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Mining Melancholyの謎を追って

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目次

TL;DR

「Mining Melancholy」というタイトルは公式ではなく、ファンが独自に命名した非公式のものである可能性が極めて高い。

発端

ひとつの矛盾

この記事をまとめる一年半ほど前、「スーパードンキーコング2」の「タルタルこうざん」などのステージで流れる楽曲についてふと思うことがあり、その後あちこちを調べてある事実にたどり着いた……という出来事があった。当時はこのメモ帳も無くそのまま流れるに任せていたが、過去ツイートを遡って読み返してみるとそれなりに分量があったので、当時のツイートや参考にしたウェブサイトを引用しつつここに情報を整理しておきたい。

スーパードンキーコング2の鉱山ステージの曲はOSTに収録されていないのは知ってるんだけど、じゃあ「Mining Melancholy」という曲名はどこが初出なんだ……?(今思った

source:https://twitter.com/586/status/1033675652946219008

楽曲の概要

当該楽曲のゲーム中の表記(*1)は「MINE」(SFC版)「Kannon's Klaim」(GBA版)。後者は「タルタルこうざん」というステージ名の英語版で、楽曲のタイトルというより「このステージで流れる曲」という暫定的なタイトルだと捉えるべきだろう。

この楽曲は名曲揃いのスーパードンキーコング2の中でも指折りの人気を誇り、ファンの手によるアレンジも数多く作られている。楽曲が使われるステージのモチーフである鉱山をイメージした音選びが雰囲気を盛り上げ、テンポの良さの中にアンニュイさを織り交ぜた独特な構成が光る素晴らしいVGMである。百聞は一見にしかず、まずは原曲を聴いていただきたい。

オリジナル・サウンドトラックについて

さて、上記の通りこの楽曲は大変人気が高かったのだが、非常に残念なことに、日本国内では1996年に発売されたオリジナル・サウンドトラックには収録されていない。これは日本国内流通盤も、日本に先駆けて1995年に発売された日本国外流通盤も同様である。なお、国内盤と国外盤で収録内容が若干異なっているため、資料として両者を記載しておく。

#日本国内盤日本国外盤
1ファンファーレK. ROOL RETURNS (TITLE THEME)
2タイトルページWELCOME TO CROCODILE ISLE (MAP SCREEN)
3セレクトページKLOMP'S ROMP (PIRATE PANIC)
4マップページLOCKJAWS'S SAGA (LOCKJAW'S LOCKER)
5パイレーツ パニックJIB JIG (MAINBRACE MAYHEM)
6メインマスト クライシスSWANKY SWING (SWANKY'S BONUS BONANZA)
7船ぞこダイビングSNAKEY CHANTEY (RATTLE BATTLE)
8たいせん!ボス ゾッキーBAYOU BOOGIE (BARREL BAYOU)
9ディディー勝利!SCHOOL HOUSE HARMONY (WRINKLY'S THEME)
10リンクリーの学校FOREST INTERLUDE (WEB WOODS)
11ようがんクロコジャンプFUNKY THE MAIN MONKEY (FUNKY'S THEME)
12ファンキーフライトⅡFLIGHT OF THE ZINGER (HORNET HOLE)
13かいてんタルさんばしCRANKY'S CONGA (CRANKY'S THEME)
14ディクシー勝利!HOT-HEAD BOP (HOT-HEAD HOP)
15ラトリーに大へんしんRUN, RAMBI! RUN! (PARROT CHUTE PANIC)
16とげとげタルめいろTOKEN TANGO (BONUS LEVEL)
17クランキーの小屋STICKERBUSH SYMPHONY (BRAMBLE BLAST)
18ハニー アドベンチャーBAD BIRD RAG (SCREECH'S SPRINT)
19どくろコースターDISCO TRAIN (TARGET TERROR)
20はちみつパーク チェイスBOSS BOSSANOVA (BOSS TUNE)
21ゴーストコースターSTEEL DRUM RHUMBA (OPTION SCREEN)
22きりのもりKROOK'S MARCH (CHAIN LINK CHAMBER)
23ボーナスステージKLUBBA'S REVEILLE (KLUBBA'S KIOSK)
24クラッシュ エレベーターHAUNTED CHASE (HAUNTED HALL)
25こおりのみずうみIN A SNOW-BOUND LAND (CLAPPER'S CAVERN)
26クラッバのみはり小屋LOST WORLD ANTHEM (THE LOST WORLD)
27ロストワールドマップページPRIMAL RAVE (ANIMAL ANTICS)
28クロコ ジャングルCROCODILE CACOPHONY (K. ROOL'S THEME)
29ドンキーコング フリー?DONKEY KONG RESCUED (CREDITS ROLL)
30スクリーチレース チェイスBlank Track
31けっせん! キャプテンクルールBlank Track
32クレジットBlank Track
33ゲームオーバーBlank Track
34ルーズ ディディーBlank Track
35Unlisted Track (Rare Logo)
36Unlisted Track (Failure 1)
37Unlisted Track (Failure 2)
38Unlisted Track (Failure 3)
39Unlisted Track (Failure 4)
40Unlisted Track (Failure 5)
41Unlisted Track (Failure 6)
42Unlisted Track (Failure 7)
43Unlisted Track (Failure 8)
44Unlisted Track (Failure 9)
45Unlisted Track (Failure 10)
46Unlisted Track (Failure 11)
47Unlisted Track (Failure 12)
48Unlisted Track (Failure 13)
49Unlisted Track (Failure 14)
50Unlisted Track (Failure 15)
51Unlisted Track (Diddy's Victory)
52Unlisted Track (Dixie's Victory)
53Unlisted Track (False Triumph)
54Unlisted Track (Failure 16)
55Unlisted Track (Game Over)

