生体#115481は当局の保持する施設/装備では物理的な収容が困難であるため、現在は収容方法の確立に案件対応の重点が置かれています。これまでのところ生体#115481は人類に対して一切の攻撃性及び敵対心を見せていませんが、それとは無関係に収容手順は早急に制定されるべきです。現在、収容手順候補P-115481-22-RCが検証プロセスに入っています。検証プロセスをクリアした場合、P-115481-22-RCの内容が正式な取り扱い手順に反映されます。
市民やトレーナーから生体#115481、または生体#115481が擬態していると思しきトレーナーについて通報があった場合、通報者を安全な場所まで移動させ、局員が生体#115481の確保に向かいます。通常、生体#115481は人間に対して友好的であり、局員が素性を正した上で同行を求めた場合は問題なくこちらの指示に従うことが分かっています。局員は生体#115481を徒に刺激しないよう注意しつつ、最寄りの拠点まで同行を求めてください。
拠点への同行を求める場合も、拠点で生体#115481にヒアリングを実施する場合も、決して携帯獣を帯同させてはいけません。生体#115481の持つ特異な性質から、携帯獣の局員が在籍している拠点には生体#115481を進入させてはなりません。やむを得ず進入させる場合は事前に連絡し、すべての携帯獣の局員が退去したことを確認してから実施してください。
案件#115481は、人間の子供に酷似した姿を持つ未知の生命体(生体#115481)と、それに掛かる一連の案件です。
生体#115481が初めて当局の知るところとなったのは、2006年7月上旬のことです。カントー地方セキチクシティ近辺の道路を散策していた市民が混乱した様子で当局に緊急通報を行い、その中で「トレーナーがポケモンを食べているのを見た」と証言したことで当局の注意を引きました。駆け付けた局員が市民から事情を聞いたとおろ、市民は18番道路の散策中、ポケモントレーナーと思しき人物が携帯獣を「異様な様子で」摂食している光景を目にし、当局へ連絡したとのことでした。
最寄りの拠点で装備を整えた局員が証言にあった現場へ向かうと、そこには概ね12歳頃に見える、一般的なポケモントレーナーの服装をした少女が倒れていました。局員が警戒しながら呼び掛けると、少女はすぐさま体を起こし「ご心配をお掛けしてすみません。もしよろしければ、最寄りの休憩所まで連れて行っていただけませんか?」と応答しました。局員は同行した別の局員と相談した上で、少女を一旦18番道路側のゲート付近まで連れていくことにしました。
少女を椅子に座らせ休ませる形にしてから局員が通報者に確認を取り、通報者に少女の風貌を確認させました。通報者は狼狽した様子で「間違いない」と繰り返し、この少女が通報にあった「ポケモンを食べていたトレーナー」であることが確認できました。安全のため通報者を帰宅させ、局員は少女に最寄りの拠点までの任意同行を求めました。少女は素直に任意同行に応じ、さらに「後ですべてお話しします」と付け加え、自らの性質について説明する旨を約束しました。
拠点内にある収容室でヒアリングが行われ、少女は事前の約束通り自身の持つ特異性について詳細な説明を行いました。その結果局員は少女が一般的な人間ではないことを確信、さらに案件として起票する必要があると判断し、拠点監督者と短い協議を行った後直ちに案件立ち上げを行いました。この時点で、少女と類似する特徴を持った生命体が生体#115481と分類され、少女自身は生体#115481-1として分類されました。生体#115481-1自身が語った自らの特徴と、当局が実施した調査により、生体#115481の特徴がある程度判明しました。
この初期情報に基づき各地域で当局による調査が行われ、およそ1ヶ月の間に新たに2体の生体#115481が確認されました(生体#115481-2及び生体#115481-3)。それぞれに任意同行を求め最寄りの拠点へ移送し、個別にヒアリングを実施しました。ヒアリングから得られた情報により、生体#115481の生態に関する詳細が明らかとなりました。
生体#115481は、概ね6歳から16歳頃までの明確な特徴を持たない少年少女に酷似した風貌を持つ、由来不明の未知の生命体です。出現する際は必ず衣服を身に纏っているように見えますが、これは実際には身体と一体化しており、分離させることはできません。ただし、衣服に相当する部分を含む身体全体について、生体#115481の意志に沿ってある程度変形/変色/変質させることができます。どのような状態にまで変化させられるかは明確ではありませんが、生体#115481-1の証言によれば「人間の子供のように見える姿」であればどのような形にもなり得るとのことです。この性質により、生体#115481には一般的な意味での性別は存在しません。また生体#115481自身も、いずれも「私には性別というものがありません」と語っています。
