ポケモンには、生まれ持った能力がある。
例えば、ポケモンがいくつかの姿に変わることを科学的名称で『フォルムチェンジ』と称する。それはさながら、ファッションショーのようだ。
環境や状況に合わせて千変万化する在り方は、人々の心を捕らえて離さない。
では、トリミアンがその姿をいくつものカットで魅せることは何というか?
誰もこの疑問に答えようとはしない。何故なら、そのような言葉は定義されていないからだ。定義の必要もないと、片付けられてしまっているからだ。
あたしはトリミアンを愛し、追求する一人のトレーナーとして。飽くなきトリミアンロードを突き進む者として、ここに宣言する。
「『トリム・チェンジ』を!」
「言いたいだけだよな?」
「よく分かりましたね」
カイナシティ『ポケモンだいすきクラブ』は今日も平和だ。推しポケへの愛をあらん限り、時間の許す限り叫び倒す場所。
多くのトレーナーが集まるブースでは、手持ちを自慢し合う会合が毎日のように開かれている。
ポケモンが好きという前提さえ守っていれば、誰もが同志としてウェルカムな、いたってハードルの低い集いである。
「別にフォルムチェンジの一種ってことで良くない?」
「いーや、ダメです。トリミアンは、特別なんですっ」
トリミアンを抱きかかえながらぶーたれる会員。
ちなみに、トリミアンの体重は28.0kg……人間が腕力で持ち上げようとするには重い方だが、実はコツがある。胴体の真ん中辺りにゆっくりと腕を絡めて交差し体重をかけて身体を近付け持ち上げると、あら不思議。なんと人間でも持てちゃうのだ。
今現在テレビで一躍注目を集めるトピックは、カロス首都・ミアレが大規模都市再開発計画を打ち出したこと。かの大女優カルネを起用し新作映画の舞台として熱心に宣伝しており、話題性を獲得している。
これが実は上手いやり口で、女優の卵含め、夢や挑戦心を抱く者をミアレに誘致しようという導線を敷いている。
「カロス地方かー……あたしも行きたいなあ」
「ま、セイカが大きくなったら行けばいいじゃん?」
荒砥 青果(アラト セイカ)はその一人で、プードルポケモン・トリミアンに熱狂を捧げる少女。
セイカ、という名前は、青く瑞々しく果実のようにすくすく育ってほしいと親が願い、付けてくれた名だ。ところが漢字の綴りだけで言うとなんだか食べ物チックで、もうちょっとオシャレな名前が良かった……というのが本音だが、両親の物悲しそうな顔を想像するだけできゅっと胸が痛むので言わないようにしている。
「大きくなったら、っていつの話ですかっ」
「例えば~、セイカちゃんがトリミアン統一でホウエンリーグを制覇してお金を稼げば、行けるかもしれないけどねえ」
「それだ!!」
セイカは立ち上がり、瞳にブーバーを灯らせる。
「……え、マジ? 冗談なんだケド……」
「いや、やりますよあたしは。なんたって夢はトリミアンマスターですからね。早速トリミアン統一パを組まなきゃ!」
セイカは『にげる』コマンドを押したようにコミカルな走りで去っていく。
子どもの頃から……とはいえ今もまだ子どもだが、とにかく幼少期から、彼女は一度こうだと言ったら聞かない癖があり、両親を困らせる悩みのタネとなっていた。
「行っちゃったよ……」
私の話は聴いてくれなかったな、と思われたに違いない。
実は、行こうと思えばカロスには行ける。あまりにも思い通りに事が進む事実に面白くなって、くつくつと笑いが込み上げ、最短ルートでの勝利を確信した。思い立ったらそれが吉日、アドレナリンゼンリョクゼンカイで突っ走るのみ。
しかし、セイカはいきなり重大な問題に直面する。
「トリミアン、ホウエン地方にほぼ生息してないじゃ~~~~~~~ん!!!」
そりゃそうじゃ。
「ママ! あたしカロス地方に行きたい。今度の連休、連れてって」
「はあ!? いきなり何言ってるの」
家計簿をつけていたところに娘がバン、とテーブルを叩いて恐ろしい剣幕で畳みかけてくるものだから、母はまた何か面倒事を言い始めたと取り合いたくなさそうな表情である。