日本国内盤には「SWANKY SWING (SWANKY'S BONUS BONANZA)」(スワンキーのクイズショー)に対応する曲が収録されていない。また、日本国外盤においてトラックリストに載っていない隠しトラックに関しては本国内盤では通常のトラックに変更されている。具体的には以下の通りに対応。上記を踏まえて、日本国内盤と日本国外盤の対応表を作ると以下のようになる。

#日本国内盤日本国外盤
1ファンファーレUnlisted Track (Rare Logo)
2タイトルページK. ROOL RETURNS (TITLE THEME)
3セレクトページSTEEL DRUM RHUMBA (OPTION SCREEN)
4マップページWELCOME TO CROCODILE ISLE (MAP SCREEN)
5パイレーツ パニックKLOMP'S ROMP (PIRATE PANIC)
6メインマスト クライシスJIB JIG (MAINBRACE MAYHEM)
7船ぞこダイビングLOCKJAWS'S SAGA (LOCKJAW'S LOCKER)
8たいせん!ボス ゾッキーBOSS BOSSANOVA (BOSS TUNE)
9ディディー勝利!Unlisted Track (Diddy's Victory)
10リンクリーの学校SCHOOL HOUSE HARMONY (WRINKLY'S THEME)
11ようがんクロコジャンプHOT-HEAD BOP (HOT-HEAD HOP)
12ファンキーフライトⅡFUNKY THE MAIN MONKEY (FUNKY'S THEME)
13かいてんタルさんばしBAYOU BOOGIE (BARREL BAYOU)
14ディクシー勝利!Unlisted Track (Dixie's Victory)
15ラトリーに大へんしんSNAKEY CHANTEY (RATTLE BATTLE)
16とげとげタルめいろSTICKERBUSH SYMPHONY (BRAMBLE BLAST)
17クランキーの小屋CRANKY'S CONGA (CRANKY'S THEME)
18ハニー アドベンチャーFLIGHT OF THE ZINGER (HORNET HOLE)
19どくろコースターDISCO TRAIN (TARGET TERROR)
20はちみつパーク チェイスRUN, RAMBI! RUN! (PARROT CHUTE PANIC)
21ゴーストコースターHAUNTED CHASE (HAUNTED HALL)
22きりのもりFOREST INTERLUDE (WEB WOODS)
23ボーナスステージTOKEN TANGO (BONUS LEVEL)
24クラッシュ エレベーターKROOK'S MARCH (CHAIN LINK CHAMBER)
25こおりのみずうみIN A SNOW-BOUND LAND (CLAPPER'S CAVERN)
26クラッバのみはり小屋KLUBBA'S REVEILLE (KLUBBA'S KIOSK)
27ロストワールドマップページLOST WORLD ANTHEM (THE LOST WORLD)
28クロコ ジャングルPRIMAL RAVE (ANIMAL ANTICS)
29ドンキーコング フリー?Unlisted Track (False Triumph)
30スクリーチレース チェイスBAD BIRD RAG (SCREECH'S SPRINT)
31けっせん! キャプテンクルールCROCODILE CACOPHONY (K. ROOL'S THEME)
32クレジットDONKEY KONG RESCUED (CREDITS ROLL)
33ゲームオーバーUnlisted Track (Game Over)
34ルーズ ディディーUnlisted Track (Failure 1-16)
35(スワンキーのクイズショー)SWANKY SWING (SWANKY'S BONUS BONANZA)

