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今日を共に生きる星

作者:ねこ

ポケットモンスター!
縮めてポケモンと呼ばれる不思議な生き物は、わたしたちの周りにもたくさん暮らしています。

わたしたちと共に生きる多種多様なポケモンたち。
そんなポケモンたちと力を合わせ暮らしています。
わたしたちの目標はポケモンたちとの共存です。

ポケモンと人のキズナをより深めるため、クエーサー社は都市開発計画を進めてまいります。
そう、ミアレシティはさらに美しい街へと変わっていくのです。

クエーサー社はミアレシティをメガシ──





ぷつん。

テレビが突然黒い画面を映し出す。
ああ、またこれか。
そう思いながら視線を下ろすと、思った通り不機嫌そうな顔をしたメスのニャオニクスが僕のズボンを引っ張っていた。

おなかが空くと僕の知らない内に念力でリモコンを取ってテレビを消してくるんだ。
リモコンをいつも同じソファの隙間に突っ込んで隠したつもりになりながら。
それはいつもの光景、日常の1ページ。

「ニャオ、もうおなか空いたの?ついさっき食べたばっかりなのに。こんなにまるまるとして、また余計に太っちゃうよ?」

「にゃ。」

僕がいくら言い聞かせても、このやけにふっくらしたニャオニクスは引っ張るのをやめない。
人間の言葉を理解していないのか、理解した上で反抗しているのかは僕には判別はつかないけれど……
どちらにせよニャオが折れることは絶対にないのはよく知っている。

仕方なく椅子から立ち上がってごはん入れに向かう。
それを見るなりニャオは小走りで一足先にスタンバイしてこちらをじっと見上げてくる。

本当にニャオの健康の事を思うなら、あげないほうがいいのだろうな。
だけどこんな風につぶらな瞳を向けられたら、あげざるを得ない。

いや、それは本当の理由じゃなかった。
本当は……下手なことをして機嫌を損ねたら念力でひねり潰されかねないからだ。
今まで一緒に暮らしてきたわけだしそんなことしないと信じてはいるけれど、断言なんて出来っこない。
ニャオに限らず、ポケモンがどう思っているかなんて結局のところ僕ら人間には分からないから。
彼らの気持ちが分かるような気がしても、それは結局自分の頭の中で都合の良い言葉を喋らせているだけだ。

内心びくびくしながら、ポケモンフーズを皿に出す。
なるべく、不満が出ない程度に少なめに……
ギリギリのラインを見極めて絶妙な量に調整する。

「はいどうぞ。はあ、これじゃいけないのは分かってるんだけどな。」

……と思ったけれど、ニャオは一向に食べようとしない。
しばらくごはんを見つめた後、プイッとそっぽを向いた。
量が足りなかったかな?
いや、これは──

「おにゃっ。にゃ。」

訴えるように見上げてくる鋭い目。
それが意味することが僕にはすぐ分かった。
昨日あげたおやつを欲しがっているのだろう。
全く、この食いしん坊ときたら……

「なに、"ピカちゅ〜る"が欲しいの?昨日食べたばっかりでしょ。こら、そんな怖い目で見たって何も出ないよ。」

じっとりした目つきで無表情のまま僕を睨みつけるニャオ。
しばらくのにらめっこの末、ニャオはついにこちらから視線を逸らした。

ようやく折れてくれたか……と思っていたら、ニャオはおもむろに念力で空き缶を取り寄せてきた。
そして見せつけるように僕の目を見ながら、サイコパワーを抑制する耳を広げて念力を開放する。

その次の瞬間、ニャオの"サイケこうせん"が空き缶ボトルを撃ち抜いた。
貫かれ粉々になった缶が床に落ちて、ニャオはまた僕を見上げる。
『次はお前だ』、そう言わんばかりに無言の圧力を放って。

「あ〜……すみませんでした、今差し上げます……」

命の危険を感じてそそくさとおやつを取りに行く。
やっぱりうちのワガママ女王様には敵わないや。
これではどっちが上なのか分かったもんじゃない……

いや……そもそもどっちが上とか下とか、そういう考えが間違ってるのかな。
ポケモンがいる生活の上で大切なのは"共に生きること"だって、さっきのテレビでも言っていた。

僕とニャオたちの関係は、共生といえるのだろうか?
僕ら人間はポケモンを家やボールに閉じ込めているし、ポケモンたちもそんな人間に依存する形になってしまっている。
人間の元で野生を失ってまるまると太くなったポケモンが厳しい野生で生きていけるはずもなし。

ポケモンたちにはポケモンたちの自然界での生き方があったはず。
それを人間との暮らしのために矯正されて、人間に都合の良い形で存在することを強制させられているように思えてしまって。
そんな自然の摂理にも反した歪な関係を、『共に生きる』だなんて……
本当にそれでいいのだろうか?

