黒いメテノとジャラランガ

著者:こっここっこのケララッパ

遠い遠い、星が集まる空の上。そこには無数の名も無き星星が、いつか消え行くその時まで光り輝いていた。

その星が輝く空間で、数個の光があちらこちらといったりきたりしていた。


「アハハ、こっちこっち!」

「ちょっと待ってよー!」


その数個の光の正体は、色鮮やかに光り輝いているメテノたちだった。

彼らはこの空間に留まっているときは、特に何もすることが無く退屈な日々を送らなければならないため、決まって流れ星ごっこと称して追いかけっこをしているのだ。しかし、ただ遊んでいるのではなく、彼らの夢であるいつか華麗な流れ星になるための特訓でもあったのだ。

「えい!」

「いたっ!」

桃色のメテノが橙のメテノにわざとぶつかっていった。その拍子に、周りにいたメテノの動きも止まった。

「ちょっと!痛いじゃないか!」

「でもこれぐらいの痛みに耐えないと、いくら僕たちが固い殻で守れるからといっても耐え切れなくて消えちゃうかもしれないんだよ?」

「でも!あんなに強くぶつからなくたっていいじゃないか!」

メテノ同士のこのやりとりも、実は日常茶飯事だった。

彼らは本来、固い殻に守られて生きていくポケモンだ。しかし、彼らは地上の皆が魅了してしまうほどの綺麗な流れ星になりたいために、わざと殻をつけずにいた。

だが、この状態でも欠点がある。殻がないメテノたちは耐久力がまるで無く、少しの衝撃でも倒れるほどなのだ。

みんなはそれをもちろん知っているし、ピンクのメテノの行動の心理も理解していた。

「もういいじゃないか。現に『オレンジ』はこうして元気そうに保っているじゃないか。」

青色のメテノが冷静な物言いでオレンジと呼んだメテノを宥めようとした。

「そうだけど、でも、『アオ』も経験したことあるから分かるでしょ?突然やられたら、誰だって怒るでしょ?」

「確かにそうだけど、僕達はあの輝く流れ星になりたいって誓い合った仲じゃないか。『モモ』もそうだけど、オレンジも過度な怒りは禁物だよ。」

「うぅ・・・分かったよ・・・」

モモと呼ばれた桃色のメテノを見ながら、アオはオレンジを説得した。

「アッハハ!アオは本当に僕らのお兄さんだね!このままいくと、先にアオが流れ星になれるかもね!」

「そうでもないよ『ヒカリ』、僕はただ皆と仲良くしたいだけだよ。それに、一番に落ちるとしたら『パプル』だと思うな。僕たちと比べたら、人一倍に頑張ってるし。」

「そ、そんな!ぼ、僕は、地味な色だから、早く、落ちたほうがいいなと、思って・・・」

ヒカリと呼ばれた黄色のメテノの言葉を聞き、アオがパプルと呼んだ紫色のメテノを見ながら言った。パプルはその言葉に遠慮がちな感じで返答した。

「でもさ、パプルはまだいいほうだと思うよ?一番地味なのが一匹いるじゃん。」

「あぁ・・・」「いるね」「いたね」「アッハハ!」

モモが発した言葉に、みんなは一斉に頷いた。そして、そのメテノがいそうな方向に目を向けた。

「いたいた。まだあんなところにいた。」

一匹のメテノを見つめながら、モモは呆れるように言った。

そのメテノは皆と違って殻を纏いながら皆のもとへ向かっていた。

「はぁ・・・はぁ・・・ご、ごめんね、遅れちゃって・・・」

「あれ~?『クロ』、なんで殻つけたまんまなの?」

「えっ、それは、その・・・」

ヒカリの質問に、クロと呼ばれたメテノは後ずさるようにしながら言葉を捜していた。しかし、クロが答える前にオレンジがからかうように言った。

「だめだよヒカリ!クロは僕たちと違って真っ黒だから、殻がないと誰にも見つかってもらえないんだよ。」

「あ、そっか!そうだったね!」

正直に反応したヒカリと端から馬鹿にするような感じで話しているオレンジの姿をみて、クロはとても悲しかった。

「ぼ、僕だって、みんなと同じように・・・」

「えぇ?君のような真っ黒なメテノが、あの流れ星のように輝けるっていうの?それって、僕らの頑張りが無駄だっていいたいの?」

「ち、違うよ!!僕はただ、皆と同じように輝けるって・・・」

「君のようなメテノは、流れ星よりも空でずっと居るほうが皆見てくれるよ。あ、ごっめーん!元々見てもらえるような色じゃなかったね!あはははは!」

モモとオレンジの言葉攻めを受け、クロは思わず涙ぐんでしまった。

