今学期最後の図書委員の仕事。結局放課後にまで本を借りにくるような本好きはほとんどいなくて、返却された本を適当に元の棚へ戻したら、あとは自分の読みたい本を読んでだらだらしていた。今日は「魔法科高校の劣等生」。こう言っちゃなんだけど、深く考えずにするする読める。こういうのは勢いに任せて読んで、あー面白かった、ってスッキリ終わるような読み方をするのが一番いい。
(あれだなぁ、あたしにも自分を褒めて持ち上げてくれる弟か妹がいればなぁ)
本を閉じて、元の位置っぽい場所まで戻す。どうせ間違ってても誰も怒らないし、それっぽい場所でいい。最終下校時刻まで学校にいたんだから、せっかくだし、ネネを拾って帰ろう。今日もバレー部で練習してるはずだ。図書室を施錠して鍵を職員室へ返しに行くと、下足室へ直行した。
ネネが意外と運動好きなのは、前にも言った通りだ。あのマイペースなネネが、キツそうなイメージしかない体育会系の部活でやっていけるのか、正直そうは思えない。だから時々様子を見に行って、ネネがバレー部でどんな風にやってるかを観察したりしてる。今日もそのために早く出てきたってのも半分ある。もう半分は、「魔法科高校の劣等生」を図書室にある分全部読んじゃったって理由だけど。
「なんだっけ、あのロリっぽい絵柄のやつ……あれも今月入ったみたいだけど、バスケの話って聞いたんだよね。そういうのはちょっとパスだわ。なんかこうね、あたしの趣味じゃない」
あたしにはなんとなく分かる。一巻か二巻くらいですったもんだありながらメンバーが揃って、その後は山あり谷ありで試合に勝ったり負けたりして紆余曲折を経て、んで結局最後はチームが一丸となって大きな大会に勝ったりするんだ。読まなくたって、多分半分くらいは合ってる自信がある。
そういうの読んでると、ページをめくればめくるほど自分がどんどん惨めでちっぽけな存在に感じられて、いったい何のためにラノベ読んでるのか分からなくなる。スポーツをテーマにしたやつは、ラノベに限らず何読んでてもそんな風に感じる。あとあれだ、最近周りの子が結構ハマってる、あの自転車のマンガとか、バレーのマンガとかもそう。少しだけ見てみたけど、やっぱりあたしには合わなかった。
まあ、それはともかくネネだ。ネネの様子を確かめなきゃ。
「これ学校の外から中観察できるけど、わざとなのかな。変な趣味してる人が覗いてたりすんじゃないのって思うけど」
いったん校門の外へ出て、七割くらい開けられてる体育館の横のドアの隙間から中を観察してみる。ちょっとばかり目を凝らしてみると――ああ、いたいた、あのちっこいのは間違いなくネネだ。あの低い背丈は、遠くからでも明らかにネネだって分かる。いつ見ても思うけど、中学生の集団に小学生が混ざったみたいになっている。しつこいようだけど、外見もそうなら中身もそうだから、ネネがれっきとした中学生だって証明できるのは割と本気で制服ぐらいしかない。
あれはえーっと、トスか、トスの練習をしてる。高く打ち上げてパスみたいにするのがトス、飛び上がってスパーンの相手のところにシュートみたいにするのがアタック……じゃなくて、こないだ言ってたスパイクか。パスとシュートでいいのにややこしいな、なんて思いながらボールが宙を舞うのを追いかけてると、ボールがネネの頭上目掛けて飛んでいくのが見えた。これはネネが打ち上げないといけないやつだ。
「ちび子ーっ」
「はーいっ」
先輩……いや違う、あれは同級生だ。同級生に「ちび子」と呼び掛けられてる。あたしだったらヤダな、なんか後輩っぽいというか年下っぽい呼び方だし。けどネネは気にしてる様子なんてなくて、フツーに「はーい」なんて答えてる。ネネが気にしてないなら、まあそれでいいんじゃなかろうか。
とかなんとかやってるうちに、ネネが。
「そーれっ」
