ダンデライオン劇団と愉快な仲間たちさんの「夏の終わりに」

レーティング: 全年齢対象


全ては平等に尊い。食べるということ、それはあらゆる命を頂くこと。

全ての命は他の命と出会い何かを生み出す。

悲しむな、????が来るぞ。怒るな、????が近づいてくるぞ。

喜ぶこと、楽しむこと、あたりまえの生活、それが幸せ。

仲間たち我ら見上げ、祝福する。

ーシンオウ神話が伝わる文化圏の様々な碑文


 どうしてわたしはこんなにしあわせでどうしようもなくせつないのだろう。

わかっているくせに。あらゆる声から耳を塞ごうと思う。

「お父さん、お母さんの話を聞かせて欲しいんです。」

そういった少年の口を塞ぎ、いっしんに抱き止めた。

少し抵抗するような素振りを見せ、しかし彼はされるがままになった。

死んだように冷たいぬらりとした彼の感触が、真っ青な日射しの中にひかっている。私は聞いた。

「さみしかったね。ずっとひとりで旅してきたの?」

時は止まった。針は落ちた。

私の腕は、おずおずとした、でもはっきりとした膂力で離された。

そういえばこの子も人間で言えば10歳になるんだ。世間的には大人として認められる年頃、

人間ひとりでポケモンたちの命を背負って旅をする頃になる。

「…いえ、僕にはともだちがいるし、それに。」

連れたポケモンを抱き上げた彼はそのか細い指で、その首に掛けられた水球のような宝石を撫でた。

「これがある限り、ボクらは繋がっています。」

一方で二十歳も半ばを過ぎようとする私はどうだろう?こんな子供ひとりに会うために遠い地方まで切符を買って、

そのくせ?具体的なプランは何も立てていなかったんだ。

「チドリさん、いや、チドリお姉ちゃん。パパとママが本当にお世話になりました。

ーだから、あなたの話を聞きたくて僕はここにきたんですよ。」

彼らは冷酷だ。そう思いながら私は頷くと息を吸い、精一杯の声をあげた。

「ある夏のことです。ラグーナという南アメリカの村に、男の子と女の子がいましたー

 森はひどい夏の嵐で、木の枝が悲鳴をあげていた。10歳が迫った夜のことだ。

そのまま全部どっか行っちゃえばいいんだ。唇を噛み締めながら思う。

ここで悲しんだりしたら、風の魚に気にいられてさらわれてしまう。

怖さを紛らわすために読みかけの本のことを考えたけど、ビリビリに破かれたことを

思い出してやめた。やっぱり、食べ物がなくなって村中みんな困ればいい。

今年なったぼんぐりみんな川の中に吹き飛ばされてーーそうだ、どうして気づけなかったんだろう。

このままどっかに行っちゃえばいい。わたしをいじめる奴らからも、助けてくれない学校からも逃げ出して。

さあ、来るなら来い。こんな場所に、こんな世界に未練はないーー未練?

心配そうなパパとママの顔をわたしは頭から追いやる。全部忘れてしまえ、わたしには新しい世界が待っている。

「ねえ、そこにいるの?」

お腹をいっぱいにふくらませ、せいいっぱいの声をあげた。

それでも風の音はすさまじく、じぶんがいかにちっぽけなのか実感させられる。

「いるのだったら姿を見せてよ、何かを言ってよ。」

ー君はどうして、そんなに悲しいの?

