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いにしえのクイックビューア

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目次

クイックビューアとは

Windows 95がリリースされた当初、OSの標準機能として「クイックビューア」というソフトが搭載されていた。その名の通りファイルの中身を素早くチェックするためのもので、専用のアプリケーションを立ち上げずともその場で内容を閲覧することができる。感覚的には「送る」に汎用ビューアを入れておくのに近いが、コンテキストメニューに直接追加されるのでワンタッチで選べる利点がある。

利用したユーザからはそれなりに便利と言われていたのだが、初期状態ではインストールされておらず「知る人ぞ知る機能」のような扱いになっており、当時から知名度はかなり低かったと記憶している。そしてWindows 98へ移行するタイミングで標準機能から外され、その後復活することも無く現在に至っている(*1)。

ところでなんで唐突にこんな話を始めたのかというと、本棚を整理していたら以下の本を見つけたからである。

Windows95 テクニカル・ガイド

その名も「Windows 95 テクニカル・ガイド」。Windows 95のあまり知られていない機能や標準ソフト、ショートカットキーなんかを「裏技集」っぽくまとめた本で、当時はこういった小技集の本がいろんな出版社から出ていた。手元にあったのは、父がWindows 95機の購入に併せて買って読んでいたコレをWindows XPマシンへの移行の折に処分することになり、「せっかくなので譲って欲しい」と言って貰い受けたため(*2)。

この書籍にはクイックビューアで表示可能なファイルの一覧があり、拡張子と一緒にファイルの概要も載せられている。(*3)

拡張子ファイル分類
.txt; .ascテキストファイル
.bmp; .rle; .dibWindow ビットマップ
.bunRead Rex Presboxファイル
.cdrCorel Drawファイル
.dllDynamic Link Library
.docMicrosoft Word 文書
.drwMicrographics Drawファイル
.epsEncapsulated PostScript
.exeアプリケーション
.gifGIF イメージ
.inf構成設定
.ini設定ファイル
.jaw; .jbw; .jsw一太郎文書
.lytページれいあう太2ファイル
.modMultiplanファイル
.pagパーソナル編集長ファイル
.pptMicrosoft PowerPoint プレゼンテーション
.preFreelanceファイル
.rtfリッチテキスト ドキュメント
.samLotus AmiPro 文書
.sodオーロラエース文書
.tbl桐 Ver.5 ファイル
.tifTIFF イメージ
.wb1Quattro Pro for Windows ワークシート
.wk1; .wk2; .wk3; .wk4Lotus 1-2-3 ワークシート
.wksMicrosoft Works ファイル
.wmfWindows メタファイル
.wpdWordPerfect 文書
.wps; .wp5; .wp6Microsoft Works 文書
.xlc; xls; xl5Microsoft Excel ワークシート
.wq1; .wq2Quattro Pro for DOS ワークシート
.wriWrite 文書

今も生きている形式もあるが、大半が「なんじゃこれ?」というようなファイルでは無かろうか。自分は「なんじゃこれ?」と6回ほど言ってしまった。せっかくなので「なんじゃこれ?」となりそうなファイル形式について、簡潔に記述する。

なんじゃこれ?なファイル形式たち

.bun / Read Rex Presboxファイル

かつて存在した株式会社リード・レックスが開発したワープロソフト「Presbox」で使われていた形式。なお同社はもともと日本IBMを初めとする数社のエンジニアが独立して設立された企業であり、その関係からか日本IBMが営業活動に関わっていた実績がある

.jaw; .jbw; .jsw / 一太郎文書

現在販売されているバージョンの一太郎では拡張子として.jtdが使われているが、過去にはこんな拡張子も使われていた。.jawはVer.5、.jbwはVer.6、.jswはVer.4に当たる。ちなみに.jswが最も古いわけではなく、Ver.2 / Ver.3では.jxwという拡張子が使われている

.lyt / ページれいあう太2ファイル

株式会社クレオが開発・販売していたDTPソフト「ページれいあう太2」で作成されたファイル。おそらくは今で言うところのAdobe Indesignみたいなソフトだったのだろう。だろう、と頼りないことを言っているのは、調べてみてもどんなソフトだったかの情報がさっぱり出てこないからである。かろうじてかつてクレオが販売していた年賀状作成ソフト『筆まめ』(*4)にバンドルされていたらしきことが分かるのみ。

.pag / パーソナル編集長ファイル

上の「ページれいあう太2」と同ジャンルのDTPソフト「パーソナル編集長」で使われていた形式。開発・販売を担当していたのも同じくクレオ。どう見てもDOS~Windows 3.1時代のソフトであり今ではもうとっくに忘れ去られているものと決め込んで調べてみたが、なんと2019年11月21日にVer.14が発売されたばかりのバリバリ現役ソフトだった(*5)。

.pre / Freelanceファイル

大昔に存在したソフトウェア開発企業であるLotus Develpoment Corporationが開発・販売していたプレゼンテーションソフトのファイル。Lotus社については後述。

