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2-3 骨を抱いた娘

帰宅した瑞穂は台所へ歩いて行って、買ってきたものを手際よく収納していく。野菜は冷蔵庫の野菜室、魚はチルドルーム、おやつのムーンライトは戸棚へ。最後にマママートで買ったコロッケの包みをテーブルの上へ置いて、バッグは綺麗に空っぽになった。折り畳んで袋へ詰めてから、棚の上へ戻しておく。沙絵が帰ってきたらすぐご飯だね、そう言う瑞穂に、シラセが小さく頷いて応える。

トントン、と戸を叩く音が聞こえてきたのは、一息ついた直後のことで。

「玄関? こんな時間に誰か来たのかな」

こんな時間に訪れるような人はまずおらず、そもそもここ上月家を訪れる人そのものが少なかった。首を傾げる瑞穂に、シラセも同じく首をひねる他なく。不思議そうな顔をしつつ、瑞穂が椅子を立って玄関へ向かう。念のためと言うべきか、シラセも隣に随伴する。

取っ手に手をかけて、瑞穂がゆっくり引き戸を開く。

「……あ」

戸口に立っていたのは見知らぬ少女。少なくとも瑞穂にとっては、今この瞬間初めて目にする姿。瑞穂にとっては、という但し書きを付けなければならないが。

お昼に船着場で会った子だ、シラセはすぐにそれを思い出すことができた。船で榁までやってきた、小さな包みを抱えた少女。それは変わらず今も持ったままで、胸の中にしまいこむように強く抱きかかえている。その子がどうしてここへ、シラセはただ疑問符を浮かべることしかできなかった。少女もまた同じで、あの時のアブソルがなぜここに、という顔をしている。

「こんにちは。うーん、そろそろこんばんは、の時間かな。どうかしたのかな?」

瑞穂から声を掛けられて、少女が顔をはね上げる。抱えた包みはそのままに、瑞穂の顔をジッと見つめて。

「……えっと、瑞穂さん、で合ってますか」

「私? そうだよ、上月瑞穂。あなたは?」

「うちは……ハルっていいます」

少女、もといハルは一拍置いて、こう続ける。

「上月ハル、それがうちの名前です」

「コウヅキ……? 上に月って書いて、上月?」

「そうです」

上月瑞穂と、上月ハル。決して多いとは言えまい上月という名字をいただく、お互いに面識のないふたり。瑞穂は目をまん丸くして、ハルはまっすぐ視線を投げかけて、お互いの姿を瞳いっぱいに映し出している。

「あの、えらい急なこと言うて、悪いんですけど」

「うち――お骨を持ってきました」

ハルと名乗った少女は、抱きかかえた包みを取り落とさぬようにと、腕に目一杯力を込めている。それは確かに大切な物で、落としてはならないという気持ちは理解できた。

だが、なぜハルはそんなものを持ってここにいるのか。瑞穂もシラセも、皆目見当が付かずにいて。

「瑞穂さんと、沙絵さんの……それから、うちのお母さんの」

「お骨を、持ってきました」

たどたどしい口調で、瑞穂の前に立つハルは、確かに言った。

母親の遺骨を持ってきた、と。

 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。

※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。