ー君が悲しいと、僕たちも悲しいよ。

そう、夢は実在した。いったいいつの頃からこの世界を見守ってきたのだろう。


「・・ゆめ。」

夢は終わり、朝日が昇る。

枕元、その側に立って鼻を鳴らすのはブーバーンのたらこ。旅をやめたパパの一番のパートナーだった。

水の音がきこえる。鏡の前で支度をしてると、少し季節ハズレのチェリムがうとうとしてて木の枝から落っこちたので笑った。

「さなー。」

「オカッパおはよう。」

じぶんの女子にしては低い声が嫌いだった。台所でサーナイトが鳴き、隣でママが無言で微笑んだ。

視線を少しそらして食卓につくと、にがいきのみが並んでいたので口に運ぶ。

『やりたいことが見つからないと、教育機関に復帰しない児童が社会問題となっておりー』

私はテレビのリモコンに手を伸ばすと、モーモーミルクを最後の一口まで呑み込んでチャンネルを換えた。

「あのねパパ、わたしがんばるからね。二人の分まで幸せになってみせるから。いってきます。」

それだけ言うとパパの顔が見えないように立ち上がり、強くなりつつある日差しに駆けていった。

 両親と、パパの手持ちだったポケモンと三人、5匹で暮らしている。

そしてそこからアリゲイツ便で30分河を渡ると緑のトンネルを通り抜け、繁華街のはずれに

今春入った高校がある。昔流行った子役の話題で今日は持ちきりになっていた。

「タンポポさん、ラグーナの森で目撃したんだって!」

何となく見学に行った部活のおかげで、情報通のアサガオのグループに紛れ込めたのは幸運だった。

「・・ロケか何かかな?」

「いや、プロと親が悶着起こして芸能界追放されちゃった、とか。」

なにそれこわいー。人の不幸を楽しそうに語るこの人たちに、心から調子を合わせられればどんなに良かったろうに。私はわらった。

「大ニュース大ニュース!」

駆け寄ってきたのはパックくん。オレンジ色の髪、大きめな赤眼に小柄な体型の青ジャージ、旅に出る前からの腐れ縁だ。

「転校生がこの高校に二人もーー」

ドアが開く。ぽかん、と私の口が開く。いつもあんた間が悪いな、と思う間もない。

この時期の転校生自体は、ポケモンブームの洗礼を受けた時代そう珍しい事ではない。

旅人に夏休みなどなくリタイアのタイミングは純粋に個人の意思に任されているからこんな事態が発生する。

いつか私を置いていった少年は数年ぶりに私の名の形に口を動かした。

『ーーチドリ?』

黒板には神経質そうな字で、彼の名カキノキが書かれていた。


 転校生を紹介します。そう言われてラグーナジュニアスクールの教壇に立った、あの日だけはちゃんと覚えてる。

「カケハシチドリです。」

チャイムが鳴った瞬間『みんな』が机に駆け寄ってくる光景、もう慣れっこ。

繰り返し繰り返し転校して、何もわからなくなってしまった。

大人になるって、たぶん慣れることだ。

そりゃ、わたしはまだ9歳で、それがどんな感じか、どんなに辛いのかもわかるわけないけど。

いやなことも繰り返せば楽になるのは実感できる。

「チドリちゃんってさ、初代『忘れえぬ記憶』のヒロインに似てない?ほら、」

「確か芸名はチタン・・?」

「ばか!ターニアだよ!」

「そんなことより、さ!もう森に行った?」

「風の魚猟を見た?」

「何、それ。」

口を揃えて仮のクラスメイトたちはこう言った。

「見れば、いや感じればわかるよ。」

ふと、そんな騒ぎから距離を置き、頬杖ついて難しそうな本を読んでいる子と目が合う。

こういう子を見るのもまた、慣れっこ。クラスに二人か三人、いつもそんな子がいる。

自分だけは特別で、人と違うものが見えているとでも思ってるみたいな。

そんなわけないよね。どうせわたしたちは狭い世界で生きているこどもで、毎日を遊んで、勉強して、

ほんとのところおとなたちに何もしてあげられないまま過ごしているんだ。

「どうしたの、チドリちゃん。」

「・・え?」

「怖い顔してたからさ。カキノキのこと?」

「なんか嫌な感じだよね、」

適当に調子を合わせる。

トントン拍子で見学ツアーへの参加が決まり、何もわからないままで放課後に森に集まることが決まった。


退屈だ。それが私の偽りのない心境であり、同時に何年言い続けたかもしんない口癖だった。

そんな自分こそいっとう退屈な人間だなんてわかってた。

ジム巡りも3つほどで早々に切り上げた。巡業してきたコンテストでも予選敗退した。

つまんないことを笑えることが若さならそんなものいらなかった。

それにしても、誰も座っていない幾十のパイプ椅子をせっせと整えるあの先輩はなんて滑稽なんだろう。なんてことを思いながら、私はその日もアイスの実をつまんでいた、のだが。