長くなってしまったが、どちらにしても「タルタルこうざん」などで使われている鉱山ステージの曲は収録されていない。収録されていないということは楽曲のタイトルも不明なわけで、人気があるにもかかわらず固有の楽曲のタイトルが無い……という状態になっているはずであった。本来であれば。

調査

なぜかタイトルが広く知られる

ところがこの曲、実際のところ遅くとも2008年頃には「Mining Melancholy」というタイトルで広く知られていた。当時上に貼ったYouTubeの動画を発見し、そこで「へぇーあの曲は『Mining Melancholy』というのか」と何の疑問も無く受け入れていた記憶がある。当時はサウンドトラックに収録されておらず正式タイトルが不明だったことなどは知る由も無かったため、完全に公式タイトルとして認識していた。恐らく大半の人間が同じ状態だったのではないかと考えている。

鉱山ステージの曲=「Mining Melancholy」という定義は日本国内でも広まり、数多くのサイトで正式な楽曲タイトルとして表記されている。例を挙げると、ゲーム音楽のまとめwikiとして有名なみんなで決めるゲーム音楽ベスト100まとめwikiでも個別ページが作られ、「Mining Melancholy」というタイトルがしっかり掲載されている。

鉱山だけに「Mining」、どこか憂鬱さを感じさせる曲調なので「Melancholy」――と楽曲のイメージにピッタリで、それに加えて「Mining」の頭文字「M」に「Melancholy」の頭文字「M」、と韻を踏んでいるのもいかにもそれらしい(*2)。公式のタイトルとして何ら違和感が無い……ように見える。

実は非公式?

しかしながら、上で書いた通りこの「Mining Melancholy」とされる鉱山ステージの曲はオリジナル・サウンドトラックには収録されていない。それはすなわち、サウンドトラックへ収録される際に付けられる正式なタイトルは存在していないはず、ということになる。発端のツイートでこの矛盾に今更ながら気付き、その後いくつかの方向で調査を行った。

分かっていること

  • OSTには収録されておらずこの時点では曲名不明
  • 2004年に発売されたGBA版のサウンドテストでは「Kannon's Klaim」表記
  • この「Kannon's Klaim」は日本語版の「タルタルこうざん」のステージ名に相当

source:https://twitter.com/586/status/1033679112403963904

一次ソースであるゲームにおける表記は上述した通り「MINE」(SFC版)「Kannon's Klaim」(GBA版)で、いずれにしても「Mining Melancholy」ではない。

  • 作曲者であるDavid Wise氏が関わったアレンジ盤「Serious Monkey Business」ではアレンジ元原曲として「Mining Melancholy」との表記あり
  • 「Mining~」は海外のファンが独自に命名したものとの記載がいくつかのサイトで見られる
  • 確認した限りゲーム中で「Mining~」の表記がされたことはない

source:https://twitter.com/586/status/1033682056390139907

ゲーム中で「Mining Melancholy」とは表記されておらず、サウンドトラックにも未収録。他の媒体でタイトルが出たという話も皆無で、さらには「ファンが独自に命名した」と指摘するサイトがいくつか見つかる始末。こうなってくると信憑性が大分怪しくなってくる。調査当時である2018年に見つけたサイトは見つけられずに埋もれてしまったが、そのものズバリの議論をしているredditのページがあったので代わりに見ていただければと思う。

やっぱり公式?

ところがややこしいことに、先ほど引用したツイートの一番上でも書かれている通りコンポーザーであるDavid Wise氏も参加している非公式のアレンジサウンドトラックSerious Monkey Businessでは、アレンジ元の楽曲タイトルとして「Mining Melancholy」と思いっきり表記されている。コンポーザーが参加しているのに指摘はなかったのだろうか? と思わずにはいられないのだが、そこに来てさらに混乱を招く情報が出てくる。

http://www6.nhk.or.jp/nhkpr/post/original.html?i=12263 版権元の許諾を得ていると思われるこちらの演奏会ではセットリストに「Mining Melancholy」とはっきり表記されている

