界が鮮明になって、意識が覚醒します。そのうちお開きになり、彼と別れてしばらくたつと、もどかしくて切なくて、気持ちが乱れたままになります。

 私は、彼に惚れているのだと気がつきました」

 

 部屋が煙で充満する。男性は苦しいかもしれない。

 けれど私は、2本目の煙草に火をつける。集中して話をするために。


「心奪われたとは、ああいう時に言うべき言葉なのでしょうね。

 そうなってしまえば、親密になるのは自然なことです。

私達は、同じ屋根の下で暮らしはじめました。築数十年の古いアパートの六畳は、私の理想郷でした。

仕事から帰れば彼がいる。いなくても、必ず彼が帰ってくる。

 あのときめきだけは、今でも忘れられません。

 難しいことは考えなくてもいい。ただ、彼と時間を共有できればいい。

 私の人生は、彼の一部になりました。彼が笑えば私も嬉しくなり、彼が辛ければ私も胸を締めつけられます。

あの時の私は、私自身の人生はどうでもよかったのです。彼が幸せならそれでよかった。

 ですが。

 当然のように、幸福な日々は、一時的なものでしかありませんでした」

 

 黒い記憶が戻ってくる。

 人生の汚点。タイムマシンなんてものがあれば、過去の私を、殺してでも止めただろう。


「ある時から、よく体調を崩すようになりました。

 前触れもなく、我慢できないほどの強烈な眠気に襲われるようになりました。意識がもうろうとして、1日中呆けていることもよくありました。

沸き上がって来た怒りを抑えることができず、自傷行為をすることも増えていきました。寝不足が続いて、以前より顔色が悪くなりました。

 ですが、彼と過ごしている間だけは安定しました。

 彼は、きっと仕事の疲れだろうと私を慰めてくれました。確かにあの時は人手不足で、長時間労働が続いていました。そんな日は、彼はとくに慰めてくれました。

そして私の耳元で、深い愛を囁いてくれるのです。

 あの時の私は、彼を天使か、それ以上の存在として見ていました。

 今日も側にいてくれてありがとうと。私を見捨てないでくれてありがとうと」


「でも、君はもう彼を好いてはいない」

 

男性は、初めて私に問いかける。

そして煙草を手に取り、私と同じように煙を堪能する。

煙草に火をつけ、口に運ぶその姿。外見の渋さとよく似合う。


「はい。確かに彼は、私を愛していました。向こうは一目惚れだったようですが、なにごとにおいても私を優先してくれましたし、多少の我が儘も聞いてくれました。

欠かさず感謝の気持ちを述べ、面倒な役割を進んで引き受けてくれました」


「でも、あなたはもはや彼を愛していない」


「ええ。今は。

 そうです。彼を完全に信用していました。これまで受けた優しさと、共にすごした月日が、私の愛を限界まで膨らませていたのです。

彼のためならば、全てを捧げようと思っていました。

 ですが、私は見てしまったのです」

 

 あの日のことは覚えている。

 なにげない日。気分が優れない普通の夜。なんの変哲もない、ただ通り過ぎていく平凡な日。

 幸せの1ページとして刻まれるべきだった一夜。


「彼は“いつものようにお茶を入れてくれました”。

“私と会うと、必ず美味しいお茶を入れてくれるのです。”