「あー、つまんね!」

どやどやと部室に入ってきた3人組を見て呼吸を止めた。焦って咳き込む。彼は合った目を逸らし、

私は自分の意識をそらすためにアイスを口に運ぶ。アサガオが呆れる。

「本当にカゴが好きなんだね。」

知ったこっちゃない。私の意識はその時入室してきた男子の固まりに向けられていた。

正確には、その中のただ一人に対して向けられていた。どうして、あんたが。

「おいおい、まじかよ。人こんだけ?」

わたしを含め、数名のきもちを代弁したセリフが飛んだ。

端っこでとらえた目は緑色を複雑そうに歪めていた。

カキノキのオレンジ色のごわごわの毛は一応このあたりで珍しい部類に入り、あの頃から変わらずに周囲の注目を集めていた。

肩を叩かれる。惜しみない陽に金髪を照らし、タンポポ部長は私の肩ほどの背をすらりと伸ばした。

「また来てくれたんだ。」

彼女のポケモンが擦り寄って来たので首を撫でるとゴロゴロと喉を鳴らし腹を見せる。

「なんていうポケモンなんですか?」

「キング。カエンジシのキング。」

「・・心配になるくらい無抵抗なのですが。」

「辛辣だなあチドリちゃんは。素直に受け取っときゃいいのに。」

副部長は転校生二人に喜び勇んで駆けていく。

「つまり出自からしてポケモンの踊りたい、表現したいという自然な感情の発露から生まれた・・」

カキノキが面倒くさいやつに話し手をリストアップしたような笑みを浮かべた。

その横でお前に任せたと言わんばかりに背中で手を組み明後日の方向を向く昏い目をした転校生の一人の顔立ちに見覚えがあった。

「気のせいかなぁ。」

「ハーミアも思うの?」

「え、チドリちゃんとハーミアって知り合いだったの?」

「ヘレナ、チドリはあたしの次に森の奥に来た子よ。」

部長は答えた。カキノキはどうしてこんなところにきたんだろう。

「無理に指導するのではなく楽しそうに演技する仲間を見せ、上手くなりたいという感情の芽生えを待ってやることこそ重要なのであります。」

副部長が高説を切るのを見計らい、部長は活動の始めの手を叩いた。この瞬間は好きだった。

ひとりのセリフが空間を覆い尽くし皆がひとつになって聞く感覚は演劇の挨拶がはじまるようだ。

「まずは前に出て自己アピールをしてもらいます。どんな形でも自由です。まずは例を見せますが・・」

だけど何も得られないまま旅をやめた私に語るべきことなどあるわけがなかった。

「ーリーグの援助は年齢的にもう受けられないけど、旅も演劇も好きだから。

いつも現地の子の輪に入って笑いあえる、そういう劇団を作って世界中を回りたい。

そのために、今年こそ夏の終わりの大会で認められることが今の目標です。みんな、一緒に頑張ろうよ!」

焦っていた。カキノキは今度こそ入れ替わり立ちかわる先輩たちの言葉に彼らしい儚さで微笑んでいたが、私の頭にはまるで入ってきてなかった。

「わたくしはポケモンが本来持つ美しさを希求しー」

無言に徹していたターニアが1年の一番槍となるまでは。

「・・この地の伝承に残る風の魚に敬意を表し、遠き地の森のひと夜の妖精伽を朗読します。」

瞬間彼女の纏うものが変わり立つ場所は舞台になった。滑稽な月に女部族の女王、七色の声。

「恋する阿呆は死ぬほどバカをするもんだー」

思い出した、彼女は舞台から追われたくだんの子役だ。パックの名前の由来となった妖精が残酷に私たちを笑う。

「馬鹿げた喜劇を見物しましょうか?ご主人様、人間ってなんて愚かなんでしょう!」

届かない。ありえなかった。自分探しなどと馬鹿げた夢に私が酔っている間に、いや、生まれてすぐから。

彼女は母の夢に応え、たゆまぬ練習を重ねていた。

誰かが言った。自分が変われば世界が変わると。私は自分を変えたかった。ただ、それだけのことだったのだ。


 物語だけは味方だった。チャンピオンにトップコーディネーターに。

トレーナーたちの伝記は努力なしに大きな夢を分け与えてくれた。

でも本当は違う。その側で人間を思いやるポケモンにこそわたしは救われていたんだと思う。

あくまで、後から思いかえせば。認めたくないけど、わたしはひとりぼっちだ。

家にランドセルを置きにいくと、引っ越しの片づけをしていたパパに呼び止められた。

「学校、どうやった?」

「ふつうだよ。ちゃんとやっていけそう。」

「面白そうな先生はいたかいな?」

べんきょうは嫌いだ。国語の教科書を読むのは嫌いじゃなかったけど、それは別枠だろう。

「部活とかどうすんや。」

住み始めたばっかりの家はピッカピカに磨かれていて、段ボールが積まれたままになっている。

この箱がすべて整理されて少し経って、食器や本の並びが乱雑になってくるころに大体引っ越すことになる。

ママは几帳面で、だからその戦犯は大体目の前のヒゲもじゃメガネだ。それでも、好きなパパだ。

