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お姉ちゃんの話

作者:ひろ式

私のお姉ちゃんの話をしようと思う。

姉ちゃんが珍しく家のリビングに居て、珍しくテレビを見ながら言った一言が、始まりだった。
「カロスかぁ・・・一度は行ってみたいよねミアレシティ」
「はぁ!?」
三人掛けソファに寝転がりながらのお姉ちゃんの一言に口に咥えていたアイスを落としそうになる。なんとか左手でアイスをチャッチして右手に持っていたもう一つのアイスをソファの背もたれから手だけを伸ばすお姉ちゃんに渡す。
「覚えてないの?カロスって言ったら・・・」
「覚えてるわよ、活動家の偉い人が大っきな爆弾かなんかでミアレシティを吹き飛ばそうとしたやつ」

それは5年前の出来事だった。
カロスから遠く離れたアローラに住んでる私達でも知ってる事件。当時はまだ子供でテレビで連日放送されていたニュースはぼんやりとしか記憶にないけれど、大人達の動揺は子供心に『なにかとんでもないことが起こったんだ』っていう事を想像させるには十分だった。その後に多くはないけれど話題に上がる事があった『カロスの大事件』を聞くことで私もお姉ちゃんもその事件の概要をぼんやりと知り得ることができていた。

「だったら―――」
「でもさ~」
お姉ちゃんは私のお説教を遮りつつアイスでテレビを指差す。その画面にはCGの線で描かれた都会の町並みを走るピカチュウ、そして沢山のポケモンと過ごす人が映し出されてた。
「再開発、だってさ」
「知ってる、よく見るもんそのCM」
画面に映し出されるクエーサー社のロゴ。最新のホログラム技術で有名な企業。だけどホログラム技術なんて私たちの住むアローラではスマホロトムに搭載されてる小型のすら見かけることすら珍しい都会にあるものってイメージだ。
「そうなの?」
「まぁ、お姉ちゃんはそうよね」
「どういう意味よそれ」
ソファに投げ出されているお姉ちゃんの足を押しのけて座る。テレビにはペロリームがパティシエのお菓子をジャッチする番組が映されていた。
「それで」
お姉ちゃんの質問はあえて無視する
「今回はいつまで家にいるの?」
この質問が答えになるからだ。

私の姉は妹の目から見ても変な人だ。
ポケモンもポケモン勝負も好きなくせにアローラの島巡りにも行かなかった。じゃあ何かしてるのかって言うとそれが良く分からない。ここ3年くらいは「秘密のバイト」と言いながら一年の大半はアローラ中を渡り歩いている。

まぁ、私には関係のないことだけど

「もしかして・・・怒ってる?」
怒ってません、起きたら居なくなっていて5日ぶりに会ったお姉ちゃんが『ひさしぶり』も『ごめんね』も無く当たり前のようにお風呂上がりにアイスを妹に取りに行かせたくらいじゃ私は怒らない。
「機嫌直してよ~アイス食べる?」
「同じの食べてる」
「じゃあアローラ式のハグ~」
「暑い・・・っていうかアイスつくってば!」
「んもー」
「じゃなくて、なにか言うことないの?」
ふざけるお姉ちゃんをじっと見る。
「・・・久しぶり、髪伸びたね」
にっこり笑いながら私の髪をなぞる。5日前とほぼ同じ長さの髪を。
「そういうところだよ・・・」
「ん?」
「もういいよ・・・それで」
お姉ちゃんがあまりにもいつも通りで困らせようとした私の毒気が抜かれてしまった。
「それで・・・いつまで家に居られるの?」
「うーん、2~3日くらいかな」
「じゃあ、明日付き合ってよ」
「えっなに?買い物?デート?」
「朝5時に、海」

~メレメレ島・ハウオリシティはずれの浜辺~AM5:45
サーフボードを跨ぎながら波を待つ。この辺りの波は割と素直に乗り時を教えてくれるがその後は予測がつかない。その先の読めないのが楽しい。
体内時間で10分ほど待った時に来た波に乗る。はじめは調子よく乗れていたがターンに失敗して海に投げ出される。
サーフボードを追って浜へ泳ぎ、追いついた所でお姉ちゃんの方を見る。
朝ごはんに持ってきたマサラダをキャモメに取られそうになって喧嘩をしている。
「何してるのよ・・・」
「それはこっちのセリフよ」
キャモメに負け、諦めて、私が作った体を温める用のエネココアをコップに注いで私に手渡してくれた。
「なんで急にサーフィン?」
「急じゃないよ、3日目」
「そっか・・・でも格好いいじゃん」
「今転んで泣き帰ったところだけどね」
「それでもよ、なみのりしてるライチュウみたいで格好いいよ」
「それ褒めてる?」
「Z技くらいには褒めてるつもりだけど」
「全然伝わらないけど・・・ありがと」
お姉ちゃんに飲みかけのコップを渡し海へと引き返す。

