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100日後に押し倒される幼馴染

作者:恋愛脳

 ぶち犯したい。

 別に彼女の事を意識していた訳じゃなかった。
 空から落ちてきたニンゲンのテルに選ばれたのだって、毎日のように外に駆り出されて、疲れ果てて帰ってくるのを見て、大変だなあって思うくらい。
 暫く経てば進化して、出来る事が増えたと喜んでいたけど、そんな日々も残されたボク達はのんびりと過ごすだけ。
 別にそれで良かったし、日向ぼっこをしながら、彼女は遠い世界に行ってしまったんだなあ、って時々思うくらいだった。
 でも、ある日、更に進化して帰ってきた彼女を見て、ボクの股間は一気に空高く突き上がった。
 どくんどくんと胸が激しくて、でもその場で出してしまう事だけは我慢して、物陰にまで走って。
「はぁ……はぁ……うっ…………。
 はぁ……はぁ……」
 分からない。どうして一目見ただけでここまで興奮してしまったのか。分からない。
 物陰から顔を出して、ギンガ団本部にテルと一緒に入っていく、その横からの姿を見ただけで、またボクは一気に興奮してしまった。
 ボクは……ボクは、彼女に元から惚れていたんだろうか。
 そんなはずはない、と思う。だって、彼女でここまで興奮した事はこれが初めてだったから。幼馴染以上の感情なんて覚えた事なんてなかったはずだから。
 どうしてだろう。どうしてだろう。
 気付いたらギンガ団の建物の片隅がむわっと臭うようになってしまって、慌てて土で埋め返す。
「はぁ……はぁ……」
 ちょっと、これは、博士の元には戻れない。
 時間を潰そう。……いや、彼女がテルと一緒に外に出ていくのをちゃんと確認してから戻る事にしよう。