ぐちゃぐちゃになっている洋服の束を整えてやると申し訳なさそうな顔をされた。

「ねえ、風の魚、って聞いた?」

気になって聞いてみると、ママがアイロンを動かす手を止めた。

《風の魚は魚にあらず、ただ風の前のちりに同じ。》

さらさらと手元のノートに書き込み見せてきた。

《悲しむな、風の魚が来るぞ。怒るな、風の魚が近づいてくるぞ。よろこぶこと、楽しむこと、あたりまえの生活、それが幸せ。

そうすればれてぃおさまのしゅくふくがあるーというのが、口ぐせだ。》

「何の話?」

「何の話なんだろうね?」

「おとぎ話。正義を規定し悪を断じ、夢を正しい方へ導くもの。人はそれを文化とか、信仰と呼んだ。」

私がここまで話し問いかけると、少年はすらすらと答えた。

「ーまあこれも受け売りなんですけど。」

そうやってワシャワシャ頭をかく仕草など本当にそっくりだ。青い毛を巣にしている手持ちがチチ、と小さく非難する。

「人間って、哀しい生き物ですよね。」

そうは思わない。

「何の話?」

「このあたりに伝わるおとぎ話やろ。教会で聞いた。」

《意味はわからないけど、なんか怖いよね。》

「でも、いいこと言っとるやん?俺、強くなりたいってがむしゃらに思ってたけど、

幸せって案外小さなところにあったんだって、思った。」

「パパはママと逃げ続けて幸せ?」

そう問うと困ったような顔をされた。

「こうやって夢をごまかして幸せ?」

「いきなりどうしたんや。」

「わたしが質問してるの。いつまでこんなこと繰り返すの。」

「これで終わりにするんだよ。終わりに。今回はもっとうまくやるから。」

またこの顔だ。ママはわたしをじっと見つめながら、こうノートに書き込んだ。

《雲に架橋霞に千鳥》

「昔ぼんぐりボールができる前、ジョウトの貴族は空を飛べなかった。

雲に橋をかけることも、春の霞の中に冬の鳥ポケモンを放つことも。」

「ー何が言いたいの。」

「雲に架橋、霞に千鳥。全部『及ばぬ』のまくらことばなんや。いや、詳しいわけやないんやがな。

お前を生むって決めた時から、俺の苗字にちなんでこのどれかを名前につけるって決めてたんや。」

ノックの音。もう、行かなきゃ。


「食べようとしてたアイスクリーム、ベタベタに溶けていたんだ。」

「見ればわかる。何それベトベター?」

「ユキカブリに実るキャンデー風キャンデーブルーベリー味、春季限定。」

「色合いって!普通は食感とか味とかでしょ?いや、いらねぇって!」

「それ、好きなんだ?」

「こうなっちゃったら美味しくもなんともないからね。好きではないよ。」

嘘だ。初めから『ルート216のみのりブルーベリー味』なんて買いたくない。

舌で転がす216円はちっとも甘くなくて、出会ったばかりの十数人は古い友達みたいに私を部の見学に誘い、私はついていった。

「ほんとチドリって、」

くだらないことを喋って、食べて、笑って、10歳の夏休みについて誰も触れることはない。

「面白いよね。」

ほやほやのポケモントレーナーがアーケード街を通り過ぎ、青い屋根目がけてBダッシュしている。

そう。本気で夢を追っかける人間はアイスなんて買わないんだ。

ヒウンアイスを転売して儲けている奴もいる?知らん。あれは副業だろ。

「キャ、」

「チドリちゃんだいじょうぶ?」

「もったいなーい、」

アサガオが取り落としたシャーベット、べちゃりと出来立てのアスファルトに落ちた。

すかさず舐めとったのは、白地に赤い柄の流線型につんと尖った鼻先、胸ビレに大きな翼。見慣れたポケモンだった。

「あの、行儀悪いよ?」

金色の瞳を閃かせ悪戯っぽく笑った。

脊髄反射のようにみんなボールを投げ、誰からともなく苦笑した。

「早いもの勝ちだから!」

バトル相手とシェイクハンズ。捕獲争いもフェアプレー。

半ば不文律としてわたしたちの中に沁み渡っている。

誰が言い出しっぺか知らないが、因果なことだ。少し胸がうずく。

パパのことを思い出す。…みんな、案外衰えていないんだ。

しかし当たってもボールは無為に転がるに過ぎなかった。

「あの、その子私のなんですが。」

おはよー、こんなとこで会うなんてねー。戸惑いながら声をかけるみんな。

「それよりさ、あんたの?」

その声の響きにようやく彼女たちにとっての事態の重大さに思い至る。

「すごいじゃない!どこで捕まえたの?」

長い沈黙の後、アサガオが述べたのはそんなセリフだった。

「風の魚ってラティアスのことだったの?…ううん、これはこの子が勝手にしたことで…」

一緒だったんだ。彼女もまたひとりぼっちから救ってもらったんだ。

もはや思いこんでいたわたしは、このあたりでわずかに違和感を覚えた、遅いな。

ーそしてさっきのボールから再度飛び出したのは黒い影。白い帽子と赤い襟巻き。

「なんだあれ…」

「いい加減にしなよファントム?」