意外だ。意外なほど綺麗なフォームでトスを返した。去年見たときはとりあえず打ち上げるだけで精一杯だったような気がする。あっ、ちょっと体勢崩れた。うーん、もうちょいってところか。
ネネが打ち上げたボールは、二人隣の同じく同級生の誰かのところへ飛んでって、さあ今度はその子が打ち上げる、ってなったわけだけど。
「あ、落とした」
ちょっとよそ見でもしてたのか、ボールをトスされた子がうまく打ち上げられずに落っことすのが見えた。まあ、失敗は誰にだってある。失敗しないに越したことはないけど、まあ失敗しても次でうまくやればいいじゃん、ってあたしは思ってたわけだけど。
「ちょっと寧々! ちゃんと相手の方見てトスしてって言ってんじゃない!」
「そうだよー」
「頼むよ寧々ー」
部長らしき人が大きな声を上げて、あれよあれよと言う間にネネがトスに失敗したってことになった。どうなんだろう、あたしから見たら、悪いけどネネが失敗したようには見えなかった。明らかに受ける方がミスったように思う。けど、部長っぽい人はネネが失敗したってことにした。
たぶん、その方がいろいろとラクだし、やりやすいからだ。ネネはどんくさいし弄りやすいキャラだから、とりあえずネネが悪いってことにしておけば、他のみんなは「そうだそうだ」ってなって、ネネ以外の部員は仲間っぽくなる。誰か共通の「わるもの」がいれば、お互い仲間っぽくなりやすいってわけだ。考えてみても、やりやすいと思う。
「うーん。ごめんなさい」
で、ネネもネネで、馬鹿正直に謝っちゃう。そりゃ良くないよ、だってうまい具合に使われるだけだもん。でもどうだろう、ネネは自分が都合よく使われてるってことも分かってないかもしれない。本当に自分がミスったと思ってて、次はちゃんとやれるようにしようと思ってるかもしれない。ネネのことだから、きっとそう思ってるだろう。
どれだけちゃんとやったところで、結局最後はネネのせいにされるんだから、どうしようもないのに。
「あーいうの、ヤダな。あたしは」
あたしはあんな風にはなりたくない。あたしにだって、それくらいの分別は付いてる。ネネがとろいからって、それをダシにして使おうなんてのはろくな考えじゃない。
もやもやした気持ちになりながら様子を見ていると、さすがにそろそろお開きになったみたいで、ネネ含めて全員がボールとかネットとかを片付け始めた。
片付けはだいたい二十分くらいで済んで、ぱらぱらとバレー部の部員の人が帰り始めた。暗くなってきたし見え辛くなってきたけど、とりあえずネネなら見間違えることはない。あの背丈の低さはそれだけで目立つし。
「まだ何か話してんのかな」
ネネの姿は簡単に見つかった。周りの子と同じで体操着にハーパン姿だけど、やっぱりなんかこう、ネネのイメージに合ってない気がしてしょうがない。いるのはネネだけじゃなくて、同級生っぽい他の部員も三人一緒だ。ちなみに全員、名前は全然知らない。他のクラスの子の名前とか、正直いちいち覚えてらんない。三人の中にクラスメートは誰もいなかったから、まあしょうがない。で、ネネを囲んで何やら楽しげに話している。
「秋穂センパイ、やっぱりちび子のこと目のカタキにしてるっぽいよね」
「わかるー。だってちび子、ちゃんとトス返してたし」
「センパイいつもこうだからねー。マジメなのは分かるんだけどさー」
会話は大体聞き取れて、それで、どういう会話なのかも概ね分かる。さっき部長っぽい人がネネにダメ出ししてたアレで、あの人は秋穂という名前だってことが分かった。とりあえず部長なのかは置いといて、先輩なのは間違いなさそうだ。
まあ、それはいいんだけど、会話を聞いているあたしにしてみれば、もやもやした気持ちがますます拭えないわけで。
(だったら今言ったりせずに、起きたときに言やいいじゃん)
(こんなんじゃ、いつまで経ってもネネの立場変わんないし)
