ツツケラのぴいちゃんは、オドリドリのぱちぱちさんと仲良しです。
ある日ぱちぱちさんが、ぼくの花園においでよとぴいちゃんを誘いました。
「今日、他の島から友達が遊びにくるんだ。ぴいちゃんにも紹介するよ。」
ぴいちゃんは喜んでぱちぱちさんの住むメレメレの花園へ行きました。そこはぱちぱちさんと同じ色の黄色い花が、とてもたくさん咲いている園です。
ぱちぱちさんが紹介してくれたのは、桃色の体に白い飾り羽が揺れるふらふらちゃん、赤と黒の縞模様の翼が印象的なめらめらくん、黄昏の空みたいに不思議な紫色をしたまいまいさまの三羽でした。
「ぼくたちこうして時々、お互いが住んでいる花園に遊びに行くのさ。」
「みんなオドリドリなの?」
ぴいちゃんが尋ねると、
「そうよ。みんなオドリドリなの。」
ふらふらちゃんが笑いました。
「おれたちオドリドリは、好きなミツの色で姿が変わるんだ。」
めらめらくんがウインクして教えてくれます。
「それぞれ得意な踊りも違うんですよ。」
まいまいさまが言ったので、ぱちぱちさんはぴいちゃんにも踊りを見てもらおうよ、と提案しました。それがいい、それがいいとみんな賛成です。
「見ててね、ぴいちゃん。ぼくたちの踊り!」
そして全員で一斉に羽を広げました。
黄色、桃色、赤に紫。四つの色がくるくる回り、ぱちぱち、ふらふら交差します。めらめら、まいまい羽ばたくと風がびゅうっと園を抜け、黄色い花を巻き込んで四羽の体を包みます。
ぴいちゃんは口をぱっくり開けて、時に元気よく時に優しく、激しさと妖しさを一緒にはらんで踊る四羽を見つめていました。あんまり夢中で眺めていたので、踊りが終わってみんながお辞儀した時に、拍手するのを忘れていたぐらいでした。
「ぴいちゃん、ぼくたちの踊り、どうだった?」
ぱちぱちさんに尋ねられて、ぴいちゃんは慌てて羽をたたきました。
「すごい! すごーい! とってもとってもきれいだった!」
ぴいちゃんが何度も両羽を打ち合わせてすごいすごいと繰り返すので、みんなはすっかり嬉しくなって、ふらふらちゃんなどは照れて顔を隠してしまいました。
ひとしきり拍手を続けたあとぴいちゃんは、
「ぴいちゃんもオドリドリになりたい!」
そう言いだしたので、みんなは目を真ん丸くしてぴいちゃんを見ました。
「ぴいちゃん、オドリドリになりたいって本当に?」
「ぴいちゃん本当にオドリドリになりたい!」
「あのねぴいちゃん。ツツケラはケララッパっていうポケモンに進化するのよ。」
「ぴいちゃんオドリドリに進化する!」
「そりゃすごいや。おれたち、ツツケラから進化した世界で初めてのオドリドリと、友達になるわけだ。」
「めらめらくん、からかうのは良くありませんよ。」
まいまいさんがぴしゃりと叱り、それからぴいちゃんのほうを向いて優しく言いました。
「ぴいちゃん、ツツケラはオドリドリにはなれないのですよ。違うポケモンですからね。ごらん、羽の色も形も全然違うでしょう?」
それを聞いたぴいちゃんは、とても悲しそうな顔をしました。
「でも、ぱちぱちさんも、ふらふらちゃんも、めらめらくんも、まいまいさまも、みんな違う姿だよ。ぴいちゃんだけオドリドリになれないのおかしいよ。」
そして目に涙をいっぱいためたので、みんなは困ってしまいました。確かにぴいちゃんの言う通りです。みんな違う色と形だからこそ、組み合わさって素晴らしい踊りができることは、オドリドリたちが一番よく知っていました。
そうだ、とひらめいたのはぱちぱちさんです。
「みんなでぴいちゃんに踊りを教えてあげようよ。そしたらぴいちゃんも立派な踊り鳥さ。」
それはとても良い考えだとみんな思いました。
こうしてツツケラのぴいちゃんは、オドリドリたちに踊りを教えてもらうことになりました。
「まずはぼくが踊りを教えるね。」
ぱちぱちさんが言いました。
ぱちぱちの舞いは元気の踊り
笑顔はじけて 心はじけて
楽しい気持ちが踊りだす
沈んだ気分に電気を流して
ぱちぱち輝くオドリドリ!
元気よく羽と足を動かしながら、ぱちぱちさんは踊りのポイントをぴいちゃんに説明します。
「さあ、やってみて!」
けれどもぴいちゃんは教えてもらった通りに踊ることができませんでした。特に、ぱちぱちさんが羽毛にたまった電気を飛ばして、ぱちぱちきらきら踊るところが、どうしても上手く真似できません。
がっかりするぴいちゃんを、ふらふらちゃんが慰めました。
「次はあたしが教えてあげるわ。」
ふらふらの舞いは優しい踊り
心をあなたに捧げましょう
心を神に捧げましょう
願いを そして祝福を
ふらふら祈るオドリドリ……
ゆったりとした動きでぴいちゃんの手をとりながら、ふらふらちゃんは流れるような羽ばたきを確認します。
「さあ、やってみて!」
けれどもぴいちゃんは教えてもらった通りに踊ることができませんでした。特に、ふらふらちゃんが強く念じながら踊って、周りの花びらをふわふわ浮かせるところが、どうしても上手く真似できません。
しょんぼりと落ちこんだぴいちゃんの肩を、めらめらくんがぱちんと威勢よくはたきました。
「大丈夫大丈夫! まだ半分上手くいかなかっただけじゃないか!」
ぴいちゃんは少し元気を出して、めらめらくんの隣に立ちます。
めらめらの舞いは炎の踊り
燃えよ とどろけ 思いのままに
喜び あざけり 嘆いて 笑え
感情すべてを燃料にして
めらめら激しいオドリドリ!
