小売店に対し、対象となる製品が入荷されていた場合は速やかに案件管理局へ申し出るよう通達しています。製品には重大な欠陥があり、欠陥を改修したものと交換するという名目で異常性の無い製品への交換が進められています。現在市場に流通している製品の約90%は異常性が無いものですが、呼びかけに応じなかった、または呼びかけがあったことを認識していなかった一部の小売店で異常性のある製品の販売が継続されています。担当者を増員し、製品の個別回収を試みています。
対象製品を使用して撮影された写真を発見した場合、速やかに標準的な手順によるアクセス遮断を申請してください。遮断に先立って写真を保存し、異常性のある画像を格納するための専用サーバへ移動させることも併せて行ってください。一部の画像は人体に認識異常を伴う情報災害をもたらすことが分かっていますが、これは汎用的な情報災害防止装置を備えた閲覧用端末を使用することで無害なレベルまで影響を低減させることが可能です。画像の閲覧を希望する場合、様式F-142453-3に沿って必要事項を記入し、ワークフローを回付して上席の承認を得てください。承認が下りれば、閲覧用端末の貸し出しと画像へのアクセス権付与が行われます。
案件#142453は、1:ある写真撮影用の補助機器、2:スマートフォンを機器と組み合わせて特定の条件を満たす写真を撮影した場合に発生する特異な事象、3:その事象が起きている中で撮影された異常な写真、そしてそれらの機器・事象・写真に掛かる一連の案件です。
対象となる補助機器は、一見したところ異常な点の見られないセルフィースティックです(機器#142453)。セルフィースティックは一般的に「自撮り棒」「セルカ棒」と呼称される、主に撮影者自身を被写体とするための棒状の器具です。先端にカメラまたはカメラ機能付き携帯デバイスを装着することで、セルフ・ポートレートを手軽に撮影することを目的としています。
機器#142453はサンワダイレクト社が製造・販売しているセルフィースティックのモデル「200-CAM023」に酷似していますが、本来刻印されている製造元の名称がありません。また、正常なモデルには存在しない未知のダイアルが備え付けられています。機器#142453を解体して確認しても、ダイアルの機構そのものには異常は見当たらず、また他の機能との関連性もありません。このように、機器#142453のダイアルそのものは物理的には意味の無い仕組みです。
ダイアルを任意の位置まで回し、カメラ機能付きスマートフォンを機器#142453に取り付けることにより、事前の準備が完了します。取り付けるスマートフォンの機種や型番は問われません。元となった「200-CAM023」が装着可能な機種であれば、どのようなものでも使用できます。事前準備を終えて通常の手順で自分自身を撮影することで、本案件の中核となる特異な事象(事象#142453)が発生します。
事象#142453は、撮影した写真の被写体が本来の姿ではなく、何らかの携帯獣として写真に記録される現象です。写真撮影時に被写体そのものには一切の影響が見られず、また継続調査においても異常な点はまったく発現しません。さらに、このスマートフォンを取り外して再度撮影を試みても、異常性の無い写真が撮影されます。機器を使用しない・正常な機器に取り付ける・別の撮影者に撮影してもらう等、機器#142453を使用しない限りにおいて、一貫して正常な写真が撮影されます。撮影者の証言と管理局での実験結果から、写真に影響を与えているのは機器#142453であると断定されました。
機器#142453のダイアルを操作することで、写真における被写体の姿は著しく変貌します。ダイアルは初期状態(それ以上戻すことができない状態をこう表記します)一段階回すごとに「カチッ」というクリック音を発するため、クリック音を基準にダイアルを調整し撮影実験を行いました。
結果は以下の通りです:
その後、撮影は計30回に渡って試行されましたが、被写体は一貫してサイドンとして撮影され続けました。このことから、撮影回数による写真への影響は無いとの判断がなされました。
上記に続けて、被写体を変更した際の影響について実験が行われました。
計30人の、人種や性別、年齢の異なる被写体を撮影しました。被写体毎に多少の差異は見られるものの、撮影結果は一貫してサイドンとなりました。上記の結果と合わせ、機器#142453を使用した撮影結果に影響を及ぼすのは、機器#142453に存在するダイアルのみと考えられます。
続いて、ダイアルを変更した際の写真への影響について実験が行われました。被写体はすべて局員A、撮影回数は1回です。
その後、ダイアルが「190」に達するまで、ダイアルを1ずつ変更しての撮影テストが繰り返し行われました。撮影の結果は、携帯獣が撮影されるパターンが151、撮影に失敗するパターンが39でした。
ダイアル190に至るまでに撮影された携帯獣はすべてカントー地方版の携帯獣図鑑に収録されているもので、他の地方の図鑑にのみ収録されている携帯獣は一切出現しませんでした。ダイアル190の設定時に「ウツボット」が撮影されたことでカントー地方版の携帯獣図鑑に収録されているすべての携帯獣が出現したため、当初の推定ではダイアル191以降に設定することで他地方の携帯獣が撮影されるものと考えられていました。
ダイアルが200に達した時点でダイアルをこれ以上回せなくなったため、このセッションにおける実験は終了しました。
別の実験セッションが設けられ、ダイアルを回さない状態での撮影実験が試みられました。結果はダイアル31などと同様で、撮影に失敗します。なお、この製品の初期出荷状態においては、ダイアルは「1」に設定されています。
ダイアルを「1」にした状態で、複数の人間を撮影する実験が試みられました。被写体はすべて「サイドン」として撮影されました。以前個別実験を実施したときと同様に、それぞれの個体にわずかながら差異が見られます。
ダイアルを「1」にした状態で、携帯獣に自分を撮影させる実験が試みられました。被写体となる携帯獣には、管理局で局員として働くサーナイトが選ばれました。
事前の予想に大幅に反し、この実験は被写体が未知の人間として撮影されるという結果に終わりました。撮影が可能なダイアルを選び、計30回に渡って写真の撮影が行われましたが、それらはいずれも異なる未知の人間を撮影するという結果になりました。
これまでのところ、撮影された人間そのものに異常性は見受けられません。過去の実験で撮影された被写体との関連性も無いことが判明しています。追加の実験により、被写体となった携帯獣の種類に拠らず、ダイアルの設定によって被写体の姿形が変化することも明らかになっています。
人間と携帯獣が同時に被写体となった場合の撮影実験が行われました。実験結果を鑑み、機器#142453を用いたあらゆる実験が無期限に禁止されることが即座に決定されました。本件と関連資産を時間/次元に掛かる案件を取り扱う部門へ移管することが検討されています。
本案件に付帯するアイテムはありません。