 彼の影響で、私はすっかり紅茶が好きになりました。彼の淹れる紅茶は最高でした。忘れられない味がします。

 あの日、なんの考えもなく、彼の手伝いをしたいと思いました。というのは口実で、彼がお茶を淹れるところを見たかったのです。

あんなに美味しい紅茶を用意できるのだから、彼の技術を盗もうと思ったのです。今度は私が、彼のために美味しい紅茶を淹れようと考えていました。

 彼の後をひっそりとついていきました。そして悟られないよう、距離をおいて彼を観察していました。

 普通にお茶を沸かし、お湯でポットを温めます。ポットをお湯で満たし、茶葉を淹れました。

 そして、白い粉も」


 聴き役の男性は、初めて不快感を表に出した。

 きっと、全てを悟ったに違いない。


「彼の愛情は、彼自信の努力の成果ではなかったのです。

 あの人は私に少しずつ、薬を盛っていたのです。

 私は問いつめました。それはなんだと。彼は言いました。これは砂糖だと。私は疑いました。私が甘い紅茶が嫌いなのを知っているだろうと。あの人が困ったので私は言いました。その粉を、目の前で舐めてくれと。その正体を教えてくれと。彼はそれを拒否しました。そして、ようやく白旗をあげました。

 違法な薬についての知識は皆無でしたが、あの時の私は、それがいけないものだと直感で分かりました。

 あの人は全てを話してきました。私に惚れてしまったと。どうしても振り向かせたかったと。自分の力量では、綺麗な私を振り向かせられないだろうと。

だから、手持ちのポケモンと引き換えに、そういう薬を購入したのだと」

 

私と男性は、同時に煙を肺に吸い込んだ。

心地よい匂いは、黒い記憶を再び塗りつぶしてくれる。


「あの人には謝られました。そして迫られます。

この愛は本物だと。全てを捨てて努力をしてきたし、これからもそうすると。君のために全てを捧げると。

私は、彼を許しました。許したふりをしました。

そしてそのまま、警察へ行きました。

警察に相談した結果、あの人は捕まりました。私もジュンサーさんに問いつめられましたが、知らぬうちに薬を摂取していたという理由で釈放されました。彼は、自分が悪いと語ってくれたようで、疑いはすぐに晴れました。

そこからは依存症との闘いです。苦痛の日々です。自分自身を制御できない毎日は、思い出したくもない苦い過去です。

いや、薬はいいのです。

苦労はしましたが、今ではこうして“合法のものを吸えるので”気持ちは安定します。

問題は、怒りです。

本当に彼さえ隣にいればよかった。太っていてもよかった。容姿が悪くてもよかった。みすぼらしくてもよかった。

例え優しさは本物でも、あの人を思い浮かべると怒りしか湧いてこなくなりました。だからきっと、二度とあの人は好きにはなれないでしょう」


だから消して欲しい。

そう言いかけたところで、私の持つ煙草の灰が落ちる。

男性は、灰皿で灰を華麗に受け止める。


「だから君はここへ来たんだね」


「はい」


「請け負ったよ。依頼料は、事前に聞いたとおりだ」

 

 男性が言った数字は高額だが、充分に払える金額だ。過去を忘却するのだ。高くはない。


「エゴだと分かっています。でも、あの人の呪縛から解き放たれたいのです。

 だから、どうかよろしくお願いします」

 

 私の涙を、男性が新品のハンカチで拭いてくれる。

 スーツ姿の彼が見せる、真剣な瞳。微笑まない真顔。

 その表情を見て、ようやく私は解放されるのだと確信した。


 

 彼は皆から好かれていた。

 性格もよく、頭の回転も悪くない。空気を読むのが上手く、当然のように皆から好かれていた。知識も豊富で、ポケモンバトルの腕にも長けていた。ポケモンリーグでは敗退してしまったが、悪い結果になったとしても責める者はおらず、むしろ彼を強く励ました。

 

 そんな彼が、異性で困らないわけがない。

 側には、誰かが常に側にいた。女性について困ったことはなかった。他人が羨む人生そのものだ。

 

 それでも彼は満足しなかった。

 ポケモンマスターという夢は叶わなかったが、今は立派な社会人。人望も厚く将来を期待された、順風満帆な人生。

 それでも彼は飢えていた。

 重くて揺るがない愛を求めていた。


 ある日彼は、ある女性に一目惚れをする。

 

