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ホテル・ソウルズ レビュー

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目次

ゲームの概要

見下ろし型画面のアドベンチャーゲーム。主人公は長い旅の果てに手に入れた不思議な石を持って「ホテル・ソウルズ」に宿泊するが、翌朝その石が何者かに奪われていることに気付く。ホテルへ滞在できるのは五日間、その間に石を取り戻すべく従業員たちに話を聞いて回るが、皆どこかしかおかしなところを抱えていて、さらにホテルそのものにもある秘密が隠されていたことに気付く……という筋書き。

タイトル画面。

初リリースは2019年12月31日、プラットフォームはPC(Steam)。そこで高い評価を得たことによりコンソールへの移植の話が持ち上がり、2020年7月30日にNintendo Switch版がリリースされた。PC版からコンテンツの内容について変化はなく、Nintendo Switch向けに操作体系のみ変更した形になっている。

現時点で他機種への移植については未定。パブリッシャーであるCFK(*1)はPlayStation向けソフトウェアの代理店業務(*2)も行っているが、2019年末頃からSteam/Switchへプラットフォームを集約しつつあり、この「ホテル・ソウルズ」含め2020年のタイトルは現状いずれもSteam/Switchにてリリースされている。

基本情報

発売・配信元
CFK Co., Ltd.
開発元
Studio SOTT
発売・配信開始日
2020/07/30(Nintendo Switch版)
定価
880円(税込)

操作方法

方向キーまたは左スティックで移動、Xボタンで集めた文書や書き留めたジャーナルの閲覧、Yボタンでインベントリを開いて収集したアイテムの確認や使用を行う。特筆すべき点として、右スティックでカーソルを動かしてオブジェクトやキャラクターにインタラクトするという操作がある。これはPC版におけるマウスカーソル操作の体系を変更したもの。対象にカーソルを合わせてAを押すことで対象の調査や会話が可能だが、主人公とカーソルの距離が離れすぎていると「遠すぎる」と言われてしまう。そのため左右のスティックを適切に操作する必要あり。ただし、「限られた時間内に主人公とカーソルの両方を適切に移動させる」ようなアクション要素は存在しない(*3)。

手に入れたアイテムはインベントリへ格納され、持ち運べる量に制限はない。アイテムは(1)食べる・飲むなどしてその場で消費するもの、(2)文書とは別に情報を参照できるもの、(3)特定の場所へ持って行ってインタラクトすることで効果を発揮するもの、(4)装備することで主人公に変化が生じるもの、(5)何の効力も持たないものに分類される。ゲームのクリアにはまったく必要のないアイテムも相当数存在する。

システム

タイトル画面からニューゲームを開始するか、前回セーブした地点から再開するかを選べる。セーブはほぼ任意のタイミングでいつでも可能だが、セーブデータのスロットは一つしかなく常に最新の進行状況のみが保持される形になる。オプションでオートセーブも選択可能(*4)。オプションからは表示言語の種類(日本語・韓国語・英語)とBGMのON/OFFも設定可能。

プレイヤーを移動させて対象を調べることで進めていく比較的オーソドックスなアドベンチャーゲームで、見下ろし型とポイントクリック型を組み合わせたような操作性。インタラクト可能なオブジェクトはカーソルが「!」に変わるため判断が付きやすい。ゲームに進展があるとジャーナルへ都度記録され、後から参照することが可能。ジャーナルの記録順序や内容はゲームの進め方によって変わる。

ゲーム中の画面。

マルチエンドシステムを採用。全部で8種類のエンディングが用意されており、大半が終盤の行動で分岐先が決まる。特定のエンディングを見ていないと到達できない所謂「真のエンディング」も用意されているが、その存在はゲーム中で非常に分かりやすく示唆されるため見逃すことは無いと思われる。

