コンテストのページへ戻る

[アフター・イフ]

作者:マの字

ミアレシティへ向けて電車が走る。
自然豊かな景色の中を、壁で囲われた街へ駆けてゆく。

電車の中には作業員やポケモントレーナーたち。誰もがミアレで何をするか、何があるかと話している。
しかしその中に、誰一人として観光目的の者はいなかった。

「♪Don't forget a hole in the wall.(忘れるな、胸中に空いた穴を)」

男が歌を口ずさむ。
物音に埋もれる程度のボリュームで周囲の人々は気づかず、あるいは気にも留めず。そして男もお構いなく歌を囁きながらスマホロトムを操作する。

「♪Day after day, I stay around on far away.(来る日も来る日も、心ここに在らず)」

男もまたポケモントレーナーであり、その目当ては、メガシンカだった。


男はかつてメガシンカを使う相手に敗北していた。
その時メガシンカの強さに、輝きに、胸を撃ち抜かれていたのだった。
男は平気でいられなくなり、以来同じ力を求めてポケモンを鍛えていった。メガシンカの可能性があるとされるポケモンばかりを揃えて。

そして近年、ミアレシティにメガシンカを使うトレーナーが集まっていることを知った。
メガシンカのエネルギーが結晶化して街中に出現していること。メガシンカが発生しやすいこと。
さらには、都市開発を主導する企業がポケモン勝負のイベントも開催しており、上位ランカーにはメガシンカのキーアイテムが与えられる、という噂も。

男にとって堪らない魅力であり、とにかくミアレに行けば自分にもチャンスはあるはず。
そう考えていた。


「♪By the way, I found a flower a little way away.(ふとした時、傍らで“花”を見つけた)」


出発の支度をしていた時、テレビのニュースが伝える。

ミアレシティ壊滅。

街の中心にあるタワーから何かの装置が暴走し、吸い上げられたメガシンカエネルギーは光となって空へと放たれ、街中に降り注いだという。
以来ミアレシティは復興作業のために一般の立ち入りは禁じられ、あれが災害だったのか事故だったのか、語られないままでいる。
報道されたのは公式発表のような、開発を主導していたクエーサー社が今度は復興を行政と協力して続けているという程度。
しかしあの日以来、エネルギー結晶は街から消え去り、クエーサー社のイベントも休止されてメガシンカのアイテムどころではなくなってしまった。

見えていた希望が潰えた。
これには男も寝込むほど落ち込んだ。失せた以上は次へと切り替えるところだが、当てがない。
それでも行動しなければ。そう己を奮い立たせ、他の可能性を探し始めて、3日。3週間。3ヶ月。
鬱々とした日々が半年続いたある日のこと、前触れなく男のもとに連絡が届いた。

――――メガシンカに魅入られた人はミアレに向かう。きっと、アナタもそうなんだろう?

タウニーと名乗った女は、男にある依頼を持ち掛けてきた。
曰く、ミアレシティでメガシンカエネルギーの結晶が再び発見された。
それは暴走メガシンカの予兆であり、クエーサー社は警戒し協力者を求めている。
男にはクエーサー社との協力を結び、暴走メガシンカへの対処を担ってほしい、自分はその仲介をしよう、というのだ。

クエーサー社に協力するならばミアレに立ち入りが許されるし、暴走現象への対処に必要なメガシンカの力……キーストーンだけでなくメガストーンも支給される。

――――メガシンカの力を手にする好機だ。そちらにとっても悪い話ではないと思うけど。

断る理由が無かった。


「♪Day after day things are rolling on.(日々、物語は続いていく)」

今に至り、電車が駅に到着した。
壁に囲われたミアレシティ。この半年で壁の向こうはどこまで復興しているか。
少なくとも駅は街の入り口ということもあってか、すっかり片付いている。しかし改札が無いあたり一般開放はまだ先と見えた。

作業員たちが続々と電車を降りて駅の外へ向かっていく。人の流れに従い男も外へ出れば、街の景色に愕然とする。
道路脇に除けられた瓦礫が残り、見える建物のほとんどは屋根や上層階は砕かれ、造花のように変容したプリズムタワーがよく見えた。

思わず足が止まり、周囲から「初めてか?」といったような視線を向けられる。
その時、スマホにメッセージが届いたことで我に返った。

『到着したね。では手筈通りに』

人の流れから外れてスマホを確認し、届いた指示を受けて男は手持ちのポケモンを呼び出した。
それはキルリア。タウニーからのレンタルポケモンだが、タウニー自身も“友人”のポケモンを借りているだけだという。

「キルリア、テレポートを。行き先は“キミのホテル”」

ミアレにホテルは数あるが、キルリアが知っている場所がタウニーの指定だ。
指示を出してキルリアの手を取れば、一瞬の眩暈の後、テレポートが果たされた。


喧騒が消え、周囲を見れば路地の突き当り。目の前には日当たりの悪いホテル。
街の外れなのか、荒れた様子が少ないのが不思議だった。

『ようこそ、ミアレシティへ』

メッセージではない。スマホロトムが飛び出してタウニーの声を発する。
そして目の前の“キミのホテル”から、タウニーが姿を見せた。

「さぁ、まずは中に入って。休業中だけど、このホテルを拠点に使っていいから」

玄関の扉を開け、男を招く。

「アナタ以外にもポケモントレーナーが大勢いて、不思議だったでしょ。情勢を説明するよ」

ミアレ壊滅の時、何があったか。それからどうなったか。それを知るというタウニー。
話を聞くため、依頼の真意を探るため、男は扉をくぐった。

「ようこそ、ホテルZへ」