それから1時間くらいは波に乗ってはうまく行ったり転んだりを繰り返していた。お姉ちゃんは浜辺を歩いたりキャモメとバトルしたり浜辺に来た人と話し込んだりしていた。
あれ?あの人何処かで見たことあるような気がする・・・誰だっけか?
「祭りよ祭り!」
今日の成果に満足し、番人が不在の荷物置き場での片付けが終わろうという時に荷物番が駆け寄ってくる。
「今は秋、祭りは先々月終わったでしょ」
「島のじゃなくて・・・兎に角祭りなのよ!今日!夜に!リリィタウンのバトルコートで!!」

どうやらさっき話しこんでた人に聞いたらしいお姉ちゃんの言葉は本当で、日が沈みかけた頃に着いたリリィタウンの中央広場は沢山の人で賑わっていた。
とは言え夏のまつり時期の観光客の感じではなくリリィタウンの人たちやハウオリシティでの知り合い・・・それによく見たら各地のしまキングとクイーン、それに・・・。
「お姉ちゃんあの人って」
「お~四天王まで揃い踏みとは豪華だねぇ~」
アローラ地方のポケモン関係者が揃い踏みだ。まるで祭りというより首脳会談の様な面々、だけどその人達は重々しさとは真逆の、各々に談笑したりお酒のんだり本当の村の祭りのように和気藹々としている。
「ねぇお姉ちゃん?これって本当にお祭り?一体何が始まるの?」
まるで自分が場違いな場所にいる感覚がしてお姉ちゃんの腕を引っ張る。
「見てればわかるって」
と、この突発パーティ会場の様な異様な場でお姉ちゃんは周りをキョロキョロしながら誰かを探している。
「あっ、おーい『はかせー』!」
呼びかけに振り向いたのは朝に浜辺でお姉ちゃんと話し込んでいた人、近くで見たらはっきり分かる。ポケモン博士のククイさん。同じ島に住んでいて時々見かける偉い人。
お姉ちゃんの影に隠れるように後ろに下がる、知らない人ではない、いい人だとは知っているけれど、苦手だ。

話が終わりそうな頃を見計らい掴んでいた腕をお姉ちゃんが合図をするように引っ張る。
「聞いた時間だとそろそろだから」
「・・・うん」
大した理由があるわけじゃない。私が『島巡りを途中でやめた』ってだけの話。博士とは挨拶した程度で、ポケモン貰ったわけじゃないしそもそもリーグの一番偉い人だし私のことは覚えてるわけないけどなんとなく一方的に気まずい。

「おっ始まるみたいだよ、見て見て!」
そんな事情も、私の事も全部知ってるお姉ちゃんが私の肩を叩き広場中央のバトルステージを指差す。
大きな歓声と松明に囲まれた大きな木製のステージ、そこに設置された大きな椅子には金髪の、とんでもない美人が顔を真っ赤にして座っていた。
「あの人はね、リーリエさん。エーテル財団の人なんだけどこの間までカントウにいてね、今朝戻ってきたんだって」
『?』が浮かんでいる私の顔を察したお姉ちゃんが説明してくれる。いやそこじゃなくて状況を
「それは見てれば分かるって」
お姉ちゃんが私の顔を見ずにどこからか持ってきたパイルジュースを手渡す。ありがとうを言おうとした瞬間一際大きい歓声が上がる。その声に引き寄せられてステージに再度目を向ける。
そこに居たのはこのメレメレ島のしまキングの『ハウ』さん。ハウさんは歓声には目もくれずリーリエさんを一瞬だけ見てすぐ真剣な顔で正面を見据える。
そして再度大きな歓声が上がる。そこに居たのは―――
「チャンピオン!?」
アローラのポケモンリーグの初代チャンピオンであり現チャンピオン。アローラに住んでいるならばしまキングと並んで誰もが知ってる有名人だ。ハウオリシティの外れに家があるのは知ってたけど初めて実物を見た。
「チャンピオンの試合を生で見れるなんてそう無いわよ、しかも相手がしまキング」
「いやいやいやいや違うでしょ!これどういう事よ?」
いや状況はわかってる、見れば分かる。真ん中に女性を据えた真剣な顔の男が二人バトルステージに居る。
状況は一目瞭然だ、こんな祭りの雰囲気あっても。
「あの二人とは一緒に島めぐりをした仲らしくてね、その時にトレーナーじゃないけど一緒に巡ったのてたのがリーリエさんなんだって」
お姉ちゃんはいつどこでその情報を仕入れたんだろう?
いつもそうだ。島の事、特に島の人の事はだいたい知ってる。いつも島を飛び回ってるアルバイトが影響しているのか・・・聞いてみても良いけどきっといつもみたいに詳しくは教えてくれないから聞いてあげない。
「まるで青春映画、羨ましいねリーリエさん」
「こんな祭りにされるなら私なら逃げてるけどね」
ステージの上のハウさんがチャンピオンに向かって一言二言声を掛ける。チャンピオンは無言でリーリエさんを見つめる。
何かを諦めて覚悟をした顔のリーリエさんが椅子から立ち上がり手を上げ勝負の開始を宣言する。