ゲームの特徴

ゲームは情報収集と謎解きに終始し、アクションや戦闘を求められるシーンは存在しない。情報収集にあたってはホテルの従業員たちに話を聞く形で行い、聞いた内容についてはジャーナルに概要が記録される。ゲームの進行に応じて会話で訊ねられるトピックが増えていくが、条件が満たされると選択肢から該当するトピックが消失する。以後、その件についてキャラクターに訊ねることはできなくなる。なお、これは「確実な情報が得られた or 目的を達成したのでこれ以上話を聞く必要が無くなった」タイミングで発生するものであり、特定のキャラクターから話を聞かなかったことで詰みになる、ということはない。

ポイントクリック型アドベンチャーゲームの要素を取り入れており、怪しい個所を探してインタラクトすることで進めていくゲームとも言える。主観視点で展開されることの多い同ジャンルと異なり主人公を直接操作する必要があるため、プレイ感覚は独特のものがある。キャラクターに話しかける場合は主人公を直接寄せる形でも範囲内でカーソルを合わせる形でも可能、アイテムを拾う場合はカーソルを合わせてインタラクト、別の階層へ移動する場合は主人公を直接その場まで移動させる必要あり……と、オブジェクトの種類に合わせてインタラクト方法が変化する点は押さえておく必要がある。

画面写真

謎解きの難易度は低めで、情報を教えてもらえる従業員さえ見つければほぼ答えそのものを教えてくれるケースが多い。そのため一つの謎に躓いて長時間進行が停滞してしまう、ということはまず起こらない。ただし、アイテムの使い方については少々ややこしい部分がある。あるアイテムを使うために別のアイテムと組み合わせなければならない、というところまでは推理できるが、どう組み合わせるのかが分からないというパターン。このゲームではアイテムをインベントリ内で直接組み合わせて使う要素はなく、それを実行するためには「アイテムを組み合わせられる場所」を探す必要がある。なお、詰まりそうな箇所については本ページの下部にヒントを記載したため、必要に応じて参照いただきたい。

ゲームの紹介ページでは「ホテルに滞在できるのは五日間」と書かれ、右上には懐中時計のアイコンが常時表示されているために「時間制限のあるゲーム」という印象を抱きがちだが、実際のところこのゲームに時間制限の要素はない。ではどのようにして五日間を表現しているのかと言うと、ゲームを進めて特定のフラグを立てると「一日目の夜→二日目の昼→二日目の夜……」と章が進んでいく形式になっている。裏を返すと必要なフラグが立つまでは次の章へ進まない(進めない)形。この点は徹底しており、例えばあるパートでは必要なアイテムをすべて手に入れるまでフロアの外に出られず、アイテムを揃えて外に出ると次の章へ進む。よって、アイテムを特定のタイミングで拾えなかったので進行不能になる、ということもない。上とも関連するが、このゲームにデッドエンドはない(*5)。

ゲームの進行が基本的にリニアである、詰みや時間切れといった要素が無い、謎解きの難易度も低いといったことから察せられる通り、石を盗んだ犯人を情報収集して論理的に追い詰めていく本格的な推理ゲームではない。石を盗んだのが誰なのか? という最初の謎は思いのほか早い段階で明らかになるし、犯人が推理できなくとも総当たりすれば答えは分かる。そしてそこから先が本題と言える展開が待っている。チャレンジングなゲームプレイではなく、全体に満ちている独特の雰囲気を味わうことが主目的の作品である。

その他、所謂やり込み要素の一環として「業績」――いわゆる実績システムが用意されている。ゲーム中で条件を満たすことにより解放され、中にはかなり突拍子もない行動を求められるものや、そもそもの解放条件が分かりづらいものも多く用意されている。この業績はセーブデータを跨いで記録されるため、繰り返しニューゲームをリプレイして徐々に解放していくことを想定していると思われる。

プレイした感想

本作でまず目を惹くのが他に類を見ない独特のアートワークであろう。ホテル中に置かれたあらゆるオブジェクトはスプレー的なエフェクトを駆使することで、白と黒のモノクロでありながら写実的な印象を強く抱かせる絵作りがなされている。一方で主人公やホテルの従業員たちは丸っこい曲線で描かれ、表情も総じてどこか「ゆるさ」を感じる。それがいずれも妙に滑らかに動き、時に異様に高速のモーションを見せる様子は、シンプルでありながら写実的なオブジェクトとの対比で大変よく目立つ。同じ「白と黒」で構成されていながら、お互いに埋もれることなく個性を表現できており、視覚的なインパクトは非常に強い。

オープニングの一幕
石がなくなった!

