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創作メモ(「雪の女神」編)

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前書き

うちがお話を書くときは必ず事前に登場人物やプロットをメモにまとめるようにしていて、書いている最中も必要に応じて中を更新するようにしている。今回は「雪の女神」のメモについてどんな感じで書いていたのかを公開させていただくことにする。

メモの内容については執筆当時から特に変更していないが、必要に応じて見出しを付けたりリスト化したりしている点についてはご了承いただきたい。また、いくつか注釈を付けくわえさせてもらった。

メモ本文

ポリアフとペレ(*1)

ホウエンからアローラへやってきたおじいちゃんっ子の武道少女(*2)が、ラナキラマウンテンで「雪の女王(*3)」に出会うまで。

登場人物

伊吹ナツ

ヘキリ

伊吹宗太郎

雪の女王/ポリアフ

大まかな流れ

<序>

ナツは「ヤマアラシを山嵐で投げ飛ばす」と言われるほどの実力を持つ中学生の柔道少女。小柄ながら体力も技術も大人顔負けで、シダケ(*8)では負け知らずの「熊娘」(*9)(*10)として知られていた。凛とした姿は可憐で好意を寄せる者も少なくなかったが、本人は至ってさっぱりしていて、ちょっとガサツなところもある飾らない性格だった。

そんなナツが大好きだったおじいちゃんが、老衰で眠るようにして亡くなった。ナツは柔道の県大会に出場していて、おじいちゃんの死に目に会うことができなかった。大会に出るよう背中を押してくれたのは病床のおじいちゃんだったが、ナツはおじいちゃんと最期の時を過ごせなかったことを深く悔やんでいた。

傷心のナツが遺品を整理していると、一冊の古いノートが金庫から出てくる。ノートにはホウエンから遠く離れたアローラでの旅について書かれていて、その中の一ページに「雪の女王」について書かれていた。ノートには「雪の女王」のシルエットが事細かに描かれていた。

現れるだけで吹雪を巻き起こす美しい神の遣い、あるいは神の化身。人の言葉を理解する神通力を持つ神秘的な存在。力強いノートの筆致は、おじいちゃんがアローラで会ったという「雪の女王」に惚れ込んでいたことを如実に示していた。このとき相棒の「ヘキリ」の名も、アローラの言葉に由来していることを知る。おじいちゃんはアローラへ行ったことがある、ナツはそう確信した。

その夜、近所の知り合いが集まっておじいちゃんを偲ぶ会が開かれる。ナツはおじいちゃんの友人たちに「雪の女王」について話すが、温暖なアローラに雪を吹雪かせるものなどいない、と一笑に付されてしまう。そしてその席で「宗太郎は暑さにやられて狐に化かされたのではないか」と笑われて、怒ったナツは「雪の女王を探しに行く」と言い出してしまう。

ナツは一度言い出したら何が何でも絶対にやり抜くことを知っていた母親は、夏休みの間だけ、という条件を付けて、ナツにアローラへの渡航を許可するのだった。(*11)

<破>

相棒のヘキリと共にアローラへ渡ったナツは、ホウエンとはひと味違う風景に心を奪われる。燦々と照りつける太陽は、ホウエンのそれよりさらに眩しいものだった。食べ物も一風変わっていて、海辺の街で食べた定食は得体の知れない味がした。それでも意地っ張りな性格を発揮して、綺麗に平らげてしまうナツだった。

アーカラ島のカンタイシティでで情報を集めていた最中、「島巡り」をしているという年下の少女ラウレアと出会う。ラウレアはこれから森で行われる試練に挑むと言う。すごい、と感想を漏らすナツ。ナツはずっと地元にいて、旅をした経験がなかった。

自分もトレーナーかと訊ねられて、ナツが首を振る。ポケモントレーナーにはあまり良い印象がなかった、と語るナツ。ブリーダーをしていた祖父の姿を間近で見ていて、しばしば横暴なトレーナーを目にしていたことが原因だった。それはナツがトレーナーとして旅立つことを選ばなかった理由の一つでもあった。(*12)

ラウレアの側にいるクロバットは彼女によく懐いていて、仲がいい様子が伝わってくる。さらに側には、頭に毛が生えたディグダの姿も。このディグダはアローラにしか住んでいない特別なものだと聞かされる。アローラには、ナツが知っているポケモンが独自の進化を遂げたものも数多く生息していた。