彼女の言葉には感情の影が感じられなかった。

影はいしし、と笑うとでんぐり返る。さっきとよく似たカラーリングだがずっとちんまりとっつきやすい。

やっと納得し、見抜く才能がないことも自覚してしまう。

「ゾロアって言って、人に幻影を見せられるの。

それだけならいいんだけどずいぶんいたずら好きで、しょっちゅう変身して外を出歩くのね。

最近は空前の伝説ブームらしくて…」

「ずいぶんはためいわくなブームだね。」

言ってみるが、彼女は小さく視線をこちらによこすだけでボソボソとした早口を閉じた。

「撫でてもいい?」

「どうぞ。」

たちまち女の子たちにもみくちゃにされて、どうやら悪い気はしていないらしい。

嬉しそうなファントムくんをよそに、ベンチの端っこに呼び出してターニアさんは私に問うてきた。

「ミュージカル部入るの?」

「…入るよ。私は入る。」

「ふーん、」

「ターニアさんも入るんだよね、あんなに演技うまくて先輩たちもみんな期待してるよ?…私、変なこと言っちゃった?」

真っ黒い目で見つめてきた。少し怖い。

「私は、」

夏が始まったばかりと思い込んでいたのは私だけなのかもしれない。ロゼリアの薄膜が花壇で強い日光を透かして翠に輝いていた。

そんなことが、探るような視線から逃れるように頭によぎる。

「チドリー、ターニアさーん、」

ナイスタイミング、そう思った私を見通すみたいに彼女が手をやる。

「なに?」

「行きなよ。ともだちなんでしょ?」

リタイア組とつるむターニアなんて、それこそ永遠に溶けないアイスだろうと思えた。

わたしが立ち上がると、今年はじめのテッカニンの歌が聞こえた。

なんてよく出来た風景だろう、まるでおとぎ話の書き出しみたいだ。

こころの芯の冷えたところに蓋をするように走り出したわたしを彼女は冷たく見つめているのだろう。


 森の向こうに行きたいなんて、考えちゃいけないよ。おじいさんおばあさんはみなそう言っているよ。

わたしたち家族自身がその向こうから来たのだが、そんなこと気にしちゃいないのだ。

「草むらからポケモンが飛び出すからでしょ?」

ごうごうと滝の音が響いてくる中アリゲイツにまたがって問うた。

「いや、今じゃ誰も信じてない話だが、そういう悪い子は別の世界にさらわれていくんだって・・」

ラグーナの森が見えてきた。向こうにたくさんのルンパッパに乗った、日焼けしたおじさんたちがパパを囲っている。

「これがほんとのルンパッパパパってやつですわ。ははは・・」

おっさんやめろ。

「でもさ、森の奥に向かうの、なんだかんだ言ってやっぱり怖いよね。」

「パパ!」

「おー、ぎょーさん友達連れて。お前も風の魚見学か?」

「うん。っていうかはずかしいよ・・ルンパッパパパって何。」

「お前もコガネ生まれの女ならうまいツッコミの一つぐらい覚えとき。」

華麗なルンパッパ捌きで隣にきたパパは、冗談めかしてわたしにデコピンすると謎のカゴを背負い直し、謎のダンスを踊りだした。波長が合うのだろう。

「それはカントー名物ドジョッチすくい!生きているうちに拝めるとは思わなかった!」

「ちょっと待て何ありがたがってんだよ母さん!?」

もう名前も覚えていないような子の叫び。

♪お風呂の温度は39度・・

村人による大合唱が始まった。

ふと、その向こうにママがいるのに気づいた。手を振ると露骨に目をそらされた。

《ラグーナの森まで》

障害者手帳を見せた。ママは口がきけないからリーグ公営の波乗りポケモンが無料で利用できる。

どうしても外に出なきゃいけない時は筆談でコミュニケーションを取っている。

どうして外で彼女と距離を取らなきゃいけないのかわからなかったし、わたしは昔見た彼女のあの怒り顔に未だに夢でうなされていた。

さらさら、風が吹き始める。

目を凝らすとうっそうとした枝や木の葉の揺れ方が決まった形を取っていることがわかる。流線型に胸ビレ、つんと尖った鼻先。

「風の魚は気に入った人間の前にしか姿を見せない。」


 火の中水の中に棲む彼らを理由に、町の外に勝手に出てはいけないと言われたことがきっとあなたにもあるはずだ。

ここじゃ少し話が違うんだよ、とアサガオはターニアに笑いかけて見せた。

カキノキは来ていないんだろうか。見回していると、パックがヒョイ、と危険なぐらいすぐ後ろに現れる。

「もう。子供じゃないんだから。レディには気つかいなよ。あんたは今高校生男子で、」

ひそひそと話す私たちを知らず、パパはママと一緒にカゴを慣れた手つきで構えた。

「そんな風に逃げるための嘘をつき続けるのが大人かい?」

陸に上がりラグーナの森に立つ。とても暑い。陽が中天を少し過ぎても暑い。

猟師たちとそれを手伝う私たち、合わせて20数人から長い陰が伸びる。

その彼方下でパラスが恋を鳴き交わし、隠れん坊しそこねた赤の筋からアブリーが逃げていく。慣れたが暑い。