「ぼ、ぼぐだっで・・・ぼぐだっで・・・・う゛ぅ゛ぅ゛・・・・」

「あ~あ、泣いちゃった。そんなんだからいつまで経っても僕たちに勝てないんだよ?ねぇ、『黒星のクロ』君。」

涙を流しながら泣くクロに向かって、モモは容赦なく言葉を叩き込んだ。

クロは他の皆のほうを見たが、誰も庇うものはいなかった。

どうしてこの姿で生まれたんだろう。どうして皆と違うんだろう。クロはそれを思わない日が今まで一時もなかった。


その時、突然一匹のポケモンが勢いよく向かって来てるのが見えた。

緑色の長い体、鋭い眼光、体に浮かび上がる黄色の輪が連なったような模様、大きく口を開けて向かって来ているポケモンの正体は・・・




「れ、レックウザだ!!逃げろーーーーーー!!!」




アオの叫びと同時に、メテノたちは一斉に散らばった。しかし、クロだけまだ逃げ切れずにいた。泣きじゃぐんでレックウザのことが見れていなかったのだ。

「ひぐっ・・・ひぐっ・・・あ、あれ?み、皆・・・?」




「グゴォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」




クロがその雄たけびを聞き、全てを知ったときはもう遅かった。



「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



クロはレックウザが通り過ぎる勢いに負け、その拍子に地上へ勢いよく落下していってしまった。




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ここはポニ島。

とある場所、アローラ地方の一つとして存在している、町と呼ぶものが何一つもない島である。

唯一人が生んでいる場所があるとすれば、たまに仕入れや販売などで訪れる海の民のための村と、わずかに人とポケモンが共に暮らしているポニの古道だけで、その他の場所では野生のポケモンや腕に自信があるトレーナーしかいなかった。そして、島巡りをする者たちのために与えられたポニの大峡谷の試練の間もそこにあった。

その試練の間には、島の主であるドラゴンポケモンがいた。

そのポケモンは数枚の連なった鱗を持ち、歩くたびにじゃらじゃらと音をたてていた。どっしりと構えた出で立ちで、島巡りのトレーナーが来るのを今かと待ち続けていた。

しかし、最近になってめっきりこのポニ島に島巡りのために来るトレーナーが現れず、島の主はとても退屈していた。

「・・・ジャラコ。ジャラコはいるか?」

主がそう呼ぶと、額に一枚の大きな鱗がついている一匹のポケモンが慌てて飛び出してきた。

「呼びましたか、島の主、ジャラランガ様?」

彼は息を整えながら質問すると、ジャラランガと呼ばれた島の主ポケモンの答えを待っていた。

「今日も、誰一人来なかったのか?」

「・・・はい。一人も、ポケモンも来なかったです。」

「そうか・・・」

ジャラコの答えを聞くと、ジャラランガは寂しそうな目をして空を見上げた。

空は満点の星空で、目に入る一面がキラキラと光り輝く星で埋め尽くされていた。

その星星はどれも明るく、まるで陽気に楽しんでいる様子にも見えた。

「・・・お前さんも、戦う相手がいなくて寂しいだろう。」

「そんなことないです!主様と一緒に居られて、僕は嬉しいですよ!」

「だが、わしと一緒にいては、特訓もまともにできないだろう。わしは力加減が苦手なのは、お前さんも知っているだろう。」

「そうですが、でも、やっぱり僕は主様と一緒に居るのが一番です!」

「・・・そうか。」

ジャラランガはジャラコの頭を優しく撫でると、再び夜空を見上げた。

彼の瞳は星しか映っていなかったが、悲しみによるものなのか微かに潤んでいた。



その時、突然赤い閃光が一筋落ちていったのが見えた。

「あ!流れ星ですよ主様!」

「・・・待て、なにかおかしい。」

「え?」

ジャラコが不思議に思う矢先、その閃光はポニ島の、しかもジャラランガたちがいる試練の間のすぐ近くに向かっているのが見えた。

「あ、危ない!!!」

「ふん!!!!」

ジャラコが身を伏せた瞬間、ジャラランガの鱗が突き上げられた両腕とあわせて音を鳴らし、同時に巨大な爆音波となって閃光の軌道をずらせた。そして閃光の行き先がポニの大峡谷の入り口へと変わるのを見るとほっとした。