「Mining Melancholy」については元々正式な曲名ではなくファンが命名した可能性があるが、いつの間にか半公式になった? 感がある

source:https://twitter.com/586/status/1033683258351923200

二つ目のツイートにおけるNHKのサイトは既にページが削除されているため、代替として他のサイトに転載されたセットリストを引用する。

●『シンフォニック・ゲーマーズ2 -よみがえる英雄たち-』 NHK BSプレミアム 11月12日(日)午後10時50分〜 午前0時20分

【ゲスト】有野晋哉,【ゲスト】シブサワ・コウ,【出演】指揮…永峰大輔,【出演】管弦楽…JAGMO,【司会】青木瑠璃子,塩澤大輔

(中略)

「スーパードンキーコング2」から

  • K.Rool Returns
  • Welcome to Crocodile Isle
  • Jig Jig
  • Mining Melancholy
  • Stickerbrush Symphony
  • Haunted Chase

source:http://amass.jp/97037/

上記の「シンフォニック・ゲーマーズ2 -よみがえる英雄たち-」は版権元公式が正式に許諾した演奏会であり、裏を返すとこのセットリストでアナウンスすることも公式、端的に言うと現在の権利保持者である任天堂に通しているはず。注目すべきはそこに堂々と「Mining Melancholy」と書かれていることだろう。傍証でしかないが、任天堂も「Mining Melancholy」が公式タイトルだと認識している? と言えなくも無い表記になっている。

渦中の「Mining Melancholy」が公式タイトルではないという論拠は「ゲーム中で表記なし」「サウンドトラック未収録」、一方で公式タイトルであるという論拠は「コンポーザー参加のアレンジ盤に記載」「シンフォニック・ゲーマーズ2にて当該タイトル名義で演奏された」。いずれも根拠としてそれなりに強いもので、公式なのか非公式なのか悩ましいことこの上ない状況、だったのだが。

たどり着いた結論

この件について調べていた際、相互フォローのニセ地蔵(@nise_jizou)さん経由でTRICKER(@TRICKER___)さんという方を紹介してもらい、氏から重要な情報を提供していただいた。

@586 @nise_jizou

次に、こちらの動画の投稿者は、ファンによってつけられた名前です。 http://DKVine.comを作ったChad&Slushが付けた?物ですとコメントも見て取れます。 (別の人のコメントを見るとMining Melancholyは正しい名前、名前変えれない?等も出てますが、、

source:https://twitter.com/TRICKER___/status/1034758108369702913

ここで登場した「DKVine.com」と「Mining Melancholy」をキーワードに調べてみたところ、以下のツイートを見つけるに至った。

DKC2's mine theme was left off its official soundtrack, so I named it Mining Melancholy in 1999. It kinda stuck! #FunFactsAboutNamesDay

source:https://twitter.com/dkvine/status/706853470154969088

意訳すると「スーパードンキーコング2の『MINE』は公式のサウンドトラックに収録されていなかった、なので自分が1999年に『Mining Melancholy』と名付けた」という内容。サウンドトラックに収録されていなかったのは先の通りであるし、TRICKERさんから提示されたYouTubeの動画における投稿者コメントの内容とも完全に一致する。

1999年にDKVine.comの管理者が発案した「Mining Melancholy」という独自のタイトルがインターネットを通して広まり、それがいつの間にか公式のタイトルのように扱われるようになった……恐らく、というか間違いなくコレが答えだろう。1999年はインターネットが広く普及していた時期ではあるが、それでもまだ公式情報と非公式情報の区別が付けづらかった時期。「Mining Melancholy」はそのいかにもそれらしい雰囲気によって多くの人に公式のタイトルであると信じ込ませ、それは現代に至ってもなお続いているのである。

経緯の推測

ここまで書いてきたことを踏まえて、鉱山ステージの曲が「Mining Melancholy」と認識されるようになった経緯を整理してみると、

以下想像

  • 鉱山ステージの曲について、レア社版権時代に正式名称は無かった
  • 楽曲自体の人気は高く、ファンが「Mining Melancholy」と命名した
  • レア社からは正式名称は出てこないまま権利が任天堂に移管され「Mining~」が定着
  • 気が付くと作曲者や権利者も「Mining~」が正式と認識するように

source:https://twitter.com/586/status/1033686372299632640

大方、こういう流れではなかろうか。いやはや、ふとしたことからとんでもない方向に話が飛んでしまったものである。

*1:サウンドテストにて確認可能。
*2:日本国外盤のタイトルを見てもらえれば分かる通り、多くの楽曲タイトルがこのルールに則っている。