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火の玉ストレート!

作者:ホワイ川ティ児

 サッカー――競技戦闘、野球と並びこの国でトップクラスの人気を誇るスポーツ。その名門校であるセンキョウ高校のグラウンドを、新入生のラビフットが訪れていた。彼の名はキネ。小中とサッカークラブのエースとして活躍してきた彼は、当然この学校でもサッカー部へ入部するべく、部活動の体験会へ参加しに来ていた。そこでは先輩達が部活動の準備を進めていたのだが、サッカーゴールは邪魔であるかの様に隅へと運ばれて行く。キネが不思議に思いながら眺めていると、背後から聞き慣れた声で呼び掛けられる。
「あれ、キネ? 何でいんの?」
 キネが振り向いた先には、尻尾に金属バットの挿さったテールナーの姿があった。彼の名はフル。キネとは小学校からの幼馴染で気心の知れた仲である。
「いやこっちのセリフだけど。お前野球でしょ?」
「うん、だから来てんだけど……」
「いや今日ってサッカー部の体験会っしょ? 土曜だし……」
「え、いや野球部が今日だったはず……だったと思うんだけど……」
「マジ?」
 慌てて鞄から体験会の日程表を取り出し確認する。サッカー部の体験会の日時の欄には、『4/12(土) 11:00』の文字。そして今日は、4月11日の土曜日であった。
「あー、誤植だねぇ……これ多分日曜だね。明日明日」
 覗き込みながらフルが言う。ついでに野球部の日時も見てみると、確かに今日の日付が書かれていた。キネは溜め息と共に言葉を零す。
「マジかー……いやほら今週の土曜日って覚えてたからさぁ……」
「あー……ま、しょうがないね。で、これからどうするの?」
「まぁそりゃ帰るけど」
「せっかくだし野球部の体験会一緒にやってかない? 無駄足ってのも癪でしょ?」
 突然の提案にキネは面食らう。
「はぁ? いやまぁそれはそうだけどほら、入る気ないのに参加するのも失礼じゃん? 完全に冷やかしじゃん」
「入る気ないのにわざわざ体験しに来てくれたんだーって好印象かもよ?」
「いやーその思考はよう分からん。まぁないだろ」
「じゃあ興味は? 興味があるかで言うと?」
「んーまぁ、なくは……ないけどよ。体動かすのは好きだし、お前が野球やってんのもあるし」
「じゃあやってこうよ。ほら、普段触れない分野だからこそ何かこう、サッカーに通じる、こう、得られるものもあるかもしれないし?」
「まぁそういうのがないとは言わねぇけど……そもそも何でそんな俺にやらせたがってんだ?」
「それはえーと、こう、キネと一緒に野球出来たら楽しいだろうなーってのは思ってて。で、丁度初心者と一緒にできる上に一度きりでも問題ない体験会って場があって、丁度たまたまキネがここにいて暇してて、だから何て言うかもう本当丁度良いんだよね。一緒にやるにはこれ以上ないタイミングって言うかこう、ね」
「なるほど……それはまぁ確かになぁ……うっし、せっかくだし付き合ってやるよ」
「おー! サンキュサンキュ。じゃあこれ、はい。貸しとく」
 そう言ってフルは鞄から赤いグローブを取り出しキネへと渡す。
「これがあれか、グローブか」
「うん。グローブは持参する事って案内にあったから。種族によっては使わないけど」
「借りていいのか? フルの分は?」
「大丈夫、2つ持ってきてるから」
「何で!? 普通予備とか持ち歩いてるもんなのか?」
「いや、念力の練習として1匹でキャッチボールする時に使ってるやつだからそういう訳じゃないかな」
「ふぅん……最初っから俺に貸すつもりで持ってきてたり……?」
「まさか。キネが来てるなんて想定できないって。生憎未来予知とかは出来ないもんでね」
「それもそうだけどさ。いや本当土曜って書いてあったんだもん……誤植とか思わないじゃん……」
「はいはい。で、使い方だけど、分かる? 手の形は結構近いから使えるとは思うけど」
 キネは渡されたグローブを左手へ着けながら答える。
「あれだろ、利き手と逆の方に着けるんだろ?」
「うん」
「そんでボールが来たら取る」
「うん」
「そして投げる」
「うんまぁそうなんだけど。その取る時さ、グローブの中にハンドルあるでしょ?」
「何か手に当たって邪魔なやつか?」
「多分それ。それ引くとグローブが閉じるから。僕等みたいな手だとそのタイプが多いかな」
「へ~」
 キネは実際にグローブの内部で何度かハンドルを引いては離し、グローブが開閉するのを確認する。
「割とムズイ」
「まぁ合わせてあるグローブじゃないししょうがない。慣れてもないしね」
「まぁ初心者は初心者らしく体験会で色々教わればいっか。こういうのもコツとかあんだろ、多分。っと、時間か」
 2匹の会話を遮る様にチャイムが響き、体験会の参加者は集合する様呼び掛けられる。こうしてセンキョウ高校野球部の体験会は始まった。

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