「にゃむにゃむ……」

そんなことを考えている間にもニャオはピカちゅ〜るのかかったポケモンフーズを念力で器用に食べていく。
うちのポケモンたちは今のままで幸せそうだけれど……
分からない。

共生って、なんだろう?

どうすれば本当の意味で共生できるのだろう?

ご飯中のニャオを尻目に、自分の部屋に戻る。
部屋にはベッドを占拠する大きな黒い毛玉が一つ。
そのブラッキーは僕が中に入った途端に飛び起きては擦り寄ってくる。

「らぶ!」

「はいはいクロ、あとで遊んであげるからねー。」

構ってほしいようで身体を擦り寄せてくるクロの頭を撫でてやりながら机についた。
ふと懐かしくなって、棚の奥にある軽くほこり被った小さなアルバムを引っ張りだす。

田舎で庭も広い我が家には、よく野生のポケモンがやってくる。
そのうちの何匹かはそのまま住み着いて……家族になることもあった。
ニャオもクロもそうやってうちへやってきたんだ。

僕の人生は幼い頃から野生のポケモンと共にあった。
そんなポケモンたちの思い出をここに刻んである。
時間と共に色褪せてゆく記憶が、そのまま消えてしまわないように。

記憶の1ページ目……そう、初めてうちへやってきたポケモンはシシコだったな。
彷徨ってきたお腹を空かせたシシコをお母さんが家に迎え入れたんだ。
あの頃は僕もまだ小さくてポケモンに触れたことも無かったから、見知らぬ生き物に怯えていたけれど……

一緒に暮らしていくうちにだんだんとポケモンのことが分かってきた。
彼らはそんな人の命を狩り取りに来るようなものじゃないって。
少なくとも、目の前にいる小さく愛らしい存在は。

人懐っこく寄ってくる暖かい毛玉を、更にはポケモン全般までもが好きになって。
気づけばかけがえのない大切な家族になっていた。

だけど……出会いがあれば別れがあるもの。
いつまでも一緒になんていられない。
ある日突然……僕が家から出ようと玄関のドアを開けたその時。
シシコは僕の足元を通り抜け、家を飛び出していってしまった。

……そして二度と帰っては来なかった。
ボールに入れていなかったから呼び戻すこともできず。
毎日ひたすら探し続け、ついに見つけたかと思えば完全に野生に戻っていてもはや別ポケモンだった。
最後には諦めるしかなかった。

野生に戻りたかったのか、うちが気に入らなかったのか……目的は分からない。
どこかの誰かのポケモンになったか、交通事故にでも遭ったか、他の野生のポケモンに狩られたか……その末路さえも分からない。
ただ確かなのは……僕が大事な家族だと思っていたポケモンは、自らの足で僕の元を去ったと言う事だけ。

僕のポケモンとの関わりは、それの繰り返しだ。
うちにやってきて、そしていなくなる。
普通なら、ポケモンはボールに入れるものらしいけれど……ポケモンをボールに押し込めるのにはどうにも抵抗があった。
ポケモンを人間の所有物にするなんて、良い印象はない。

我が家ではやってくるポケモンたちはあくまでも野生のポケモンとして接している。
彼らが最終的に望むのが野生ならば……そうさせてあげるべきだから。



さて、アルバムの次のページに進む。
シシコの次にやってきたのは小柄なメェークルだった。
初めは毎日とっても元気に走り回っていた。

だけどある時、不幸にも交通事故に遭ってしまった。
なんとか命は助かったけれど、後遺症で下半身が動かなくなってしまったんだ。
大好きだった一緒に庭の芝生を走り回ることももう出来なくなった。
それからもたくましく生きようとしていたけれど、少しずつ弱っていってそのまま……

そんなメェークルと仲良しだったホルビーがいた。
あまり免疫が強くないのか、いつも調子が悪そうにしていたな。
いつもメェークルのそばにいて、1匹でいることの方が少なかった。