楽しげに話すラウレアを見ていて、ナツは心のどこかで、旅立たなかった事への心残りがあったことを思い出す。おじいちゃんはナツに世界を見てもらいたがっていたように見えた。自分はおじいちゃんと一緒にいたくて、外へ出ていくことをしなかった。それがおじいちゃんにとって負い目になったのかもしれない。

なら、おじいちゃんを喜ばせてあげたい。そのためには「雪の女王」を探し出さなければ。自分にもしなければならないことがある、ナツがそう言うと、ラウレアは純粋な目でそれを応援してくれた。

ナツがさりげなく「こんなあったかいところで雪が降るようなところなんてあるのかな」と言うと、ラウレアが「隣の島に年中雪が降る山がある」と話す。ナツはそれを聞き逃さなかった。ラウレアによると、その山は「ラナキラマウンテン」と呼ばれ、アローラ随一の霊峰として知られているという。

ラナキラマウンテン、その名前をしっかり胸に刻み込むと、ラウレアにお礼を言い、ヘキリと共にウラウラ島へ向かった。

<急>

ラナキラマウンテンは温暖なアローラとは思えぬ極寒の地だった。厚着をしてもなお突き刺すような冷たさがナツとヘキリを襲うが、ナツは決してへこたれない。ヘキリも元はシンオウ地方のポケモン、寒さで闘争本能が刺激されてますますやる気になっていた。

山道を歩きながら「雪の女王」の姿を追っていると、ユキワラシやアブソルといった寒冷地帯に住むポケモンが襲い掛かってくる。ヘキリに指示を出してアブソルを蹴散らしつつ、自らもユキワラシの懐へ踏み込んで威嚇し怯ませる。

そうして野生のポケモンたちの相手をしていると、突然激しい吹雪が巻き起こった。雪に紛れて撤退するユキワラシとアブソル。そして激しい吹雪の中に、ナツはひとつの影を見つける。すらりとした身体に美しい氷柱のような髪、そして同性と気付いて闘争心を燃やすヘキリ。それは紛れもなく「雪の女王」だった。

現れた「雪の女王」の姿を見てナツは驚く。ホウエンにもいるサンドパンによく似ていたが、全身を氷が覆っていた。恐ろしいスピードでヘキリに襲い掛かる雪の女王に、ヘキリは大きく吹き飛ばされてしまう。それでも必死に食らいついていくが、雪の女王は眉一つ動かさずにヘキリをあしらう。

険しい表情で「『ペレ』め、火山の匂いがしよるわ」「人間風情がここへ来るとは」「氷漬けにしてやろう」と語りかけてくる雪の女王の目は、激しい怒りに燃えていた。ナツを追い、執拗に攻撃する雪の女王だったが、そこでヘキリが炎の牙を仕掛けた。

ヘキリの一撃で怯んだところにナツが遮二無二飛び込んでいき、宗太郎から教えられた得意技である「山嵐」を無意識のうちに雪の女王へ掛ける。雪を舞い上げ、地面に倒れ伏す雪の女王。けれどその表情は穏やかで「やっと会いに来てくれたのか」と語るのだった。

<結>(*13)

雪の女王はかつて宗太郎と出会っていた。サンドパンに進化したばかりで疲弊していたところへニューラに襲われ、そこへたまたまラナキラマウンテンを訪れていた宗太郎に助けられたのだった。

宗太郎は寒さに弱い手持ちのポケモンたちをボールの中へ入れたまま、自らニューラの懐へ潜り込んで「山嵐」でノックアウトする。雪の女王は宗太郎に一目惚れし、吹雪に難儀していた彼を匿って洞窟内で一夜を共にする。その中で雪の女王は宗太郎の優しさに触れ、彼に深い愛情を抱く。

翌朝、吹雪が止んで晴れ渡った空の下で、宗太郎は「もう一度会いに来る」と約束して山を下りた。雪の女王はそれから六十年近く、ずっと宗太郎が訪れるのを待っていた。けれど宗太郎は仕事と家庭に忙殺されて、再びアローラの地を踏むことは叶わなかった。

ナツは雪の女王の目を見つめて「おじいちゃんは天に召された」と語る。雪の女王は既にそれを感じ取っていた。人とポケモンは同じ時間を生きられない。サンドパンは長命で二百年近く生き、ことアローラのサンドパンは天敵の少なさと体の強さからさらに長い寿命を得ていた。雪の女王がナツに戦いを挑んだのは、宗太郎へのやりきれない思いをナツに受け止めて欲しかったからだった。

