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A Short Hike レビュー

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目次

ゲームの概要

半固定視点の3Dアクションアドベンチャーゲーム。ある事情を抱えて叔母の住んでいる「Hawk Peak Provincial Park」(*1)を訪れた鳥の少女クレア(Claire)が、公園の頂上を目指してちょっとしたハイキング(a short hike)に出かけることに。しかし頂上への道のりは思いの外険しく、道中で様々な住民やハイカーたちと交流しながら少しずつ歩みを進めていく……という筋書き。

タイトル画面。

初リリースは2019年4月5日、プラットフォームはPC(Humble Trove)。その後2019年7月30日にSteamitch.ioGOG.comEpic Games Storeにて発売。コンソールへの移植は2020年8月18日リリースのNintendo Switch版が初となる。なお、本稿執筆時点におけるNintendo Switch版の販売対象地域は欧州・北米地域に限定されており、日本のNintendo eShopにはプロダクトが登録されていない。また、日本語訳も含まれていない。

一部メディアよりNintendo Switch版はいわゆる「コンソール時限独占(*2)」と報じられており、今後他のコンソールに向けても随時供給されるものと見られる。具体的な時期については現時点では不明。

基本情報

発売・配信元
Adam Robinson-Yu
開発元
Adam Robinson-Yu
発売・配信開始日
2020/08/19(Nintendo Switch版)
定価
7.99 USD

操作方法

左スティックで移動、Aボタンでジャンプとクライミング、Yボタンでインベントリを開いてアイテムを選択、Bボタンで装備したアイテムを使用、Xボタンは特定のイベント後に「ランニングシューズ」を入手したのちダッシュ用のボタンとして割り当てられる。カメラはシーンごとに指定された位置へ自動的に移動するタイプだが、右スティックで限定的ながら制御可能。

重要なアイテムとして「Golden Feather」があり、ハイカーたちの依頼に応えることで報酬として入手したり、島内に置かれているものを回収して数を増やしていくことがゲームクリアのために必須となる。Golden Featherは画面左下へ常時表示され、空中ジャンプ回数とスタミナ残量を視覚的に示すアイコンになる。例えばGolden Featherを3枚持っていれば、空中ジャンプ3回ないしは3枚のGolden Featherの色が青になるまでの時間ダッシュとクライミングが可能。なお、消費したGolden Featherは地上に静止することですぐに回復する。

Golden Feather発見。

システム

タイトル画面からニューゲームを開始するか、前回セーブした地点から再開するかを選べる。進行状況はオートセーブされるほか、現在の状態を保存してゲームを終了したい場合は+ボタンを押下して「Save and Quit」を実行すれば任意のタイミングでセーブしてタイトル画面へ戻れる。セーブデータのスロットは一つのみで、常に最新の進行状況のみが保持される。

ゲームのジャンルとしては3Dアクションアドベンチャーゲームだが、ゲームプレイにおける「ミス」となる要素が無いのが特徴。落とし穴や罠の類は存在せず、主人公のクレアはどれほどの高所から垂直落下しても決して傷付くことはない。さらにゲームの要素として戦闘は一切含まれておらず、悩み事を解決してあげるべきハイカーはいても、武器を手にして戦わなければならない敵は一人もいない(*3)。

エンディングは一つのみだが、その後もセーブデータを保持したままゲームを続行可能。さらにエンディング後にしか見られないイベントも用意されている。実績システムを備えており、条件を満たすことで解放される。Switch版ではゲーム内で達成状況を確認可能、Steam版では一般的なSteam実績として実装されている。

実績解除やゲームプレイには直接影響しないが、オプションとしてSpeedrun Clockの表示機能を備えており、スタートからクリアまでの時間を計測する機能がゲーム内に設けられている。

オプション画面。

ゲームの特徴

小規模ではあるが、ロードやそれに類する演出をほぼ廃して完全にシームレスに繋がった空間を舞台としたオープンワールドタイプのアクションアドベンチャーゲームである。プレイヤーには進行ルートを見つけて山頂を目指すという目標が与えられているが、達成までの期限などは特に設けられておらず、自由気ままに島を散歩して各種のアクティビティに興じることができる。

