前書き
うちがお話を書くときは必ず事前に登場人物やプロットをメモにまとめるようにしていて、書いている最中も必要に応じて中を更新するようにしている。今回は「雪の女神」のメモについてどんな感じで書いていたのかを公開させていただくことにする。
メモの内容については執筆当時から特に変更していないが、必要に応じて見出しを付けたりリスト化したりしている点についてはご了承いただきたい。また、いくつか注釈を付けくわえさせてもらった。
メモ本文
ポリアフとペレ(*1)
ホウエンからアローラへやってきたおじいちゃんっ子の武道少女(*2)が、ラナキラマウンテンで「雪の女王(*3)」に出会うまで。
登場人物
伊吹ナツ
- 主人公の少女。ホウエン地方フエンタウン出身/在住。14歳。
- 意地っ張りで一本気、やり始めたらやりきるまで決してやめないタイプ。
- 男子と張り合うことも多くあり、気の強い女子として通っている。
- 男っぽいと言われることもしばしばで、思いを寄せている女子もいるとか。(*4)
- 例によって「黙っていれば可愛い」と言われるが、黙っていることの方が少ない。
- クラスでは「ちょっと男子ぃ」って言いそうな感じの子。顔が笑ってない。
- 大のおじいちゃんっ子で、家にいるときはいつもおじいちゃんの側にいた。
- おじいちゃんの影響もあってか、生粋のホウエン言葉で話す。
- 都会風の言葉を使いたいと思うことは無いようだ。
- 母親は仕事で家を空けがちで、父親は既に他界している。おじいちゃんに懐いたのはこのため。
- 子供の頃から柔道を続けていて、今は女子の部長として大活躍している。
- 柔道を始めたのもおじいちゃんの影響。優しく基本を教えてもらった。
- 得意技は山嵐。おじいちゃん直伝の必殺奥義。
- 山嵐で「ヤマアラシ(サンドパン原種の古風な呼び方)」を投げ飛ばす力を持つと言われている。
- パートナーはルクシオの「ヘキリ」。おじいちゃんがタマゴから孵した。
- 名前はアローラ語で「雷」を意味するが、ナツはこの意味を知らず、ホウエンの言葉だと思っていた。
- ヘキリの意味についてもノートに書かれていた
- すぐ近くに火山のある環境で住んでいるせいか、暑さに強い。
- フエンタウンは火山の麓にある。
- 雪の女王であるポリアフに対する火山の女王ペレをイメージした立ち位置。(*5)
- 大好きだったおじいちゃんが亡くなったところからストーリーが始まる。おじいちゃんが「雪の女王」に思いを馳せていたことを知り、その実在を自分の目で確かめに行くことにする。
ヘキリ
- ナツのパートナーのルクシオ。♀。レベルは28。
- 進化を間近に控え、ますますパワーをみなぎらせている。(*6)
- ナツにとてもよく似た意地っ張りな性格で、ナツとはケンカするほど仲がいい。
- 得意技は「スパーク」「ほのおのキバ」「かみつく」「でんこうせっか」。
- アゴがとても強く、噛みつき攻撃を得意としている。
- 父親はライボルトで母親はレントラー。父親の特徴が色濃く出ている。
- 同性には強い闘争心を発揮する。
- 花が好きという女の子らしい一面も持つ。アローラに咲く赤い花を見て喜んだりする。
伊吹宗太郎
- ナツのおじいちゃん。ナツと一緒に住んでいる。
- 孫娘のナツを誰よりも大切にしており、人一倍可愛がっていた。
- ナツに柔道を教えたのも彼。「山嵐」を仕込んだのも同じく。
- かつては世界を股に掛けて活躍していたポケモントレーナーだった。
- アローラ地方のラナキラマウンテンに挑んだ際に遭難し、その際に「雪の女王」と出会う。
- まだ幼かった雪の女王を助けたことで、彼女の心に強い面影を残す。
- ニューラを「ヤマアラシ」で倒す姿がいつまでも印象に残っていた。
- お礼に麓まで案内してもらう。また来ることを約束し、そこで別れた。