 理屈ではない。ただ、一目みた瞬間に好きになっていた。

 これまで彼は、他人に惚れたことはなかった。自分から想いを告げたことはなく、告白するのは、常に女性の方からだ。

だからだろう。彼女を目の前にした時、これまで作り上げきた自分を、きちんと表に出せないことに気がついた。

 

 上手く話せない。

 いつものような、癖のない、好意的な態度で接することができない。

 

彼は真剣に悩んだ。どうすればいつも通りの“表向きの自分”を引き出せるのか。彼女と親密になり、本物の愛を手にすることができるのか。

 誰にも相談することなく、ただ悩み続ける。

 毎日ひたすら苦悩する。

 その結果が、歪んだ方法だった。

 交友関係が広い彼は、そういう、少し怪しい人脈も持ち合わせていた。



『依存性は弱いが、効果は抜群だ。沢山盛るんじゃないぞ? そうなれば、抜け出せなくなって廃人になってしまうからな。

なあに安心しな。きっと、いつの間にか振り向いてくれるようになるさ』



 まさしく売人の言う通り。

 言われた通り、彼女と会う度に、少量ずつ白い粉を混ぜた。時間がたてば、段々と向こうから好意的に接してくれるようになった。いつもの自分をあまり引き出せはしなかったが、少しずつ自然に話せるようになっていた。

 

 彼は手にした。本当の愛を。

 だが、そのうち偽りは明かされた。

 それだけで、彼は全てを失った。

 人望も、地位も、やっと見つけた愛も。


 誰もが憧れる、見本のような彼はここにはいない。

みすぼらしい、身だしなみを整えもしない彼は、口を閉ざして路地裏を歩いている。

 建物の隙間。余分なものが放置された、挾間と狭間。

 その隙間の中で、彼はひたすら時間を浪費する。


 もはや、誰も彼を認知しない。

 たった1人をのぞいて。


 突然、彼は動けなくなる。


地面に物が突き刺さる音。同時に味わう、全身が縛られたような感覚。

ポケモンの知識を蓄えた彼は、自分を固定する原因をすぐに察した。

自分の外見を現わす影。地面に移る黒い影に矢が突き刺さっている。


「こんにちは。忙しいかもしれないけれど、君と少し話をしたいんだ」

 

 彼は、声の方を振り向いた。

 テーラーに仕立てられたスーツに身を包む男性。髭は剃られ、髪はオールバッグ。煙草が似合いそうな、中年の男性がそこにいる。

 

 彼の隣には鳥ポケモン。

 彼を固定した犯人。狙った獲物は逃がさない、百発百中のアーチャーであるジュナイパーがそこにいる。

 

 かげぬい。それは、男性の相棒が放った一矢。

 珍しい色をした、鳥ポケモンが彼を襲った。


「君は罪を犯した。君自身の過去は消えないだろう。

 だがね、人には誰だって間違いはある。僕も沢山間違えてきた。過去の失態は紛れもない事実であって消えることはない。

 大切なのは、失敗した後だ。

 素直に謝罪したい気持ち。誠意。一時の恥を受け入れる心。

 全てを無くした君には、それが残っているかな?」

 

 男性の声色は優しい。

 ポケモンを使い、無理に他人を拘束している。

だというのに、訓練されたカウンセラーのように穏やかな口調。


「当然、君の苦しみは分からない。分かろうとも思わない。

だが、君は彼女を真剣に愛していたんだろう? 彼女も君を真剣に愛していた。

 ならば不器用でも、純粋に関わっていればそれでよかったんじゃないか?」

 

 突然の尋問に、彼は過去を思い出す。

 忘れていた過去。歪んだ罪。

 男性とポケモンは何者なのか。ここはカントー地方だ。様々な人とポケモンが集まる地方。正体不明の、怪しい人物は多いだろう。

 

だが。

彼にとっては、全てはどうでもいいことだ。


「そうですよ。あなたには分からない。

本当に好きな相手に、振り向いてくれない恐怖なんて、あなたには分からない」

 