「カロス地方じゃないと、トリミアンがゲットできないのォ!」
知るか。
指が自我を持ち、クネクネと動き出す。
彼女はまだ悲しき現実を突きつけられて打ちのめされないほど、大人の割り切りをつけていない。
「あー、そういえば私がトリミアンを連れてきたんだった。そしたらセイカがえらく気に入って……」
頬に指をあてて、ママは思索に耽る。
元々海の男として働いていたパパと、カロスのアズール湾で出会ったのがご縁の始まりだったとか。ずっとそんな感じの惚気話を寄せては返す波のように聞かされてきた。
結婚後しばらくしてホウエンに越してきたそうだが、それまではカロスにいたことになる。セイカは、自身の目的を叶える為ならば親のコネクションまで利用してやろうという野心に満ちている。将来が微妙に心配である。
「ちっちゃい頃はずっと一緒に過ごしたっけなあ」
幼少期をどこからどこまで指すかはその人次第だが、トリミアンと過ごした記憶は忘れない。
一本一本に渡るまできめ細やかな白磁の毛並みと、そこから覗く顔面や皮膚の色が影響して、無知ゆえにトリミアンをアブソルと勘違いし怖がって近付かない子もいた。
両親が仕事に出て留守が続いた時も、トリミアンは一緒に自宅で過ごしてくれた。ぬくもりが欲しくなった時にはこっそり見つからないようにお腹まで近付いていく。
そうしてくるまっていたら、いつの間にかトリミアンの方が布団を咥えてきて、寝かされたりしたこともあったなあ……。
そんな思い出たちを作ってくれたポケモンの良さを伝えたい、というのはセイカの個人的な儚い願いで。
ポケモンだいすきクラブで懸命にアピールを続けてきたが、もっと有名なポケモンに推しのパワーで負けてしまったりと、みんながみんな、自分と同じ感情を抱いてくれるわけではなくて。
何か特別なアクションを起こさなければ、これ以上伝わらない気がする。
「……分かったわ。そんなに言うなら、カロス地方に連れて行ってあげる。ただし、いくつか条件がある」
「じょ、条件?」
ママは指を立てた。
一つ、自分のことは自分でなんとかすること。カロス上陸後は、金銭面等の補助は行わない。
一つ、やるからには途中で投げ出さないこと。
セイカに課した条件は以上だった。
「あんたの覚悟がどれだけのものか、見せてごらんなさい」
「え、それだけ?」
「分かってないわね。『継続する』ってコトが一番難しいのよ」
ママはどこか悟ったような表情で口端を緩める。大人が纏う余裕ってこういうことなのかな、と感じさせた。
ポケモンが好きであるということと、ポケモンコンテストに参加することは、決して矛盾しない。推しポケの魅力を公に向けて広く発信できるコンテストは、ポケモン愛好家の参加率も高いのだ。
そんなカイナシティ・ポケモンコンテスト会場に、一人の女性が現れる。名を『アカタ』。彼女は野望にも等しい使命を背負い、ここカイナにやって来た。
「さて、わたくしのようなトリミアン使いはいるかしら」
アカタの予想では、ほぼゼロに等しい。
セイカが大分遅く勘付いた通り、カロスでもないホウエンの大自然にて、トリミアンという種族はほぼ生息事例が無い。
近年は外来種の流入問題もあり単純なホウエン産ポケモンだけではなくなってきている……という背景もあるにはあるが。
カイナのコンテストは何度かグランドフェスティバルの会場に選ばれているだけあり、流石にトップコーディネーターが参加者の多くを占める。
しかし、彼女が注目するのはまだ磨かれていない原石たちが集うスーパーランク帯だった。
「完成されて『しまった』美ほど、面白くないものはないわね」
彼女はそう呟きながら、黒きファーコートを衣服のように羽織るトリミアンを連れて歩く。
アカタの醸し出す雰囲気には勿論のこと、ホウエンという大地からはジャンル違いになってしまうほど気品に満ち溢れた姿に目を焼かれているのだろう。
