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「ガラテアの自由」

作者:特ルリ

「ガラテアの自由」
どんな恐ろしい悪でも、ポケモンバトルで負けてしまえば素直に敗北を認める。
それはおかしいことではないか?
確かに素手でポケモンに勝つことはできない、それは厳然たる事実である。
兵器を用意しているならいざ知らず、ポケモンを失ったものが彼らに勝てる可能性は限りなくゼロに近いだろう。
誰かが、考えた。
ーーならば。
「TK-66 起動しました」
ーー有効なはずだ、ポケモンバトルをする役割を持った兵器の開発は。


「君には持てる全ての技術を詰め込んである
人間に近い身体も、それでいて機械の不朽の耐久力も、限りなく人に等しい感情も」
ーーそして何より……
「あらゆるポケモンバトルで勝てるように、全てのポケモンの知識と戦略を」
「……はい」
その姿はかつてポケモンを使った悪の組織の事件を、ほぼ単身で解決した子供に似せ。
その身には存在する限りのバトルの記憶を詰め込む。
彼こそが、窮極の兵器。
彼こそが、究極のトレーナー。
そう期待されて、それは造られた。


「君はさ」
ある時、彼に研究員の一人が聞いた。
「最強のポケモントレーナーの試作品……とされてるわけだけどあくまでプロトタイプ 活動停止まで好きに生きていいことになっている……そのデータを活かして次代以降を作るつもりでいる……そのあたり君自身どう思っているのかな」
シミュレーター上でキノガッサのデータを繰り出し、想定される敵の攻撃軌道を演算していた機械は戦いを中断し、研究員にまるで人間のような瞳を向ける。
「どう……ですか 僕の過ごす人生が次世代に活かされ 平和のための兵器のより良いデータなれるなら……それは人間が子孫を残すようなものじゃないでしょうか 嬉しいことですよ」
「……そうかあ」
ーそう、なんだね。
名もなき研究員は、それを聞いて安堵したのだろうか、悲しんだのだろうか。
戦いに戻る彼に手を振ると、それを造ったものはシミュレーターから出た。


「ージガルデ、ですか」
「そうだTK-66……愛称「とくるり」
ジガルデと呼ばれるポケモンがカロス地方のある街に集まりつつある」
海の向こうの、データでしか知らない街。
「ジガルデといえば環境の守護者 世界のバランスを保つポケモン……かつてアローラ地方でビーストと呼ばれるポケモンたちを監視していた存在ですね」
研究室の外、遥か彼方の街。
「君さえ良ければ……「そこ」で起こることを見届けて 場合によっては手伝うのはどうだい?」
「何が起こるか未知数……何も起きない可能性もありますね ですが……」
ーーそうですね、旅行とでも思いましょうか。
研究者に、自分を造ったものに……人機はそう言ってにっこり笑いかけた。
シミュレーターで見る、ミアレシティを見上げて。


「……ぜドア!」
「君は……ジガルデ10%か」
兵器が遠いミアレに旅立った頃。
研究員の前に犬のようなポケモンが現れる。
「私を罰しにきたのかい?ポケモンバトルで負けない兵器を作れば世界は大きく変わってしまうから?」
「……ゼ」
「……それでもね これは私が生涯かけて追求した夢なんだ ここで君に負けるわけにはいかないね」
自身は機械でもないし、完全でもない。
けれども、兵器による世界平和への夢は断ち切らせはしない。
そこを夢見るのは、どんな知性であろうとも同じだ。
彼はボールを構えた。


「まもなく ミアレ駅に到着します」
「……」
スマホロトムの画面に目を通す。
そこに映されたニュースに乗っているのは、今日未明にとある大学の研究室が謎の崩落を起こしたさまを報じた記事。
あちこち打ち身だらけで、だがどこか清々しそうな顔で担架に乗せられている研究員の動画が添付されていた。
「……(ジガルデですか)」
いま。
そのポケモンは、小さな細胞として自分の鞄の中にもいる。
機械はそれを知っている。
ーー僕もまた、罰されるのであろうか。
ーーでも今は知らないふりをしておこう。
「楽しんでくるといいよ」
ついさっき入った、そんな研究者からのメールを見ながらそんなことを思考に浮かべる。


「君たちにも動画に出演してもらうからね!……っと、ちょうど良さそうな人発見!」
戦うために生み出され、次世代のために生きるはずだったものは。
その自由を、どうすればいいのだろうか。
電子の海で 演算の彼方で。
きっと何かを……見つけられるはず。
そう信じて、駅前でポケモンの動画を撮っていた見知らぬ女性に話しかけられて彼は人間のように微笑んだ。
「僕の名前は……とくるりです」