- その後もアローラ地方へ渡ることを望んでいたが、ホウエン地方での仕事が忙しくなり、トレーナーを引退。
- しかし雪の女王への思いはずっと抱きつづけていた。
- ホウエンではブリーダーとして活躍し、多くのポケモンを育てた。ヘキリもその中の一体。
雪の女王/ポリアフ
- ラナキラマウンテンに潜むと言われる謎のポケモン。神の化身と言われる。
- 神速を誇り、猛烈な吹雪を巻き起こしながら現れるとされる。その姿をはっきりと目にした者はいないという。
- 青みがかった白い体をしており、まるで美しい女性のように見えることから「雪の女王」の名で呼ばれるようになった。
- 地元では「ポリアフ」の名で呼ばれている
- 「雪の女王(*7)」という意味
- 正体はリージョンフォームのサンドパン。長い年月を生きたことで強い力を身につけた。
- ポリアフは宗太郎が出会ったものと同じ個体であり、宗太郎が再び訪れるのを待ちつづけていた。
- ラナキラマウンテンに現れたナツに襲いかかり、ナツとヘキリを追い詰める。
- ヘキリから反撃を受けて怯み、そしてナツが無意識のうちに繰り出した山嵐を食らい、ナツが孫娘だと確信する。
大まかな流れ
<序>
ナツは「ヤマアラシを山嵐で投げ飛ばす」と言われるほどの実力を持つ中学生の柔道少女。小柄ながら体力も技術も大人顔負けで、シダケ(*8)では負け知らずの「熊娘」(*9)(*10)として知られていた。凛とした姿は可憐で好意を寄せる者も少なくなかったが、本人は至ってさっぱりしていて、ちょっとガサツなところもある飾らない性格だった。
そんなナツが大好きだったおじいちゃんが、老衰で眠るようにして亡くなった。ナツは柔道の県大会に出場していて、おじいちゃんの死に目に会うことができなかった。大会に出るよう背中を押してくれたのは病床のおじいちゃんだったが、ナツはおじいちゃんと最期の時を過ごせなかったことを深く悔やんでいた。
傷心のナツが遺品を整理していると、一冊の古いノートが金庫から出てくる。ノートにはホウエンから遠く離れたアローラでの旅について書かれていて、その中の一ページに「雪の女王」について書かれていた。ノートには「雪の女王」のシルエットが事細かに描かれていた。
現れるだけで吹雪を巻き起こす美しい神の遣い、あるいは神の化身。人の言葉を理解する神通力を持つ神秘的な存在。力強いノートの筆致は、おじいちゃんがアローラで会ったという「雪の女王」に惚れ込んでいたことを如実に示していた。このとき相棒の「ヘキリ」の名も、アローラの言葉に由来していることを知る。おじいちゃんはアローラへ行ったことがある、ナツはそう確信した。
その夜、近所の知り合いが集まっておじいちゃんを偲ぶ会が開かれる。ナツはおじいちゃんの友人たちに「雪の女王」について話すが、温暖なアローラに雪を吹雪かせるものなどいない、と一笑に付されてしまう。そしてその席で「宗太郎は暑さにやられて狐に化かされたのではないか」と笑われて、怒ったナツは「雪の女王を探しに行く」と言い出してしまう。
ナツは一度言い出したら何が何でも絶対にやり抜くことを知っていた母親は、夏休みの間だけ、という条件を付けて、ナツにアローラへの渡航を許可するのだった。(*11)
<破>
相棒のヘキリと共にアローラへ渡ったナツは、ホウエンとはひと味違う風景に心を奪われる。燦々と照りつける太陽は、ホウエンのそれよりさらに眩しいものだった。食べ物も一風変わっていて、海辺の街で食べた定食は得体の知れない味がした。それでも意地っ張りな性格を発揮して、綺麗に平らげてしまうナツだった。
アーカラ島のカンタイシティでで情報を集めていた最中、「島巡り」をしているという年下の少女ラウレアと出会う。ラウレアはこれから森で行われる試練に挑むと言う。すごい、と感想を漏らすナツ。ナツはずっと地元にいて、旅をした経験がなかった。