『さあーーッ、いよいよコンテストも終盤です! それぞれのコーディネーターによる、ラストアピールタイム!!』
アカタのトリミアンが、鼻腔を震わせ、低い声でひとつ唸る。
それがトレーナーに注目を仰がせる時の反応だと知っている彼女は、目線をそのままステージへと落とす。
「いくよ。トリミアン、『とっしん』!」
ステージ上では、ママから貰い受けたおさがりを着たセイカがここぞとばかりに指示を繰り出す。ホウエン地方でも希少種に該当するであろうたった『1匹』のトリミアンが、コーディネーターの指示に従い、技を繰り出した。
何の変哲もない、タネも仕掛けもない、我を誇示するだけの先行で、すかさず審査員たちに存在をアピールする。華やかさなど微塵もない、粗削り。原石というよりも道端の石ころに近いだろう。しかし、その一日たりとも手入れを怠ることなかった純白の毛並みがスポットライトに躍り出ると、セイカはそこにもう1体のパートナーであるジュプトルの照準を合わせて来た。
「OK、ジュプトル、やっちゃって!」
人間サイズにも到底満たない二本指の足で支持基底面を押さえ、グッと重心を落として反動を利かすように頭を垂れると葉っぱも同時にしなった。瞬間、バネのように弾けた跳躍力から成る『リーフブレード』の斬撃が、トリミアンを切り刻む。
そのリーフブレードには、予めカラーリングが施されていた。
自らのポケモンにダメージを与えるような真似を、一体何がしたいのだ、と会場は審査員含めてざわめきと困惑に包まれる。
しかし、攻撃を食らうトリミアン自身は一切抵抗せず、リーフブレードの流れに身を任せている。
トリミアンに精通するアカタだけはこの会場でセイカの狙いを推し量れた。
「あれは、トリマーの技術……」
トリミアンのカットは、人間のみならず、ポケモンでも資格を持てば行える。むしろ、カロスで一躍トリミアンマイスターとして高名な者たちはポケモンの技術をこそ研磨させている。最近では、ストライク使いのトリマーが現れたという情報も入ってくる程、界隈は奥が深い。
型破りかつ掟破りなアピールだが、確実に他の選手を凌駕し、観客と審査員の眼を惹いていた。アカタのトリミアンは、下手な唸り声を出さず、黙してパフォーマンスを見つめる。
「『ゲンシカット』、いっちょあがりィ!」
カットに寄与していないセイカも手持ちのハサミをくるくる指で回すのは、トレーナー含めて完成されるパフォーマンス。
『こっ、これはーーーーーー!? なんとトリミアンの新カットだ!』
まさか、トリミアンのカットをコンテストのアピール要素にそのまま持ち込んでしまうとは。それも、全く誰も目撃したことのないスタイルで。
ホウエンで超古代ポケモンとして言い伝えられるグラードン・カイオーガ・レックウザの身体に刻まれた紋章を彷彿とさせる意匠に剃り込んだだけでなく、紅・藍・萌葱の三色を差し色にしている。これは本場ミアレでも生み出されたことのないカットであった。
もちろん、全て素人による発想・物真似に過ぎない。だが、既存の流行を追いかけることに囚われ、新しい潮流に乗ることを避け形骸化しつつあった在り方に、この自然そのもののあらぶりを味方につけるがごとく斬新なカットは、ミアレの芸術に一石を投じるかもしれない。
アカタはポケフォンをフリックし、SNSにポンと呟きを入れる。
『ホウエンでステキなトリミアンに出会えたわ! 嬉しい!』
というコメントだけを残して。
いいねのインプレッション、それからファンからのリプライが殺到する。
コンテストの結果発表。
セイカも含め、審判の下る瞬間を、固唾をのみ甘んじて待ち受ける。その身に降りかかる容赦なき裁断を待つ囚人のように。
スポットライトが当たったのは……残念ながらセイカではなく、隣のコーディネーターだった。
「……っ!!」