.sam / Lotus AmiPro 文書

Lotus社のワープロソフト「Lotus Amipro」で使われていた形式。確かMicrosoft Word 2003辺りまでは標準でコンバータが搭載されていた気がする。

.sod / オーロラエース文書

かつて存在したソフトウェア開発企業のサムシンググッド(*6)が開発・販売していたワープロソフト「オーロラエース」で使われていた形式。

.tbl / 桐 Ver.5 ファイル

管理工学研究所が手がけたデータベースソフト「桐」のVer.5で使われていた形式。端的に言うとMicrosoft Accessの.accdbみたいなものである。なおこの「桐」、現在も開発・販売が続けられている現役ソフトだったりする。開発・販売も一貫して管理工学研究所のままで、開発元や販売権があっちの会社へ行ったりこっちの会社へ行ったり、ヒドい時にはいつの間にか無くなったりが当たり前のプロプライエタリなパッケージソフトとしては「一太郎」と並んで割と貴重な存在である。

.wb1 / Quattro Pro for Windows ワークシート および .wq1; .wq2 / Quattro Pro for DOS ワークシート

かつて存在したソフトウェア開発企業のBorland(*7)が開発・販売した表計算ソフト「Quattro Pro」で作られる形式。「Quattro」はイタリア語で「4」という意味で、トップシェアを誇っていたLotus「1-2-3」の座を奪うという意味を込めてつけられた名前……という噂がある(*8)。とっくの昔に跡形も無く消えたソフトだとばかり思っていたが、この記事を書くために調べたところなんとCorelのオフィススイートであるWordPerfect Officeの中の表計算ソフトとして生き残っていた。さすがにこれはちょっと驚いた。

.wk1; .wk2; .wk3; .wk4 / Lotus 1-2-3 ワークシート

上で何度か出てきたLotus社の表計算ソフト「Lotus 1-2-3」で作成されたスプレッドシート。昔の一太郎と同じようにバージョンごとに拡張子が違っている(*9)。Lotus社はこの「Lotus 1-2-3」でMS-DOS市場を席巻、一時期は強大な勢力を誇っていたが、同時期のソフトウェア会社でありがちなWindows 95への移行失敗の轍を踏んでしまい(*10)、Windows 95の世界ではさっぱり存在感を発揮できず、1995年にIBMに買収された(*11)。

.wks / Microsoft Works ファイル および .wps; .wp5; .wp6 / Microsoft Works 文書

Microsoft Worksはオールインワンタイプのオフィススイートで、同じくオフィススイートであるMicrosoft Officeよりもその歴史は古い(*12)。Word / Excel / PowerPointに似せた簡易版のソフトや年賀状作成ソフトをバンドルし、2009年頃までOfficeと並行して売られていた。2010年にOffice Starterの提供が開始されて開発が終了、2020年時点ではサブスクリプションモデルが中心になるなどしてOfficeの売り方そのものが大きく変わってきている。

.wpd / WordPerfect 文書

元々ソフトウェアの名称と同じWordPerfect社が開発・販売していたワープロソフト。元々はMS-DOSの世界でかなりのシェアを占めていたが、Lotusなどと同じくWindows 95への移行で思いっきりコケてしまい、ライバルだったMicrosoft Wordにシェアを奪われる。その後権利がBorland→Novell→Corelと転々とし、現在はCorelのオフィススイート「WordPerfect Office」の一部として売られている。

.wri / Write 文書

Windows 3.1に付属していた簡易ワープロ「Write」で作成できるファイル。Writeは現在Windowsに標準機能として搭載されているワードパッドの前身になったソフト。ファイル形式は独自のもので、.rtf.docとはまた違うものだとか。

ファイルを開くダイアログ

補足:Windows95 テクニカル・ガイドについて

著者のomimi氏について

本書の著者はomimi氏。非常に特徴的な名前なので試しにそのまま検索してみたところ、そのまんまのドメイン名を持つウェブサイトを開設されていたことが判明。現在は電子書籍の分野で精力的に活動されているほか、Twitterアカウントも開設されている。昔一方的に知っていた人に超絶久しぶりに再会したような気分になったので書いておく。

出版社のメディア・テック出版について

一方で出版社であるメディア・テック出版の方だが、こちらは2008年に倒産している。主にソフトウェア関連の書籍を多数出版し、マニュアルに近い入門書から本書のような中級者向けの書籍まで手広く扱っていたが(*13)、末期になるとどういうわけか「萌える大百科」(*14)(*15)シリーズを怒濤の勢いで大乱発、何の出版社なのかよく分からなくなっていた。倒産の折には書店員の方からかなり厳しい苦言を呈されるなど、評判は良くなかったようだ。(*16)