 涼しくなってきた今頃の季節に、互いの輪郭が薄らと見える位の月明かりの下で、口を奪って押し倒したい。
 そのまま強く抱きしめて、ボクにされるがままにぶち犯したい。
 勢い良く攻めるボクに、痛みに耐える彼女がボクの肩に強く噛み付いて、その痛みで更にボクは加速したい。
 彼女の耐えきれない嬌声を聞きながら、彼女の体の、ボクとは違う体温と、ボクとは違う肌触りと、ボクとは違う胸の鼓動と、とにかくその身の全てを感じながら、ボクは彼女にぶちまけたい。
「うっ……はぁ……」
 真夏の、この北の大地でも暑くなる季節に、海辺で愛し合いながら熱烈にヤりたい。
 誰もいない、真夏の太陽に焼かれた海辺の砂地で、互いに砂で塗れるのも気にせずに、ごろごろと転がって主導権もごろごろさせながら、それでも密着したまま。
 口にそれぞれ舌を捩じ込もうと争いながら、もう何度目かも分からない絶頂を互いに迎えながら、互いに精魂尽き果てた時に綺麗な夕方を迎えて、繋がったまま、ひたすらに続く波音を聴きながら、ゆったりと、ぐっすりと眠りたい。
「ううっ、うあっ」
 極寒の季節に、唐突に呼び出されて、廃屋にまで連れられて、そこで押し倒されたい。
 外と大して変わらない、真っ暗で狭い部屋の中。隙間風すら入ってくるその冷たい空気の中で、互いの体温で暖を求めながら、無言のまま、移動だけで一気に冷たくなった体を解すようにゆっくりと始めて欲しい。
 寒さに震えながら、無言のまま。互いの体を抱き抱えるその感触と、息遣い。交わる熱さばかりを何よりも敏感に、感情さえも敏感に感じ取りながら、ゆっくり、ゆっくりと果てていきたい。
「ううっ……どんどん出てくる……」
 でも、でも、やっぱりシンプルにぶち犯したい。
 彼女の全てをボクが奪いとりたい。
 テルから引き離して、図鑑の完成だとか、キングの暴走を治めるだとか、そんなよく分からない事に付き合わせるのをやめさせて、一から十まで全部ボクのものになって欲しい。
 正直、それなら何だって良い。本当に何だって良い。
 テルを目の前で殺してみせて、その凛々しい顔に死ぬまで追いかけられるのならば本望だ。それだけの力が今ボクに与えられるのならば、ボクは今晩にでもテルを殺して、ボクが殺ったという証拠を残してから、このムラを出て見せよう。それから入念に準備をして、彼女を捕らえてみせるのだ。そして「殺してやる! 殺してやる!!」と叫ばれながら、その殺意剥き出しな目で睨みつけられるのを始まりとして、段々とボクのものとしていくのだ。
「うっ」
 でも、きっとそれだと、愛し合うなんて出来ない。人気のない木陰の淡い月光を浴びながら愛し合ったりだとか、砂浜でごろごろしながら愛し合ったりだとか、廃屋の中で静かに互いの体を日の下よりも何よりも鮮明に感じ取りながら愛し合ったりだとか、そんな事出来ない。
 でも、でも、きっとボクがどれだけ頑張ったところで、彼女にとっての一番はボクにはならない。テルのままだ。
 ああ、テル。ひどいよ。何で空から落ちてきたのさ。出会った瞬間、その首を引き裂いておけばよかったとさえ思うよ。
 どうしたら良い。どうしたら良いんだろう、ボクは。
 諦めるなんて出来そうにない。出来ないんだ。
 彼女のことをとりわけ良く知っていた訳じゃない。多分、今となってはテルの方が彼女の事を良く知っているだろう。
 でも、だからと言って、彼女そっくりの同族が今この瞬間に差し出されたってボクはきっと満足出来ない。ボクはそれを受け入れられない。
 そもそも、どうして彼女があんな凛々しい、進化しただけじゃない、それこそ一皮剥けたような顔付きになったのだろう。
 いや、ボクはそれを知っている。彼女は時々ある休みの日に、テルとの旅の事を良く話してくれたから。
 テルと共に外に出るようになってから十日も経っていない頃、酷く落ち込みながら帰ってきた時があった。
『私……少し、浮かれていたんだと思う。
 ちょっとばかし成長して、苦手だった相手も倒せるようになって。
 間違ってオヤブンを怒らせてしまってね……。しかも、足が竦んで動けなくなっちゃって。
 でも、テルはそんな私を、ボールに戻す事すら忘れて、抱き抱えて、走って逃げたんだ。とにかく、ずっとずっと、ナワバリの外まで執拗に追ってきたオヤブンから身を隠しながら、私を優しく撫でて震えを抑えることまでして……。
 もう、私、こんな間違いはしない。絶対に』
 テルが初めてキングを鎮めた時。
『テルったら凄いの!
 あんな、まともに食らったら体が弾け飛びそうなキングのバサギリの攻撃を避けて避けて避けて、そして鎮めてみせたの!
 私だったら、あんなバサギリの目の前に立たされたら、腰が抜けてまた動けなくなっちゃうなあ……。
 もっともっと、強くならないと』
 そんな彼女の話をボク達は、どんどん遠くに行っていくなあ、と思いながら聞いていたものだった。
 それらは全部が全部、テルの凄さばかりを強調するようなものだったけれど。
 帰る度に傷塗れの、薬の臭いをぷんぷんとさせたりだとか、進化していなくても見るからに一線を超えたような、激しい戦いを経て強くなったと思わせるような雰囲気を纏わせたりだとか、彼女もそのテルの右腕として活躍している様ははっきりと分かっていた。