選定理由など問うまでもない。奇を衒いカットチェンジそのものをパフォーマンス化するアタックフォルムも真っ青な攻めの大博打に出たが、ポケモンとポケモンの、技と技によって織り成されるステージ自体への美しさを超えるものではなかった。
セイカはおぼつかない足取りでステージを後にし、廊下を歩いていた。観客が起こす歓声の残響は、神経を逆撫でし、かえって苛立ちを募らせる。
トリミアンはクウン、と鼻の奥を鳴らし、心配そうに見つめた。せっかくあれほど息巻いてトリミアンマスターを目指すと豪語したのに、やはり爪痕を残せないのか。
「あたしの『トリム・チェンジ』が……」
セイカは目先の勝敗に囚われており、金髪を固めて品よく横に流し、ホウエンを歩くには暑すぎるロングコートを着込んだ長身の女性とその瞬間すれ違ったことに無意識でいた。
しかし、人間が気付かずとも、ポケモン同士は気付く。二人は足を止めた。
「……『色違い』の、トリミアン」
「分かるのね」
アカタは眼鏡をくいと上げる。
「……さっきのパフォーマンス、発想は悪くない。だけど、スタイリッシュさに欠ける」
「誰ですかあなた、いきなり」
セイカは漆黒のトリミアンに目をやった。
尋常ではないほど磨き抜かれた一本一本の被毛が、照明を必要とすることなく照り映えている。
健康そうな肌艶、品の良い佇まい。
目つきから足の爪先まで一分の油断と隙も与えぬほど、耽美な作品のように仕上げられていた。
「……すごい。こんなトリミアン、見たことない」
「あら。お褒めに預かり、光栄ね」
ゲンシカットを施されたトリミアンに向かい、目の前の女性は床にコートがつくにもかかわらず目線を合わせてしゃがみこみ、そっと頭を撫でた。ポケモンを育てている、特に四足歩行の怪獣グループに慣れた者特有の手つき。気持ちよさそうに反り返り、首を振って一声をあげる。
「フフ、良い子ね」
「あの、どちらの方でしょうか……?」
アカタはセイカを見上げ、笑みを貼り付ける。
「アナタ、『トリミアンリーグ』ってご存知?」
「トリミアン、リーグ?」
それは、トリミアンの、トリミアンによる、トリミアンのための祭典。
カットスタイルからポケモンバトルに至るまで、トリミアンという種族が持つ魅力を極上まで磨き上げ、誰のトリミアンが最も優れているかを大衆の耳目からジャッジしてもらう、いわばポケモンコンテストを一極に尖らせた催しだ。
その誉れを受けし者こそ、トリミアンマスターとして名を馳せる。殊『ホウエンでは』トリミアンに関して右に出る者がいないと自負するセイカですら、聞いたことがなかった。
「近頃、ミアレで勃興しつつある動きなの」
「知らなかった、……です」
アカタの笑いは、視野の狭さを揶揄するものでは決してなく、むしろ獲物を発見したという鋭さでもあった。
「カロス地方に来れば、今のアナタみたいに斬新なカットを研究しているトリマーや、それこそトリミアン統一でリーグ制覇を目指すようなトレーナー、それから純粋にポケモンとしてのトリミアンを愛する者たちと出会い、活発に意見を交わし合うことが出来るわ」
コンテストで得点を稼ぐためにトリミアンを起用したのではない、という深い愛は、既にアカタへと伝わっていた。
セイカの中で、点と点が結ばれ、星座を描くような衝撃が起こる。
『トリミアンリーグ』。
それは、目指したい、目指すべき姿に果てしなく近付ける、ロードの提示。
「あたし、行きたい。行きたいです!」
その返事を待っていた、とばかりにアカタが微笑む。
「アナタはトリミアン使いとして、何を成し遂げたいの?」
「成し遂げたい……」
トリミアンの魅力を推し広める。
今までトリミアンというポケモンに触れてこないで生きて来た人々にも、素晴らしさを知ってもらえたらと願う。
今までにない、トリミアン像を作り出す。
それこそが、あたしの目指す――『トリム・チェンジ』。
「あたしが目指すのは、トリム・チェンジです」
もう言いたいだけではない、その言葉に確信と覚悟を込めて。
「トリム、チェンジ? まるで『フォルムチェンジ』みたいね」