「さすがです主様!!『スケイルノイズ』で吹き飛ばすとは、すごいです!!」

「だが、問題が解決しているわけじゃない。すぐに向かうぞ。」

「はい!!」

ジャラランガとジャラコは、落ちたものの正体を知るために墜落した場所へと向かった。



墜落した場所へ行くと、そこには既に一匹のポケモンがいた。そのポケモンはジャラランガと似たような姿をしており、数こそ比べると少ないが数枚鱗もあった。

「ジャランゴ、無事か!?」

「無事じゃないわよ!!この岩のおかげであたしの鱗が二枚も剥がれたのよ!!古いのだったからよかったけど!!」

「大事に至らなくて良かったです・・・」

ジャランゴと呼ばれたポケモンは、自分のであっただろう二枚の鱗を大事そうに握りながらひっきりなしに怒っていた。その様子を見て、ジャラコは安心と少しの呆れを混じらせながら聞こえないような声で呟いた。

ジャラランゴが煙の中にある落ちたものの確認をするために、煙を払うように腕を一振りした。すると、星の形をしたひびが入った岩のようなものがそこにあった。

「これがあたしの鱗を剥がしたやつね!よくもやってくれたわね!叩き割ってやるわ!!」

ジャランゴが拳を構えようとした瞬間、岩のひびが段々広がっていき、やがて黒色の星のようなものが姿を現した。

「こやつは・・・」

「あら?これってポケモンかしら?まぁなんにせよ、あたしの鱗を剥がした罪は」

「やめろジャランゴ。こやつは今、死にかけている。」

「えぇ!!?」

ジャラランゴの言葉に、ジャラコは心のそこから驚き戸惑いを隠せれなかった。

「ししし死にそうって、ああああああれですよね、つまりその、ええええ!!!」

「ジャラコも落ち着け。しかし、早急な手当てが必要だ。」

慌てるジャラコをなだめるようにいうと、ジャラランゴは星のようなポケモンをそっと抱えると大峡谷の奥へ足を進めた。

「ど、どこにいくんですか?」

「決まっておる。あそこに連れて行くんだ。」

「ぼ、僕も一緒に」

「お前はジャランゴと共にそこにおれ。トレーナーが来たらすぐに報せろ。」

「は、はい・・・・」

ジャラコとジャランゴを残し、ジャラランガは急ぎ足で目的の場所へと向かった。




「・・・・・あ、あれ?ここは・・・」

黒色の星のポケモンが目を覚ますと、そこには薄く霧がかかっており、上には薄紫のフジの花が垂れ下がっていた。そして自分自身が水に半分浸かっていることに気づいたが、なぜか心が落ち着き癒されていくような感じがした。

「気がついたか?」

「えっ?うわっ!!」

声をかけられ振り向くと、そこにはジャラランガがいた。彼も同じように水に浸かっていたが、体が大きいため座っても足にしか浸かることができずにいた。

「あ、あなたは誰ですか?」

「わしはこのポニ島の主のジャラランガ。死にそうだったお前さんを看病した者だ。」

「そ、そうだったんですか・・・」

星のポケモンは自分が死にそうなほど弱っていたのを知ると、自然と水に深く浸かっていた。そして、自分が水が苦手だっていうことを思い出した。

「うわぁ!!し、しまった!!み、水だ!!」

「落ち着くんだ。この水で倒れぬポケモンはいない。あそこを見てみろ。」

「え?」

ジャラランガが指したほうを見ると、そこにはニ、三体ほどの岩ポケモンが水に浸かっているのが見えた。

「これは・・・」

「この泉は、この島の土地神様、『カプ・レヒレ』様が造りだした神聖なるものだ。だからこの島に住んでいるものは、心身が疲れているとああして泉に入り癒されているのだ。現に、お前さんもこの泉になにか不思議な感じがしただろう。」