だけどメェークルが行ってしまった後は……
その最期に立ち会えていなかったホルビーは、ずっと探すように辺りをうろつくようになった。
それからは身体の調子もどんどん悪くなっていくように見えて。

そして、人知れず姿を消した。
野生のポケモンは死が近づくと見つからない所に身を隠すという。
そうして誰にも知られることなく死んでゆくんだ。
ホルビーもきっと……

その次にはヒノヤコマがやってきた。
他の野生のポケモンとケンカでもしたのか、傷を負っていた。
僕にはあまり懐かなかったし、手当てをしようとしても拒絶されたけれど……ごはんくらいは食べてくれた。
住み着いてからそう長く経たないうちに、気づけば庭を去っていった。
その後近所のウワサで道路に撥ねられたヒノヤコマの死がいが転がっていたと聞いたけれど。
……それが同じポケモンかも分からない。

その後しばらく間を空けてやってきたのはペロッパフの兄弟。
仲のいい2匹は人懐っこくて、一緒にあたりに甘い匂いを振りまいていた。
身体もどちらも健康だったけど……最近になって、2匹ともふわふわとどこかへ去っていってしまった。
比較的長くいただけに愛着も強かったのだけどな。



まだまだこの後にもページは続く。
そしてこれからもページは増えてゆくだろう。
これが僕にとってのポケモンというものだ。
愛らしくたくましく脆く儚い存在。

シーコ、メル、ルビー、ヒノコ、ペル、パフ……
彼らにはみんな名前と思い出がある。
だけどどんなポケモンであろうと、どんな思いがあろうと去る時は一瞬。
気付いたときにはもう二度と会えなくなってしまう。
ニャオやクロだっていつかはこのアルバムの新たな1ページに……

初めはそんな望まぬ別れに大泣きしたりしたものだ。
だけど似た経験を繰り返すうちにその涙も枯れてしまった。
彼らが居なくなることは、いつの間にか当たり前のことになってしまっていたんだ。

その経験が僕という人間の核になっているのだろうな。
ポケモンも人も命あるものならばいずれはいなくなる。
でも自分のそばにいなくなってしまったとしてもそれは悲しむことじゃない。
彼らは皆あるべき場所に還っただけ……

いつしかそう思うようになっていって──



「フーッ!」

突然のニャオの鋭い声に、今の現実に引き戻される。
いつの間にかポケモン用のドアをくぐってきていたらしい。
いつものようにちょっかいをかけにきたクロに向かっていつものように毛を逆立てている。

「らきっ。ぶら。」

「ぅにゃっ!」

それでも距離を詰めるクロにニャオは顔面にパンチを食らわせると、ドアへ飛び込んで逃げ出した。
クロもそれを追いかけて走り出し、我が家は今日もドタドタと騒がしくなる。

思い出から日常に戻ってきて、思わず頬が緩む。
そう……いなくなってしまったものを気にかけても仕方がない。
今はニャオもクロもここにいてくれている。
それは当たり前のことじゃないし、感謝すべきことだ。

アルバムを閉じて今に留意することにした。
記憶は大事だけれど、振り返ってばかりでは大切なものを見失ってしまう。

部屋を出て2匹の様子を見に行く。
一触即発な2匹だけれどお互いを傷つけることはなく、あくまでもじゃれ合いにすぎないんだ。
互いを害することなく、過干渉することもなく……
あれこそが共生というもののあるべき姿、なのかもしれないな。
……ニャオの方は本気で嫌がっているようだけど。

階段を降りると、珍しい光景が目に入った。
あのニャオとクロがケンカすることもなくぴったり並んで窓の外を見ていた。
クロのちょっかいとニャオパンチ以外で身体を触れ合わせるなんてよほどのことだ……

「2匹でいるなんて珍しいね。何かあったの?」

「ぶ!」

「にゃお。」

2匹は振り向いて僕を呼ぶように声を上げる。
その間から窓を覗き込むと──

庭の中に見知らぬ少女とその隣にテールナーがいた。
あまり詳しいわけじゃないけど……ポケモントレーナーだろうか?
そしてその前には、なんと今うちの庭に住み着いているコフーライのライが。
攻撃されたらしく火傷を負ってしまっている。

