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解剖『覇王戴冠 ~OVERLORD~』

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目次

覇王戴冠 ~OVERLORD~

『星のカービィ スターアライズ』のサウンドテストにおけるBGM181、或いはオリジナルサウンドトラックのDISC6のNo.9、それがこの『覇王戴冠 ~OVERLORD~』である。

ゲーム内ゲームの『星のマホロア』のバルフレイナイト戦で流れるこの曲は『Wii』のマホロア第二形態戦『CROWNED』がアレンジ元になっているが、そこへ幾つものフレーズが織り込まれた一大メドレーに仕上がっている。あまりに大量のフレーズが盛り込まれているので「そもそもこの曲一曲のために一体何曲のフレーズが使われているのか?」という疑問を抱くに至った。

せっかくなので今回はこの「覇王戴冠 ~OVERLORD~」を分解し、どの曲のフレーズが使われているのかを整理したい。

フレーズ樹形図

いきなりでなんだが、楽曲を分解した結果を以下に示す。

この通りである。大分調べてかつ実機でも何度も聴き直した上で書いているがこれが絶対的に正しいという確証はない、何せフレーズが入り組みすぎている(*1)。そしてツリー上に何度か同じ楽曲が登場しているが、それについては下で述べる。

フレーズが使用されている楽曲

上のツリーに一度でも登場した楽曲についてそれぞれコメント。

『CROWNED』

初出は『星のカービィ Wii』。VS. マホロア第二形態及びVS. マホロアソウル。『覇王戴冠 ~OVERLORD~』のベースになった曲なのだが、そもそもこの曲自体がオリジナルのフレーズに加えて

以上4曲のフレーズを組み込んだメドレー楽曲だということを外すわけにはいかない。つまり『覇王戴冠 ~OVERLORD~』はメドレーにメドレーを組み込んでいるのである。無茶苦茶だ(*2)。

この『CROWNED』のパートはオリジナル部分含めてほぼすべて使われていて、これらのフレーズも丸ごと活かされている。

『彼方からの旅人マホロア』

初出は『星のカービィ Wii』。ローア船内で流れる他、マホロア関係の場面で幾度となくアレンジされて登場する。のだが……。

『ムービー「彼方からのおとしもの」』

初出は『星のカービィ Wii』。オープニングムービーで流れる。上記の『彼方からの旅人マホロア』のフレーズは実はこの曲が初出(*3)。

『4人の仲間と:クッキーカントリー』

初出は『星のカービィ Wii』。オープニング画面で流れる。Wiiのメインフレーズの一つであり、作中のあっちこっちで登場する。

『GREEN GREENS』

初出は『星のカービィ』。あのお馴染みの曲である。前半パートの一部だけが使われている(*4)。『ラスボス戦にGREEN GREENSのフレーズを入れる』という熊崎カービィのお家芸の始まりである。

『銀河にねがいを:凱旋のテーマ』

初出は『星のカービィ スーパーデラックス』。サブゲームの『銀河にねがいを』のラスボス撃破デモで流れるあの曲。しかしながら……。

『戦艦ハルバード:艦内』

初出は『星のカービィ スーパーデラックス』。タイトルの通り戦艦ハルバードの艦内で流れる他、『銀河にねがいを』の『常夜の星 ハーフムーン』でも流れる。『銀河にねがいを:凱旋のテーマ』があまりに有名でありかついろいろな曲で引用されているので忘れがちだが、フレーズ自体はこちらが先の登場である。

『デンジャラスディナー』

初出は『星のカービィ Wii』。デンジャラスディナーのロビーで流れる曲。アレンジされているので一聴しただけでは気付きにくいが『4人の仲間と:クッキーカントリー』のフレーズが使われている。

『飛べ!星のカービィ』

初出は『星のカービィ Wii』。ローア&マホロア戦。後半に『銀河にねがいを:凱旋のテーマ』のフレーズがかなりアレンジされた形で組み込まれている。

『スカイタワー』

初出は『星のカービィ Wii』。ステージ5-2及び5-4で流れる曲。下の『最強への道』との関係は一言で言うと『裏表』。開発者によると『同じステージが荒らされる前と後で曲調の異なるものが使われる予定だった』らしい。つまり『最強への道』とはお互いにアレンジ元とアレンジ先の関係にある。

