ニャーくん・THE・解脱

著者:It's a R-18 novel. Pay attention.

「ねえ、ニャーくん。これ、似合うかな?」

「ニャーくんニャーくん、このマラサダ美味しいよ! この味、ニャーくんも好きかなあ」

「ニャーくん! DDラリアット!」

「……でこぼこ……ニャーくん……」

「うんん……。ニャーくん……おはよう……」

「ニャーくん、苦いの好きなんだ! 私もニャーくんの……、いや、忘れて」



 なんだかなあ。




 まあ、別に俺がニャビーやニャヒートだった時は、別にそれでも良かったけどさ。

 こう、俺自身ガオガエンという最終形態まで進化して。一気に二足歩行になり体もゴツくなって戸惑いだらけから、でも慣れてきたら、この体も悪くないな、と思った後に。

 こうしてもやもやとした感情が湧き上がって来た訳だ。

 この格好良い体で、ニャビーやニャヒートと同じときのようにニャーくんと呼ばれるって事が、恥ずかしくなってきた。

 なあ、ミズキ。俺の事改名してくれないか?

 なんて事、勿論頼めない。喋れないし、いや、それ以上に、俺を選んでくれたミズキはこの名前を気に入っている。

 毛頭変える気は無さそうだ。

 でも、なあ。

 他のトレーナーと戦う時、俺がモンスターボールから出て来る時だ。

「お願い、ニャーくん!」

 とか言われて飛び出していくわけだ。

 別にニャビーやニャヒートの時は遠くに見える相手のトレーナーの事も気にならなかったさ。

 でもな、ガオガエンになった後でな。同じ言葉で飛び出していくとな。

 驚いたり、笑ったりするトレーナーの顔が目に入って来る事も少なからずあった訳だ。

 そのトレーナーに対して八つ裂きにしたいとか首を噛み千切ってやりたいとか、思った事もある。まあ、その思いは代わりに相手のポケモンに全てぶつけてやったが。

 それ以上に俺が恥ずかしいとも思った事もある。

 はあ。

 もう。

 ミズキ、気付いてないのかなあ。ニンゲンってそこまで鈍感じゃないと思うんだけど。

 ニャーくんっていうニックネーム自体、まあ嫌いじゃないわけだけど、せめて別の誰かと居る時は使い分けて欲しいとか。


「うん……、味噌汁……」

 そんなミズキは、今、昼寝している。ミソシルってなんだ。

 この火山を登るのに結構疲れてしまったみたいで。上で何度目かの試練をこなす為に登っているとか。

 俺はそんなに試練とか余り関係ないけどな。正直こうしてずっとミズキと一緒に居られればいいとも思ってたりする。

 でも、ニャーくんは、やっぱり引っ掛かる。彼女のお気に入りでも。

 ミズキの事を好きでも。


 ミズキは、抜けているところが結構ある。

 俺がニャビーだった頃、元々別の地方に住んでいたらしいのもあって、辺りを物珍しげな目で何度も見回しているうちに何度も転んだりしてた。生傷だらけだったな。

 木の実を取ろうとして、潜んでいたマケンカニに驚かされたり。勿論俺が追い払った。

 野生のオドリドリと妙に息の合ったダンスをしてたり。誰かにカメラで撮られてたのに気付いていたのかな、ミズキ。

 買い物し過ぎて泊まるお金が無くなったりだとか。今日も何か香水とやらを買っていた。

 変なもの買うなと思ってたら、これ、この近く特産の良い匂いの出る水なんだって、とか言ってたりした。

 野性的な? 所もあるミズキがそういうものを買うのは初めてだった。

 他にもガオガエンとなった俺に劣らない位飯を食ったと思えば動けないとか言ってその日全てごろごろして過ごしたり。

 後は、俺がガオガエンになってから特にだけど、こうしてポケモンが出て来るような場所でも所構わず寝たりするときがある。

 周りには危ないポケモンも良く居たりすると言うのに。

