オブジェクト#83550は、カントー地方トキワシティ第十二支局の中異常性オブジェクト収容室37に収容されています。オブジェクト#83550からは生体反応は検出されていませんが、不明なタイミングで移動することが確認されています。収容室は案件担当者及び拠点監督者双方の承認を得て、かつ警備員が同伴した状態でのみ解錠が許可されます。オブジェクト#83550が生体反応のない特異な生命体であることを鑑み、オブジェクト#83550の破壊を伴う検査は倫理委員会の裁定に基づき無期限に禁止されています。この裁定への不服申し立てを行う場合、案件担当者の承認を得なければなりません。
本案件の案件担当者は、オブジェクト#83550について、後述する種族#83550とは完全に別個の存在であるとの明確な認識を持たなければなりません。種族#83550に関する知識を持たないことが推奨されますが、オブジェクト#83550と種族#83550が別個の存在であるという知識があれば、オブジェクト#83550による情報災害は防止することができます。
本稿において種族#83550の名称を記述することは固く禁じられています。過去の版には種族#83550の名称が記載されているものがありますが、特定の版以降はオブジェクト#83550の情報災害の影響を受けて内容が改変されています。二次災害を防止するため、過去の版は暗号化の上アーカイブされています。
当局の倫理委員会の裁定に基づき、案件#83550は管理が終了されます。本案件は案件登録を解除され、現存するすべてのドキュメント並びに資料はアーカイブされます。案件#83550の警戒レベルは「0」に再設定され、これ以上の対応は行われません。オブジェクト#83550として収容されていた携帯獣は、収容終了となり解放されます。
案件担当者及びオブジェクト#83550として収容されていた携帯獣の双方が合意したため、携帯獣は案件担当者に引き取られることとなりました。以後、オブジェクト#83550は一般の携帯獣として取り扱われます。オブジェクト#83550収容中の取り扱いに関して、案件担当者の適切な措置が評価されました。
案件#83550は管理が終了し、案件登録が解除された案件です。以下のドキュメントはアーカイブされたものであり、案件担当者またはより上位のセキュリティクリアランスを保持する局員のみがアーカイブ化を解除することができます。かつて案件担当者から「変更」以上のセキュリティクリアランスを付与されていた局員については、一律で権限が剥奪されています。
案件#83550は、外見上ある携帯獣(案件の性質を鑑み、便宜上種族#83550と呼称します)に類似した特徴を持った未知のオブジェクト(オブジェクト#83550)と、それに掛かる一連の案件です。
1996年4月下旬頃、当局がトキワシティに設けている複数の窓口に「トキワの森の入り口近くに種族#83550の幽霊がいる」との通報が殺到する事案が発生しました。局員数名が通報のあった地点へ向かったところ、道端に座り込んでいたオブジェクト#83550を発見、成功裏に確保しました。このとき、オブジェクト#83550の性質がある程度明らかになり、後の取扱手順策定に反映されています。オブジェクト#83550の確保時に3名の局員が軽度の情報災害を負いましたが、いずれも数日以内に回復しました。
オブジェクト#83550は、種族#83550を思わせる風貌をした未知のオブジェクトまたは生体です。頭部から着ぐるみのような由来不明の布地を着用し、一般に「落書き」と形容されるような粗雑さの種族#83550の顔が描かれています。布地を引きずるようにして移動し、時折内部から空気を発生させ、風船のように布地を立たせることがあります。目に相当する器官は下部に存在し、布地の下から手または触手と思われる器官が露出しています。
一般的な検査では、オブジェクト#83550から生体反応を検出することはできませんでした。携帯獣である可能性を踏まえた情報化試験は、いずれも失敗に終わっています。得られたデータはオブジェクト#83550が携帯獣また携帯獣の性質を部分的に備えた存在である可能性を示唆していますが、少なくとも現時点でオブジェクト#83550を情報化するための完全な手順は確立されていません。オブジェクト#83550は食事や睡眠を必要としておらず、これまでに要求がなされたこともありません。
オブジェクト#83550の特徴は、対象を「種族#83550に似ている」という認識の元で視認した場合、対象を純粋な種族#83550と誤認させることにあります(事象#83550)。しかしながら外見的特徴の顕著な差異から、事象#83550に巻き込まれた人間及び携帯獣には著しい認識の混乱が生じます。認識異常の顕著な事例として、オブジェクト#83550を「種族#83550の幽霊」と呼称することが挙げられます。事象#83550は、オブジェクト#83550を視認してから少なくとも72時間継続します。
事象#83550は、種族#83550に関する知識を持たないか、種族#83550とオブジェクト#83550を明確に個別のものであると認識している人間または携帯獣であれば発生しません。確保時には四人の局員が立ち会いましたが、その内の一名は他の支局から異動した直後であり、種族#83550に関する一切の知識を持っていませんでした。確保終了後の検査でこの局員のみが情報災害検査で陰性の反応があったことからヒアリングを実施し、オブジェクト#83550の性質が判明しました。
オブジェクト#83550の由来は不明です。種族#83550に類似した外見的特徴を持つ理由も明らかになっていません。外見に由来すると思われる事象#83550の原因も分かっていません。オブジェクト#83550については不明な点が非常に多く、慎重な取扱いが必要となります。オブジェクト#83550は初期収容に当たった局員に対し敵意を示しておらず、局員もオブジェクト#83550の収容に同意したため、案件担当者として割り当てられました。
オブジェクト#83550について、再度の情報化試験を行った結果[データ破損]地方由来の携帯獣であることが明らかになりました。携帯獣学会で携帯獣であるとの承認がなされ、全国図鑑のNo.[データ破損]に種族名[データ破損]として登録されます。この結果を受けて、数日中にオブジェクト#83550の取り扱いについて倫理委員会で協議が行われる予定です。
本案件に付帯するアイテムはありません。