「なんだよそれ。それ、一体どういうことなんだよ」
自分の口から出た声の大きさに自分でビビってしまう。俊が言い出したことはそれくらい突然で唐突で、到底頭から受け入れられるようなものじゃなかったってわけだ。
「どういうことも何も、言った通りだって。佳織が、ポケモン部を辞めたんだよ」
俊が言ってることの意味がさっぱり分からなかった。いや、言ってることの意味は分かる。佳織がポケモン部を辞めた、そう言ってるのは分かる。俺が言いたいのはそういうことじゃない。そういう意味の「意味が分からない」って意味じゃない。
佳織がポケモン部を辞めた。その意味が分からないってことだ。
「だいたい、なんでお前がそんなこと知ってんだよ」
「そんなことどうだっていいだろ。それよりさ、今まで知らなかったのか? 佳織が部活を辞めたってことをさ」
言ってることがさっぱり頭に入ってこない。ただ言葉がずらずら並ぶばっかりで、順序立てて整理するってことができる気がしない。落ち着こうと思って深呼吸をしても、焦ってすぐに吐き出そうとしてしまう。何もうまく行かない、うまく行く気がしなかった。
眉間にキツく皺が寄っているのを自分でも感じながら、いったん黙って俊の言葉に耳を傾けることにした。
「康一さ、お前さ、先週の金曜部活行かなかっただろ?」
「行かなかった。塾行ってたからな」
「その時らしいぞ、佳織が退部届出したの。顧問が佳織と話しててさ、顧問は退部届を受け取ったみたいだって」
「どういうことだよ、それ。ホントにわけ分かんねえんだけど。昨日まであいつ、普通に部活来てたんだし」
「じゃあさ、康一お前、部活辞めるってこと、佳織から聞かされてなかったんだな」
「だから、何も聞いてねえよ。今ここで聞いたばっかだって言ってんだろ」
試合の前でもこんなに胸騒ぎを覚えたことはない。いつもは動いてるのかすら分からない心臓が、教室のあちこちで繰り広げられている喋くりなんかよりもずっとでかい音を立ててドクンドクンと蠢いているのが分かる。
どうして佳織はポケモン部を辞めたんだ、どうして佳織はポケモン部を辞めることを話してくれなかったんだ。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。
※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。