♪みっつ数えりゃミズゴロウ笑う 水も滴る いいポケモン・・

「・・ずっと子供のパックにはわかんないよ。人間の事情に口を出さないで。」

人びとの歌が空間を覆い尽くすのが合図だ。風が枝をさらさらと揺らしはじめた。原色から薄まり水いろした空は美しかった。

ぽとん。


ここには、同じようなみんながいるよ。

風の魚は森の奥で言った。

メェークルと、毛が茶色と緑のまだらの知らないポケモン。二匹が目の前に飛び出してきた。

カキノキが後ろの方で拗ねていた。

それと、

「ータンポポさんじゃないですか。」

「自己紹介しようか、」

風の魚たちは名乗った。

「わたしはハーミア。」

「その弟のパック!」

「・・あの本に出てくるのと同じ名前。」

「タンポポにそう呼ばれている。人間の言うところのニックネームさ。」


ぽとん。

高い高い枝に眠っていたチェリンボが飛ばされてカゴの中に落ちた。

風の魚が飛び始める。サイコキネシスの波長が小型ポケモンを人間の方に誘導していく。

彼ら彼女たちが大木を叩きタイミングを知らすと、猟師たちは文字どおり一つの網を放って打尽にする。

私たちを掻き分けてそこから逃れようと手間取る子たちは咥えられて風の魚に食べられた。


「風の魚たちはわたしたちに化けて暮らしながら、ラグーナの人を見守ってきた。

そして時には小型ポケモンを追い立て、人に恵みを与える。」

「違うよ。それはお腹が空いた時の話。人間がいっぱい集まると追いかけやすいんだもん。」

「なんでもいいよ。」

「さらっていくっていうのはー?」

「ここにいるのはみんな、ここじゃないどこかに行きたい、と思っている子たちよ。」


「心なんて死ねば消えてしまう儚いもので、」

カキノキはひとりごちた。


「じぶんでもいくらだって誤魔化しが効くような曖昧なものだ。」

ターニアは呟いた。


「そんな世界で夢を叶えて何になるっていうの?」

わたしは言った。


ゴーゴートとメブキジカが角を寄せ合いその営みを遠く見つめていた。

私たちはこの里でポケモンと暮らし、助け合い、そして生きてきた。


「ねぇ。」

帰ろうとする私に『ラティオスの』パックが追いすがってきた。

「これだけは言わせてよ。あと20年もすれば僕だって子供が産める体になる。ずっと子供なわけじゃない。」

やっぱり、子供だ。

「歩こうか、少し。」

私はパックと別れ、ミュージカル部のメンバーと連れ立って歩いていた。

プライドの高いキングはあまり人に近づこうとしなくてアサガオは残念そうにしていた。

帰ってきた街に『故郷』という感慨がないわけではない。

私はたぶんここで生きてく。そりゃ物理的には別のところで暮らすかもしれないけど。

たとえばあの育て屋のおじいさんがおじさんだった頃を私は知っている。

その周りに先輩たちがたむろして、自転車を乗り回しているのも昔から変わらない光景だ。

「チドリちゃん、やっぱりあれはしなきゃ勝てないものなの?」

「・・?ターニアちゃん、なんで私に聞くの?」

暴走族のような彼らは、正直怖かった。ハーミアはそんな私を柔らかく見つめた。

暗い目でターニアは言った。

「調べたよ。チドリさんのパパ、カケハシさんはジョウトリーグベスト16で、ちっちゃい頃のワタルさんに一度勝ってる。」

「だからどうしたの。昔の話だよ。」

自分の声に苛立ちがこもるのを私は他人事みたいに観測していた。

「そういうの詳しいよね。」

「その頃は厳選なんてなかった。パパは正々堂々自分たちの力で戦って勝ったんだよ。」

タラコは私より静かにターニアを見つめていた。

「今だって正々堂々と戦ってるよ。厳選はズルじゃない。」

「ズルよ。ーなんでそんなこと言うの。」

「ポケモンバトルしようよ。チドリちゃんと私、どっちが正しいか決めるんだ。」

「やめなよ。」

何かに憑かれたように彼女は繰り返した。ゴミ捨て場に乱雑に捨てられた卵。

リーグは公式には認めていないけど、ある程度の年齢になるとみんな当たり前のように始める。

もらったばかりなんだろう、図鑑を見るポケモンみんなにかざす男の子がいた。

「ーそうだね。確かめるまでもない。今の上位入賞者はみんなやってる・・って、みんな言ってる。」

私は狡猾にも留保を忘れなかった。

「あたりまえだよ。才能のない奴の居場所なんて、この世界のどこにもない。」

その男の子が育て屋に一匹のアチャモを連れて行く。大事に大事に抱きしめながら。

「ごめんね坊ちゃん。育て屋はこのお兄ちゃんたちで満杯なんだ。」

リストバンドに器用に絡みつくメタモンたちが這ってたくさん足に寄ってくる。気に入られてしまったらしい、迷ったけど笑いかけた。

「なんでこんなにメタモンばっかり預けるんですか?」

子供が聞いた。