生体#115481は人間の口に相当する器官で発声や呼吸を行いますが、飲食物を摂取する場合は当該器官を使用せず、およそ60cmに渡って開くことのできる「獣の入り口」と生体#115481が呼んでいる器官で摂食活動を行います。この「獣の入り口」は生体#115481のどのような場所にも出現させることができ、身体に裂け目ができる形で出現します。「獣の入り口」は小型の携帯獣ならそのまま飲み込むことができ、ある程度大型の携帯獣であっても内部に引きずり込むことで最終的に全身を摂食します。生体#115481の内部は外見から推測できる以上の容量を持っているか、または未知の空間へ接続されています。具体的な内部の構造は明らかになっていません。これまでの記録では、生体#115481がその時取っていた姿の4倍以上の大きさを持つイワークを、尻尾から引きずり込む形で30秒前後で摂食したというものがあります。
先述した性質から、生体#115481は不定形生物と考えられます。しかしながら変身できる対象は限られているようで、人間の子供以外の姿、例えば成人に達した人間や携帯獣の姿は取ることができません。これは生体#115481が意識的に拒否しているのではなく、そのような機能を持たないことに起因するようです。その代わりとして、人間の子供をイメージさせる風貌であればどのような人物であっても瞬時に変身することが可能です。変身は少なくとも0.016秒以内には完了し、ハイスピードカメラを用いても変身プロセスを捉えることはできませんでした。生体#115481はこの能力を、後述する彼らの食性に利用していることが分かっています。
生体#115481は人間の子供、特に一般的なポケモントレーナーの風貌をした子供の姿に擬態します。擬態した状態で主に道端や山岳地帯にて待ち伏せを行い、接近してきた携帯獣を捕食する性質を持ちます。待ち伏せを行う際、あたかも行き倒れて動けなくなったような状態を装うのが特徴です。「人間の子供」と判断できる範囲内で様々な姿に擬態することが分かっていますが、彼らは特に幼い少女に擬態することを好んでいるようです。これは生体#115481の嗜好ではなく、より弱く見える存在に擬態することにより、獲物となる携帯獣をおびき寄せることが容易になるという観点からとのことです。
彼らが擬態している際に携帯獣ではなく人間が接近すると、人間から声を掛けられるか否かに関わらず必ず起き上がり、「最寄りの休憩所まで連れていって欲しい」と依頼します。人間が依頼に従って休憩所へ連れて行くと、一礼して「もう大丈夫です」と言い、それ以上接触を求めません。依頼を断ってその場へ放置された場合、生体#115481はそのまま行き倒れた状態に戻ります。こうして携帯獣を捕食しつつ、各地を特に目的も無く彷徨っているようです。
基本的に、生体#115481は自分自身を捕食しようとしてきた携帯獣を返り討ちにする形で捕食しますが、生体#115481-3から得られた証言によると「別の目的で近寄ってきた携帯獣も捕食する」とのことです。彼らの言う「別の目的」が何かは明確ではありませんが、いずれにせよ外見に拠らずいかなる携帯獣であっても捕食する獰猛さを持つことに変わりはありません。これまでのところ人間が捕食された、あるいは襲撃を受けた記録は存在せず、彼ら自身も「人間を襲うことは考えにも及ばない」「ましてや捕食することはあり得ない」と語っています。現状では人類に対する敵対心は持っていないと推定されますが、完全に安全であるとは断言できません。
収容中の生体#115481-1に依頼し、生体組織のサンプルを入手することに成功しました。サンプルを解析したところ、生物学的な構成がヒトに極めて近いことが明らかになりました。これは生体#115481がヒトに近似した存在であるか、あるいはヒト由来の生命体であることを示唆しています。今後さらなる研究が必要と推測されます。
生体#115481-1を収容していたカントー地方セキチクシティ第十支局にて、重大な収容違反が発生しました。当直の警備員が午前2時頃に確認したところ、生体#115481-1が収容室から消失していたことが分かりました。直ちに近隣一帯の捜索が行われましたが、生体#115481-1を発見することはできませんでした。収容室からは「しばらくの間お世話になりました。またケダモノを狩る旅に出ます」と書かれた書き置きが発見されたため、生体#115481-1は自発的に収容を破ったものと思われます。
後に収容室に取り付けられた監視カメラの映像を確認したところ、生体#115481-1がどのようにして収容を破ったかが明らかになりました。腹部に「獣の入り口」を開けた生体#115481-1は、自身の体を折り曲げるようにして「獣の入り口」へ頭部を挿入し、そのまま全身を「獣の入り口」へ飲み込ませました。全身が収まると同時に「獣の入り口」が閉じ、生体#115481-1は完全に消失しました。このことから、生体#115481が持つ「獣の入り口」はある種の異空間へ通じており、生体#115481はそこを自由に出入りすることができるものと考えられます。
生体#115481-1と同様の手順により、生体#115481-2及び生体#115481-3も収容室から消失しました。以後の行方は分かっていません。生体#115481-2及び生体#115481-3についても生体#115481-1と同様の書き置きを残しています。
本案件に付帯するアイテムはありません。