めらめらくんは先の二羽よりもずっと速い不規則なテンポでステップを踏みました。ぴいちゃんも一生懸命めらめらくんについていきます。いいぞ、その調子! と途中までは順調でしたが、とうとう足がからまって、ぴいちゃんはすってんころりんとひっくり返ってしまいました。しかも転んだ先に、めらめらくんが踊りながら出した炎の残り火があったものですから、さあ大変!
「あちちちち!」
まいまいさまが急いで駆け寄り助けてくれたので、火はすぐに消えましたが、ぴいちゃんの可愛いしっぽの先っぽが、ちょっぴり焦げてしまいました。ぴいちゃんは今にも泣きそうな顔をしています。
「ぴいちゃん、踊りはもう、諦めましょうか。」
ぴいちゃんの頭を優しくなでて、まいまいさまが尋ねました。するとぴいちゃんはくすんと涙をひっこめて、
「ぴいちゃん、オドリドリになりたいの。まいまいさま、踊りを教えてください。」
ぺこりとまいまいさまにお辞儀しました。それでまいまいさまもたいそう心を動かされて、分かりましたとお辞儀を返しました。
まいまいの舞いは妖しい踊り
つむぐのは長き物語
見せるのは遥かな夢幻
眠れる者の永久の時を
まいまい導くオドリドリ……
はんなりはんなり、しゃなりしゃなりと、まいまいさまの踊りは遠い異国をたゆたうようです。
「体ではなく、魂で踊るのです。そう、そうです。お上手お上手。」
まいまいさまに手取り足取り教えてもらい、ぴいちゃんの心もふわりふわりと宙を舞います。初めて最後まで踊りきれるかと、誰もが期待したその時、
「きゃっ!」
突然ぴいちゃんが飛び上がり、そのまま目を回して気絶してしまいました。慌ててぴいちゃんの側に走る三羽。
「ぴいちゃん! 大丈夫!?」
「大丈夫ですよ。たぶん、びっくりしただけ。」
うーんとうなるばかりのぴいちゃんの代わりに、まいまいさまが答えました。
「でも困りましたねえ。ここはあれを呼ばないと、どうしても踊りが成立しないのですけれど。」
「ね、ねえ。ぼく前から気になってたんだけど、あれって何なの?」
「聞かないほうがいいぜ、ぱちぱちさん。おれ間違って見ちゃったことあるんだ……。」
まいまいさまは羽をぱたぱたとあおいでぴいちゃんの顔に涼しい風を送ってやりながら、黙って薄く微笑みました。
しばらくするとぴいちゃんの意識が戻ったので、みんなはほっとしてぴいちゃんの名前を呼んだり、大丈夫? と体をさすってやったりしました。
ぴいちゃんは少しの間ぼんやりとオドリドリたちを眺めていましたが、やがて彼らに教えてもらったどの踊りも上手くいかなかったことに気がつくと、とうとうわっと泣きだしてしまいました。
「ぴいちゃんは、やっぱりオドリドリにはなれないんだ!」
そのあまりの声の大きさに四羽はびっくり! 一番ぴいちゃんの近くにいためらめらくんは、驚きすぎてひっくり返り、きれいな後ろ一回転を決めてしまったほどでした。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って! なんて大きな泣き声なの!」
「本当に、とんでもない声だ! こんなの聞いたことない!」
「すごいです、すごいですよぴいちゃん!」
すごいすごいと、オドリドリたちが次々言うので、ぴいちゃんは思わず泣き止んで首をかしげました。
「ぴいちゃん、すごいの?」
「すごいよ、ぴいちゃん! そうだ、ぴいちゃん。踊るよりも歌うといいよ。その大きな声、きっとどこまでも響くはずだ。」
「そりゃあ名案だ! ぴいちゃん、おれたちの踊りに合わせて歌を歌ってくれないか?」
やっと起き上がっためらめらくんが、待ちきれないようにステップを踏みながら頼みました。そうよ、お願いします、とふらふらちゃんとまいまいさまも踊りの体勢を取ります。
ぴいちゃんがどうしよう、とまごついていると、ぱちぱちさんがそっとぴいちゃんの背中を押しました。
「大丈夫だよ。気持ちをうんと込めて、思いきり大きな声で歌うんだ。その音が風に乗って、ぱちぱち、ふらふら、めらめら、まいまい、羽ばたきながら踊るところを想像して。」
ぴいちゃんはうなずいて、すうっと息を吸いました。飛びたったのは、ぱちぱち輝く元気な歌と、ふらふら祈る優しい歌と、めらめら激しい炎の歌と、まいまい導く妖しい歌。
そのメロディに乗ってオドリドリたちは、今までにないほど上手に美しくその羽をなびかせました。それを見たぴいちゃんも嬉しくなって、さらに大きく歌います。ぴいちゃんの声は、高く高くのびやかに空気を震わせながら、花園中を舞いました。
それはまるで見えない五羽目のオドリドリが、一緒に踊っているかのようでした。
踊るオドリドリたちと歌うツツケラ。アローラ地方各所の花園では、楽しそうに舞い遊ぶ五羽の姿が時々見られるということです。
おしまい
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。
※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。