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人を喰う街

作者:円山翔

 街が人を喰う。
 僕がたまに使う表現だ。
 といっても、実際に街が生きていて、人を喰うというわけではない。
 というか、街が人を喰う、なんてことがあるのかと、疑問にさえ思う。

 簡単な話、同じ街に住んでいた誰かが別の街に旅立って、帰ってこなくなくなった時、「ああ、あいつはあの街に喰われたのだな」と思う。そうすれば、変に帰郷を期待して裏切られることもないし、諦めもつくというものだ。その街での生活が軌道に乗って帰る理由を失うとか、また次の街へ旅立ったとか、真っ当な理由はいくらでも考えられる。仲の良い友人などは度々連絡をくれるから、喰われることなく生きているということも分かる。

 だが、どうも今回はそうでもないらしい。
 だから、僕はそこへ向かう。

「ミアレ行き、まもなく発車します」

 アナウンスを聞き流しつつ、余裕を持って列車内に踏み込む。外とは少し違う空気を感じつつ、最後列に立ち、前方を眺める。
 車両の数はそれほど多くはない。早い時間故に空いた社内は、はるか向こう側の車両まで見通せる。車両間を隔てるドアの向こうは、こことよく似た世界に見える。向かい合わせの鑑を覗いたときのように、どこまでも、どこまでも続いているように見える。それでも時折乗客の姿を見せては、そこが現実にある空間なのだと思い知らせてくれる。
 車内の様子を眺めた後は、空いた席に座って外を眺めていた。
 やがて、窓の外に、光輝く塔が見え始めた。
 ミアレシティ。カロス地方一の大都会であり、技術と芸術が調和したメトロポリスと称される街だ。長い歴史を持ちつつ、挑戦的に新しいものを取り入れ、今もなお進化し続けているという。
 僕の住んでいた町にも、ミアレシティに出ることに憧れる者は多くいた。
 ある者は画家に。
 ある者はダンサーに。
 ある者はポケモンの研究者に。
 それぞれの志を胸に、旅立っていった。
 そして、その誰もが、今は軒並み音信不通になっている。それまで頻繁に連絡を交わしていた者でさえ、だ。
 地元の新聞社に勤め、全くと言っていいほど都会に興味がない僕を動かすには、十分すぎる理由だった。

「当列車は間もなくミアレ駅に到着します。お出口は左側。お忘れ物のないよう、お気を付けください」

 程なくして、電車はミアレシティの駅に到着した。
 大都会にしては小さな駅だと思った。ホームは僕が降りた一か所だけ。もっとたくさんの路線が交わり、線路もホームもいくつも並んでいる物だと思っていたから、肩透かしを食らったような気分になる。それでも。
「最近のミアレシティに起きている異変について調べるつもりです」
 一組の乗客の会話が、僕の警戒を限界レベルまで引き上げた。やはり、この街には何かある。友人たちが返ってこなくなった理由が、必ずどこかにある。
 期待と不安を胸に改札を抜け、駅を出る。

 綺麗に敷き詰められた石畳。
 近代的な建物と、その表面で昼でも目立つ程に輝くホログラム。
 今のところ、おかしなところは見当たらないようだ。
 少しだけ、ほんの少しだけ気を緩めたときだった。
「駅からでてきたそこのあなた!」
 桃色の髪の少女が、三匹のポケモンを連れてこちらへ駆けてきた。
 背丈も年齢も、僕と同じくらいだろうか。

 後から思えば、この出会いがすべての始まりだったのだ。
 この先で僕もまた、この街に喰われることになるなど、この時はまだ知る由もなかった。