自分を救ってくれたあの技で自分の想いに応えてくれたナツに、雪の女王は涙を流して感謝する。「あなたは間違いなく、ソウタロウの孫娘だ」。雪の女王の言葉に、ナツが大粒の涙をこぼす。天に一番近いと言われるこのラナキラマウンテンで、おじいちゃんに恩返しができた。ナツの心残りが綺麗に晴れていくのを感じた。

吹雪が止んで晴れた空の下で、ナツが雪の女王に手を差し出す。「一緒にお線香でも上げに行かないか」。雪の女王は笑みを浮かべてナツの手を取る。「言いたいことはたくさんあるからな」。雪の女王が穏やかな声で呟いた。

設定

進め方

書き出し

おじいちゃんが向こうへ行って、一週間が経った。

ナツはおじいちゃんの部屋で、おじいちゃんがこちらに遺したモノを順繰りに手に取りながら、過ぎ去った日々を振り返っていく。このラジオはいつもお茶の間で聴いていたもの、あの本はもう潰れた本屋で買ったもの、その万年筆は自分が生まれる前から使っていたもの。部屋にあるモノすべてに物語があって、ひとつひとつにおじいちゃんの思いが詰まっていた。

だからこそ、持ち主であるおじいちゃんがいないということの寂しさを、ひときわ強く感じてしまって。

(おじいちゃん、ごめんね。一緒にいられなくて)(*16)

痛切な表情をしたまま、ナツは手にしていた万年筆をそっと机の上へ戻して、大きなため息をひとつついた。

*1:のっけからなんだが初期案はこんなタイトルだった。タイトルについてはこの後も悩んだ形跡が出てくる。
*2:元々この「おじいちゃんっ子の武道少女」という設定を使おうと決めたきっかけを思い出したので、注釈として付記しておく。このお話の大まかな筋書きをまとめたのは2017年1月初頭頃で、確かその頃何かのテレビコマーシャルで「おじいちゃんを慕う剣道部の女の子」が出てくるものがあった。帰省中にそれを目にして、なんとなく「おじいちゃんっ子の女の子っていいなあ、武道少女っていいなあ、書きたいなあ」などと思うようになり、そこを起点に設定とプロットを練っていった結果「雪の女神」が完成した。つまるところ完全にうちの趣味からスタートした作品なのである。いつも通りのことのような気もしないではない。
*3:原文ママ。調べが甘く「雪の女神」と「雪の女王」を取り違えていた。おかげで以後も全部「雪の女王」と書かれている。
*4:この設定は本編では活かせなかった。書く余裕がなかったとも言える。
*5:タイトルが変わったのは見ての通りだが、この設定は完成稿でも「『火山娘』と呼ばれる」という形で使われている。
*6:……と、メモには書いていたものの、本編には反映できていない。
*7:くどいようだが「雪の女神」の間違いである。
*8:これは明らかな「フエン」のtypo。フエンとシダケはしばしばうちのなかでごっちゃになってしまう。理由は不明。
*9:作中ではこんな風には呼ばれていない。呼び名は上でも書いたが「火山娘」である。執筆する中で設定が変遷している、もっと言うとブレているのが分かる。
*10:それにしてもなぜ「熊」なのか、当時の記憶を振り返っても理由がさっぱり思い出せない。かろうじて思いつくのは、架空の女性柔道家としてトップクラスの知名度を誇る「YAWARA!」の猪熊柔氏にあやかろうとした可能性くらいだが、これはなんとなく後付け感がある。真相は闇の中である。
*11:一連の流れは完成稿とまったく同じ。設定やタイトルはブレブレだが、どういうものを書きたいかについては最初からブレていなかったようだ。
*12:この辺りの描写は実際に書くとき削られている。恐らくコンテストではない、通常の短編として企画したならあれこれ書いていただろう。
*13:最後にこのセクションを用意するなら「起承転結」の方が構成としては正しい。まあメモなのでそこは大目に……
*14:どうも「山嵐」「ヤマアラシ」にこだわっていた時期があったらしい。
*15:最初は標準語で書き、その後セリフをひとつひとつホウエン風の言葉に直している。
*16:見ての通り、標準語である。