アクティビティとしては宝探し・競争・釣り・ビーチバレー(*4)・ボート遊びなどが含まれている。中には特定のアイテムを入手したり、ハイカーや住民の頼み事に応えたりすることでプレイ可能になるものも存在。なお、いずれについてもクリアのためには必須ではないが、報酬として重要アイテムであるGolden Featherを得られることが多々あるため、積極的に参加していくことが望ましい。

孤島で宝箱を発見するクレア。
釣りの結果。

他のサイトではしばしば「『どうぶつの森』シリーズを思わせるスローライフなゲーム」のような文脈で紹介されており、作中の空気感や登場人物のデザインにも通じるところがある(*5)が、本作は後述する通りあくまでアクションアドベンチャーゲームとしてデザインされている。一概には言えないが、アクションの自由度などから見てむしろ「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」のそれに近しいものがある。

何かが埋まった星形のサイン。

特徴的なアクションとしては「飛行」と「クライミング」がある。主人公のクレアは擬人化された鳥(*6)であり、ある程度の高さでAボタンを押しっぱなしにすることにより滑空する形で飛行が可能。飛行中にAボタンを押し直せば、Golden Featherの残量だけジャンプして高度を上げられる。飛行そのものでGolden Featherは消費されないため、陸へ降り立つまでずっと飛び続けることが可能。また、壁に向かってジャンプしてそのままAボタンを押すことでクライミングができ、Golden Featherがなくなるまで壁を登っていける。飛行の前段となるジャンプとクライミングについてはゲーム中である条件を満たすことで強化され、ジャンプはより高く飛べるようになり、クライミングはより速く移動できるようになる。

曇り空の下で飛ぶクレア。
雲海を飛ぶクレア。

山頂に至るまでの経路は完全に自由。登頂のためある程度(*7)のGolden Featherを集める必要はあるが、どの順序で集めても良いし、必ず入手しなければならないものも存在しない。進行方法やアクションの腕次第では相当少ない枚数でのクリアも可能なデザインとなっている。

プレイした感想

アクション・操作性

このゲームは何よりもまずアクションの気持ちよさ・楽しさを挙げたい。後述する通りアートワークや音楽、ストーリーなどが醸し出す穏やかで優しい雰囲気という観点から語られることが多いゲームだが、それらをスポイルすることなく存分に没入できる強固な下地を作り上げているのが他でもない快適な操作性である。シンプルながら自由度の高いアクションにより、キャラクターを動かすこと自体の楽しさを驚くほど見事に確立できている。雰囲気は良いが操作性が良くない……と評されるタイトルも少なくない中、本作の挙動の良さは特筆に値する。

主人公であるクレアを操作していてストレスを感じる部分はきわめて少なく、ほぼ皆無と言っても良い。すべてにおいて癖のない素直な挙動、融通の利くジャンプ、感覚的に行きたい場所まで行ける飛行の心地よさなど、挙げればキリがない。アクションの心地よさは任天堂開発の各アクションゲームタイトルに通じる面があり、コンソールの初移植先がNintendo Switchとなったのも頷けるところ。

飛行は基本的にゆったりしているが、ゲーム中で紹介される「急降下することでスピードを上げる」という方法でかなりの速度まで加速することができ、少々操作に慣れは必要だが活用することですさまじい速さで島内を飛び回ることができる。ゆったりしたゲームという印象のある本作だが、飛行のスピード感は相当なもの。この緩急の付いた飛行の操作感覚は大変爽快であり、本作におけるアクションの中でもっとも推したいポイントとなる。このテクニックを身に付けることでクリアが容易になる徒競走のアクティビティも用意されており、単なる自己満足には終わっていない点も記しておく。

山登りに際しては各所に「トランポリンのように載ると大きく跳ねる花」の苗が埋められており、ある手順を踏むことで利用可能になる。時間がかかりがちな高所への移動を大幅に楽にしてくれる重要な要素で、この配置もまた絶妙なものになっている。

花の苗を見つめるクレア。

このゲームは雰囲気が示すようにじっくりとスローテンポでプレイすることを推奨しているが、一方で優れた操作性に基づくアクション性の高さ、山頂までのルート取りやGolden Featherの取捨選択など自由度の高さ、ゲーム内にSpeedrun Clockが設けられていることなどからタイムアタック向けのハイスピードアクションとして楽しむこともできる。これは特筆すべき点で、プレイヤーの好みに応じてプレイスタイルに緩急をつけられる、あるいはそれを許容するゲームデザインになっているとも言い換えられる。スローテンポを強制するのでは無く「急ぎたければ急いでも良い」という、ある種一段上の自由度が設けられているとも解釈できる。