セイカは言ってから気恥ずかしくなり、自身のうなじを掻いた。
けれど、眼前の女性は、その叶うかどうかすらも分からない大言壮語を吐いても、実在する概念として受け止めてくれるように思えた。
「アナタがミアレに来て起こすトリム・チェンジ。楽しみにしておくわ」
黒きトリミアンが去り行く彼女に随伴し、そこで邂逅は終了した。
飛行機から列車に乗り継ぐ長い旅程の中、セイカは頬杖を突きながら車窓の外を覗く。
窓を僅かに上げると、鼻の奥に自然となじむような慣れ切った青臭い香りだったものが、馴染みのない洗練された都会の空気へと刷新されてゆく。小さい頃に行ったきりの朧気な記憶では、都会の何から何まで境界線をはっきりさせるような輪郭なんてもう覚えていない。
ママは最後の支援をしてくれた。カロス行きへの旅路を整えるという最大のエールを。
網棚に乗せたベージュのバッグが時折小刻みに揺れるのは、パンパンに詰め込んだわけではない商売道具の手荷物の重さを示す。
ミアレ駅に到着した。
ほら、着いたよ、と反対座席で丸まっていたトリミアンを起こす。
ホームグラウンドを離れ、アウェーの土地に単身飛び込む恥ずかしさからかバッグを清楚に両手で抱えながら、辺りを落ち着きなく見渡す。改札の周辺に溜まって待ち合わせをしている人や、学校帰りの学生などが、こちらを見やる。
それはセイカ自身へと充てられたものというより、ゲンシカットのトリミアンが目に留まったがゆえの反応だ。
好奇、疑問、無関心。
様々な反応が、セイカの美意識に対するカードとなり返って来る。
「大丈夫。トリミアンはカッコいいよ」
セイカはグッ、と握り拳を作り、軽く鼻先にこつんと当ててやる。カロスのトリコロールカラーではなく、ホウエンの紅・藍・萌葱色をたずさえたトリミアンは、トレーナーを見上げる。
翼をはためかせながらどこかへと向かうヤヤコマが出口を横切った。シシコと青年がランニングに励み、メレシーと少女が露店を物色している光景が、一斉に視界へと飛び込んでくる。
見上げても見上げきれないくらいのビルが立ち並ぶ中。雲を切り裂き、鳥ポケモンの視界のように通りを突き抜け、貫いた先。
カロス地方のランドマークとして名高いプリズムタワーが、挑戦者の到来を歓迎するように聳え立つ。
意を決して、一歩を踏みしめたスニーカーに、人工色を伴う足音が跳ね返って来る。
「撮影準備OK。あとはミアレに来る観光客だ。オマエたち今回も撮影に協力してもらうぜ!」
三匹のポケモン……チコリータ・ポカブ・ワニノコを率いたペールピンクカラーの少年が、街路で何かを企画している。ポケモンたちは呼び掛けに応じてそれぞれ鳴き声を返事代わりにした。
「ミアレを守るにはメンバーが必要。だからまたホテルZを宣伝する。で、ホテルに来た客からよさそうなヤツをスカウトする作戦開始だ!」
少年は、手を眉下に翳し、周囲を仰ぎ見る。
「いかにも観光客ってヤツいねえかな~」
傍らを通り過ぎようとした少女と、独創性のあるカットを施されたトリミアンが、少年の眼に留まった。
「イカしたトリミアンだな」
「……でしょっ!」
少年からの賛辞に、セイカも思わず振り向く。
カロスに来てから向けられる視線に内心びくついていたが、その感想を貰えただけで、トリミアンのことが好きな自分を、これからも信じてあげられる気がした。
「しかもそのでっかい旅行カバン。ずばり、観光客だな」
そうです、正解! と言いたいところだが。
生憎、バッグに詰め込まれているのは、トリマー用に購入・準備したありったけの道具一式だ。
「残念」
「ちぇっ」
少年は片目を瞑り、惜しそうに指を鳴らす。
「あたしは、トリミアンを極めにこのカロスに降り立った。荒砥――青果よ!」
力強くあげる名乗りは、我こそがミアレに一旗打ち立てる者だと疑わない、大胆不敵さに満ちている。
少年もまた、そんな人物を欲していた。
「オレは『ガイ』。お姉さん、それなら良いバイト先……知ってるぜ?」