『ごめんなさい。あなたとは付き合えません』


 激しい恋が、最初から終わったかもしれない。そんな可能性は見たくない。

 この想いだけは、必ず伝わって欲しい。失敗すれば、きっと自分を保てなくなる。

 だから彼はつまずいた。


「それは、過去を後悔していないということかな?」


「ええ。そのうち薬は使わなくする予定でした。全てが明かされた日を最後に、もう道具に頼るのは止める予定だったんです。本当です。

 正直、異性に困った人生ではありませんでした。だから焦っていたのでしょうね。道具に頼ってあんなことをした。

 でも…」

 

 彼は真剣に考えた。心に直接問いかけた。

 これは裁判の尋問だ。自らの運命が決まってしまう瞬間。

 重くても軽くても、罰は受けるだろう。こうして捕まっているのだ。不用意な発言をすれば、重い報いを受けるのは確実だ。

 それでも緊張はしなかった。

 だから、結果がどうであれ、素直に答えることにした。


「きっと過去に戻っても、同じことを繰り返すと思います。

 僕には、そこまでの勇気はないから」


 爽やかな声だった。

 だから男性は、相棒のアーチャーに指示を出す。

 色違いのジュナイパーは期待に応え、凛とした姿勢で弓を構える。


「そうか。ならば、僕のやることは変わらないな。

 射ろ、トウゴウ」


 言葉と同時に全ては終わる。

 空気は切断され、奇妙な音だけが残る。

 そして彼に矢が刺さる。まるで吸い込まれるように。

 間違えた男性は、胸の衝撃で力尽きた。

 出血はしない。ただ、静かに絶命している。

彼の惨劇を、哀しむ者はいないだろう。犯罪者になった、彼を慕う者はいないだろう。

 

 中年の男性は、誰にも悟られることなく、今日の仕事を終えた。


● 


 今日も沢山運ばれてくる。

 人間達にとって、要らなくなったものが集められる。


 ゴミ処理場。汚くて臭いイメージを持つ場所。

 ゴミを処理する重要な施設。そこは清潔感にあふれている。

 アローラ特有の風景。

 働く人間も、ポケモンも、不快感を覚えてはいない。

 なぜなら、ゴミは全て綺麗に処分されるからだ。


「今日もよろしくな。ベトベター、ベトベトン」

 

つなぎ姿の青年は、あるポケモン達に話しかける。従業員の言葉に、ポケモン達は笑顔を向ける。

 

不定形のポケモン達。緑色の体を持つベトベターと、虹色の肉体を持つベトベトン。

ヘドロポケモンである2種類のポケモンが、沢山待機している。

 

彼らは待っている。美味しい食事を待っている。

 

人間だってポケモンだって、食事は命の源。食べなければ生きてはいけない。

彼らの食事は、人間にとっては要らないもの。彼らにとっては美味しい食事。


「そら来たぞ。ごちそうだ」


彼らの食事場。閉鎖された空間だが、圧迫感はない。べトベターとベトベトンが、過ごしやすい環境が整えられている。

そこに、大きなトラックが運び込まれる。

扉が開いて、沢山のポケモン達の前にそれはぶちまけられた。


 ゴミ。余分なもの。


「しかし、どうしてアローラのゴミ処理場なのに、遠い地方にあるカントーのゴミを片づけないといけないんですかね。向こうで片づければいいのに…」


「なんでも、向こうのべトベター達はこっちと違ってヘドロをまき散らすそうだ。だから、きちんと処理ができないんだと。

 あと……これは内緒だが、向こうのお偉いさんが、アローラの環境保護のために結構な額を寄付しているんだとさ。だから、その見返りってわけ」


「へえ…まさに資本主義ですね。まあ、こちらの環境が汚れる訳ではないからいいですけど」



運び込まれたゴミ。それを処理するベトベターとベトベトン。

彼らがなにを食べているのか。なにを栄養にしているのか。きちんと中身を確認する者はいない。


 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。

※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。