*1:コレを書いているのは2020年、Windows 10の時代だが、未だ復活する気配は無い。そもそも復活を待っている人もいないだろうが……。
*2:自分でもなぜ引き取ったのか分からない。
*3:引用元:omimi(1996)『Windows 95 テクニカル・ガイド』 p.63, メディア・テック出版
*4:現在はソースネクストが販売を担当している。確かおぼろげな記憶だがソースネクストは同ジャンルの『筆王』を売っていたのでは? もう取り扱いを止めたのだろうか? と思ったら普通に最新版(Windows 10対応)を売っている。この辺の棲み分けは恐らく販売価格などでされているのだろう。
*5:アドレスを見ての通り、こちらもソースネクストへ移管されている
*6:後に「アイフォー」に社名変更。2002年に債務超過を起こしたことで2003年に新旧分離方式による営業譲渡を行うことで旧法人を清算、2007年まで存続するがその後全事業がイーフロンティアへ移管される。なお、そのイーフロンティアも2015年に民事再生法の申請を行い、2017年よりネクスグループの子会社となっている。
*7:統合開発環境の「Delphi」の会社、と言うと一部の人にはピンと来るかもしれない。DelphiやC++ Builderで名を馳せる→突然Inpriseに社名変更する→言うまでも無くコケる→Corelと合併すると発表する→やっぱり合併しない→社名をBorlandに戻す→いろんな会社を莫大な金をかけて買収→やっぱりコケる→CodeGearを設立して開発環境系の製品を全部そちらに移す→CodeGearをEmbarcadero Technologiesへ売却する……というかなりの紆余曲折を経て、現在はMicro Focusに買収されその一部門となっている。件の「Delphi」を初めとする開発環境製品はと言うと、現在もEmbarcadero Technologiesから新しいテクノロジーに対応した新製品が供給されている。ぱっと見Borlandがまた社名変更したようにしか見えないくらい当時の名残を色濃く残しているが、完全な別法人である。死にかけていたBorlandから切り離されたことで運良く生き延びた……とはさすがに言い過ぎかもしれないが、形を変えて今も生き続けているのは間違いない。
*8:噂としたのは、Wikipedia:enにおけるQuattro Proの記事でのこのエピソードに対して[citation needed](要出典)と書かれているため。
*9:.wk1は英語/MS-DOS版1-2-3 R.2.4、.wk2は日本語/MS-DOS版R2J - 2.3J、.wk3は日本語/Windows 3.0版R1.01J - R1.1J、.wk4は日本語/Windows 3.1版R5Jでそれぞれ使われた……らしい。と言うのもLotus 1-2-3に関する情報そのものが最早少なくなっており、さらに英語版と日本語版で異なる拡張子を使っているようなので大変わかりにくい。Windows 95に対応してからは「.123」に一本化されて分かりやすくなった。
*10:一太郎のジャストシステムもこの時のしくじりでWordにシェアをごっそり奪われてしまった。
*11:ただしこれは「コンシューマ向けソフトウェア市場におけるシェアを奪われて弱体化したところを買収された」と言うよりは、当時ビジネスユースのグループウェアとして人気が非常に高かった「Lotus Notes」の存在を大きな脅威と受け止め先手を打って買収、というのが実際のところだったりする。これはその後のIBMにおけるLotus由来のソフトウェアの扱いを見ると一目瞭然(1-2-3が2000年で開発終了したのに対し、Notesは2018年にHCL Technologiesへの移管が発表されるまでずっと開発・販売が続けられていた)。
*12:Officeが主力となるにつれて、Worksは主に費用面でOfficeは導入できないがビジネス文書は取り扱いたいというニーズを狙った製品として再定義された経緯がある。
*13:ラインナップから察するにいわゆる「専門書」は扱っていなかったように見受けられる。
*14:例として適当に挙げるだけでもプリンセス大百科ジョブ大百科すいむすーつ大百科アーサー王大百科と枚挙に暇がない。だんだん頭痛がしてくる。
*15:さらにAmazonの商品ページを見てもらえれば分かるが、どの書籍も著者が「○○大百科制作委員会」で統一されている。先のブログではイラストレーターさんを二束三文で使い、本文もタダ同然で書き上げていたらしいので、小部数売れただけでも利益が出ていたとかなんとか。という記述があり、複数のライターやイラストレーターに中身を書かせていた関係でこういった著者名になっているのだろう。個々の書籍に付けられたレビューを見るに品質の低いコンテンツが少なくなく、恐らくアマチュアに近いライターも多数混ざっていたのでは無かろうか。このやり口を見て、一時ちょっと話題になった「pixivで活動しているイラストレーターに片っ端からコンタクトを取ってゲームに使うイラストを二束三文で描かせる」という一件を思い出してしまった。
*16:なお先に挙げたブログではメディア・テック出版の倒産理由についても触れられており、記載を信用するなら関係者が行方不明になったことで事業が存続できなくなったらしい。夜逃げみたいなものだろう。末期の出版状況と併せて見るとなんとも後ろ暗い気持ちにさせられる。