秋穂先輩とやらがいなくなってから、陰口っぽくさっきのことを言う。気持ちは分からないわけじゃないけど、ハッキリ言ってしょうもない。ネネにしてみれば何の解決にもなってない、ただあの三人が「自分は悪くない」って気持ちを自分で確認できるだけ。
自分を安全な場所に置きたいから、自分は卑怯じゃないって思いたいから、だからあんな風に、まるでネネに同調してるみたいな口調で言うんだ。
「うーん。けど、ネネまだ上手になれるし」
「ちび子もちび子でマジメだよねー。そんなに肩肘張らなくたっていいのに」
「ネネ、じゅーなんもしてるよ。センパイに教えてもらった」
「あっはは、そういうのじゃなくて、気持ちの持ちようだって。ま、そこがちび子らしいんだけど」
ネネは楽しそうにしてるけど、どんなもんだろう。なんか、薄っぺらい関係っていうか、ネネをダシにして残りの三人で仲良くしてるって感じがする。やっぱり気持ちいいもんじゃない。
「そうだよねー、マジメだよねー。必ずなんかリアクションあるしさー」
「ホントさ、話し掛けても無視とか絶対しないからね、ちび子は。返しもゆるくて和むし」
「なんか忘れたことあったらちび子に聞けばいいから、助かっちゃうよ。いつもありがと」
「ネネもこないだみんなにお話聞いてもらったから、おあいこ」
「アレはねー。かんなりひどい話だったね。言っちゃ悪いけど、ちび子可哀想って思った」
「今の今まで帰宅部だったくせに、中二の今頃からとか、完全に当てつけじゃん。何あいつ」
「けどあれだよ、女王様にしてもああいうことされるって思ってなかっただろうし、それ狙ったんじゃない?」
「あー、ちょっと前までキレてたしね。それもあるかー」
しばらくしてから、じゃーねー、と三人いたうちの二人が離脱する。残ったのは一人とネネだけ。少ししてから、その子がネネに話しかけるのが見えた。
「……ねえねえ、ちび子。お願いがあるんだけど、いい?」
「なに?」
「また今度さ、いつもみたいにちょっと話聞いてくれないかな? 最近、カズくんとうまくいってなくってさ」
「いいよ。またネネのことよんで。つきあうよ」
「ありがと、ちび子。ちび子なら絶対他の子に話したりしないって分かってるし、安心だよ。じゃ、またねー」
「ばいばーい」
残る一人も帰ったところで、ぼーっとしていたあたしも動くことにした。ネネをつかまえて、途中まで一緒に帰ろう。
「おーい、ネネー」
「あっ、サチコ」
あたしが呼び掛けるとネネがくるっとこちらを向いて、すぐさまパタパタと駆け寄ってきた。耳と目、つまり聴力と視力はやたらいいのがネネの特徴だ。ちょっと遠目から呼んでもきちんと気付いて、正確にこちらに向かって走ってくる。
「図書委員?」
「そう。で、こんな時間になったし、せっかくだからネネと帰ろうって思って」
「そっか。サチコ、いっしょにかえろう」
歩き出してからすぐ、あたしはネネにさっきのことについて訊ねてみた。
「あのさ、ネネさ。あたし、バレー部の練習、終わりの方見てたんだけど」
「うん」
「今日もアレだったじゃん、ネネ別に失敗してないのに失敗したって言われてさ。ほら、トス上げたときの」
「さっきの?」
「そう、さっきの。嫌になったりしないの?」
「うーん。しない」
「ホントに? あれどう見ても受ける方の子が失敗してたじゃん」
「でも、ネネがもっときれいに上げてたら、きっとうまくいってた」
「そりゃあ綺麗にできるに越したことはないけどさ、あたしからしたら、別に失敗とかじゃないと思うけど」
「ううん。ネネ、まだまだへたくそだし」
これが謙遜とかじゃなくて本心から出てきてるのが、ネネっていう存在だ。自分が下手くそだと思ったら、遠慮なく下手くそだって言う。
ネネは嘘を付かない――というか、嘘を付けない。嘘を付けるほど頭が回らない、その言い方が、たぶん一番正しい。
「あー……あんなんでさ、ネネホントに楽しいの?」
「たのしい。ネネ、もっと練習して上手になりたい。試合にも出てみたい」
