僕はトレーナーと飛行機の搭乗待ちをしている。
本当はね、もっと早く。そう、昨日の飛行機でジョウトに帰る予定だったの。
でも、嵐が来てるからって欠航。今日も相変わらず欠航になりそう……。
でも、アローラでのバカンスは楽しかった。
今までジョウト地方しか知らなかった僕とトレーナーだけど、何を思ったのかトレーナーが「海外旅行に行こう!!」って、突然休暇取ってアローラまで来ちゃうんだから……。
まあ、僕も初めての土地というのに興味があったからついてきたけど。ジョウトと違って、なんと言うか「まったりしているようで。でも、野性味あふれている」って感じがしたな。
『搭乗ゲート19番。ジョウト航空アローラ国際空港発、コガネ国際空港着、586便のご搭乗手続きをお待ちのお客様。誠に申しわけございません。本日は強風と雨で視界不良のため、586便は欠航させていただきます。ご搭乗をお待ちのお客様は、ジョウト航空の出発カウンターにて振替便の手続きを行いますので1時間後に、パスポート搭乗券をご持参の上お越しください』
突然のアナウンス。でも、搭乗ゲートで待っていた人たちはなんとなく予想していたから、溜息をつくと荷物をまとめて出発カウンターの方に向かっていく。僕の飼い主のトレーナーも、同じように立ち上がる。
「まっていな。再手配してくるから。荷物よろしく」
1時間後に受付開始と言っても、並んでおかないと早い飛行機の席は埋まっちゃうんだってさ。昨日、そう教えてもらった。僕としては、手持ち無沙汰で仕方ないけど、昨日に引き続き荷物番。
「暇。暇、暇暇暇……」
そう呟いても、同じ気持ちで荷物番させられているポケモンか、人間達しかいないんだけどね。結局彼らも、暇で僕と同じように刺激を求めている。荷物の周りをウロウロしたり、周りを不必要にキョロキョロしていたり。
そんな光景を目にしているってことは、僕もキョロキョロしている訳で……。何か面白いことないかな?
ふと目に付いたのは、空港の中で営業しているレストラン。
怪しげな店主が厨房で料理をしているのが見えるんだけど、僕が気になるのは隙をうかがっているこの地方のラッタ。店主もラッタの動きを気にしながら……。
ラッタが、厨房に吊り下げられている大きめのソーセージの束をひったくる。店主は鉈のような包丁を振り回してラッタを追いかける。レストランの周りでは悲鳴が上がって、ラッタが通気孔に逃げ込む。
ちょっとした見ものだったけど、すぐ終わってしまって面白くない。店主は通気孔に散々悪態をついて店の中に戻っちゃった。つまんないの……。
でも、ちょっとしたら。面白いことが起こりそう。通気孔を走り回る足音が近づいてきたから。
どすん!!
ラッタが、通気孔から飛び降りてきた。周りの人間もポケモンもびっくりしてこっちを見てきたけど、待ちくたびれた人々やポケモン達はすぐに興味をなくして自分達のしていた事を再開する。
「あの?」
僕は暇つぶしにラッタに声をかける。
「んあ?」
「それ、美味しいの?」
「これか?」
ラッタは僕にソーセージの束を見せてくれた。僕は頷く。
「これなあ、美味いときと不味い時あるんだよなあ……」
「なんで?」
「あの店主が腸詰した時は美味い。けど、他の厨房のやつが詰めると不味い」
「ふーん」
ラッタはそれだけ言うと、ソーセージを頬張る。食べっぷりを見てると美味しい方だったみたい。そんな様子を見ていると僕もお腹がすいてきちゃったなあ。
「なんだ? お前も食いたいのか? 今日は当たりだったぞ」
「いいの?」
「一切れやるよ。ところでお前はなんて種族だ? どこから来た?」
ソーセージを受け取る。一口齧ると確かに美味しい。
「僕はジョウトって言う所から来たんだ。種族? オオタチって言うんだよ」
「へえ? 多分遠い所から来たんだな」
「うん。何時間もかかるよ」
「わざわざご苦労だな」
ラッタはもう一切れソーセージをくれた。
「苦労ってほどじゃないけど、知らない場所はちょっとワクワクして疲れるね」
「そんなものなのか? 俺はこの空港しか知らねえからな。ま、美味い飯はあるし。賑やかでいい所だ」
ラッタはその後、楽しそうにこの空港の事を話してくれた。
僕は小さな空港だと思っていたけど以外と大きいとか、そんな話はどうでもよくってお腹がすいてきた。中途半端にお腹に食べ物を入れたのがいけなかったのかな……。
お腹すいた。
「お腹すいた。いただきます」
僕は目の前の美味しそうなご馳走。丸々と肥えたラッタに噛み付いた。久々の野性味溢れる食事。
「うん。美味しい!!」
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。
※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。