グラフィック

ドット絵の3Dと言うべき特異なアートワークを採用している。あたかも2Dゲームのようにも見えるが、実際のゲームはれっきとした3Dである。スクリーンショットでは伝わりづらいものの実際にプレイすると視覚的にも分かりやすく、かつ60fpsで描写されるため想像以上に滑らかに動く。ギザギザして見にくい、といったことはないと思ってもらって構わない。

アートワークについては「Nintendo DSのゲームを見ているよう」というコメントを目にしたことがあり、確かに相通じるものがあると感じる。次々に新たな視覚的技術が投入される3Dゲームに於いて、あえて2Dに寄せた本作のアートワークは、ある意味では陳腐化しない、個性的なものになっていると評価できよう。

雪山で仲間たちとたき火を囲むクレア。
廃ビルの屋上に立つクレア。

舞台となるHawk Peak Provincial Parkは海に囲まれた孤島となり、山と海両方の風景を楽しむことが出来る。作中設定の季節は夏であり、その通り海に近い場所は夏の装い。しかし山を登るにつれて秋を思わせる木々が立ち並ぶ場所が増え、さらに登頂が進む終盤は雪の降り積もる冬そのものの風景へと様変わりする。また一部地域では曇り空となり、さらに進むと雨が降り出す場面も。小さな島に無理なく様々な風景が盛り込まれており、アクション性の良さと合わせ文字通りハイキングを楽しむゲームとして成立している。

音楽・サウンド

クレアのいる場所に応じてリアルタイムに楽曲が変わるシステムを採用。メインテーマは存在しているがそのアレンジで統一されているというわけではなく、シチュエーションに応じて大きく楽曲が変わる。また、飛行してしばらく時間が経つと流れている楽曲に専用のパートが追加されるという要素も存在する。

楽曲はゲームの雰囲気に合っているという点でも、統一感があるという点でも、何より楽曲単独で聴いても例外なく非常に品質が高く、ゲームプレイをより快適なものにしているのは間違いない。海沿いの長閑なシーンに合わせたスローテンポな楽曲から始まり、頂上へ近づくにつれて少しずつシリアスさを増してゆき、雪山のシーンではドラマティックなものへと移りゆくのはシンプルながら見事と言うほかない。音楽もまた必聴である。

ストーリー

クレアは父親に連れられてHawk Peak Provincial Parkへやって来るが、導入部では少し気だるげなやり取りをしている。到着後もスマートフォンへの連絡を待っていたが、叔母から「この辺りは電波が入らない」と告げられてしまう。電波のないところで着信があるはずもなく、クレアは気晴らしにハイキングへ出かける……というのが導入部。これ以後ストーリーが明確に語られることはエンディング直前まで無い。

公園には多くの動物たちが遊びに来ており、彼らとの交流もゲームの楽しみの一つ。彼らの多くはなにがしか悩みや心配事を抱えており、それを解決してやることでゲームをより有利に進められる。解決の過程で彼らの内情(*8)を知る機会も多く、総じて温かみがあり感情移入しやすい作りになっている。

絵を描いている少年。
砂の城?を作る少年。

ムービーを伴うような凝ったストーリーがあるわけではないし大きく驚かされるものでもないが、この何気ないイントロとエンディングでの演出は見事にハマっている。ある意味ではミスリードを誘う構図と言えるかも知れないが、どんでん返しと言うよりかはネタばらし――クレアはなぜHawk Peak Provincial Parkを訪れたのか、山頂を目指したのかが分かる構成になっている。

さらに面白い点として、登頂後すぐにスタッフロールとはならず、ある場所へたどり着いて初めてゲームクリアとなる。山頂にたどり着いてからその場所へ至るまでの道中、クレアがどんな心境でここに至ったのかをプレイヤーが振り返る時間が与えられているとも解釈できるその流れは巧みで、山頂で見られる美しい風景も相俟って強い印象を残す優良なシナリオと言える。