ネネはバレー部で楽しくやっているって言う。傍から見ると正直そうは見えないけど、これは本音なのだ。ネネは強がったり意地張ったりするタイプじゃないってことは、近くにいるあたしがよく知ってる。
さっきのことに繋がるけど、ネネは思ったことや感じたことをそのままストレートに出してしまうタイプだ。だから嘘を言えない。帰り際に同級生が言ってた通り、「秘密にしといて」ってこっちが言ったことや、自分が「言いたくない」って思ったことは律儀に守って絶対しゃべらない。あたしにも「言えない」って言ったきり、ホントに何も言わなくなることがちょくちょくある。けど、それ以外は何でもすぐ飛び出すと思っていい。
「ネネが本当にそう思ってるなら、あたしは別にいいけど……」
「たのしいよ。ちょっとずつだけど、ネネもできるようになってる」
「けど……」
「本当は、朝練にも出たいけど、新聞配達しなくちゃいけないから」
「いや、そりゃ、さすがに朝からバイトして部活の練習もって、無茶だって」
ネネはあくまで楽しそうにしてるように見える。外から見ると確かにそうだ。だけど、部活で毎日あんな目に遭ってるんだ、本当に心の底から楽しんでるのかどうかは分かんないじゃないか。あたしが分かんないだけで、実際は無理してるのかも知れない。部活なんか行かずにどっかで遊んでる方が、きっとネネには合ってるはずだ。やっぱり思う、ネネにあの部活は合ってないって。
ある意味趣味みたいな――ポケモンのお墓を作ることだって、もっとたくさんできるようになるはずだし。
「ねーねーサチコー、サチコー」
「どうしたのよ」
「サチコは、ポケモン部に入ったりしない?」
いきなりネネが話題を変えてきた。ネネはこんな風に突如として別の話を口にすることがちょくちょくあって、しかも例によって言葉足らずだから、話の流れがぶつんと途切れてしまう。こうなるとネネの言葉の意図を掴まなきゃいけないこともあって、結局ネネのペースに付き合うことになる。これでもあたしは慣れてる方なんだけど。
「ポケモン部? えっ、いや……なんでまた急にそんな話?」
「うーんと、この前ショウヘイが、ポケモン部に入るって言ってきたから」
「ショウヘイ……男子の豊泉のこと?」
「うん」
あたしのクラスには、豊泉翔平っていう男子がいる。目立つこともなく、かと言って地味ってわけでもなく、ごく普通の、男子生徒Aって感じの同級生だ。一年の時から同じクラスだけど、あたしはあんまり喋った記憶が無い。その豊泉が最近になってポケモン部に入ることにした、これ自体は別にどうでもいいけど、なんでそこからあたしがポケモン部に入るって流れになるんだろうか。あれか、単純にポケモン部に入るのが流行ってるとか、そんな風に考えたりしたのかも。
「あー、そういうことなのね。豊泉がポケモン部に。で、あたしが入るかって?」
「うん。サチコは、ポケモン部に入ったりしない?」
で、豊泉が入ったポケモン部ってのは何か。簡単に言うと、ポケモンバトルをする部活だ。
詳しくは知らないけど、中学生には中学生向けの小さなポケモンリーグ的なものがあって、年に二回夏と冬に全国大会が開かれてるらしい。一般のポケモンリーグと違ってテレビとかで試合が中継されるわけでもないから地味だけど、競技人口は結構多いみたいだ。ポケモントレーナーにはならなかった、あるいはなれなかったけど強い子なんかは、ここで才能を見出されたりすることもたまにあるらしい。
とは言え、本当にポケモンバトルが強いなら最初からトレーナーになった方がいいと思うし、学校来てまでポケモンバトルって、それなんかズレてないかって思う。だって、いくら学生同士でバトルしたって、本物のプロには勝てっこないわけだし。やるだけ無駄じゃないか。
ネネのバレーだって、結局はそこに行き着くと思うし。
「しないって。前も言ったけど、あたしそういうの興味ないし。部活とかただ面倒くさいだけだって」