この日一番大きな歓声が三人を包みこんだ―――

「それで、結果はどうなったんですか?リーリエさんはどちらが勝ち取ったんですか?」
ビーチ前のカフェでジーナさんがサングラスを傾けながら前のめりに聞いてくる。
「どうもこうもないわよ、勝負の途中でグラジオさんが乱入して、その後はキャプテンから四天王まで入り乱れての大ポケモン大会の開催よ・・・逃げ出すのが遅かったら朝までアレに巻き込まれる所だったわ」
「なんだつまんない」
オーバーリアクションのジーナさんががっくり肩を落とす。
ジーナさんはお姉ちゃんの友達でカロスの出身の人、アローラには仕事で来てるとは聞いてるけど何をしてるかは知らない。
どこかお姉ちゃんと似ているような気がする。要するに変な人だ。

でも、私はこの人の事も苦手だ。
「んで、今日はなんの用?デート中に急に現れて」
お姉ちゃんの言葉の通り、ジーナさんとは待ち合わせたわけじゃなくて買い出し中の休憩で寄ったカフェの席にまるでずっと一緒に居たかのように座り、当たり前のように話に加わってきた。まぁ要するにそういう人だ。
でも、この人が来たということはお姉ちゃんの・・・
「分かってるくせに」
頬杖をついて睨むお姉ちゃんを全く気にせずジーナさんは続ける。
「し・ご・と」
お姉ちゃんのアルバイトの事で私が知ってる事はジーナさんの仕事の手伝いだって事だけ、お姉ちゃんからしたらジーナさんは友達であると同時に仕事の上司でもある。らしい。
しばらく無言でジーナさんを睨んでいたお姉ちゃんが大きくため息を付く
「で、内容は?」
その言葉にジーナさんが何故か驚いた顔で、何故か私の方を見ている。
「人探し、詳しくは―――」
「大体想像はつくよ、まぁ受けるけど条件があるわ」
縮こまって話を聞いていた私の肩を抱き寄せる。
「この子と一緒、これが絶対条件」
・・・・・・・・・・・・・・え?

「ねぇお姉ちゃん」
お姉ちゃんのアルバイトの『人探し』が始まって3日、お姉ちゃんは誰かを探してる素振りも無く、私を連れ寄り道をしながらのんびりウラウラ島へ渡りそして今はマリエ庭園の茶屋でおまんじゅうに舌鼓を打っている。
「やっぱりこれよねぇ、きれいな景色に美味しいお茶。そしておまんじゅう。ウラウラ来たらこれを食べないと始まらないわ」
「お仕事サボっていいの?」
「サボってるわけじゃないよ、これも大事な仕事の内なのよ」
「でも全然人探ししていないし・・・」
「あぁそれはいいの、多分見つかってるから」
「え?それって・・・」
「それはそうと今日はマリエシティに泊まるからね、そしたら夜にまたここに来るよ。夜もいいんだよマリエ庭園」
本当にいいのだろうか・・・この3日ほとんどタダで船に乗って割といいモーテルに泊まってこれまた結構いいご飯ばっかり食べている。お姉ちゃんは経費だから贅沢して良いと言っているけど・・・まさかこの人、家を開けてこんな生活してるのか?だとしたら家に帰った後で問い詰めなければならない。共犯にされる前に、まだ付き添いの内に・・・。
「あぁそうだ」
茶屋の椅子に座りながらそんな事をぼんやり考えている私の手のひらにお姉ちゃんが何かを置いた。
視線を下に向けると、それはモンスターボールだった。
「預けておくね」
このボールはお姉ちゃんのキテルグマだ、ヌイコグマの頃から私ともよく遊んでたから私にもよくなついているお姉ちゃんのエースの一体だ。
「なんで?」
「なんでも何もポケモン持ってないじゃない、流石に危ないかなって」
それはそうだ、今どき子供でも一人一体は自分の相棒を持っている。アローラじゃなくてもどこの地方でも。しかも街から離れるとなれば必須だ。お姉ちゃんが居たからあまり気にはならなかったけど。
「うん、まぁ、そうだね・・・」
そう、それは『当たり前』の事だ。