自分もトレーナーかと訊ねられて、ナツが首を振る。ポケモントレーナーにはあまり良い印象がなかった、と語るナツ。ブリーダーをしていた祖父の姿を間近で見ていて、しばしば横暴なトレーナーを目にしていたことが原因だった。それはナツがトレーナーとして旅立つことを選ばなかった理由の一つでもあった。(*12)
ラウレアの側にいるクロバットは彼女によく懐いていて、仲がいい様子が伝わってくる。さらに側には、頭に毛が生えたディグダの姿も。このディグダはアローラにしか住んでいない特別なものだと聞かされる。アローラには、ナツが知っているポケモンが独自の進化を遂げたものも数多く生息していた。
楽しげに話すラウレアを見ていて、ナツは心のどこかで、旅立たなかった事への心残りがあったことを思い出す。おじいちゃんはナツに世界を見てもらいたがっていたように見えた。自分はおじいちゃんと一緒にいたくて、外へ出ていくことをしなかった。それがおじいちゃんにとって負い目になったのかもしれない。
なら、おじいちゃんを喜ばせてあげたい。そのためには「雪の女王」を探し出さなければ。自分にもしなければならないことがある、ナツがそう言うと、ラウレアは純粋な目でそれを応援してくれた。
ナツがさりげなく「こんなあったかいところで雪が降るようなところなんてあるのかな」と言うと、ラウレアが「隣の島に年中雪が降る山がある」と話す。ナツはそれを聞き逃さなかった。ラウレアによると、その山は「ラナキラマウンテン」と呼ばれ、アローラ随一の霊峰として知られているという。
ラナキラマウンテン、その名前をしっかり胸に刻み込むと、ラウレアにお礼を言い、ヘキリと共にウラウラ島へ向かった。
<急>
ラナキラマウンテンは温暖なアローラとは思えぬ極寒の地だった。厚着をしてもなお突き刺すような冷たさがナツとヘキリを襲うが、ナツは決してへこたれない。ヘキリも元はシンオウ地方のポケモン、寒さで闘争本能が刺激されてますますやる気になっていた。
山道を歩きながら「雪の女王」の姿を追っていると、ユキワラシやアブソルといった寒冷地帯に住むポケモンが襲い掛かってくる。ヘキリに指示を出してアブソルを蹴散らしつつ、自らもユキワラシの懐へ踏み込んで威嚇し怯ませる。
そうして野生のポケモンたちの相手をしていると、突然激しい吹雪が巻き起こった。雪に紛れて撤退するユキワラシとアブソル。そして激しい吹雪の中に、ナツはひとつの影を見つける。すらりとした身体に美しい氷柱のような髪、そして同性と気付いて闘争心を燃やすヘキリ。それは紛れもなく「雪の女王」だった。
現れた「雪の女王」の姿を見てナツは驚く。ホウエンにもいるサンドパンによく似ていたが、全身を氷が覆っていた。恐ろしいスピードでヘキリに襲い掛かる雪の女王に、ヘキリは大きく吹き飛ばされてしまう。それでも必死に食らいついていくが、雪の女王は眉一つ動かさずにヘキリをあしらう。
険しい表情で「『ペレ』め、火山の匂いがしよるわ」「人間風情がここへ来るとは」「氷漬けにしてやろう」と語りかけてくる雪の女王の目は、激しい怒りに燃えていた。ナツを追い、執拗に攻撃する雪の女王だったが、そこでヘキリが炎の牙を仕掛けた。
ヘキリの一撃で怯んだところにナツが遮二無二飛び込んでいき、宗太郎から教えられた得意技である「山嵐」を無意識のうちに雪の女王へ掛ける。雪を舞い上げ、地面に倒れ伏す雪の女王。けれどその表情は穏やかで「やっと会いに来てくれたのか」と語るのだった。
<結>(*13)
雪の女王はかつて宗太郎と出会っていた。サンドパンに進化したばかりで疲弊していたところへニューラに襲われ、そこへたまたまラナキラマウンテンを訪れていた宗太郎に助けられたのだった。