 ……一皮剥けたような顔つき。一線を超えたような。
 いや、いや、まさか。まさか、ね?
 体が一気に冷えていく。水に入った訳でもないのに。
「とにかく、水に入らなきゃ、帰れもしないや」
 ボク自身の臭いがもわっと立ち込めていた。
 とても冷たい川に下半身だけを浸からせて、もうカピカピになっているのを擦って落として。
 その冷たさが、ボクの血走った思考を落ち着かせてくれるようで、一度、深呼吸。うん、そうだ、深呼吸。
 すーっ、はーっ。すーっ、はーっ…………。
 うん……ボク、どうかなっていた気がする。
 思い返してみれば、ちょっとボク自身もドン引きするような考えを頭の中で走らせていたような……。
「……そうだ、帰ろう」
 水から出て、ギンガ団本部へと。濡れてるのは、転んじゃったんだとか誤魔化しておく事にして。
 そんな時、扉が開いた。
 中からテルと彼女が出てきた。
 彼女はテルにくっついていて、ボク達に見せた事のないような笑顔をしていて。
「ははっ、人前でやめろって。こそばゆいよ」
 テルも笑いながら彼女の頭を撫でて、そしてくっついたまま宿舎へと帰っていく。
 彼女の足取りは軽やかで。
 ぽたりと地面に染みを一つ、待ちきれないように落とした。
「あ、あ、あ、ああ、ああああ? ああああああああ?!」
 あ、あ、あいつら、もう既にやってる。ヤッてやがる!!
 あの宿舎の中で、夜な夜なあんな事やこんな事してるんだ。そうに違いないんだ!
 ボクが思い描いたような、あんな事や、こんな事をもう、もう、もう……もう、既にやってるんだ!! 何度も何度も何度も何度も!! そうじゃなきゃ、そうじゃなきゃ、あんなくっついたりするもんか!! あんな柔和な顔するもんか!! 真昼間からぽたりと垂らしたりだなんてするもんか!!!!
「ああああ、ああああああああ、ああ、ああああああ!!」
 あのクソ野郎は彼女がどのように誘ってくるのか、彼女と共に過ごすその空気感を、彼女を抱いた時の肌触りを、口の中のねっとりとした熱さを、その舌がどのように自分の口の中に捩じ込まれていくのか、彼女がどのように攻めてくるのか、彼女がどのように攻められたいのか、彼女の中がどれだけ気持ちいいのか、彼女が果てた後にどんな表情をするのか、どれもこれも、どれもこれも知ってるんだ! 知ってるんだ! その身で覚えているんだ!! 体に刻み込まれてるんだ!!!!
「やだっ、いやだっ、やだ、やだ、やだやだやだっ! やだやだやだやだ!!」
 どうして彼女の隣に居るのがボクじゃなかったんだ。どうしてあの空から落ちてきた良く分からない奴に彼女の初めては奪われてしまったんだ。どうして、どうして、どうして、どうして、ボクはこんなにも不幸なんだ? アルセウスなんてもの信じてる訳じゃないけれど、もし、前世というものがあるのならば、きっと、きっとボクは何か酷い事をしたに違いないんだ!!
「あがっ!? ……はぁ……はぁ……。…………あれ、ここ」
 気付いたら、砂浜だった。息が切れている。足が疲れている。走っていたみたいだった。
 ざあ、ざあ、とひたすらに波が打ち返していた。何かに悩んだ時、この音を聞いてただぼうっとする事で心を癒す人が多いと言う。
 それで? このボクの心は微塵にでも癒されるのか? こんな、こんな他愛もない波の音で? 馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの?? こんな波の音で癒される程度の悩みなんて、悩みじゃない!
「う、う、う、う、うわああああああああああああああああ!! ああああああああああ!!
 …………どうか、どうか、何でも良い、誰でも良い、ボクに、ボクに、力をください。
 全部をぶっ壊せる力を。あのクソ野郎をぐちゃぐちゃに出来る力を。彼女の全てをボクのものに出来る力を。
 どうか、誰か、誰か、誰か、誰か……。
 …………。
 ……………………うう、ううああ」
 ……世の中は理不尽だ。理不尽過ぎる。ボクには何もない。何も与えられない。
 ボク自身の手で、掴み取るしかない。
 それが……それが、どんなに遠くても。
「ああ、ああ、頭が割れそうだ」
 それにどれだけの時間が必要だと言うんだ!? その間に、あのクソ野郎と彼女は何十回、何百回と交わるんだろう。そうして深まっていってしまうんだ!!
 でも、でも、ボクは……そうするしかない。この怒りで、ボク自身がどうにかなってしまう前に。
「…………帰ろう」
 ああ、ああ……。どうして、なんで。
 なんで、ボクは。




「ど、どうしたのですか!? 君も奇声を上げて走り回ったりだとかして……、どこも悪くないですか?」
 博士が戻ってきたボクに対して、心配するように声を掛けてくる。
 ……君、も?
 部屋に戻ると、精魂果てたようなもう一匹の幼馴染が。
 やつれた、酷い顔。
 きっと、ボクも同じような顔をしているんだろう。
 でも、自ずと顔を見合わせる。
「…………」
「……………………」
 手を取り合う。
 ボク達は、組む事にした。

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