 俺が担いでやってもいいんだけどなあ、とか思うが、手を伸ばしたら「試練で、私が出来るものは私がやらなくちゃいけないよ」と拒まれた。

 良く分かるような分からないような。

 俺というポケモンに頼るところと頼らないところの境目は、俺には良く分からない。


 背伸びをして。

 ふと、変な気配を感じて、そっちを見ると黒いトカゲが居た。

 ヤトウモリ、じゃないな。

 それの進化形か。雌しか居ないとか言う。

 いつもニコニコしているハウとやらが連れているポケモン、あのアシレーヌ、あんな見た目で雄だけれど、ヤトウモリは雌しか居ない。

 のそり、のそりと近付いて来る。

 何故か、官能的な動きをして。

 俺とミズキに近付いて来るのか? なら、容赦はしないぞ。


―――――


「ゲホッ、ヴウ……」

 うそ、だ……。

 俺が負けるなんて。

 ミズキ、助け……いや、駄目だ。ここで声を上げて起こしてしまったら。

 ミズキまでこのトカゲの餌食になってしまう。

 人間は弱い。特にミズキは華奢な体だ。

 毒が体の中で暴れている。くそ、毒さえ喰らわなければ。毒さえなければまだ動けるのに。

 ……いや、悔しいけれど、実力も違った。俺の攻撃はほぼほぼ躱されていた。

 体が動かないのに、何か、熱い。俺の中の炎が、とか、そういうのじゃなくて。

 のそり、のそりとトカゲが俺に近付いて来る。官能的な動きのまま。

 涎を垂らして、それが俺の腹に付いた。

 背すじが凍る。

 何をするつもり、だ……。

 じゅるり、と垂れる涎を飲み込んでから、俺の上にゆっくりと圧し掛かって来る。

 なんだお前、なんなんだお前!

 赤と黒の滑らかな体が俺の体を這ってくる、首筋に舌が当たる。体がぞくぞくと震える。

 俺は、今までに感じたことのない恐怖を、感じている。

 怖い。助けて。でも、ミズキは。

 俺以外のポケモンを持っていない。

 どうしてかは分からないけれど、ミズキは、俺しか連れていない。

 トカゲの顔が俺の眼前に来る。

 むはぁ、とトカゲの口から毒ガスが漏れて来た。

 俺を食べるのか? いや、そんな事じゃない事なんてとっくに分かってる。

 ロトム図鑑、そうだ、ロトム図鑑が居た。でも、あいつも寝てるんだろう、クソが。

 とにかく、ロトム図鑑が言っていたんだ。ヤトウモリは雌しか進化しない。その雌は、逆ハーレムを侍らせて生きる。

 随分生々しい事言うと思ってた。食べる事が目的じゃない。でも、でも。

 これも、嫌だ。嫌だよ。

 くそっ、くそっ。

 俺のアソコが勃ってきている。毒のせいだ。俺自身こいつに欲情してる訳じゃない。なのに、止められない。

 嫌だ嫌だ!

 俺のぽっかりと開いた口は呼吸するのが精一杯で、閉じる事もできない。体は動かない、なのに熱い。

 どうすれば、いや、もう、どうにもできない。

 ああ。

 嫌だ。

 舌が俺の口の中に入って来る。舌と舌を交わわせられる。ねちょ、ねちょ、と俺の口の中で音がする。嗜虐的な顔つきだった。

 とても怖いよ。

 下も、交わってしまう。腰を揺すって来る。俺から搾り取ろうとしてくる。

 やめてくれ、ああ、気持ちいい。でも、嫌だ。

 駄目だ。ああ、ミズキ。ああ……。

 嫌だ。気持ちいい。嫌だ。気持ちいい。すべすべな体。

 より一層奥まで入って来る。やめて。いやだ。気持ち良いのなんで。いやなのに。

 涙さえ流れて来る。

 どうして。

 涙を舐めとられる。顔に手を添えられて、目と目を合わせられる。ねっとりとした目つき。そしてねっとりとした舌触り。甘い、毒ガス。

 体がより熱くなる。耐えられない。助けて、いやだ。

 たすけて、ミズキ。

 ミズキ、ミズキ。

 あ、ああ、あ、いやだ、出したくない。

 やだやだやだやだ!

