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「わたしの居場所」(作者:しっくろさん)


きっかけは、ただ――何となく、だったと思う。


ちょっとした好奇心から、始めてみたことで。


最初のうちは、本当に少し試してみただけだった。


それが今、こうして引き返せないところまで来てしまった。


そんなことを思いながら、わたしは荒げた息を整えるのだった。






わたしは、幼い頃から、よく寝る子だと言われてきた。


確かに、同い年の子と比べても、わたしの寝る時間は長かった。


ついでに言うと、目覚めるまでの時間も長い――寝起きも悪いのだ。


休むために、寝るために、用意されたベッド。


そこは、居心地が良くて、離れたくなくて。


だから、仕方のないことなんだ、って――自分に、そう言い聞かせて。






わたしは少し前に、お母さんと一緒に、生まれ育ったカントーから、アローラへ引っ越してきた。


お母さんが言うには、もっとのんびり過ごせる場所に行きたかったみたい。


あの頃はカントーの中でも中心に位置する、ヤマブキという都会に住んでいたから、少し狭かったのかも。


引っ越してきた家も町の外れにあるし、静かで心地よく感じた。


なるほど、のんびり過ごしたいという、お母さんの気持ちも少し分かった。


わたしとしても、ぐっすり眠れて、とても気持ちよさそうな場所だと。


夜中にうるさい音がする、なんてことも全然なさそうだったし。


そんなことを、あの時のわたしは考えていたんだっけ。






わたしが、アローラの風習である島巡りを始めて、数日経ったある日。


その日のわたしは、ククイ博士の研究所を訪れていた。


近くにあるテンカラットヒルで捕まえたポケモンの報告をしようとしたけど、博士は留守だった。


助手であるリーリエも出かけているのか、この建物の中には誰もいないみたいだった。




この時、わたしは、ちょっと前から気になっていた場所に足を踏み入れようとする。


リーリエが普段使っている、ロフトのスペースにお邪魔してみることにした。


入らないで欲しいと言われたら入りたくなっちゃうよね、うん。


少しだけ見るぐらいなら大丈夫と言い聞かせて、梯子を登る。


そこは綺麗に片付いていて、特に見られたくないものもなさそうだった。


それより、わたしの目を引いたのは――リーリエが使っているだろう、大きなソファベッドだった。




誰もいないし、ちょっとぐらいなら……と、寝転がってみる。


ついさっき、山道を歩いていた疲れが癒やされていくような。


他人が使っているベッドなのに、どうして、こうも寝心地がいいのだろう。


正直、自分のベッドよりも、とても寝心地がいいと思う。


このまま一眠りしたかったけど、それは思い留めて、起き上がる。


そして、この時のわたしは何を考えたのか、妙なことを決意した。






一番、寝心地がいい場所はどこにあるんだろうか、と。






それからは、旅の途中で見かけたあらゆる寝床を試してみた。


その人それぞれの雰囲気というか、空気というか、そういったものを感じ取れた。


どれも違った良さがあって、なかなか一番は決められない。


ああ、でもルザミーネさんのベッドは凄く良かったなぁ。


リーリエと一緒に包まれているような気分になって、とても心地よかった。


そんなことを考えながら、わたしはこの締めくくりとして、最初の場所を訪れる。


ククイ博士の研究所――その中にある一角、リーリエのソファベッドへ。






この時もまた、誰もいないのをいいことに寝転がってみる。


……やっぱり、わたしはここが一番、落ち着くと実感する。


リーリエの匂いに包まれながら、これまでの思い出を振り返る。


母であるルザミーネさんを追うために、心機一転して、頑張る姿を見せたリーリエ。


守られるだけじゃなくて、自分から先へ進むための一歩を踏み出したリーリエ。


無事に母を助け出すことができて、嬉しそうにお礼を言ってくれたリーリエ。


眩しいばかりの笑顔を見せてくれたリーリエ……リーリエのことばかり、頭に浮かんでくる。






……どうしてだろう、リーリエのことを考えると、こんなにも胸が熱くなってくる。


凄く、どきどきする……何でだろう、ここは、一番落ち着く場所だったはずなのに。


わたしの手は、無意識に自分の胸へと伸びていき、そっと先端に触れる。


その瞬間、ピリっと軽い電気が走ったような感覚がした。


何だろう、ちょっとだけど、気持ちよかった、ような……。


それを確かめるために、今度は自分の意思で、手を動かす。


自分の胸を撫でて、こねるように動かしてみる。


今度は、気持ちいいのが続けて襲ってきている。


身体が疼いている、もっと気持ちよくなりたい……!