「お姉ちゃんのバカ!!!!!!!」
やたら豪華な夜ご飯を食べた後でマリエ庭園へ戻ってきて、誰も居ない茶屋の昼に座っていた同じ椅子に座ってお姉ちゃんと一緒に黙って景色を眺める。月を写す水面、風になびく草花、優雅に舞うアメモース・・・お姉ちゃんの言った通り夜の庭園は凄く良い。夜だから野生のポケモンの危険があるかと思ったけど静かにしていれば意外と襲われない。それでも危険だから他に人も居ない。まぁ何かあってもお姉ちゃんとポケモンが居れば大丈夫。だと思う。
お互いに肩を預け合いながらゆっくりと流れる時間の中で、お姉ちゃんの色々な事は許してあげても良いかなって思って来た矢先―――
「おっ、きた来た、時間ピッタリ」
その瞬間、辺りが暗くなる。
一瞬にして異様な雰囲気に変わる園内、ゆっくりと視線を上げ月明かりを遮っている『それ』を見上げる。
それは異様なまでに巨大な存在だった。
「何・・・あれ・・・・!?」
驚く私にお姉ちゃんが慣れた感じでポケットからスマホロトムを投げる
「ロトム~」
『テッカグヤ ウルトラホールから 現れた。 高速で 空を 飛ぶ 姿が 目撃 された ウルトラビースト』
「だって」
だって。じゃない。
「そういうことじゃなくて!」
「図鑑に載ってるんだから。ポケモンよねぇ」
「あんなの見たことも聞いたこともないわよ」
「まぁ普通は知らないわよね、あの人のおかげでいつどこで出るか大体分かるようになってるから一般の人は殆ど見る機会がないから」
ごめんお姉ちゃん、何も伝わらない。
「でも今日は良かった、一人じゃ割と大変なのよね」
「え?」
「じゃあ行くわよ、ほっとくとろくな事にならないからね」

「お姉ちゃんのバカ!!!!!!!!!」
二人がかりでなんとか弱らせお姉ちゃんが持っていた変なボールで変なポケモンを捕まえて・・・静けさが戻った庭園に私の声が響く。
「驚かせてごめん・・・だけどあまり大きい声出すとみんな驚いちゃうから」
草むらに居たポケモンたちが一斉に動く音が遠くで聞こえる。
「本当に馬鹿なんじゃないの!」
「だから驚かせて―――」
「そうじゃなくて」
謝るところはそこじゃない違う、なんでこうもお姉ちゃんはズレているんだ。
「こんな危険なこと・・・私に黙って・・・」
何かを間違えたら怪我どころじゃない、何か安全じゃない事をしてるのはなんとなく分かってはいたけどここまでの事をしているとは聞いていない。お姉ちゃんにもしもがあったら私は・・・・・・。
「あぁうん・・・そうだね・・・ごめん」
涙目の私を真剣な顔で見つめながらお姉ちゃんは続ける。
「色々言えないことも多くてね。モーテル帰ったら説明するから。でも・・・本当に優しいね、アレを見て私の心配するなんて」
私の頭を撫でながらお姉ちゃんは再び光を放つようなった月を見上げる。
「でも・・・ちゃんと見てもらえたみたいだし一安心、かな・・・」
風にかき消されてよく聞こえなかったが、多分そう言ってた・・・ような気がする。