『最強への道』

初出は『星のカービィ Wii』。ゲーム内ゲームの『格闘王への道』『真 格闘王への道』で流れる。『スカイタワー』との関係は上の通り。

『無限のチカラ』

初出は『星のカービィ Wii』。ステージ7-3で流れるだけでなく、ムービー「ゼンブ教えてヤルヨ」でフレーズが使われている。

実際に使われている曲の数

上記ツリーから重複を排除すると以下の通り。

以上12曲いくらなんでも盛り過ぎというのが正直な感想である。一つの曲を作るのにこれだけの楽曲が関与しているとは正気の沙汰ではない。

楽曲の魅力

破綻していない構成

以上の通り正気の沙汰ではない密度でフレーズが詰め込まれた『覇王戴冠 ~OVERLORD~』。しかしながらその構成は見事で、メドレーにありがちな「別の楽曲へ移るための『間』」や「別々の曲を繋いだ故のちぐはぐさ」がまったくない。予備知識のない人が聴いたら長い一つの曲と認識してもおかしくないレベルでスムーズに構成されている。オリジナルに当たる『CROWNED』も多数のフレーズをつなげつつ一本の楽曲として高い品質を誇っていたが、この曲もそれに勝るとも劣らないと言えよう。見事である。

そして個人的にどうしても外せない繋ぎがあるので、最後にその点について述べたい。

『最強への道』と『スカイタワー』

楽曲後半には『最強への道』に続いて『スカイタワー』への繋ぎが存在する。両者のフレーズはよく似ているので違和感が無いことは当然ながら、これらは当初『星のカービィGC(仮)』で使うために作曲された表裏一体の楽曲であり、そのコンセプトがここでようやく(*5)実現したという点で非常に感慨深い。

『スカイタワー』のフレーズが登場した楽曲はもう一つある。『星のカービィ20周年スペシャルコレクション』のエンディングテーマ『バイバイカービィまたあした!』だ。この楽曲は初代『エンディング』から『スカイタワー』へ繋ぐという構成で、スタッフロールをバックにカービィとマホロアが仲良く歩いていくという風景のバックで流れている。『スターアライズ』全般で初代『エンディング』がモチーフにされていること、カービィとマホロアが友達になったとも取れるシーンで流れている楽曲であること、これらを踏まえると『覇王戴冠 ~OVERLORD~』に『スカイタワー』のフレーズが使われたのは単に『Wii』の人気曲だから、というだけの理由ではないことが伺えるだろう。

『GC(仮)』ではヘルパーを3人呼び出して一緒に冒険できる、クリーン能力が復活する、などのファクターが盛り込まれるはずだったが、世に出ることなくお蔵入りになってしまう。ここから新たに練り直されたのが『Wii』で、『スターアライズ』では先に挙げた要素が大々的にフィーチャーされたのは知っての通りだ。そして『最強への道』は『GC(仮)』のトレーラーで流れていた、言わば『GC(仮)』を代表する曲。それを敢えて『Wii』代表のマホロアの楽曲へ持ってきたのは、「これで『GC(仮)』を振り返るのは最後にしよう」というスタッフの強い想いを感じずにはいられない。

『覇王戴冠 ~OVERLORD~』における『最強への道』から『スカイタワー』への繋ぎには、『GC(仮)』『Wii』へのリスペクトが満ちているのである。

*1:特に『4人の仲間と:クッキーカントリー』の位置が本当にここで合っているのか自信が無い。
*2:こんな無茶をやっているのは『覇王戴冠 ~OVERLORD~』だけに留まらないのだが……。
*3:実際に作られた順序は定かではない……というか恐らく『彼方からの旅人マホロア』が先だと思うのだが、何せオープニングムービーで流れる曲なのでプレイヤーからすると必ず先に聴くことになる。
*4:蛇足だが、TDXのラスボス最終形態戦とロボプラのラスボス第一形態戦では後半パートのみが使われている。
*5:『GC(仮)』の発表が2005年、『覇王戴冠 ~OVERLORD~』の登場が2018年。実に13年越しである。