雰囲気作りにはアートワークと並び、BGMの貢献も大変に大きい。チップチューンの要素を取り入れつつもそれ一辺倒にならず、シンセサイザーの音も積極的に取り入れた楽曲の数々はいずれも高品質で、穏やかでありながら不気味、不穏でありながら緊張感の薄い「ホテル・ソウルズ」の空気をきわめて的確に表現できている。激しく自己主張するわけでもなく、さりとて他の要素に埋没するわけでもない位置に付けているBGMは、本作に欠かすことのできない重要な要素のひとつである。

しかしそれ以上に強烈なのが「ホテル・ソウルズ」の従業員をはじめとしたキャラクターたちである。いつも眠そうにしているフロント係、きわめて不愛想なメイド、日々遺影に供える花を取り替えている律儀なドーナツ、情緒不安定なミニベーカリーの店員、プールに浮かんでいるキュウリ、人のうわさ話を集めている宿泊客、ホテルの隅で佇んでいる成長期のキノコなどなど、一目見ただけで二度と忘れられなくなるほどのインパクトを誇るキャラクターたちでゲームが埋め尽くされている。なお、ゲームの進行には無関係なキャラクターも多く、クリアしても「あいつはいったい何だったんだ?」となる連中も少なくない。

わたしは……ケチャップになるんだ……
一生この狭い池の中でしか生活できないのに、それでも生きたいみたい。

もう一つ押さえておきたい点として、日本語訳の秀逸さがある。本作は韓国のデベロッパーが開発したゲームだが、有志の手で日本語に翻訳されている。その精度は国産ゲームとほぼ差がなく、プレイ中に違和感を覚えることはほとんどなかった。「ゆるさ・シュールさ・不気味さ・切なさ」が渾然一体となった作風は邦訳を通してもまったく損なわれておらず、世界観を存分に味わうことができる。ここについては満点と言って差し支えない。なお、Steamの初期リリース時は日本語訳に幾らかの不備があったとのことだが、Switch版についてはそれらがすべて改善された後期版が移植されているため問題ない。

8種類のマルチエンディングシステムを採用しているのは上に記載した通り。これについてはある程度のリプレイ性に貢献しているが、8種類のうち4種類ほどは似たようなエンディングのため、展開に劇的な違いが生じるというほどのものではない。分岐が分かれば回収も容易なレベル。真のエンディングは一度ベストエンドを迎えることで分岐可能なフラグが立つ仕組みで、このエンディングへ至るルートのみ他のルートとは大きく異なる展開を見せる。また、エンディング後に少しの間ホテル内を探索できる特別なパートが用意されている。

アートワークの特異さとシュールな登場人物たちに反して、シナリオそのものは思いの外明確に説明される。スッキリした結末か? という点は受け手の解釈に寄るものの、いわゆる投げっぱなしや考えオチにはなっていない。真エンディング前に見ることになるベストエンドと合わせ、「何が理想的な結末だったのか」をプレイヤーに深く考えさせる構成になっている。シナリオもまた本作の雰囲気作りに一役買っていると言える。

手紙を読む主人公。

難点としては、ゲーム開始時のロードが非常に長いことがまず挙げられる。他のパートではロードらしいロードがほとんどなくテンポ良くプレイできるだけに、却ってこの初回ロードだけが異様なほどに長く感じられてしまう。知らないとゲームがフリーズしてしまったのかと錯覚するレベルで、可能であれば何らかの改善を望みたい。

