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アジア村とインターネット

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アジア村とは

アジア村。字面からして何やら怪しいオーラを漂わせている地名だが、かつてこんな噂が流布していた。

サントアンヌ号を出港させずにゲームを進め(*1)、なみのりを覚えたポケモンを連れて海へ出ると「アジア村」という場所へ行くことが出来る。「アジア村」では通常のプレイでは出現しない謎のポケモンたちが生息している。

初代をリアルタイムでプレイされていた方は一度くらい耳にしたことがあるのでは無かろうか。自分も妹の友達がこれとよく似たこと(*2)を言っていた記憶がある(*3)。

言うまでも無くコレはガセネタであり、サントアンヌ号の停泊している海からさらに南下してもどこへも行けない。今では隅々までROMが解析され尽くされ、「アジア村」なる場所のデータは一切入っていないことも白日の下に晒されている。現代ではいわば都市伝説の一種として結論づけられていると言えよう。

伝播の背景

この「アジア村」だが、特筆すべき点が一つある。ゲームのバグ技、それも再現性が無いネタにもかかわらず、どういうわけかほぼ日本全国で同じような内容の噂が流れていた。以前会社の同僚とポケモンについての話をした際、九州でもかなり近い(そちらでは「アメリカ村」として広まっていたようだ)噂があったという情報を聞くことができた。それもほぼ同時期、ゲームの発売から概ね一年が経った1997年頃に広まっている。ただのガセネタではこんな広まり方をするとはちょっと思えない。

「アジア村」の噂が広範に伝播した有力な要因として考えられるのが、当時一般家庭に爆発的に普及し始めていたインターネットの存在である。1997年と言えばWindows 95が世に出て二年、世の中のインタラクティブなコミュニケーションの主流がパソコン通信からインターネットへ移り変わろうとしていた時代の真っ只中である。当時の書店には「インターネットのはじめかた」「ホームページ(*4)のつくりかた」のような書籍が大量に並んでいたのを覚えている。今ではほとんど見かけなくなったが、「このホームページ(*5)がおもしろい!」のような特集を組んだ雑誌や書籍(*6)がいくつも売られていた。

ポケモンwikiの「うわさ・デマ一覧」に書かれているが、「ポケモンだいすきクラブ(*7)」などのサイトでアジア村についての話題が共有されていたとのこと。「ポケモンだいすきクラブ」が発祥かどうかはさておき、インターネットを起点として全国へ一斉に広まったというのが正しい見方だろう。当時はインターネットが一般化したばかりで新鮮味が有り、そこで見た情報を頭から信じ込んで広めたとしても不自然ではない。Webサイトの総数自体が少なく、一つのサイトに多くの人々が集まる余地があった(=たくさんの人に同じ情報が共有される可能性があった)ということも要因の一つと言えよう。

それまでは比較的ローカル色の強かった「怪談・都市伝説」の類が、インターネットという媒体を通して全国へ伝播する可能性を見せるようになった――アジア村という存在は、ひとつの時代の変化を映していたのかもしれない。

今も残る謎

それはそれとして今なお謎なのが、なぜ「アジア村」(アメリカ村)なのだろうか。アジア村、というワードは「地球における特定の地域+村」というアンバランスな作りをしていて、口から出任せで出てくるようなものでは無い。また、「赤・緑」の本編では一度として「アジア」というワードは出てこないはずで、ゲーム中のテキストからの連想という線も無い(*8)。どこから「アジア村」というワードが出てきたのか、その謎については今も解けずに残っている。

*1:これ自体は「いあいぎり」を覚えたポケモンを他のROMから交換で連れてくることで実現できる。
*2:厳密に言うと「アジア村へ行ける」で止まっており、たどり着く先である「アジア村」とはいったい何なのかまでは触れられなかった。
*3:なおその妹の友人は、うちの前でレベル23のニドキングを一回の戦闘でレベル100にする裏技をデモンストレーションしてくれた。
*4:これは「Webサイト」の文脈で使われる「ホームページ」。
*5:くどいようだが「Webサイト」という意味の「ホームページ」である。
*6:例として挙げると、宝島社は珍妙だったり怪しかったりするサイトの特集を複数回組んでかなりの数の本を出していた。
*7:今の株式会社ポケモンが公式に運営しているサイトではない。同名の別サイトである。
*8:「みなみアメリカ」はミュウの図鑑テキスト等に存在しているので、「アメリカ村」についてはこの線が残る。ただこちらについては、同じ大阪府の地名が何かの拍子で混ざってしまったのでは? という気もしないでは無い。