「私の仕事はね『正義の味方』なのよ!」
モーテルの床で反省の正座をしながら胸を張ってお姉ちゃんは答える。
話を要約するとリーグからのお仕事を受けた博士がジーナさんへ依頼してその手伝いをお姉ちゃんがしているらしい。ポケモンの調査や、捜索や捕獲。時には危険なポケモンの撃退や、ウルトラビースト(?)の討伐もしてるらしい。
「ウルトラビーストはチャンピオンが最初に捕獲して色々調査が進んでて対策がちゃんとあるから慣れるとそれほど危険はないんだよ、それでも戦うこと事態は大変なことには代わりはないけど」
とお姉ちゃんは言っていた。

「だから思ってるというより、体験したよりは危険じゃないってこと」
「そういうことじゃなくてね」
お姉ちゃんはアルバイトの事を何度聞いても教えてくれなかった
「どうして今?」
「んーそれはまだ秘密」
「そっか、秘密か・・・」
「なんで嬉しそうなのよ」
はにかむ私を怪しむけど、お姉ちゃんは何も分かっていない。
「んーないしょ」

私は知っている。
姉妹ふたり暮らし、お金には困ったことがない。私もアルバイトはしているけれどそれで十分というわけではない。元々ポケモンもポケモンバトルも好きなお姉ちゃんが島めぐりもチャンピオンへの挑戦も諦めてジーナさんの仕事を手伝っているのは、私の為だ。
知っている。
分かっている・・・。
「でもこれだけは知っておいて、私この仕事結構好きなんだよ。じゃなきゃせっかく同じ島にいるのにあなたと何日も会えないのなんて選ばないもん」
温かいエネココアを私に手渡し、にっこり笑顔のお姉ちゃん。

私の大好きなお姉ちゃんは、きっと私の考えていることなんていつもお見通しだ。

半分ずつをお互いに領土として分け合いベッドに入ってすぐお姉ちゃんが背中を向けたまま呟いてくる
「家に帰ったら、勝負しようか、ポケモンの」
「やだよ面倒くさい・・・」
「そっかぁ」
・・・・帰りに何種類かポケモン捕まえないとなぁ・・・面倒だなぁ・・・