「じゃあ、サチコははるなみたいにトレーナーになったりもしない?」
「それもないって。あたしはトレーナーにはならない。だいたい、榛名みたいに紫苑を出て外国まで行くとか、部活なんかよりもっと面倒くさいって」
「約束してくれる?」
「あー、そもそも可能性なんか無いから。約束なんてしなくてもいいじゃん。してほしかったらするけどさ」
「そっか。それならよかった」
「なんで?」
「だってネネ、ポケモンが人に言われてたたかってるの見るの、キライだから」
「ああ、そういう……けどまあ、それは分かるかも」
何のことはなくて、ネネはポケモンバトルが嫌いだっただけのことだった。こーいう子は少なくない。ポケモンが傷つくところを見たくないって人もいる、あたしもその一人だ。あるいはもっと単純に、トレーナーが大きな顔をしてのさばってるのが気にくわないって人もいる。これにがっちり当てはまる人を一人知っている。ケイだ。ケイは筋金入りのポケモン嫌いで、ポケモンバトルはもちろん、トレーナーも大嫌いだといつもいつも言っている。
ネネが嫌うのは……単純に好みの問題だろうな。他に嫌いになりそうな理由なんてないし、そもそも嫌いになることに理由なんて必要ない。好きだから好き、嫌いだから嫌い、好き嫌いなんて結局全部そんなもんだ。
「あっ、カラカラ」
「ちょっと、ネネっ」
目の前をぽてぽて歩くカラカラを見つけて、いつものようにネネが走り出した。カラカラを見るとすぐこれだ。一も二もなく走っていっちゃう。しょうがないなー、と思いつつ、ネネの後を追いかける。ネネのカラカラ好きも、また筋金入りってやつだろう。
「かわいいねー、かわいいねー」
「骨かぶってるから、顔なんて分かんなくない?」
ネネはカラカラの背中をさすったり頭を撫でたりして、楽しそうに可愛がってやっている。カラカラの方はと言うと、ネネの手つきが気持ちいいのか、心なしか嬉しそうな感じだ。あたしが言った通り骨をかぶってるから、表情がどんな風になってるかまでは見えないわけだけど。ただネネから離れようとしないし、手に持ってる骨で殴ろうとかいう気配もないから、警戒はしてないっぽい。
前に城ヶ崎さんのニャスパーにやってたのと同じようにして、ネネがカラカラを抱っこする。これまたずいぶん楽しそうだ。ただこう、同じ手でポケモンの死体を抱えてるのとかを考えると、複雑な気持ちにならなくもない。あのカラカラを埋めるようなことにならなきゃいいな、後味悪いし。
「じゃあね、バイバーイ」
五分くらい遊んだところで、カラカラとはお別れになった。カラカラは骨をぶんぶん振って、ネネに「バイバイ」の挨拶をしているように見える。ポケモンって結構頭いいらしいから、分かっててやってるのかも。
「ネネさー、一個訊いてもいい?」
「なに?」
再び歩き始めてすぐ、あたしはネネに質問をぶつけてみた。
「なんか前にも訊いたかも知れないけどさ、ネネってさ、なんでカラカラのこと好きなの?」
「うーんと、ネネにそっくりだから」
「あれ? えーっと、お母さんがいないところとか?」
知っての通り、カラカラは死に別れた母親の頭蓋骨をかぶっている。手に持っている強そうな骨も、母親の体の一部――腕の骨らしい。だからカラカラが生まれるってことは、カラカラの母親が死ぬって意味だ。
「うん。そういうところとか、ネネにそっくり。すごいそっくり」
「あーやっぱり」
「あと、ちいさいところも。かわいい」
「カラカラってネネから見ても小さいんだ、やっぱり」
ネネから見ると、カラカラは自分に境遇がそっくりで、可愛いポケモンに見えるんだと思う。
バレー部も、カラカラも――あたしにはちょっと縁がなさそうだけども。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。
※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。