「あ、ライっ!まさか、あれはポケモントレーナー……!?これはまずいかも!」

もしそうだとしたら、ライが捕まってしまうかもしれない。
大変だ、すぐに止めに行かなきゃ!
玄関を飛び出してライのもとに駆け寄る。
今まさに少女がライに向けてボールを投げようとする直前だった。

「ちょっと待って!ストップ!」

すんでのところでライと少女の間に滑り込み、なんとか投げられたボールを弾き返す。
防せがれたボールは少女の足元に転がり、彼女は憤慨した様子で僕に詰め寄ってくる。
それに対してライは僕の後ろでびくびくと身体を縮こまらせている。

「あ!?何するの!せっかくここまで追いかけてきたのに、邪魔しないでくれる!?」

「るなっ!」

僕と同い年か少し下くらいか。
野生のポケモンを傷つけて弱らせてからボールを投げる……
間違いない、ポケモントレーナーだ。

話には聞いていたけど、実際に目の当たりにすると気分はあまり良くない。
彼女の怒りに答えるようにテールナーが先に炎の灯った枝を僕へ向けてくる。
今にもそこからかえんほうしゃが飛んできそうで、ゴクリとつばを飲む。

「えっと、ごめんね。申し訳ないけどこの子はうちのポケモンなんだ。だから捕まえるのはやめてほしいな。」

「ふぅん。その子、あなたのポケモンなの?ならどうしてボールに入れずに外にほったらかしにしてたの?トレーナーたるもの、自分のポケモンから目を離しちゃいけないでしょ。」

「え、ボール?あっ……」

そうだ……
ポケモンの所有権というのは自分のボールに入れて初めて生まれるもの。
当然ライは……というかうちに来たポケモンは全員1度たりともボールに触れたことすらない。
つまり定義上はライはもちろん、ニャオやクロさえもただの野生のポケモンと変わらない。
それを捕まえるのを止める権利なんて、僕には無いのかもしれない……

「やっぱりその子、あなたのポケモンじゃないのね。勝手に庭に入っちゃったのは謝るけどさ、あなたがその子についてとやかく言う権利はないでしょ。分かったら早くそこどいてくれない?その子はあたしの2匹目の仲間に決めたんだから!また逃げられちゃったらどうしてくれるの?」

「いや、それは困るよ。確かにボールに入れてはいないけれど、そんなの関係ないよ。この子はうちの家族なんだ。」

少女の言葉に臆さずに主張を続ける。
彼女がなんと言おうとそうやすやすとライを渡すわけにはいかない。
すると彼女は怒ると思いきや、むしろ不敵に笑みを浮かべる。

「あらそう、そこまで言うなら……ポケモンバトルで決めよう!あなたが勝ったら、その子のことは諦めてあげる。」

「ポケモンバトル……!?」

ポケモンバトルなんて画面越しに見たことしかなかった。
自分とは無縁の競技だと思っていたのに、まさか自分が挑まれることになろうとは。
でも、僕には戦えるポケモンなんて……

「そうよ、それならフェアでしょ?さぁ、あなたのポケモンを出して。それとも1匹もポケモン持ってないの?もしそうなら大人しくそこをどいて──」

「おにゃぁっ!」

僕が戸惑っていると、突然玄関が開いて威勢の良い声が響いてきた。
外の騒ぎを見てかニャオが念力でドアを開けて助けに来てくれたんだ!
その後ろからクロも続いて僕とライの危機に駆けつける。

「きき!」

「あ、ニャオにクロ!来てくれたんだね!」

ニャオが僕の前へ飛び出してそのふくよかな体で臨戦体勢を取る。
ニャオもクロも厳密には野生のポケモンなのだけれど……
もうこの際どうだっていい。
ライを守ることができるなら。

「なぁんだ、いるんじゃない。じゃあさっそく始めよ。最近ちょっと金欠だったからちょうど良かった。」

「……仕方ないか。悪いけど、もっと金欠になってもらうから。」

ゆっくりと深呼吸して相手に向き合う。
やるからには勝たなくては……!

「行くよフォクちゃん!"ひのこ"!」

「てなぁ!」

あちらのテールナーが先制して技を放つ。
飛んできた火の玉を、ニャオは勝手に横に飛んでかわした。

……っていやいや、それじゃダメだ。
ポケモンバトルなんだから僕がニャオに指示を出さないと。
やり方は何となく知ってる、テレビや動画で何度か見たことがある。
本当に何となくだけど。

ニャオたちが覚えている技すらロクに把握できていないのに、勝てるのだろうか……?