宗太郎は寒さに弱い手持ちのポケモンたちをボールの中へ入れたまま、自らニューラの懐へ潜り込んで「山嵐」でノックアウトする。雪の女王は宗太郎に一目惚れし、吹雪に難儀していた彼を匿って洞窟内で一夜を共にする。その中で雪の女王は宗太郎の優しさに触れ、彼に深い愛情を抱く。
翌朝、吹雪が止んで晴れ渡った空の下で、宗太郎は「もう一度会いに来る」と約束して山を下りた。雪の女王はそれから六十年近く、ずっと宗太郎が訪れるのを待っていた。けれど宗太郎は仕事と家庭に忙殺されて、再びアローラの地を踏むことは叶わなかった。
ナツは雪の女王の目を見つめて「おじいちゃんは天に召された」と語る。雪の女王は既にそれを感じ取っていた。人とポケモンは同じ時間を生きられない。サンドパンは長命で二百年近く生き、ことアローラのサンドパンは天敵の少なさと体の強さからさらに長い寿命を得ていた。雪の女王がナツに戦いを挑んだのは、宗太郎へのやりきれない思いをナツに受け止めて欲しかったからだった。
自分を救ってくれたあの技で自分の想いに応えてくれたナツに、雪の女王は涙を流して感謝する。「あなたは間違いなく、ソウタロウの孫娘だ」。雪の女王の言葉に、ナツが大粒の涙をこぼす。天に一番近いと言われるこのラナキラマウンテンで、おじいちゃんに恩返しができた。ナツの心残りが綺麗に晴れていくのを感じた。
吹雪が止んで晴れた空の下で、ナツが雪の女王に手を差し出す。「一緒にお線香でも上げに行かないか」。雪の女王は笑みを浮かべてナツの手を取る。「言いたいことはたくさんあるからな」。雪の女王が穏やかな声で呟いた。
設定
- サンドパンはもともと長寿で、アローラのサンドパンは輪を掛けて長寿である。
- アローラのサンドパンは雪を舞い上げる姿が美しいという設定が原作に存在する。
- 原種のサンドパンは土埃を上げて走り回る姿から、年配の人を中心に「ヤマアラシ」と呼ばれる。
- 「山嵐」とも「山荒らし」とも取れる。
- ナツが食べたのはZ定食スペシャル。
- とんでもない味だったが、意地で全部平らげ、お店の人に驚かれる。
- 食べているうちに「ちょっと気に入った」と言うド根性の持ち主。
- ラナキラマウンテンはアローラでもっとも標高の高い山であり、「天国に一番近い場所」と呼ばれている。
- ラウレアは交換でもらったズバットをクロバットにまで育て上げ、島巡りの相棒にしている。
- サンムーン本編の数年後を想定している。
- 雪の女王が「最近人の子をよく見かけるようになった」と言う
- ポケモンリーグが創設されたことで、ラナキラマウンテンに人が出入りするようになった。
- タイトルの「嵐の女王」は、以下の意味にかかっている。
- 「冬の嵐」である吹雪を巻き起こすとされる雪の女王に。
- 「ヤマアラシ(サンドパン)」の王である雪の女王に。
- 「山嵐」を得意とするナツ本人に。
- タイトル案は他にもいくつか。
- 「ポリアフを探して」
- 「山嵐」
- 「山の嵐」
- 「ヤマアラシ」
- 「ヤマノアラシ」(*14)
- 「雪の女王を探して」
- 「氷の女王」
- 「嵐の女王」
進め方
- 一度標準語で書ききる(*15)
- ホウエン出身者の台詞を方言に打ち直す
書き出し
おじいちゃんが向こうへ行って、一週間が経った。
ナツはおじいちゃんの部屋で、おじいちゃんがこちらに遺したモノを順繰りに手に取りながら、過ぎ去った日々を振り返っていく。このラジオはいつもお茶の間で聴いていたもの、あの本はもう潰れた本屋で買ったもの、その万年筆は自分が生まれる前から使っていたもの。部屋にあるモノすべてに物語があって、ひとつひとつにおじいちゃんの思いが詰まっていた。
だからこそ、持ち主であるおじいちゃんがいないということの寂しさを、ひときわ強く感じてしまって。
(おじいちゃん、ごめんね。一緒にいられなくて)(*16)
痛切な表情をしたまま、ナツは手にしていた万年筆をそっと机の上へ戻して、大きなため息をひとつついた。