読んだ直後に書いたメモ書きが出て来た。せっかくなので載せておく。
メモ書き
何はなくとも主軸に置かれたペンギンという存在が魅力だ。なぜペンギンなのか、彼らは結局何なのか、それはうちのような凡人には理解できない。しかしそれでいいのだ。大体ペンギンというのは問答無用で可愛い動物だ。それでいてどこか掴みどころがない。鳥類なのに空を飛べないとかそういうところが不思議だ。もし本作にペンギンではなくライオンが出てきて「ライオン・ハイウェイ」なるタイトルだったらこうは行かない。ライオンは怖いからである。本作は間違いなく可愛い、しかし不思議なペンギンという生き物が街を歩いている、この構図だけで絵になる。
アオヤマくんのお父さんが素敵で仕方がない。好奇心旺盛で知識欲に溢れた息子を持てあますことなく、さらに良いところを伸ばそうとしている。アオヤマくんにとって間違いなく一番の理解者だとつくづく思う。
死の概念を知って泣き止まない妹が愛しい。うちの妹も似た理由で泣いていたのを慰めた経験があるのだ。だからアオヤマ君がいくら慰めても泣き止まなかった妹の気持ちが分かるのである。
レゴブロックを組み立てたくなった。思えばうちも子供の頃レゴブロックでいろいろなモノを作って遊んでいた。家だとか飛行機だとかだ。作中でしたような遊びももちろんした。素晴らしいのは、アオヤマ君たちがレゴブロックを探査艇として使ったシーンだ。レゴブロックの探査艇というのはいかにも子供らしく、それでいて形あるものを作るにはうってつけの素材だ。ここは本当に気に入った。
おっぱい。アオヤマ君は作中でおっぱいおっぱいと連呼しているのにカケラも卑猥さが無い。彼はもっと根源的な理由でおっぱいが好きなのだと実感する。それは母性だとかそういう言葉で括れそうだけれど、安易に既存の枠を当てはめるのは正直したくない。もっとふわっとしたものだと思う。それこそおっぱいのように。
不思議の象徴「海」。水のような球体を「海」と名付けるセンスがとても尖っている。あまり普通ではないと思う。けれど終盤で見せた怒涛の展開は、まるで街が海の中へ沈んでしまったかのようで、そういう意味では「海」という表現はやはり適切なのだと感じずにはいられない。
夜に喫茶店へ出かけて、よそのお姉さんといっしょにチェスをする。このシチュエーションにわくわくせずにはいられない。時間になると父が迎えに来る、というのがとてもいいと思った。家族もアオヤマ君の行動を受け容れているのだ。彼が知識欲旺盛で独立独歩を是とする人物になったのもうなずける。キャラクター造形と置かれた環境がガッチリはまっていて、納得感がすごい。
そのお姉さんを含めた登場人物の多くがとても理性的で、紆余曲折はあれど問題の解決に向けて知恵を絞っているという印象を受けた。ウチダ君やハマモトさんとの会話は、子供らしさを十分に感じさせつつもすごく理論的かつ理知的だ。もちろんスズキ君のようなお邪魔虫はいるけれど、それも物語を転がすための舞台装置としてうまく機能している。最後にはスズキ君たちについてもちゃんとフォローが入るのが優しさを感じてうれしくなった。
怪奇現象或いは異常現象。そう呼ぶべきものを扱っているのに、お話全体としていい意味でゆるい。変に緊迫感を持たせていないのがよかった。子供たちの秘密の探求という雰囲気が作品全体を包み込んでいて、ゆるいのにどんどん先を読ませてしまう。安心して次のページをめくらせてしまう。それこそSCP財団のような「超常現象=だいたい危険」というコンテンツにどっぷり浸かっていると、この感覚がとても新鮮で愉しく思う。
最後にアオヤマ君とお姉さんに起きた出来事が、夏の終わりと重なって爽やかな切なさを心に刻み込んでくれた。きっと遠い遠い未来になるけれど、なんといってもアオヤマ君にはまだたっぷり時間がある。三千七百四十八日もあるのだ。アオヤマ君がハイウェイを前へ前へ走っていけば、その先にきっとお姉さんが待っている。うちはそう確信している。