ごきんじょ冒険隊(コミック版)とは
ゲームの方の『ごきんじょ冒険隊』はその独特の作風からSFC末期の異色作としてそれなりに知られている(*1)が、コミック版が存在することはあまり認知されていないのではないかと感じている。昨年古本屋で運良く入手することができたので、ゲームとの関係を中心にあれこれと分かったこと・思ったことを書いておく。
ゲームとの関係
コミックとゲームの関係はなかなかに複雑である。両者を並べるとゲームのコミカライズともコミックのゲーム化とも取れるのだが、発刊時には一般に「コミックのゲーム化(=コミックが先行)」だと考えられていたようだ。ところが実情は異なっていて、巻末の付録ページでその点についてそこそこ詳しく書かれている。
月刊まんがくらぶ(発行・竹書房)で、好評のうちに連載を終えた『ごきんじょ冒険隊』。その単行本化にさいし、一般にはあまり知られていない事実が急遽発表された。それは、『ごきんじょ』は、テレビゲームをもとにしたコミックだったというのだ。
(中略)
コミック『ごきんじょ冒険隊』の連載開始が、まんがくらぶ平成7年7月号。ゲームソフト『ごきんじょ冒険隊』の発売が平成8年5月。その間には。ゆうに一年近い間が開いている。
その期間的事実から、「コミックが最初にありき」という考えが定着してしまったようだ。しかし、実際には、ゲームの開発は、コミックの連載が開始される一年以上前から始められていた。(*2)
実際のところは一般的な認識とは逆で、ゲームの開発がスタートした後にコミックの企画が始まった(=ゲームが先行)とのことらしい(*3)。
上記に加えて話をややこしくしているのが、コミックの内容とゲームの展開に大きな差異がある点。これも両者の関係を込み入ったものに見せている一因と言えるだろう。
一週間ごとのサイクルで冒険とイベントがやってくるゲームに対して、コミックは主人公・まなを中心に、ある一日の風景を切り取った短編集の体裁を取っている(*4)。この体裁の違いから、ゲームとは受ける印象が大きく異なるものになっている。
ゲームではまなたちが強大な敵と大立ち回りを繰り広げたりするシーンもしばしばあるが、コミックにそういったシーンは存在しない。まなたちの行動が結果的にごきんじょの人々を救うことはあるが、ゲーム終盤で展開されるようなまなたちと巨悪との対峙という流れにはなっていない。
コミックで登場した人物の大半はゲーム版にも登場しているのだが、一方でゲームにしか登場していないキャラクターはかなり多い(*5)し、双方で役柄が違っていることも少なくない。分かりやすいところで言うとまなの兄である「しゅん」は影も形も無いし、冒頭で出会うことになる「神様」についての言及も皆無。仲間キャラクターのひとりであるロレンスも本編での出番がなく、冒頭のキャラクター紹介と巻末の付録でさらりと存在について触れられるのみ。あと、ゲームでは序盤から頻繁に登場するななこも12話になってからようやく初登場といった具合で、その扱いはだいぶ違っている。
本の構成
全14話+14ページの巻末付録。本編についてはもともと竹書房から出版されていた『まんがくらぶ』からの収録なので置いておくとして、残り14ページの密度が非常に濃い。上記のゲーム版との関係について語られているだけでなく、ゲーム版についての描き下ろしが数ページ、そして目を引くのが竹書房以外の出版社が取り扱った書籍に収録された『ごきんじょ冒険隊』関連のカットや漫画が詰め込まれていること。最終ページの[初出一覧]には以下のような書籍名・出版社名が並べられている。
- 月刊『コミックゲーメスト』(新声社)
- 月刊『じゅげむ』(リクルート)
- 月刊『電撃NINTENDO64』(メディアワークス)
実際のところこの一冊でどこまで『ごきんじょ冒険隊』関連のコンテンツがフォローされているか正確な所までは分からないものの、複数の出版社を跨ってコンテンツが収録されていることを踏まえると、かなり強いこだわりを持って作られたという見方もできるのではないだろうか。
ちなみに上記のうち、月刊『コミックゲーメスト』からの収録分については『ごきんじょ冒険隊』関係のコンテンツではない。著者である須藤氏がコミックゲーメストに掲載していた『おこもり大王』というコーナーで、遊んだゲームについて語ったイラスト付きのエッセイ(*6)という内容になっている。4ページに渡って『風来のシレン』『MOTHER2』(*7)『太陽のしっぽ』の3タイトルについて赤裸々な感想が綴られており、文字の分量もそこそこ多い。
これは恐らく「須藤氏とゲーム」繋がりで『ごきんじょ冒険隊』関連コンテンツと併せて収録されたのではないかと推測する。こういった小コーナーは雑誌に掲載されたきりで以後二度と日の目を見ないようなケースが多いことを考えると、本編とちょっと趣旨が違うとはいえ単行本に収録されて保存されたことを幸いに思う。
ひとまず今回のところは外側の情報についてのみ記載して終わりにしておく。全14話からなる本編についてもいずれ必ず触れたい。