個体#109108が記述したメッセージはすべて写真として記録し、インデックスのためテキスト化した情報を付けて案件別サーバに保管してください。写真やテキストには何ら異常は認められないため、案件担当者は自由に閲覧する権限が付与されています。必要に応じて複製することも認められています。これまでに記録されたメッセージの一覧については、リストL-109108を参照してください。
これまでのところ、個体#109108そのものには何ら異常は認められません。保護担当者は、異常性の無いドーブル個体と同様の取り扱いを実施してください。個体#109108がスケッチをするためのキャンバスを要求した場合は、要求に沿ってキャンバスを提供してください。キャンバスのストックは、個体#109108が収容されているジョウト地方エンジュシティ第四支局の備品倉庫にあります。ストックが少なくなった場合、標準的な消耗品補充手順に従って購入してください。
案件#109108は、あるドーブル個体(個体#109108)が不定期に記述するメッセージ群と、それに掛かる一連の案件です。
2003年10月頃、ジョウト地方キキョウシティ南西部に位置する、一般に「アルフの遺跡」と呼ばれている遺跡群にて、遺跡を管理している団体に宛てて観光客から「遺跡に落書きをしているドーブルがいる」という連絡がなされました。落書きを確認した職員は内容に不審な点を覚え、当局の窓口に通報しました。職員は局員が到着するまでにドーブル(後に個体#109108と認定)を捕獲し、落書きを複数の写真に収めました。これらは後に局員に引き渡され、案件の初期研究において有用な資料となりました。
個体#109108は外見上一切の特異な点が見られない、解剖学的に正常な♂のドーブル個体です。身長や体重は平均的な成体のドーブルのそれとほぼ同等であり、視覚や聴覚などの感覚機能にも何ら異常は見られません。当局の定める標準的な手順に基づく精密検査及びデータ化した状態での完全スキャンもすべてパスしています。性格は友好的で、保護に当たっている担当局員たちとは良好な関係を築いています。後述するこの個体特有のある行動を除けば、個体#109108は完全に正常なドーブルと言うことができます。
概ね一週間に一度か二度程度の頻度で、個体#109108は通常のスケッチ行動とは明確な差異がある異常なスケッチ行動(動作#109108)を取ります。動作#109108は一見したところ通常のスケッチ行動と同じに見えますが、書かれるものが絵ではなくテキストによるメッセージ(メッセージ#109108)であるという点で決定的に異なります。メッセージ#109108は多種多様な言語で記述され、時として未知の言語や意味が不明瞭な単語が使用されます。内容はいずれも強い不安や恐怖を想起させる、総じて「何者かが助けを求めているような」と形容される文面です。
メッセージ#109108の内容と個体#109108の心理状態や健康状態は一切関連しないことが分かっています。収容初期は個体#109108がメッセージ#109108を通して自ら抱える苦痛を訴えているものと考えられていましたが、詳細な検査により個体#109108には何ら問題が無いことが判明し、その仮説は覆されました。メッセージ#109108を記述する前後、及び記述している最中についても、個体#109108は一貫して平静を保っています。このため、個体#109108がメッセージ#109108を書き付ける意図は不明なままです。
収容初期に実施された複数の実験により、個体#109108には一般的なドーブルと同程度の識字能力しか持たないことが明らかになりました。これにより、個体#109108は何らかの明確な意志を持ってメッセージ#109108を書き付けているのではなく、ある種の「図形」として文字を捉え、その集合としての「絵画」としてメッセージを「描いて」いるものと推測されます。メッセージがどのような理由で個体#109108に認識される(個体#109108が未知の存在からメッセージ#109108を受け取っている/個体#109108が自発的にメッセージを思い浮かべている等)のかは分かっていません。
以下はこれまでに記録されたメッセージ(和訳済)の抜粋です:
本案件に付帯するアイテムはありません。