 あ…………。あー…………。

 ああああ…………。

 ああ…………。

 あー…………。

 あー…………。

 ミズキ…………。


―――――


 あー。

 ああ……。

 トカゲは最後に俺の涙をまた舐めてから、満足げに去っていった。

 ミズキは寝たまま。

 涙が止まらなかった。

 嫌だ。ああ。

 毒が抜けても動きたくなかった。

 でも、汚れてしまった自分の体をどうにかして洗わないと。でも、水なんてここにはミズキの水筒くらいしかない。

 あー……。

 どうしよう。

 ミズキには絶対知られたくない。

 嫌だ。嫌われたくない。こんな事されたなんて、俺の股間が汚れているなんて、嫌だ。白くねちょねちょしている。

 でもどうやって。燃やそうか。

 いや、臭いが出てしまう気がする。むわっとした、とても嫌な臭い。

 と、とにかく、草むらに擦り付けようか。それから燃やせば臭いもそんなに出ないはず、だ。

 多分。

「う、うん……」

 体が一気に弾けるようにビグっとした。

 ……寝返りを打っただけか……。

 でももうそろそろ起きそうな気がする。早くなんとかしないと。

 とにかく草むらに行こう。

 気怠い体を動かす。

 毒は抜けきっていないようで、体が重い。そしてまだ熱い。

 口の中は変にねちょねちょとしたままだ。咳き込んで、何度も唾を吐いた。


 草むらまで歩く道のりは妙に遠かった。

 思い出してしまって涙が出て来て、それを拭った。

 草に一心不乱に擦り付ける。

 手についてしまって、それも草に擦り付けて。どうしてこうなってしまったんだ。

 なんで、負けた。俺が弱かったからだ。

 妙にあのトカゲ強かった。……まさか、ぬしポケモンじゃないだろうな。

 もう二度と遭いたくない。ぬしポケモンじゃないよなあ。

 そう願いたい。でも……。

 正直怖い。

 怖い。

 ああ、登りたくないな。

「ねえ、ニャーくん」

 体がびくっと震えた。

 振り向こうとすると「振り向かないで」と釘を刺された。

 えっ、どうして。

「……ニャーくん。気持ち良かった?」

 どくん、と心臓が跳ねた。起きて、いたんだ。

「…………。ねえ、ニャーくん。

 私ね、弱いの。私ね、とても弱いの。私は、ニャーくんにいつの間にか頼り切っていたの。

 ニャーくん。怖かったよね。私、何もできなかった。

 他にポケモンを持っていれば助けられたのに。私だけじゃ、何もできなかったの。

 ごめんね。

 本当に、ごめんね」

 そんな事言わないで。

 俺が悪いんだ。負けた俺が。

「……。ニャーくん以外のポケモン、捕まえようかなって、ニャーくんがニャビーだったころやニャヒートだった時は思ってたの。

 でも、ニャーくんが、今の姿になった時、そんな事全く思わなくなっちゃったの」

 ……どうして?

 何故か、それを聞くのに緊張し始めていた。

「ニャーくんが、ニャーくんって呼ばれるのちょっと嫌がってたのも知ってる。

 でもね、私、ニャーくんって呼んでいなきゃ私の気持ち、抑えられそうになかったの。

 私ね……私ね……、ニャーくんの事ね……」


 好きになりはじめてたの。


 あ、ああ。

 むくむくとまた、自分の雄が。

 

「ポケモンとしてじゃなくて、本当に、人間に恋するみたいにね。

 ニャーくんって呼んでいないと、その気持ちが爆発しそうになっちゃいそうだったの。

 ごめんね」


 これは、毒がまだ残ってるからであって、えっと。


 足音がこっちに近付いて来ている。

 座ってる俺の肩に手を掛けられた。その手には、今朝買っていた香水というものがあった。

「……ニャーくん。

 私、今朝、香水買ってたよね。

 それね、ニャーくんが襲われたポケモン……エンニュートの毒ガスから出来たものなんだ。

 …………一言で言えば、媚薬。ニャーくんのそれを、勃たせちゃうもの」


 なにを言ってるんだろう。

 でも、いや、うん。

 躊躇いがちに、もう片方の手が俺の肩に乗せられようとしていた。

 俺は、それを汚れていない方の手で掴む。

 すると、ミズキは俺に抱き付いて来た。背中に当たる、ミズキの体。

 首に優しく回される、華奢な腕。

 あ、ああ。


「ニャーくん。

 ねえ。私、ニャーくんの事が好き。

 正直ね、私怖かったけど、それ以上にニャーくんの初めてを奪われた事に悲しみも覚えていたの。怒りもあったの。

 ごめんね。ニャーくん。怖かったのに。私、そんな事思ってたの。

 でもね、でもね。

 それほどにね、私ね。

 ニャーくんの初めて、私が欲しかったの」


 ミズキ…………。


「ニャーくん」


 私の事、好き?


 もちろん。


―――――


「ニャーくんニャーくんニャーくんニャーくん、ああ、ニャーくん好き! 好きだよ愛してる! 

 ニャーくん! ああ! ニャーくん! ニャーくん!!

 もっと、ニャーくん! もっともっと!

 あっ、あっ、あっ、あっ。

 いいの! ニャーくん! ニャーくん!

 私を壊して! ニャーくん! ニャーくん!!

 もっと、もっと! ニャーくん!

 んっ、んっ、んはあっ。

 ニャーくん……! ニャーくん……!!

 ニャーくん! ニャーくん!! ニャーくん!!! ニャーくん!!!!

 ああっ! 大好き! 大好き!

 誰よりも! ずっと! ニャーくん!

 ニャーくんニャーくんニャーくんニャーくん!!

 あんっ! もっと、ニャーくんのちょーだい!

 んっ、んっ、んっ。

 んっんっ。

 私、私、好きだよ! 世界の誰よりも!

 とにかく! なんでも、だれよりも!

 ニャーくん!

 大好き! 愛してる!

 あんなエンニュートよりも、私を! 私を愛して! ニャーくん、ニャーくん!

 ニャーくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうううううううううううううううううんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!!!!!!!!!」