「ええっと……ニャオ、"ねんりき"!」

「にゃお。」

ニャオはぎこちない僕の指示に反して冷静にサイコパワーを行使する。
念力の衝撃が相手のテールナーに上手く命中した。
よし、行ける。
この調子でいけば勝てるはずだ……!

「何よそのキレのない指示……初めてのバトルなの?"ほのおのうず"!」

「なぁ〜……!」

行ける……なんて思えたのは一瞬だけだった。
テールナーが何か妙な動きをしたかと思えば、ニャオの足元から炎の渦が立ち昇ってきた。

「っ!ニャオ、こっちへ!」

初めてのバトル。
よく知らない技に戸惑いながら指示を飛ばす。
分かってはいたけれど、ポケモンバトルは動画で見たから出来るなんて甘いものじゃなかった。

自分のポケモンに相手のポケモン……たくさんのわざやタイプ……
色んな知識と経験が合わさって初めてトレーナーとしての実力になるんだ。
僕にはそういったトレーナーとしての実力なんてありはしない。
恐らく駆け出しトレーナーであろう彼女から見てもそれは明白なのだろう。

「フーッ、フーッ……」

そしてそれはニャオの方も同じだ。
相手のテールナーはトレーナーである彼女の元で多かれ少なかれ鍛錬と経験を積んできたのだろうけど……
対するニャオはそんなものとは一切無縁だ。
野生を失って好きな時に食べ好きな時に寝て、悠々自適に贅肉をたくわえてきたんだ。
もう既にさっきの炎から逃げ遅れて息を切らし始めている。
こんなことなら、ニャオの健康のためにも少しは運動に付き合ってやれば良かったな……

「ぶき!」

「武器?そんなの何も無いよ……"サイケこうせん"!」

こちらの武器になり得るようなアドバンテージは何もない。
クロもいるとはいえ、それで状況が好転するとは思えないし。
とにかく突破口を見つけなきゃ……でも本当に、あるのだろうか?

「じゃあこっちも"サイケこうせん"!」

「るな!」

相手も同じ技を被せてきて、お互いのサイコパワーがぶつかりあって弾けた。
更にその音と光の裏から間髪入れずに"ひのこ"が飛んでくる。
大技の直後で当然避けられず、火球をもろに食らってしまう。
相手にとっては、この程度大技でも何でもないらしい。

「ニャオっ!くうっ……」

「おにゃ……」

まだ戦意は尽きていないようだけれど、かなりつらそうだ。
何か、何か手があるはず……
打つ手を探して縋るように後ろを振り向くと──

さっきまでそこにいたはずのクロがいなかった。
気づかないうちに、一体どこへ?

改めて前へ向き直ると、見つけた。
いつの間にやら相手の背後の物陰に。
その様子はさながら暗闇に潜み獲物を狙う野生のブラッキー。

そうか。
ニャオもクロも"野生のポケモン"なんだ。
人間の敷いたルールに囚われる存在ではない。
それがこちらの"武器"となり得るのなら……?
クロはそれを分かっていたのかもしれない。

クロの思惑が僕にも分かった気がした。
僕にはポケモンの言葉は分からないし、テレパシーも使えない。
それでも……信じてあげることはできる。

「もうおしまい?それともまだまだ?降参したっていいんだよ!」

相手は得意げな様子でこちらの様子を見ている。
心なしか、彼女のテールナーもそれに同調するかのように胸を張っているように見えた。

「ニャオ、"ねんりき"だ!……大げさに、ね。」

彼女の耳に届かないよう小声で追加の指示を出した。
その意図を上手いこと拾ってくれたニャオは大げさな動きで念力を放った。
攻撃はいとも容易く"まもる"で防がれたけど……これでいい。
あえて相手に大きな隙を晒すことが目的なのだから。

「やっぱりもう限界かな?ならこれで終わりにしたげるよ。フォクちゃん、トドメの"サイケこうせん"!思いっきりやっちゃえ!」

「て〜なっ!」

よろめくニャオに向けてテールナーはフルパワーの"サイケこうせん"を放とうと力を溜める。
よし……この時を待っていた!