~メレメレ島・メレメレ乗船場前の埠頭~
風に吹かれ船を見送る私へ一人の男が声をかけてくる。
「行かれたのですか?」
「珍しいですねこんなところまで来るなんて・・・」
声の主は南国の似合わない色の白い優男、プラターヌ博士。
「正直に言うと意外でした。私は妹さんではなく貴方がジカルデに選ばれるとばかり思ってましたから」
「私は・・・私には無理ですよ。私には今更カロスをどうかしようなんてとても思えないですから」
博士は話の続きを促す様に静かに海の向こうを見つめている。
「妹はアローラの『普通の子』にはなれなかったから、島めぐりも途中で辞めてしまったり・・・要領はいいから嫌われたりはしなかったけどそれこそ中の良い仲間は結局出来なかった。きっと博士と一緒ですよ、カロスの血が濃すぎるんです」
整ったな顔を苦笑いに歪ませながら博士は「そういう自認はないのですが」の後に続ける
「それでもですよ、四天王にスカウトされた貴方の実力があればジカルデに選ばれるとばかり・・・」
そう言えばプラターヌ博士は妹に会ったことなかった、そうか知らないのも仕方がない。
「私は、私のためにしか戦えないですから。でも妹は逆、自分のために戦えない」
そんなことはないでしょう、と博士は笑うが・・・それだけじゃない。
「・・・5年前に、二人でハクダンシティからこの島に『避難』する時に決めた私とあの子とのルールがあるんです。どっちが片方しか手に入れられないものがある時は、ポケモン勝負で決める」
「あぁよく聞きますね、特に男兄弟では多いみたいですが」
「私、あの子に勝負を挑まれたことがないんですよ」
「欲のない方なのですか?それとも姉思い・・・?」
「結果が分かってるからですよ、私はあの子に勝ったことがないから」
「それは貴方が手加減を?」
「それはルールで禁止」
「それは・・・」
空を仰ぐ、2羽のキャモメが寄り添いながら飛んでいる。
「こういう言い方あまり好きじゃないけどあの子は本物。そこら辺で捕まえたポケモンで私が育てたポケモンに勝つくらいには。言ったじゃないですか『島めぐり』を『辞めた』って・・・それは諦めたんじゃなくて自分の意志で辞めたんですよ。もちろんアローラに馴染めないまま島めぐりをするのが嫌だったのもあると思うけどそれだけじゃない。先が分かっちゃったから、興味が無くなったんだ。と思う」
「それはあのチャンピオンにも勝てると・・・」
「さぁね、ただ初めて見るはずのチャンピオンのポケモンとその戦いを見てまるで次に何が起こるのか分かってるって顔をしてた。私がボロッボロにされたあのメンツ相手によ・・・」
「それでも彼に楽に勝てるとは私にはとても思えませんが」
「それは妹に聞いて下さい、海の上にいますんで」
「それはちょっと無理ですね、私の手持ちに空を飛ぶが使える子はいませんので」
プラターヌ博士は両手を返したまま上げて笑う
「・・・それで」
「はい?」
「それで何の用ですか、いつもエーテルパラダイスに引きこもってる博士が外に出てくるなんて」
「それは簡単ですよ、無職になったからです」
「はぃ?」
最早目では追えなくなった船の向かった先、おそらくカロスの方角を眺めながらプラターヌ博士は静かに語り始める。
「あの日、5年前にジカルデがフラダリさんを連れ現れてから数カ月、眠り続ける彼を匿いきれなくなった私はジカルデの目撃情報のあったアローラへフラダリさんと身内を連れて逃げてきました。元々『フラダリの友人』としてミアレには居れる身ではなかったですし」
私と妹がカロスからアローラへ避難したのはその少し後の話だ。幼かった妹は覚えてないだろうけど『プラターヌ博士のカロス追放』のニュースはよく覚えている。アローラで出会った時は驚いたものだ。
「エーテルパラダイスに拾ってもらえたのは運が良かったですね、ルザミーネさんがあんな事になってしまったのは予想外でしたが、ジカルデの観察にも力を貸してもらってましたし・・・」
博士はあくまで淡々と続ける。
「しかし半年前にフラダリさんが目覚めた時に彼女が居なかったのは良かったです。二人が出会ってしまっては何が起こるのか想像がつかないので・・・」
「記憶喪失だったんだから問題はなさそうだけど」
「それでもジカルデが選んだ男が目覚めたら放っておくような方ではないですよ」
知らない人ではあるから賛同はしかねるけど博士が言うのだからそういう人なのだろう。
「それで当のフラダリさん・・・今は『F』さんだっけ?どうしてるの?」
「失踪しました」
「は?」
「数年前にチャンピオンが集めたコアとセルによりZ技を理解したジカルデですが、その後ずっと姿を表さなかった彼がアローラで目撃情報のあったその日に『F』も姿を消しました」
「それって・・・」
「一月前です。4年以上昏睡状態だったせいで衰弱が酷かったのですが、リハビリがある程度終わっていて良かったですよ」
「心配するところはそこじゃ・・・」
「良いんですよ私の友人はそういう所がある人ですから」
男の友情と言うやつだろうか?私には良く分からない。
「セルは?」
「島にいた分はほぼ研究室に集めてありましたが全て失踪していました、Fさんが持ってるはずです」
私から観察対象を妹に変えた一つを除いて・・・か。
「しかし良かったのでしょうか、いくらジカルデに選ばれたとは言えそれを知らないまま妹さんを一人でポケモンも持たずに送り出して」
「まぁ何かあったらハクダンシティにはビオラさんも居るしあの子のことなら大丈夫よ、あの子はね・・・」
手のひらを太陽にかざす。
「『次の番』がある子だから、私なんかと違ってね」
「貴方が旅行券といっしょに渡したホテルZの滞在券・・・あとは私がAZ氏に送ったポケモンを受け取ってくれると良いのですが」
「問題はないですよ、あの子のことが大好きな私が保証します。きっとミアレの救世主にでもなったりしちゃいますから」
手のひらを貫通してアローラの眩しい太陽が私を照らす。今日もいい天気だ。


~ミアレ駅前~
「AZさんに言われた通り駅前に撮影に来たけど・・・まぁ観光客捕は捕まえやすいか」
スマホロトムで撮影準備をしながら3体のポケモンをボールから出す。
「撮影準備OK!あとはミアレに来る観光客だ、お前たち今回も撮影に協力してもらうぜ」
3体のポケモンが元気よく鳴く。
「いかにも観光客ってやついねえかなぁ・・・そこの人!」

ミアレ駅を出た所で声をかけられる、若い男の人とポケモンが3匹。
だいたい5年ぶりのカロス。始めてのミアレ。

私はドキドキしている。きっと、予想もつかない事が起こる。そんな予感がする。