他に引っかかりやすい点として、階段の昇降がやや面倒というところだろうか。ここで言う「階段」はホテルの中央に設けられた大きなそれではなく、作中で二ヶ所存在するある階段の昇降シーンを指す。実際に操作してみれば分かるのだが、どこまで行けば下へ降りて、どこからだと上へ登るのかが非常に分かりづらい。コツを掴めばスムーズに移動できるようにはなるが、もう少し判定を緩くするか、視覚的にわかりやすくなっていればなお良いと感じた。

なお、左スティックで主人公を、右スティックでカーソルを動かすという操作体系はあまり見かけないもので慣れるまでは戸惑いがち。ただ、操作性そのものは良好で理解すればストレスは少ないため、特に減点対象とはしていない。むしろ他では味わえない独特の面白さがあり、一つの個性として確立できていると感じる。

総評

Pros/Cons

Pros

Cons

雰囲気抜群のアドベンチャーゲーム。アートワーク・楽曲・シナリオ・台詞回しすべてにおいて他には無い持ち味があり、Switchの数多いゲームの中でも埋もれることのない個性を発揮している。スクリーンショットを見て惹かれるものがあれば迷わず買ってしまって構わないと断言できる。ボリュームは多いとは言えず、「もっとこの世界に浸っていたかった」という意味では少々惜しいところではあるが、1000円を切った価格を踏まえれば十分に許容範囲。このデベロッパーは早くも新作に着手しているとのことで、この出来映えであれば次回作にも高い期待が持てる。

関連リンク

ヒント

Q.
2日目の夜に入手した手紙の解読方法が分からない。
A.
まず前提として、この手紙は解読できなくても問題ない。他の方法で先へ進むヒントを得られる。その上で手紙を解読したい場合、庭で「タネギ」を、5階で「怪しいマッサージオイル」を入手し、キッチンで(1)タネギを油で揚げて「揚げタネギ」を入手する→(2)「揚げタネギ」をキッチンにあるトレイへ置く→(3)「怪しいマッサージオイル」をトレイへ置く→(4)手紙をトレイへ置くとすると本文が浮かび上がる。
Q.
スタッフ専用ランドリーにいるメイドをどかす方法が分からない。
A.
メイドは1階のカーペットのみを掃除するため、そこへ向かわせる必要がある。地下倉庫でインクを入手し、カーペットの上でインクを使った後メイドに話しかけて「1階のカーペットが汚れています」と言えば良い。
Q.
ある部屋に入るためのパスワードが分からない。
A.
該当する部屋はAの部屋であるため、このキャラクターに因んだ数字が答え。1階の遺影に書かれた日付は「May, 12」、ここに至るまでに拾えるメモの最終日付は「5月12日」、Aの手紙の日付は「5/12」。よって「0512」が正しい。
Q.
4日目の夜に石を奪われてしまう、または手放してしまう。
A.
石を奪われた時点で真エンディングには到達できなくなる。石を持ったまま5日目を迎えるには「あんたたちはおかしくなった、『それ』のせいで」→「治療薬を作ってみせますよ」と答えればよい。
Q.
あるルートで行ける迷路の抜け方が分からない。
A.
迷路は平面的に作られているため、右手法(右手の壁に触れ続けて壁に沿って進む)で進めていれば自ずと到達可能。
Q.
エンディングリストの下段、左から1番目の到達方法が分からない。
A.
薬を作成した後フロント係へ持って行く前にインベントリを確認し、薬にカーソルを合わせて「飲む」。
Q.
エンディングリストの下段、左から3番目の到達方法が分からない。
A.
石を奪われて(具体的には「いやです」のような拒絶の選択肢を3回繰り返す)202号室へ戻されたあと、窓を3回インタラクト。
*1:同社は既に解散した株式会社サイバーフロントの韓国における関連会社「サイバーフロント コリア」が母体。よく見ると「CyberFront Korea」と旧社の頭文字を取っているのが分かる。
*2:主にアイディアファクトリー/コンパイルハートの一部タイトルについて韓国でのパブリッシングを担当。
*3:厳密に言うと、あるエンディングへ到達するためにそうしなければならないように見えるシーンはある。
*4:デフォルトでONになっている。
*5:別の意味の「デッドエンド」は無いとは言えないが。