ストーリーそのものは綺麗にまとまっているが、惜しむらくは日本語訳がなく英語の理解が求められる点。さほど難しいものではないし、あらゆるメッセージはボタン送りするまでずっと表示されているのでじっくり読むことが出来るが、全編に渡って口語表現が頻出するためその点では分かりづらい側面もある。

以下はイントロとエンディングについての説明。クリア後に読むことを強く推奨する。

ストーリーのネタバレを含む

クレアの母親は大病を患って入院し、近々手術をすることになっていた。クレアがHawk Peak Provincial Parkを訪れたのは、母の回復を待つまで気を紛らわせるためだった。導入部で気乗りしなさそうだったのは、母のことをずっと心配していたため。山頂を目指すのは、メイ叔母さんから「山頂なら電波が届くかも」と言われ、手術の結果を聞くために電波の届く場所を目指したため。

山頂にたどり着くとスマートフォンの電波が届くようになり、ちょうど着信が入る。相手は母で、手術は無事に成功した旨を告げられる。プレイヤーはここに及んで初めて、クレアがなぜ山頂を目指したのか、誰からの電話を待っていたのかを知ることになる……という仕組みになっている。

欠点・気になる点

ゲームプレイで気になる点はほとんど無いが、強いて挙げるとするならばごく一部のシーンにおけるカメラワークがある。このゲームでは固定視点を採用しており、クレアの移動に合わせて自動的にカメラが移動するが、何箇所かクレアがプレイヤーから見えなくなるような動きをしてしまうポイントがある。これについてはカメラの仕様上やむを得ない部分もあるが、一気に視点が変わってしまうので慣れないと戸惑いがち。

Nintendo Switch版は日本のeShopからは買えない上に日本語訳が無いという、ゲームそのものではないにしろ小さくない問題がある。正規の方法で日本から購入して遊ぶことは可能だが、手続きが煩雑でありあまり勧められない。よって購入・プレイ共に、どちらかと言うとSteamを初めとするPCプラットフォームの方が敷居が低いという結論。Steamであれば日本から日本円で買えるほか、非公式であるが精度の高い日本語訳も後から導入できる。要求スペックも最新ゲームと比較すれば格段に低いためプレイに支障が出るケースは少ないだろうし、どちらかというとPCでのプレイを推奨したい。ただし操作はアナログスティックが前提となっているため、普段マウスとキーボードでゲームを遊ぶという方も別途ゲームパッドを用意した方が良い。

総評

Pros/Cons

Pros

Cons

これは間違いなく傑作。一点に特化してプレイヤーの度肝を抜くタイプでは無く、細部まで作り込んでゲームに没頭させるタイプの「作品」。雰囲気を重視しつつも本質はアクションゲームであり、この操作性を確立するまでに相当な期間練り込みをしたものと思料。Nintendo Switch版は日本で遊ぶためのハードルが少々高くなっているのは残念だが、ゲーム自体はPC版から正確に移植されているためその点に関しては問題ない。重ね重ね、日本のeShopでも日本語付きで配信されることを願うばかり。遊べる環境をお持ちの方は是非遊んでもらいたい一押しのタイトルである。

作者からのメッセージ。

関連リンク

*1:非公式日本語訳では「ホーク・ピーク公立公園」と訳されている。
*2:特定のコンソールに対して先行販売され、規定の期間が経過したのち他のプラットフォームにもリリースする販売活動を指す。過去の大型タイトルにおける事例としては「Rise of the Tomb Raider」(Xbox One/Xbox 360時限独占、後日PS4向けにリリース)や「ファイナルファンタジーVII REMAKE」(PS4時限独占、後発プラットフォーム未定)などがある。
*3:武器として使われることもあるようなアイテムを入手することもあるが、それらはすべて別の用途で使われる。
*4:厳密に言うと、ビーチバレーではなく「木の棒でビーチボールを打ち返し合い高得点を目指す遊び」である。
*5:開発者も「大いに影響を受けた」とコメントしている。
*6:「ツバメ」と記載している媒体が多い。
*7:ゲーム中では「自信のない方は七枚程度集めましょう」というヒントが貰える。
*8:例えば「時計を探して欲しい」と頼んでくるハイカーは解決まで面白おかしいやり取りが続くが、最後の最後でなぜその時計を探していたのかが分かって納得する……等。