「あ・・・」

そうだ、自分も確かにそんな感じがした。星のポケモンがそう思うと、再び泉に体を浸した。

「そういえば、まだお前さんの名を聞いていなかったな。」

「あ、そうでした。僕はメテノのクロっていいます。」

「メテノ?確かウラウラ島で見られるものだと聞いた。この島に落ちてくるのは珍しい。なにかあったのか?」

ジャラランガが不思議そうにメテノのクロに質問すると、クロは悲しい表情を見せた。

「じ、実は・・・・」


クロはジャラランガに自分が遭った出来事について語った。

仲間のこと、自身との違いのこと、嫌われていること、そして、ここに至るまでの経緯。

ジャラランガはそれを真剣に聞き入り、話が終わると腕を組み考え込んだ。

「どうして、仲間はお前さんのことをそこまで嫌っているのだ?」

「僕がみんなと違う色をいているから。それも、皆と違って、黒色で、弱くて、情けなくて・・・・」

「・・・わしはそやつらが言っていることが間違っていると言える。」

「えっ」

ジャラランガの言葉を聞き、クロは驚きと不思議な様子で目を見開いた。

ジャラランガは低い声で、しかしきつくもなければ優しくもない感じで話した。

「お前さんたちの中では、それが当たり前であるのかもしれん。しかし、わしらの中だとみんな違うのが当たり前なのだ。同じ種族であっても、同じ住処に住むものであっても、同じ能力を持つものであっても、それぞれが違うものを必ず一つは持っているものなのだ。わしはそれが、『この世の中で生きている者に与えられた特別なもの』と感じている。わしはこの島に長年生きており、数多くの者と出会い、闘い、友情を育み、そして別れが訪れ、また出会いが訪れ、それを幾多も経験してきた。しかし、どの者も全員同じ能力、同じ見た目、同じ力を持っているわけではない。よく見ると、体の模様や大きさ、得意なことや苦手なこと、使える能力と使えない能力、みんながみんな、それぞれ持っておった。」

クロはジャラランガの話をしっかりと聞いてはいたが、彼が言っていることやなにを伝えたいのかが分からなかった。クロは今まで同じメテノとしか出会っておらず、自分と他のメテノとの違いしか知る術しかなかったからだ。

「僕には、よく分かりません。みんな同じようにしないと、仲間はずれにされ、一人になってしまいます。」

「確かに、中にはそのような輩もおる。わしも見てきた。だが、それが例え人生に支障をきたすようなものであったとしても、わしはそれを特別なものだと思える。」

「本当に、あなたの言ってることがよく分かりません・・・・」

「いずれ時は来る。その時まで、色々学べばいい。」

やがて、全てを話し終えたであろうジャラランガは泉から上がるとクロに向けて提案した。

「お前さんがいいというなら、暫くこの島に住んでいるといい。少々大変だが、悪い場所ではない。」

「で、でも・・・・」

ジャラランガの提案は嬉しかったが、メテノは仲間達が心配で仕方なかった。

「やっぱり、僕、すぐにかえ・・・うぐっ!」

「下手に大きな動きをしようとするな。表面的には治っていても、内面はひどい怪我であろう。」

あの衝撃で身体に影響などあるはずがない。ジャラランガはあの光景を見た時にすぐに察していた。

「それじゃあ、僕はもう、帰れないの・・・?」

厳しい現実を突きつけられたクロの、悲しく儚い声に同情しながらも、ジャラランガはクロのほうを向いてはっきり言った。

「そうではない。お前さんが回復しきったら、空に帰るなり居座るなり好きにすればよい。」

クロは暫く考えた。ジャラランガの言うとおり、怪我が完全に治ってから空に帰るほうが先決だった。しかし、彼は一刻も早く仲間の様子を知りたかった。だが、自分が戻ってきたところで、皆が本当に心配してくれているのかどうか分からなかった。それ以前に、自分が無事に空の上に帰れるのかどうか、そう考えると焦りより不安のほうが大きくなった。

「・・・あの」

「ん?」

「し、暫くの間、お世話になります・・・・」

「・・・そうか。島の主として、お前さんを歓迎しよう。よろしくな、クロ、我が友よ。」

「っ・・・!!!」

ジャラランガがそういい残し、鱗を鳴らしながら去っていったが、クロはその後を追いかけることはしなかった。

彼はジャラランガが自分のことを「友」だと呼んでくれたことが嬉しかったのだ。




こうして、クロとジャラランガは出会い、彼らの新しい人生が幕を開いた。