そう思った時、お腹よりも下の部分が熱くなっているのを感じた。




わたしは、躊躇うことなく片方の手を、そこへと伸ばした。


そして、そこへと直接触れた瞬間、凄く気持ちいい波に飲み込まれる。


触れた指を動かし、弄くり回す度に、気持ちよさが押し寄せてくる。


何だか、とてもしてはいけないことをしているような気持ちになってくる。


リーリエの匂いが、それをますます強めているような気がして。


疼きを止めたいのと気持ちよくなりたい思いが混ざってぐちゃぐちゃになりそう。


そのままわたしは動かす手を止めることができず……心と体がますます昂ぶってくる。




やがて溜まってきたそれは、一際大きな快感の波となって、わたしの身体を打ち付けてくる。


全身を震えさせながら、どうにか声だけは上げないよう、必死に自分自身を抑え込む。


その波が止んでから、わたしは呼吸を整えて、自分の気持ちを落ち着かせる。


……多分、してはいけないことを、してしまったのだろう。


そのことを後悔するも、わたしは一つの可能性に思い至った。


それを胸に秘めつつ、自分がいた証拠を消して、その場を去った。






それから、わたしは図書館などで調べ、あの行為がどういったものなのかを知った。


より強まった後悔と恥ずかしさで、消えてしまいたくなるほどだった。


ただ、これで一つだけ……わたしは確信を得た。




わたしは、リーリエのことが……好きなんだ、って。




リーリエは、わたしにとって特別な女の子。


もしかしたら、出会った時から、そう思ってたのかもしれない。


とても儚くて、すぐにでも消えてしまいそうな少女に見えて。


守ってあげたい、守ってあげなくちゃ、ってずっと思っていた。


一緒に旅をしているうちに、彼女のことも分かってきて。


少しずつ、わたしの思いは、想いに変わっていったんだろう。


リーリエのことを考えると、胸がどきどきして、切なくなる。


女の子が、女の子に恋するという、普通ではないようなこと。


だから、それを多分、普通の恋よりも強く感じているんだと思う。




でも、この気持ちをリーリエに打ち明けるわけにはいかない。


おかしいことだって、分かっているから……だから、言えない。


こうして想いを秘めたまま、過ごしていくのかな、と思っていた。






それからわたしは、島巡りを終えて、新設されたポケモンリーグの初代チャンピオンになった。


その数日後のことだった……リーリエが、カントーに旅立つという。


未だ治らない母の容態を回復するための手がかりが、そこにあるらしい。


そのために、今度は自分がポケモントレーナーとなって、カントーを旅するみたい。


わたしは、胸の中の寂しさを隠しつつ、笑顔で彼女を見送ってあげた。


別れ際に渡されたピッピ人形を、強く、強く抱きしめながら。






そして今、わたしは――リーリエのベッドの上で自分を慰めた後、寝転がっている。


あれから、胸の寂しさを埋めるように、何度かリーリエの場所を訪れている。


リーリエの匂いに包まれている時が、今のわたしには一番幸せで。


わたしにとって、一番居心地がいい場所は、リーリエの傍だったんだ。


彼女が遠く離れて、近くにいなくなってから、わたしは思い知った。


こうなるぐらいなら、あの時、ちゃんと告白していれば良かった。


結果がどうなろうと、今のわたしよりはマシな状態になってたはずだ。


わたしは今も想いを秘めたまま、禁断の行為をしている有様。


あの日から、様子を見る体でここを訪れつつ、この行為をやめられない。


今のわたしには、ここが一番、居心地が良くて、離れたくない場所で。


それでも、こんな姿を……他の誰よりも何よりも、リーリエには一番見せられないとも思う。




寂しい、辛い、切ない、寂しい、会いたい、寂しい――




彼女からもらったピッピ人形を抱きしめながら、意識が落ちていく。


リーリエの匂いに包まれながら、優しく見守られているような気がする……。


こういうところは、ルザミーネさんに似てきてるのかな……。


リーリエ……早く……帰って、きて……。




そんなことを思いながら、わたしは、まどろみの中に、沈んでいった。






























わたしは、遠いアローラの地に思いを馳せる。


かつて、わたしが生活していた場所であり。


今、わたしの想い人が待っている場所。


あの時、告げることができなかった、わたしの気持ち。


告げてしまったら、決意が鈍ってしまうと思い、隠していた気持ち。


あの人も、同じ気持ちを隠しながら、日々を過ごしているのだろう。


でなければ、わたしのベッドに、あの人の匂いが付くわけなど、ないのだから。


だからこそ……わたしは早く、目的を達成しないといけない。


お母様を、一刻も早く元気にしてあげてから、戻ってくること。


そうして、あの人の元に帰ってきた時、今度こそ、わたしは……。






――待っていてください、必ず、必ず……あなたの傍に、戻ってきますから。





 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。

※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。