「それはねお兄ちゃん。」

ふざけた声色で絡みつく声。

「おいやめとけよ。」

そう言いながら誰も止めない。私も止めない。

昔からどこに行っても変わりがない真理で。弱いものが夕暮れ、さらに弱いものを叩くのは。

「お前ら!」

ガタン、テーブルを叩くやつがいた。

オレンジ色の髪が夕陽に照らされて、緑色の眼が男たちを睨みつけていた。

「恥ずかしくないのかよ。」

自分の価値観で理解できないものに出会うと、人は二通りに分かれる。

つまりは、笑うか口を開けて止まるか。今がそういう状況だった。

「おたく誰?」

「誰だっていいだろ。チドリ、タラコを貸せ。」

「・・どうして。」

帰ってきてから初めて交わした会話。

「俺が、いやタラコとミドリ二匹がお前ら全員とバトルする。

こいつらが勝ったら、お前らはこの子に謝れ。それと、一人ぐらい我慢してアチャモを預けさせてやれ。」

「なんのために。何を?」

「・・・俺が気に食わない。」

「じゃあお前が負けたらどうするんだ。」

「バネブーの真似な!一万回飛び跳ねてぶーって言え!」

いっとう頭の弱そうな奴が叫んで、ぞろぞろと見学者が集まってくる。大体の男が頭を抱えていた。

「馬鹿!」

「売られた喧嘩は買うのがルールっすよ!」

「待って、勝手に話を進めないで!大体何よカキノキ、会って最初の台詞がそれ!?」

「お前は黙って見てられるのかよ?」

タラコはカキノキを見て頷いた。彼女に近寄って、無数の卵を乗せメタモンはつぶらな瞳を私に向けた。

「かかってこいやー!」

何かを諦めたように私は手を離した。でも、にっこりと微笑みかけることは忘れなかった。

塾帰りのカキノキはネイティオとブーバーンを繰り出した。

白い羽が開かれ、あたりの老人たちが釘付けになる。粛清の声が鳴り響いた。

ガブリアス、ケンタロスリザードン。そりゃ、そいつらにも絆があった。

でも、『未来予知』によって不規則に飛ぶ衝撃波をかいくぐった空におそらく十数年前の夏のような勢いで

『手助け』を受けた炎柱が噴き上がり、タラコの持つ圧倒的なレベル差でポケモンたちは皆倒れた。

「・・・・」

「あったかいね。なんていうポケモン?」

空気を読まずに男の子は聞いた。

「ブーバーンのタラコだよ。」

「タラコ、カッコよかったよ!でもお兄ちゃん、どうしてそんな怖い顔してるの?」

一番背の高いリザードン使いの男が私を見た。

「そんな強いポケモンを持ってて、どうしてリーグを目指さない?」

私は答えられなかった。タラコはさっき本当に輝いていた。

でも、パパのいう彼女の役目は私を守ることなんだ。いや、大層なものではなく。早く私は自立して、それから。

育て屋だって、タマゴが発見されてからというもの主な収入は皆厳選目当てのトレーナーからのものになってしまった。

ギャラリーとともにターニアは雰囲気を察していなくなった。なんのために?

私のほうは彼女とも話したいことがたくさんあったのに。

「お前がラグーナにいるとは思わなかったよ。」

そう口を開いたけど、私は黙っていた。

「チドリ。俺、ジョウトに行ったよ。こっちで神様って崇められてるネイティオ様は、アルフの遺跡ってとこにいくらでも現れる

ネイティってポケモンの進化系だった。」

「ーしってる。」

静かさが苦痛だった。そのくせすごく懐かしかった。

「見たいって言ってたもんね、未来。」


「未来を見るために本を読んでる。」

それが、森の奥で会ったカキノキとまともに話した最初だった。

「大人は、ううん人間は嘘つき。全ての命が平等といいながら、平気でフレンドリィショップでバスラオの刺身を買う。

厳選だってするし、だから僕は、そう。ずるくなりたくないんだ。どうにかその方法がないかって、探してる。」


「夏季休暇が始まります。皆さん、盛り上がる気持ちは分かりますが軽率な行動を慎みましょうー

皆さんの元気な姿を夏の終わりに見ることを楽しみにしています。」

それを信じていた。アサガオに真剣な顔をされるまでは。

「ラティオスかラティアスみたいな影が卵を抱いてるのを見た?だって、」

「あるんだからあるんでしょ?私は知らない。で、ここからが大事なの。そこにいたのが人間の影だったっていうのよ。」

動揺を悟られないように努めた。

「どういうこと?」

「私に聞かないでよ。どこかの頭のおかしなやつでしょ。あんた鈍いじゃん?下手に疑われるような真似しないようにね。」

『そういう』ことをしたんだと誰もが興味本位で噂した。


森のヨウカンをよう噛んで洋館で食べる。

わたしには似合わない。それにそんな場合ではなかった。美味しいなんて思わなかった。だけど止まらないのだ。


「・・ねえ、カキノキ。その隠しているものは何?」

彼がカバンに詰めていたのはポケモンのタマゴだった。


あなたは、私の話を見てどう思う?