「今だッ!」

「ぶらっき!」

僕の合図で相手の死角からクロが飛び出し。
そのままテールナーの首元に噛み付いた。

「るなぁっ!?」

「きゃぁ!なになに何事!?」

テールナーは驚いて枝をその場に取り落とす。
その様子はもはやバトルではない、狩りだ。

「やっちゃえニャオ、"サイケこうせん"!」

「おにゃっ……!」

突然の乱入に混乱する1人と1匹に構わず、クロが動きを止めたテールナーに対してニャオはサイコパワーを解き放った。
いくら鍛えられたポケモンといえども、無防備な状態で攻撃を食らえば──







炸裂する光線が、テールナーをクロごと撃ち抜いた。
あくタイプのクロには効果はないけれど、テールナーはたまらずその場に倒れ付す。

「ああ〜っ!フォクちゃんになんてことを!?」

やった、勝ったんだ!
ちょっと卑怯だったけど……
野生のポケモンにはルールなんて無用だよね?

「こんな、こんなの……フェアじゃな〜いっ!」

彼女は倒れたテールナーをボールに戻すと、慌てて逃げ去っていった。
賞金なのか、辺りにお金を雑に投げ捨てながら。

なんとか危機を切り抜けて一息つく。
緊張の糸が切れて疲れが押し寄せてきた。

「ふぅ、上手く行ったね。2匹ともありがとうね。」

「おにゃお。」

「らっきー。」

「そうだね、素直に帰ってくれて運が良かったよ。あ、そうだ……!」

大事な事を思い出して足元を見ると傷ついたライが。
前に出て戦ったニャオのそれよりも傷は深そうだ……
どうすべきかおどおどしていると、ふと彼女がライに投げたボールを思い出した。

まだそこに落ちていたそれを拾い上げる。
これは確か……"ヒールボール"というものだ。
さっきのテレビでもやっていた、捕まえたポケモンの傷を癒やすボール。

ポケモンを捕まえることに抵抗を感じつつも、一刻も早く治療してやるためなら……
そう思って傷ついたライにそのボールを軽く当てる。

するとライは魔法のようにボールの中に収まった。
僕が想像していたよりもずっと穏やかに。
気のせいかもしれないけれど、中にいるライも安心しているような……?

……生まれて初めてボールに触れて、それの意味がようやく理解できた気がした。
きっとボールとは人間とポケモンの共生の象徴なのだろうな。
決して完璧ではないけれど、お互いが共に在るための折衷案。

自分のエゴでその共生の形から遠ざかろうとしていたのは、僕の方だったのかも?

複雑な気持ちになりつつも、今はライの無事を喜ぶことにした。
ニャオの手当てもしてあげないとだし。
褒めて欲しげに擦り寄って来るクロを撫でてやりながら家の中に戻った。








「どれどれ……名菓ミアレガレット……ヌーヴォカフェのだいもんじロースト……ミアレで人気のゲーム配信者……」

あれから多少の時間が流れて。
僕は1人電車に揺られていた。

あれからポケモンとの関わり方についてまた考えてみて……
その結果、ニャオたちのことは家族に任せて旅に出かけることにした。
ポケモンと共に生きるために必要なものを見つけるために世界を知りに行くんだ。

目的地はポケモンとの共存を目指す街、ミアレシティ。
そこに行けば共生する上で大切なものが見つかる気がして。
スマホロトムでミアレの事を調べる度に胸が高鳴ってくる。

そうしているうちに、電車が駅に着いたらしい。
さあ、共生の答えを探す冒険の始まりだ。





「ここがミアレシティ……」

駅から出ると、視界いっぱいにミアレの街並みが広がっていた。
立ち並ぶ背の高い建物、その間を行き交うたくさんの人とポケモン。
そして街の奥で特に目を引く大きなタワー。

故郷の田舎っぷりとはまるで比べ物にならない。
この街での経験はきっと素晴らしいものになるに違いない!
何となくだけど、直感でそんな気がして──

「いたッ!」

「うん?」

「駅からでてきたそこのあなた!しかもその大きな旅行カバン、観光客でしょ?」

「え?……正解!」

──新たな場所で、新たな出会い。
僕の思うポケモンとの共生の形は、最後にはいったいどんな姿になっているのだろう?
それをこれから探しに行くんだ。

人とポケモンが、今日を共に生きるこの星で。