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百物語

怖い話をすると怪異が寄ってくる、そう言われることがしばしばあります。

話をすることで人間の中に生まれる恐怖の感情が怪異を惹き付けてしまうと考えれば、それなりに理にかなっていると思います。

これに絡んで、私がした体験について聞いていただければと思います。信じるかは信じないかはお任せします。

 

私は以前、自分で怪談を書いてネットに投稿していました。いわゆる洒落怖を読んで、自分でも書きたくなったからです。

ただ投稿するだけでは芸がないと思い、書いた話を読み上げソフトに読ませて、その音声を使って動画を作っていました。

たぶん、三本か四本くらいはそうして怪談を書いたはずです。ただ、割とすぐに飽きて止めてしまいました。

 

止めてから二年ほど経ったつい最近のことです。ファイルの整理をしているとき、怪談を書いて入れたフォルダが見つかりました。

そう言えばこんなことしてたっけ。なんてことを思いながら、軽い気持ちでフォルダをダブルクリックします。

せいぜい三つか四つ小さなテキストファイルが入っているだけ、それ以外は考えられない……はずでした。

 

ところがフォルダが開くと、そこにはまったく書いた覚えのない話が九十本近くも転がっていたのです。

飽きて止めてしまってからは中を覗くこともしていませんでしたから、本当に身に覚えがありません。

間違いなく当時自分が書いたと言えるものも、その中に混じってそのまま残されていました。

 

最初に疑ったのはウイルス感染です。気付かない間にどこかから入り込んで、勝手にファイルを作っているという可能性でした。

しかし試しにファイルを開いてみると、中身はごく普通……と言っていいのかは分かりませんが、人が考えたように見える怪談が書かれていました。

十個ほど確かめてすべて怪談が書かれていて、身に覚えがないことを除けば話の筋も通っていました。

 

ウイルスではないとして次に考えられるのは、外部から誰かがファイルを勝手に配置したという線です。

しかしこのパソコンは私ひとりしか使っていませんし、セキュリティ対策のためのソフトも入れてちゃんと更新しています。

アクセスログを見ても外部から繋がれた形跡はなく、パソコンのログイン記録も私の操作しか記録していません。

 

不気味に思いながらファイルをひとつ残らず削除してごみ箱からも消したのですが、翌日にはすべてのファイルが復活していたんです。

さらに前日には確かに98個だったファイルがもうひとつ増えていて、自分が書いたものと合わせて99個になっていました。

恐らくまた削除しても復活しそうで、かと言ってどこかに相談することもできず、ほとほと困り果てました。

 

99の次は100です。百個の怪談といわれると「百物語」という言葉を思い出さずにはいられません。

百の怪奇にまつわる話が語られたとき、そこに本物の怪異が訪れる……という話をどこかで読んだ覚えがあります。

本物の怪異とは何なのでしょうか。私が面白半分で作り話を書いたことで、何かの怒りを買ったり興味を引いてしまったのでしょうか。

 

今、私は自分の手でこの話を書いています。怪異が百本目に到達させるよりも先に自分が書いてしまうことで、主導権を握れないかと考えたのです。

百物語はその名の通り、百の物語が語られた時点で終わります。ですので、百本目に当たるこれが間違いなく最後になります。

これで終わってくれれば、私は元の日常へ戻れる。そう信じています。

 

ただ……「百物語が終わったらどうなるのか」。これを書きながら、思考の片隅にふとそんな考えがよぎりました。

これを自分で書けば奇妙な現象は終わる、書き始めたときはそう強く信じていたのですが、今になって終わることの意味を考えています。

ですが、この話はもうすぐ終わってしまいます。現象をつらつらと書き連ねて、もうこれ以上書くことがありません。

 

この話が結ばれた後、私はどうなるのか。どうか、何も起こりませんように。

今はただ、それだけを信じています。