「私、ポケモンバトルできないんだ。二年の時から、ポケモンを攻撃させようとすると体が固まるの。」

カキノキはとっくに知っていたけど、子供のラティアスの方には言わないといけない。

それを自分で告げることにもう迷いはなかった。はっきりと言い切った。

「それはわたし自身が、メタモンと人間の子供だから。」


きっかけは、とてもとてもささいなこと。

二年の時隣の家の男の子と取っ組み合いの大喧嘩になって目の前が真っ暗になった。

存外とすぐ目は覚めて、夢と現の間を漂うように点滴の音と誰かの話し声をどこか遠くに聞いた。

「そうです、瀕死状態で発見されたんですが、不思議なことにモンスターボールぐらいの大きさに縮んでいたんです。」

「それってー」

ジョーイさんの視線に気がついたのは、その時だ。

「まるでポケモンみたいじゃない。」

つまり後でわかったことだけど、ずっと人間に化けて暮らしていたメタモンのママに。

確かその頃にはもう意識ははっきりしていて、ひんやりぶよぶよした肌色に掴まって家に帰りたいとせがんだ。

「あの、失礼ですがこの子は・・・」

《わたしたちの子供です》

ママは無言でその紙を示したらしいのだけど、ひそひそ話が止むことはなかった。

身の危険を感じると本能的に小さくなって、ポケットにも入れてしまえるモンスター略してポケモン。

ぼんやりとした記憶の中、これだけははっきり覚えている。

彼女たちをにらみつけるママの顔が子供心にすごく。

こわかったのだ。

 そのうちパパがトレーナーズスクールをクビになった。化物の夫をおいておくなんて風紀が乱れると。

「君もヨメさんも、悪い人でないのは知っているよ。でも世間はそう思ってないんだ。

もう私の教え子たちも噂を始めた・・この街を出ることを勧めるよ。」

まったく、まるで気がしれない。最近の子供は後先のことを考えない。

《あたし、できるだけ外に出ない方がいいよね。》

「なんでブドウががまんすることがあるんや。悪いんはあいつらやろう!」

ママか私かの正体がバレるたびに逃げる生活を始めた。生まれてきたいなんて誰にも頼んだ覚えはない。

自分のことはいくらでも我慢できる。でもわたしのせいでみんなの夢が壊れていく。幸せそうな振りをしているのは演技だ。

そのうち人間の子供がどう生まれてくるのか知ると、本当に、本当に身勝手に。

わたしはママを嫌うようになった。そういう本でも育て屋でもメタモンはいつも重要な役をやっているというではないか、

パパをたぶらかして閉じ込めたに違いない。この狭い狭い家という世界に。


「雲に架け橋霞に千鳥。」

私はそう言った。

「いつか言ったよね。あり得ないことだからこそ、大事にされた。だから、」

お腹をいっぱいにふくらませ精一杯の声をあげた。


「生まれてくるんじゃなかった。死ぬ勇気もないし。」

わたしはカキノキにいった。

「誰かに言われたの?」

「言われないから辛いんだよ!」

風はただ吹き抜けていった。

「あのね、ボクのパパとママはしょっちゅう口喧嘩してて、それを見てると僕もそう思うんだ。」

「ここじゃないどこかに本当の世界があって、そこではみんな笑ってるの。

パパはママと最高のパートナーで、夢を諦める必要なんてなくて。」

「チドリが死んだら、みんな悲しむよ。」

「そうだよね。あの育て屋のタマゴみたいに、孵らないまま放っとかればよかったんだよ。」

カキノキは突然わたしの手を握った。

「君が死んだらぼくは人間の友達がいなくなるから、だから死なないで。」


私は夢について考えていた。


タンポポさんは言った。

「ーそう。スカウトが来たの。来年の初めには高校を辞めて劇団に入る。」

どこかの町のジムリーダーが言っていたように。冬が終われば春が来る。

夢が世界中の片隅に根を下ろしていくような旅は、それはとても素敵なことに思えた。

「・・それじゃ、来年はいないんですか。」

「ええ。もう戻って来るつもりもないわ。」

タンポポはあくまで明るくターニアに笑いかけた。

「ー行かないでください。わたしをひとりぼっちにしないでください。」


南アメリカの一地方を一回りしてわかったのは同じ国の中でそうそう変化があるわけないってことだ。

「おかえり、チドリ。」

ポケモンコンテストを諦めた時、ここに来ると決めた。

ここが特別な場所だった。夢を見させてくれた森があって、カキノキが生まれ育った場所。

それだけで頑張れる気がした。学校のドアが開く音。

「はじめまして、カケハシチドリです。短いですが夏の終わりまで、ここで皆さんと一緒に勉強させてもらいます。

旅の前もここに通っていたので、わかる子もいるかもね。本を読むのが好きです。どうかよろしくお願いいたしますー」


ーあるポケモンが姿を消した森の奥に残された卵は、未来から持ってきたものだと言われている。